20年の時を経て、ついに抜本的な不具合解消に乗り出す

拡幅工事の構造イメージ(阪神高速資料より)
「縦目地の損傷や騒音を改善すべく、これまでさまざまな対策を繰り返し実施してきたものの、改善に至りませんでした」(杉村さん)と振り返る。そこで、リニューアルプロジェクトの一環として、阿波座拡幅部の抜本的な不具合の解消に乗り出した。
この修繕工事のポイントは、次の4つになる。
1つ目が「支点位置の統一」だ。これまで拡幅桁を支えていなかったRC橋脚の片側の梁部分を拡幅し、全ての桁を支持するようにする。また拡幅桁自体も、単純桁から連続桁に変更し、既存の桁と支間長を合わせる。支点を統一することで、既設桁と拡幅桁が同じ動きをするため、たわみ差が解消され、縦目地が必要なくなる。
2つ目が「耐震性の向上」。拡幅桁も含めRC橋脚で支えるように支点を統一すると、RC橋脚の耐震性(L2)が不足する。建築限界のため、橋脚の補強はできない状況は変わらないからだ。その一方、支点統一に伴い、鋼製橋脚が常時桁を支える必要はなくなる。
そこで、鋼製橋脚と桁の間に水平力分担構造を有するブラケット機構を設置し、L2クラスの地震動が発生した場合のみ、地震に伴う水平荷重を受け止めるようにする。水平力分担構造とは、地震が発生すると、桁下の上下突起物が接合し、橋脚に水平力を伝える仕組みだ。これにより、橋梁全体系で耐震構造を成り立たせることができる。

水平力分担構造を有したブラケット機構(設置途中)
3つ目が「RC橋脚の外ケーブル(緊張材)補強」。RC橋脚の拡幅した梁部分を補強するため、鋼製の高疲労強度外ケーブル(1基当たり4本)を張る。ケーブルの張力は1本当たり約250トン、トータル約1000トンになる。
4つ目が「鋼桁・床版の一体化」。既設桁と既設床版、拡幅桁と拡幅床版は別々の構造体だが、これらを一体化の構造体として設置する。当然縦目地も必要なくなる。拡幅桁の構造も箱桁から既設桁と同じ鈑桁(I形の桁)に変更する。
工事は、区間全体の中間地点付近を交差するなにわ筋を境に、西側の約300mを(その1)区間、東側の約250mを(その2)区間としてそれぞれ実施する。工事の大きな流れとしては、「支障物移設、支保工設置などの準備→RC・鋼製橋脚梁部の拡幅→(その1)区間の桁撤去・桁架設→(その2)区間の桁撤去・桁架設→舗装、支障物の原形復旧」となる。なお、工期は2020年8月〜2025年6月。施工者は(株)IHIインフラシステム。契約金額は約75億円。
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細かい技術を積み重ねた工事

阿波座現場のロケーション(阪神高速資料より)
この現場の印象について、発注者、施工者はこう話す。
「この現場に入って最初に感じたことは、都市中心部のこんなに狭隘な場所でこれだけ大きな構造物を取り替えるのは、近隣住民の方々や通行人、走行車両などさまざまなことに十分に配慮しながら現場を進める必要があり、非常に困難な現場だということでした。」(杉村さん)
「既設桁など現況を把握する際に点群データを取り、形状などの確認を行いました。古い橋梁の場合、図面と実際の寸法が1m違っていたというような事例が実際にあるからです。あとは3Dモデリングにより本体と付属物の干渉確認なども実施しています」(井爪さん)
「こちらの現場は、私の地元から近く、土地カンがあるので、現場を担当する前に施工のイメージはつきました。また知人に拡幅部の施工を担当した方がいたので、拡幅当時の資料などを提供してもらいました。細かい技術を積み重ねた工事ですが、これまでに経験したことを活かして、工事を進めています」(井爪さん)
道路直下での作業、空頭制限、近接するマンション

狭隘な作業ヤード。当然ながら下道の交通量も多い
都市土木の宿命と言ってしまえばそれまでだが、この現場もかなり制約が多い。
まず、現場直下には、交通量の多い中央大通(本線4車線、側道2車線)が通っている。車両は常に通す必要があるため、昼間(8時〜17時)は本線、側道それぞれの1車線の固定規制内のみで作業を行い、交通量の少ない夜間(22時〜6時)は側道の通行止めや本線の車線規制(3/4車線)に規制帯を広げて作業を実施する。
クレーン設置を伴う桁の撤去・解体、組立・架設などの大掛かりな作業は当然、夜間しかできない。夜間作業は一部歩道を作業ヤードとして使うが、通行者も多いため通しながらの作業となる。
16号大阪港線にも拡幅部1車線分の固定規制をかけるが、路肩を縮小して固定規制材を設置するスペースを確保しているため、規制材から撤去範囲までがわずか数センチメートルと作業ヤードは極めて狭隘だ。
交通の輻輳する重交通区間に固定規制を設置するため、自発光タイプの注意喚起標識の設置や多数の反射シートの設置など、安全対策を十分に行い、かなり目立つ固定規制となっている。
現場沿道には、オフィスビルやマンションが立ち並んでいる。これも当然ながら、作業に伴う騒音、振動に配慮しながらの作業となる。とくにクレーンによる桁の撤去作業など騒音を伴う夜間作業には、最大限の対策が必要になる。
工事に伴う騒音について、「この事業の目的は、縦目地を撤去して、車両通行に伴う騒音を解消することなので、近隣住民の方々からはいち早く工事を行い対策を講じることが求められていました。ただ、工事中に発生する騒音に対しては、近隣住民の方々にこれまで以上にご迷惑をおかけすることになりますので、できる限りの対策を行いながら工事を進める必要があります」(杉村さん)と話している。
RC橋脚の拡幅については、中央大通の側道全線をまたぐカタチでの作業になるが、昼間は全線通行止めをかけられないため、支保工で支えながらの作業になる。鋼製橋脚の梁拡幅は空頭制限を受けるため、クレーンではなく、多軸台車・テーブルリフトを用いてジャッキアップして架設した。