インタビューに応じた株式会社スエヒロ工業の櫻井弘紀社長(右側)と社員

インタビューに応じた株式会社スエヒロ工業の櫻井弘紀社長(右側)と社員

独立を支援する「逆独立採用」で、協力会社の職人を自社の社員に

入社した職人の再独立許可で事業拡大

静岡県沼津市に本社がある株式会社スエヒロ工業は、これまでマンションの大規模修繕工事や戸建て住宅向けの外壁塗装などの受注・現場管理を行い、現場は協力会社の職人が作業を行うスタイルで事業を拡大してきた。

だが、最近は建設職人の採用を進めており、最近では4人を雇用した。入社した職人の中には経営難で自社を畳まざるをえなくなった協力会社の親方やその従業員もいるという。この背景には経営の厳しい協力会社の職人を社員として登用し、さらに機動力のある会社を目指しつつも、入社した職人の再独立も許可・支援することで、建設業界の課題になっている担い手の確保や育成を進めようという櫻井弘紀社長の狙いがある。

自社の社員の独立を支援するという珍しい制度を打ち上げた櫻井社長に話を聞いた。

専門工事業界は一人親方化、廃業が相次ぐ

株式会社スエヒロ工業の櫻井弘紀社長

――協力会社の廃業も増えておりますが、最近の動向は。

櫻井社長 当社にかかわる協力会社でも、バブル時代は10人抱えていたのが今は2~3人に減少し、法人から個人事業主へと規模が縮小するケースも多いです。そうなると、事業税も決して安くないので、高齢化によって引退される職人も多いように見ています。

一方で、若い職人は限りなく少ないというのが体感です。当社はまだ30~40代が活躍していますが、一人前の職人になるためには10年はかかります。ですから、当社としてはこの5年で、職人の採用と育成を強化していく意向です。

――昨年度には、2人の職人が入社されましたが、どのような経緯で。

櫻井社長 私は当社を継ぐ前に協力会社で修業したことがあります。その時の親方と先輩がこのほど、入社しました。2人とも、夢をもって個人事業主として独立し、当社の協力会社として何年も頑張ってきました。

ですから、一人親方でもほぼ当社の社員と同じように働いていましたが、税金等の問題もあり、当社の社員として働くことを提案しました。

とはいえ、これまで親方として頑張っていたので最初は戸惑っていました。ですが、私は協力会社を吸収する意向ではなく、ノウハウを活用して、若い建設職人を育成して欲しいとお願いして、入社していただきました。


自社の職人の独立を支援する「逆独立採用」

――職人を積極的に採用している背景は?

櫻井社長 建設業界全体として、若者が入社しない、または入社しても育成ができないことが課題であり、私たちも10年前から不安を抱えていました。そこで当社では、協力会社の採用活動についても協力してきました。具体的には、リクルート業者を紹介するほか、当社から協力会社の良さを求職者に説明することなどもしてきました。

こうした取組みによって、雇用に成功した例もありましたが、入社先での厳しすぎる教育などによって、若者が退職する事例も多く、当社の取組みがうまくいったとは言えない状況でした。

さらに、このコロナ禍で業績が苦しくなった協力会社もあり、一部では会社を閉じたところもあります。そうした元協力会社の親方や職人の採用を進めております。これまで当社を支えてきた技術力の高い協力会社が社員になることで、当社も成長し、受注できる現場規模が拡大すれば、複数の現場を同時並行でき、受注数も増えると予想しています。

ですが、この取組みの目的は協力会社の職人を自社の社員にしたいということではなく、若い職人を育成し、次世代に技術・技能を伝承し、品質を保全していくこと、一人でも多くの技術者・技能者を増やしていくことが狙いです。

ですから、当社に入社した職人たちが5~10人のチームになり、彼らで再度独立して協力会社をつくりたいという意欲があれば、当社としても独立を支援する「逆独立採用」として制度化しています。これにより、当社で新たに育てた人材や温存した体力をもとに再度独立することが可能です。例えば、Aという一人親方が当社に入社後、Aを筆頭とした5人のチームを構成したとします。このチームが協力会社として独立することを支援するものです。

逆独立制度のイメージ図

当社も協力会社も「チーム・スエヒロ工業」で一緒に頑張っていくことには変わりがありませんし、こうした関係性が良い仕事につながります。そして、こうした採用方法によって職人の高齢化や若者の減少という構造的な課題の解決を図り、「建設業を支える優秀な担い手の確保・育成」につながることに期待して、継続的に取り組んでいきます。

防水専門工事業では全国初の「えるぼし」認定

――このほど、「えるぼし」(2段階目)を取得しましたね。

櫻井社長 2021年8月に、女性活躍推進に関する状況などが優良な企業が認定される「えるぼし」(2段階目)を取得しました。静岡県内の建設業者としては3番目、防水専門工事業では全国初の認定となりました。

建設業界における「えるぼし」の認定は、ほぼゼネコンの大手・準大手などに限定され、専門工事業者はほぼ取得していない状況にあります。当社はかねてより、ダイバーシティ経営に注力し、女性が活躍できる環境の整備を進めていました。

2021年6月には、使用頻度が減った会議室を利用して、キッズスペースを設けました。従業員の子連れ出社をしやすくすることが目的です。すでに放課後に小学生たちが会議室に帰宅し、仕事終わりまで思い思いの時間を過ごしています。

スエヒロ工業のキッズスペース

このような取組みの情報発信を続けた結果、2021年には建設職人4人が入職しました。うち1人は女性です。現在、社員雇用している職人は7人になりますので、立派な職人集団を形成し、さらに機動力のある会社に成長していければと思います。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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