阪神高速リニューアルプロジェクトに迫る第3弾 「湊町・難波地区鋼製基礎大規模更新工事」

阪神高速リニューアルプロジェクトに迫る第3弾 「湊町・難波地区鋼製基礎大規模更新工事」

地下函体と幹線道路に挟まれた場所で腐食した鋼製基礎を9基更新する

阪神高速道路株式会社が「リニューアルプロジェクト(大規模更新・修繕事業)」として進めている湊町・難波地区の鋼製基礎大規模更新工事を取材する機会を得た。この工事は、湊町・難波地区(阪神高速環状線、堺線)に設置された橋脚の鋼製基礎(フーチング)9基を段階的に更新していくもの。現在は、パイロット工事として3基のやり替えが行われている。

これら鋼製基礎は1972年ごろに設置されたものだが、地中に地下街函体がすでに存在していたので、軽量化のため、内部が空洞構造のものを採用した。ところが、地下水が基礎内に浸透し、基礎内面の腐食(サビ)が進行していることが発覚した。直ちに支障があるわけではないが、腐食がさらに進行すると危険なので、やり替えることになったという経緯がある。

鋼製基礎の更新とはどのような作業なのか。現場を取材した。

田島 祐介さん 阪神高速道路株式会社 管理本部 大阪保全部 改築・更新事業課 課長代理

冨留宮 直(ふるみや・ただし)さん 株式会社鴻池組 大阪本店 湊町・難波地区鋼製基礎大規模更新工事 所長

パイロット工事として3基の基礎を更新中

パイロット工事として先行して作業を進めているPN-01橋脚

現在パイロット工事が進められている鋼製基礎3基のうち1基は阪神高速15号堺線から1号環状線への渡り線のもので、残る2基は15号堺線の門型柱の片側であり、千日前通の北側歩道地下部分に設置されている。事業対象となっているそのほかの基礎は15号堺線のもので、千日前通の中央分離帯に3基、難波交差点(千日前通と御堂筋が交差)周辺に3基それぞれ点在している。

千日前通沿いには、地下街や地下鉄などの地下函体が形成されており、鋼製基礎は基本的に、地下函体の直上に設置されている。千日前通は片側4車線の幹線道路で、言うまでもなく、交通量は多い。

パイロット工事として3基の工事を先行させた理由は、シンプルに比較的施工がしやすいと考えられた設置場所だったからだ。歩道下にあるので、支障物の撤去は必要だが、交通規制がかけやすい。3基の基礎の中でも最も西寄りのPN-01基礎は、唯一、設置場所の北側半分には直下に地下函体がないので、工事の影響が出にくい。北側半分は阪神高速が以前設置した別の基礎の上に載っているためだ。

工事箇所のイメージ。「★1」がPN-01(阪神高速工事パンフレットより)

工事イメージ(阪神高速工事パンフレットより)

基礎内部に地下水が流入し、腐食が進行

鋼製基礎

既存の鋼製基礎は、1972年の開通に合わせて設置されたものだが、建設当時は、地下水位は現在より100cm以上低かったため、地下水は問題にならなかった。それよりも、面的に広がる地下函体への影響を避けるため、基礎構造をどうするかが問題だった。地下函体が存在する以上、通常の基礎杭を打てないからだ。

そこで、軽量で地下函体への負担が少ないという理由で、内部が空洞(点検用マンホール付き)の鋼製基礎が採用された。PN-01鋼製基礎は、正四角形ではなくヒシ形に近い形状のものが設置され、その周りに保護コンクリートが打たれた。

ところが、基礎設置後に、周辺の地下水が上昇。ついには基礎内部の空洞に地下水が流入し、腐食が進行するようになった。設置時に防食対策は施されていたはずだが、結果的に腐食を食い止めることはできなかった。腐食は、かなり以前から把握しており、1982年にはすでに対策工が実施されていた。

鋼製基礎内部。底部を中心に腐食が進行している。

設計施工的発注で鴻池組が受注

しかし、これまでも腐食に対する対策は行われてきたが、水の浸透を食い止めるには至らず、対症療法的なものであった。そこで抜本的な対策が求められ、阪神高速リニューアルプロジェクトの一環として、鋼製基礎の更新工事が実施されることになった。

ただ、具体的にどうやって更新工事を実施するかを決めるのは、簡単ではなかった。基礎直下には地下函体がドンと存在するほか、地上には千日前通がドンと通っているからだ。それに加えて、まちなかの地下にはなにが埋まっているか掘ってみないとわからないという「都市土木あるある」があるからだ。

「この工事は、ボリューム的にはそれほど大きくないですが、内容的には盛りだくさんです。と言うのも、阪神高速の補修工事としては、地下を掘り返してまで構造物をやり替えたことは、ほとんどないからです」(田島さん)と話す。

そこで阪神高速は、まず施工設計的な業務を鴻池組に発注。施工手順などを検討した上で、比較的工事がやりやすそうな3基から、パイロット工事として発注した。受注者はもちろん鴻池組だ。3基分の施工請負金額は約42億円。工期は2020年12月〜2026年5月。なお、阪神高速としては、2025年4月開幕の大阪関西万博に間に合わせたい考えがあり、工事完了は前倒しされる見込みだ。

【PR】施工管理技士のキャリアアップ方法と資格の重要性

引き継ぎの際には「本当にわかったんか?」と念押し

函体上部に設置された支承。左は仮の支承。

施工フローは、支障物撤去・仮移設→舗装嵩上げ→土留(止水壁)設置→路面覆工・掘削→保護コンクリート撤去→支承改良→防食工→躯体コンクリート工→防水工→埋め戻し・路面覆工撤去→仮設備撤去・仮舗装→原形復旧になる。

取材した時点(6月上旬)は、一番進んでいるPN-01基礎が支承改良を行っている段階だった。工事全体の進捗率は47%となっている。前例のあまりない特殊な作業環境だけに施工管理には苦労しているようだ。

「この工事が始まってから1年半ぐらいは、通行規制をかけられる夜間しか作業ができませんでした。夜勤が続くと人は疲れますし、私自身夜勤に出続けるわけにはいかないので、シフトの引き継ぎなどを含め、いろいろ苦労しています。都市土木ならではの苦労だなと感じています。最近は、昼間、夜間両方で作業をするようになっています。若い職員同士が引き継ぎを行う際には、私も極力立ち会って、『本当にわかったんか?』と念押しするようにしています(笑)」(冨留宮さん)

どこの舗装屋さんもやったことがない40cm超の舗装嵩上げ

千日前通と作業ヤードの境界部分

これまでの工事でとくに大変だったのが、千日前通の舗装の嵩上げだった。本体工事に入る前の準備工だったが、工程を終えるまでに2カ月を要した。

「舗装の嵩上げは苦労しました。舗装屋さんと打ち合わせしながらやったのですが、交通開放しながら40cmほど嵩上げするという作業は、どこの舗装屋さんも施工したことがなかったからです。どういう方法で嵩上げすれば良いのかというところから、何度も打ち合わせをしました。嵩上げした後、掘削しやすい舗装にするにはどうするかという問題もありました」(冨留宮さん)

掘削しやすい舗装にするため、15cm(大阪市の標準仕様)ある舗装を一旦10cmにする→5cmずつ舗装を積み重ねる→厚さが25cmを超えたら、積み重ねた舗装を全て撤去し、路盤(砕石)の上に10cmの舗装をかける→さらに5cmずつ積み重ねる→舗装の厚さが再び25cmを超えたら、また路盤(砕石)と10cmの舗装に置き換える。これを繰り返した。

場所によって深さが異なるため、深いところから順番に盛り上げて、浅いところと擦り付け、盛り上がりすぎたところは取る、という作業も繰り返した。昼間は全線、夜間も通行開放する必要があったからだ。一連の作業は、歩道と車道の横断勾配も考慮しながら行った。

「かなり苦労しました」(冨留宮さん)と振り返るが、本当にその通りだったのだろう。

面ごとに工法が異なる珍しい土留め

基礎周りの土留め工も、すんなりとはいかなかった。地下函体への影響を最小限にとどめるため、高圧噴射で地盤改良した後、重力式擁壁をセットする地盤改良土留め壁(重力式擁壁)を標準工法にしていたが、南側には、下水道管などの地下埋設物が近接していたため、なんとか地下函体管理者の許可を得て、その面はH鋼親杭のためのアンカーを打った。他の面も、他の施設管理者との協議などを経た結果、自立式土留め壁、鋼矢板+親杭H鋼となった。面ごとに工法が異なるという珍しい土留め工に仕上がった。

土留め工に関して、「近くに水道や下水道、電気、通信、ガスといった地下埋設物が多くありました。それらを移設するための協議に時間がかかりました」(田島さん)、「工法が変わると、下請け業者さんも変わるし、施工準備なんかも変わってしまいます。ここも苦労しました」(冨留宮さん)と話す。

転職のこと、施工管理求人ナビにご相談ください[PR]

今後のヤマ場は防食工

支承改良では、ジャッキアップした後、耐震性の高い最新の支承に取り替える作業を行っている。地下函体直上の支承の仮受台座は、やはり函体管理者の許可を得て、函体の防水シートを剥がして直接函体に据え付けている。

保護コンクリートの撤去は基本的に自動運転式ウォータジェットで行うが、狭い場所は人力ばつりハンドガンウォータージェット、中空部分はワイヤーソーで行う。「ウォータジェットでの撤去作業自体は問題ありませんでしたが、音がすごいので、まちなかで騒音を気にしながらやる気苦労が多かったです」(冨留宮さん)と言う。

躯体コンクリート工では、中に水が入らないように函体との継ぎ目に可とう伸縮継ぎ手を設置するほか、基礎の維持管理のための空間も設ける。

防水工は、金属溶射による防食、塗装系の重防食を施す。「今後のヤマ場は防食工です。フーチングの中に人が入っていってサンドブラストでサビや古い防食を取るのですが、狭隘な場所での作業になるので、そこはかなり気になっています。どういうペースで進捗できるのかということも気になっています。まだ誰もやったことがない作業なので」(冨留宮さん)と話す。

パイロット工事のノウハウを活かして、さらなる難施工現場に挑む

気になるのは、残る6基の更新をどう進めていくかだ。

「残りの6基の基礎の更新は、千日前通に交通規制をかけながら進めていくことになります。難波交差点の東側にはより大規模な地下埋設物が存在しているので、より慎重に工事の進め方を考えなければなりません」(田島さん)。

その上で、「阪神高速のリニューアルプロジェクト6事業のうち、最初に着手されたのがこの湊町の工事ですが、喜連瓜破などよりも長く続く工事でもあります。それだけ難しい工事だということですが、鴻池組さんと二人三脚で工事を完遂していきたいと思っています」(田島さん)と話す。

「現在の工事はパイロット工事という位置づけです。ここでやった工法、施工方法、施工手順なりをブラッシュアップして、残りの6基の更新に活かせるようにしたいです」(冨留宮さん)と力を込める。

阪神高速リニューアルプロジェクトに迫る 「喜連瓜破付近橋梁大規模更新工事」

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
阪神高速リニューアルプロジェクトに迫る第2弾 「大阪港線阿波座拡幅部における大規模修繕工事」
2022年度「土木学会賞」が決定。112件が受賞、田中賞作品部門は”気仙沼湾横断橋”など4件
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
  • 施工の神様
  • 技術を知る
  • 阪神高速リニューアルプロジェクトに迫る第3弾 「湊町・難波地区鋼製基礎大規模更新工事」
モバイルバージョンを終了