阪神高速リニューアルプロジェクトに迫る第2弾 「大阪港線阿波座拡幅部における大規模修繕工事」

阪神高速リニューアルプロジェクトに迫る第2弾 「大阪港線阿波座拡幅部における大規模修繕工事」

縦目地による騒音解消のため、延長約600mにわたって橋脚を拡幅し、橋桁を架け替える

阪神高速道路株式会社が「リニューアルプロジェクト(大規模更新・修繕事業)」の一環として進めている阿波座拡幅部の鋼桁大規模修繕工事の現場を取材する機会を得た。

この事業は、路面に設置された縦目地で生じる通過騒音の解消が主な目的だが、高速、市道に交通規制をかけ、延長約600mの区間にわたって既設橋脚の補強拡幅、既設桁の撤去、新設桁の架設といった作業を4年ほどかけて行うというもので、大がかりな工事となっている。

なぜこんなことになったのか。騒音の原因や工事の進捗、ポイントなどを踏まえつつ、取材してきた。

杉村 泰一郎さん 阪神高速道路株式会社 管理本部 大阪保全部 改築・更新事業課 課長代理

井爪 規夫(いのつめ・のりお)さん 株式会社IHIインフラシステム 東大阪線鋼桁大規模修繕工事(その1) 現場代理人

拡幅工事の後、「ゴロゴロ」という異音が発生し始める

問題の縦目地部分

工事対象となる阿波座拡幅部は、阪神高速13号東大阪線(西行き)と1号環状線の神戸・天保山方面の渡り線の合流部から16号大阪港線と3号神戸線へ分岐する阿波座ジャンクションまでの延長約600mの区間。拡幅部は、1997年に、この区間の渋滞対策として、3車線から4車線への拡幅工事を施した部分(左側レーン)を指す。この拡幅工事で設置した縦目地構造が、現在の大規模修繕工事の原因になっている。

拡幅工事が完了してまもなく、既設桁と拡幅桁の境界線部分にある縦目地(ゴム製の伸縮装置)付近から、車両通過に伴う異音が発生するようになった。通常の通過騒音とは異なり、「ゴロゴロ」というカミナリのような異音が発生するようになったのだ。かなり大きな音が四六時中鳴り響いていたそうだ。

異音の原因は桁を支える支点位置の違いによる「たわみ差」

たわみ差発生原因のイメージ(阪神高速資料より)

阪神高速がこの異音発生の原因を調べたところ、既設桁と拡幅桁との「たわみ差」にあることがわかった。なぜ、そんなたわみ差が生じたのか。結論的に言うと、それぞれの桁を支える橋脚の位置の違いにあったからだ。それはこういうことだ。

もともとあった桁はRC橋脚で支えられていた。橋脚は、大阪市道築港深江線(中央大通り)の本道と側道の分離帯に立っていたため、建築限界から柱を太くするなどの補強ができず、拡幅桁の荷重を支えることができなかった。

そのため、拡幅工事の際、拡幅した桁を支えるため、橋脚間に新たに逆L字型の鋼製橋脚を設置したのだ。既設桁はRC橋脚で支え、拡幅桁は別の位置にある鋼製橋脚で支えるというカタチで、それぞれ別々に支えていたため、桁間のたわみ差が生じそれを吸収するために縦目地を設置したというわけだ。

20年の時を経て、ついに抜本的な不具合解消に乗り出す

拡幅工事の構造イメージ(阪神高速資料より)

「縦目地の損傷や騒音を改善すべく、これまでさまざまな対策を繰り返し実施してきたものの、改善に至りませんでした」(杉村さん)と振り返る。そこで、リニューアルプロジェクトの一環として、阿波座拡幅部の抜本的な不具合の解消に乗り出した。

この修繕工事のポイントは、次の4つになる。

1つ目が「支点位置の統一」だ。これまで拡幅桁を支えていなかったRC橋脚の片側の梁部分を拡幅し、全ての桁を支持するようにする。また拡幅桁自体も、単純桁から連続桁に変更し、既存の桁と支間長を合わせる。支点を統一することで、既設桁と拡幅桁が同じ動きをするため、たわみ差が解消され、縦目地が必要なくなる。

2つ目が「耐震性の向上」。拡幅桁も含めRC橋脚で支えるように支点を統一すると、RC橋脚の耐震性(L2)が不足する。建築限界のため、橋脚の補強はできない状況は変わらないからだ。その一方、支点統一に伴い、鋼製橋脚が常時桁を支える必要はなくなる。

そこで、鋼製橋脚と桁の間に水平力分担構造を有するブラケット機構を設置し、L2クラスの地震動が発生した場合のみ、地震に伴う水平荷重を受け止めるようにする。水平力分担構造とは、地震が発生すると、桁下の上下突起物が接合し、橋脚に水平力を伝える仕組みだ。これにより、橋梁全体系で耐震構造を成り立たせることができる。

水平力分担構造を有したブラケット機構(設置途中)

3つ目が「RC橋脚の外ケーブル(緊張材)補強」。RC橋脚の拡幅した梁部分を補強するため、鋼製の高疲労強度外ケーブル(1基当たり4本)を張る。ケーブルの張力は1本当たり約250トン、トータル約1000トンになる。

4つ目が「鋼桁・床版の一体化」。既設桁と既設床版、拡幅桁と拡幅床版は別々の構造体だが、これらを一体化の構造体として設置する。当然縦目地も必要なくなる。拡幅桁の構造も箱桁から既設桁と同じ鈑桁(I形の桁)に変更する。

工事は、区間全体の中間地点付近を交差するなにわ筋を境に、西側の約300mを(その1)区間、東側の約250mを(その2)区間としてそれぞれ実施する。工事の大きな流れとしては、「支障物移設、支保工設置などの準備→RC・鋼製橋脚梁部の拡幅→(その1)区間の桁撤去・桁架設→(その2)区間の桁撤去・桁架設→舗装、支障物の原形復旧」となる。なお、工期は2020年8月〜2025年6月。施工者は(株)IHIインフラシステム。契約金額は約75億円。

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細かい技術を積み重ねた工事

阿波座現場のロケーション(阪神高速資料より)

この現場の印象について、発注者、施工者はこう話す。

「この現場に入って最初に感じたことは、都市中心部のこんなに狭隘な場所でこれだけ大きな構造物を取り替えるのは、近隣住民の方々や通行人、走行車両などさまざまなことに十分に配慮しながら現場を進める必要があり、非常に困難な現場だということでした。」(杉村さん)

「既設桁など現況を把握する際に点群データを取り、形状などの確認を行いました。古い橋梁の場合、図面と実際の寸法が1m違っていたというような事例が実際にあるからです。あとは3Dモデリングにより本体と付属物の干渉確認なども実施しています」(井爪さん)

「こちらの現場は、私の地元から近く、土地カンがあるので、現場を担当する前に施工のイメージはつきました。また知人に拡幅部の施工を担当した方がいたので、拡幅当時の資料などを提供してもらいました。細かい技術を積み重ねた工事ですが、これまでに経験したことを活かして、工事を進めています」(井爪さん)

道路直下での作業、空頭制限、近接するマンション

狭隘な作業ヤード。当然ながら下道の交通量も多い

都市土木の宿命と言ってしまえばそれまでだが、この現場もかなり制約が多い。

まず、現場直下には、交通量の多い中央大通(本線4車線、側道2車線)が通っている。車両は常に通す必要があるため、昼間(8時〜17時)は本線、側道それぞれの1車線の固定規制内のみで作業を行い、交通量の少ない夜間(22時〜6時)は側道の通行止めや本線の車線規制(3/4車線)に規制帯を広げて作業を実施する。

クレーン設置を伴う桁の撤去・解体、組立・架設などの大掛かりな作業は当然、夜間しかできない。夜間作業は一部歩道を作業ヤードとして使うが、通行者も多いため通しながらの作業となる。

16号大阪港線にも拡幅部1車線分の固定規制をかけるが、路肩を縮小して固定規制材を設置するスペースを確保しているため、規制材から撤去範囲までがわずか数センチメートルと作業ヤードは極めて狭隘だ。

交通の輻輳する重交通区間に固定規制を設置するため、自発光タイプの注意喚起標識の設置や多数の反射シートの設置など、安全対策を十分に行い、かなり目立つ固定規制となっている。

現場沿道には、オフィスビルやマンションが立ち並んでいる。これも当然ながら、作業に伴う騒音、振動に配慮しながらの作業となる。とくにクレーンによる桁の撤去作業など騒音を伴う夜間作業には、最大限の対策が必要になる。

工事に伴う騒音について、「この事業の目的は、縦目地を撤去して、車両通行に伴う騒音を解消することなので、近隣住民の方々からはいち早く工事を行い対策を講じることが求められていました。ただ、工事中に発生する騒音に対しては、近隣住民の方々にこれまで以上にご迷惑をおかけすることになりますので、できる限りの対策を行いながら工事を進める必要があります」(杉村さん)と話している。

RC橋脚の拡幅については、中央大通の側道全線をまたぐカタチでの作業になるが、昼間は全線通行止めをかけられないため、支保工で支えながらの作業になる。鋼製橋脚の梁拡幅は空頭制限を受けるため、クレーンではなく、多軸台車・テーブルリフトを用いてジャッキアップして架設した。

新設桁の架設、構造物同士の接合というヤマ場へ

新設桁の架設が完了した(その1)区間の様子

RC、鋼製橋脚の拡幅については、2023年2月までに全基分の工事が完了している。拡幅部の桁についても、(その1)区間の既設桁の撤去と新設桁の架設が2023年4月までに完了している。進捗率で言えば、約70%(2023年6月時点)というところまできている。今後は、(その2)区間の既設桁の撤去、新設桁の架設がメインの作業になってくる。

今後の工事の「ヤマ場」について、それぞれこう話す。

「この現場は、作業時間帯や極めて狭い作業ヤードなどの制約が多いので、人を増やして一気に作業を進めるということができません。そういう意味では工期的にはタイトです。今のところ順調に進めていますが、工事のヤマ場は桁の撤去と架設です。(その1)区間は無事に架設を終え、ひとつのヤマ場を超えましたが、(その2)区間はこれからヤマ場を迎えます」(杉村さん)

「杉村さんがおっしゃるように、既設桁の撤去、新設桁の架設は一つのヤマ場ですが、それ以外にも、今後既設構造物と新設構造物を一体化させる重要な工程が控えています。新設桁は、今後既設構造物と接合しますが、鋼桁・床版・舗装とそれぞれに微調整が必要で、難しい工程なので、ここも一つのヤマ場になってくると思います」(井爪さん)

桁の撤去新設と構造物同士の接合については、(その1)区間は今年の夏から秋ごろ、(その2)区間は来年行う予定だそうだ。これらを越えれば、工事完成はもう目の前だ。

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珍しい現場に携われるのは、有益で楽しいこと

作業ヤードのすぐ隣を車両が結構なスピードで走り抜ける。反対側にはビルが立ち並んでいる。メンタル的にキツそうだ。

さきにも触れたが、騒音問題解消のために、これだけの規模の修繕工事を実施するのは、かなりマレなことだ。こういう特殊な現場に携わることの意味合いについてこう話す。

「都市部でこれだけの大きさの既設構造物を撤去することは、かなり珍しいことだと思います。さらに、限られた狭い場所で交通影響や騒音に十分配慮しながらも、確実に工事を進めなければなりません。非常に困難な現場ですが、そこでの経験は、有益なことですし、とても良い経験をさせていただいています。この経験や培った技術は、これからの大規模更新時代を見据え、若い社員にもしっかり伝えていきたいと思っています」(杉村さん)

「既設構造物を流用しながら新たな構造物をつくるという工事の場合、当初予想した形状ではなかったということで、『現場で合わせる』ということがけっこうあります。この点、新設に比べ、既設の構造物を触るのは難しいと感じています。今後は更新・修繕の工事が一つの主流になってくることを考えれば、このタイミングでこの工事に携われたのは、この現場にかかわる社員などにとっては、良い経験になっていると思っています」(井爪さん)

こんな場所で仕事をするのは本当にプレッシャーが大きい

取材当日は、あいにくの雨だったが、桁下や桁中のほか、桁上まで現場を一通り見ることができた。その際いちいち痛感したのは、作業ヤードと通行車両との近さだ。下道は、柵の向こうに信号待ち車両が連なっているし、上は上で、コンクリートブロックの向こう側をトラックがバンバン通過している。

案内してもらった井爪さんも「こんな場所で仕事をしているのは本当はプレッシャーが大きいです」とコボしていたが、それを聞いて、「これがまさに土木の現場なんだな」と改めて認識させられた。

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