FMT構法をはじめて実物件で実採用した「足立区江北木密移転先プロジェクト」

FMT構法をはじめて実物件で実採用した「足立区江北木密移転先プロジェクト」

【三菱地所ホーム】中大規模木造建築で複合構法「FMT構法」を導入

三菱地所ホーム株式会社はこのほど、「都有地活用による魅力的な移転先整備事業」の初弾である「足立区江北木密移転先プロジェクト新築工事」の施工現場見学会を開催した。

新築工事は、準耐火構造木造3階建ての中大規模建築であり、テナントが入り、自由度が求められる1階部分には、集成材厚板パネルと鉄骨逆梁によるハイブリッド構法「Flat Mass Timber(FMT)構法」を実物件で初採用した。

三菱地所ホームは今後もサスティナブルな資源である木を活用した建物の木造木質化を推進する方針を示し、見学会では同社の細谷惣一郎社長と鈴木正人本店営業部長が解説した。

木密地域から移転を促し、移転者向けに魅力ある共同住宅を整備

左から、解説した鈴木正人本店営業部長と細谷惣一郎社長

細谷氏は2023年4月1日より、三菱地所ホームの社長に就任した。1968年 京都府生まれ。1992年 早稲田大学政治経済学部卒後、三菱地所株式会社に入社。住宅業務企画部副長、住宅業務企画部ユニットリーダー、住宅業務企画部長兼取締役などを歴任した。

今回は細谷社長自ら、「東京都有地活用による移転先整備事業」の意義と、「足立区江北木密移転先プロジェクト新築工事」で三菱地所ホームの提案が採択された理由について説明した。それだけ、このプロジェクトを重視していることの表れともいえる。同工事は、コミュニティを維持しつつ、木密地域から移転を促すため、移転者向けの魅力ある共同住宅を近隣の都有地に整備する事業。計画では、木密地域の課題を解決するとともに、新たに地域に活力や賑わいを創出し、安全で安心の共同住宅を建築することとなった。

東京都が三菱地所ホームの提案を選択した背景には、「木造による温かな外周部に路地空間を設計し、地域にコミュニティを創出」「1階周りには地元に根ざしたコミュニティ形成に寄与するテナントを誘致するための空間を配置」「これを実現するために、2、3階は在来軸組構法、1階は独自のFMT構法を採用し、テナントスペースに求められる自由度が高く汎用性のある大空間に対応する」の3点がポイントになった。

「足立区江北木密移転先プロジェクト新築工事」完成予想図

このFMT構法はかねてより施工の神様で取り上げているので、ぜひ確認してほしい。

「木造を、アートにする」 柱や梁に捉われない世界初の新構法を開発【三菱地所ホーム】

改めてのおさらいとなるが、FMT構法は集成材厚板パネルと鉄骨を活用したハイブリッド構法で、専用金物と集成材厚板パネルで構成された高耐力高靭性の構造壁により、必要壁量を少なくできるメリットがある。FMT構法を導入した木造注文住宅ブランド「ROBRA(ロブラ)」は、木造をアートの領域にまで広げたことで、大きな反響を呼んだ。現在、「ROBRA」での引き合いも増えており、見積りの提示段階に入っているという。

上記の記事で同社の石川一氏は「公共工事についてもFMT構法や2×4工法を駆使しながら、うまく提案できるような体制を整えていければと」と話し、FMT構法を住宅工事だけではなく公共建築にも適用する構想を早くから抱いており、今回の「足立区江北木密移転先プロジェクト」で実現した。


FMT構法が、なぜ公共建築に?

今回、なぜFMT構法が採用されたのか。その理由について細谷社長は「集成材厚板パネルと鉄骨梁で構成されたスラブにより、従来の木造工法では困難であった大スパンの空間を構築できる点が大きい。1階にFMT構法改良版を採用し、木造とは思えない少ない壁量と大スパンを実現することでテナント誘致も容易になった。長さは6.6mのスパンを取り、3.1mの跳ね出しと従来の木造空間では実現しえなかった大空間が構成される」と語る。

このFMT構法に壁と梁の接合部にパイプ式LSB(ラグスクリューボルト)を2本ずつ使用。耐火については、集成材厚板パネルの壁とスラブには燃えしろ設計、鉄骨の逆梁と壁は、一体的に壁とした計画だ。

「みんなの小路」のイメージ

これからの三菱地所ホームの戦略としては、FMT構法、ツーバイフォー工法、木造軸組工法などを活用し、住宅・非住宅建築を問わず、中大規模建築物の木造・木質化を推進していく方針だ。そこで中大規模木造建築物の開発・普及に向けた取り組みを加速するべく、2022年12月1日付で「都市木造開発推進室」を新設、これを2023年4月から「都市木造開発推進部」に昇格した。今後、中大規模建築物の事業領域に参画していく強い意志が見て取れる。ちなみに、各企業には遊休地が存在しているが、高齢化社会が到来している関係で、老人ホームも含めた高齢者施設や4階クラスのオフィスビルに対して、木造・木質化の提案を積極的に実施している。

このほか三菱地所ホーム全体として公共工事の参入の動きもある。公共事業での入札できる条件はさまざまあるものの、条件整備は2022年度までに行っている。とくに学校は木造化へとシフトしていることもあり、社内でも学校建築への参入を検討している。

隈研吾氏とタッグを組み、CLTで実績重ねる

また、当日は三菱地所ホームのソリューション事業部の実績が紹介された。東京五輪の開催に向けて、三菱地所グループと建築家の隈研吾氏の共同事業である「CLT PARK HARUMI」(2019年11月に竣工)は、正面にはオブジェのようなパビリオン棟と、室内展示棟をCLT(直交集成板)工法を用いて、施工した。現在この建物は、CLT材の供給元である岡山県・真庭市に「GREENable HIRUZEN」として移築されている。

岡山県・真庭市にある「GREENable HIRUZEN」

さらに、2021年11月に竣工の品川区戸越のオフィスビルは、地下1階から2階までがRC造で3階は社員が集うコミュニケーション空間を温かみのある木質で施工。2021年8月に竣工した「大阪・堂島公園観光トイレ整備事業」は、三菱地所グループで木造CLT工法により施工、国産木材「CLT」を内外装に活用している。三菱地所ホームとしては大小のソリューション事業で実績を積み重ね、今回、FMT構法をはじめて活用し、中大建築物である「足立区江北木密移転先プロジェクト新築工事」の施工に望んだ。

計画地域は緑地や公園の充実、東京女子医科大学附属足立医療センターの移転や江北小学校の建設により大きくまちと人の流れが変わりつつある。今回の江北のプロジェクトでは、中庭を囲んで共用部分を集約し住民同士の交流を活性化するように計画。北と南棟の間の1階には「みんなの小路」と呼ばれる交流スペースを設ける。建物は地域に賑わいと活力をもたらす拠点として、1階にFMT構法を利用するテナントスペース、2~3階は共同住宅で全16戸から構成する。共同住宅はワンルームから3LDKまでバリエーションに富んだ住戸で形成する。

スパンを大きく飛ばしたことで精度も含めた施工の苦労も

建物の外壁には、東京都・多摩産スギ材を活用。木の温かみと緑にあふれた外観として、住民や地域の人々に親しまれる木材を活かした景観づくりを目指す。木密地域からの移転先として魅力的であり続けるために、木密地域が持つ温かみや住み心地の良さを感じられるように、木材の魅力を最大限に活かす計画だ。1階の壁と2階の床スラブには、カラマツ集成材厚板パネル、3階とR階のスラブには、カラマツCLTをあらわしで採用している。

「ROBRA」の第1号モデルハウスを東京・世田谷区駒沢で建設したがこれは延床面積約250m2。それに比較して「足立区江北木密移転先プロジェクト新築工事」は約1200m2で4.8倍ほど大型化した。駒沢でのケースは、住宅建築のため一定の間仕切りが可能であった。

「ROBRA」第1号モデルハウス 駒沢ステージ1ホームギャラリー

しかし、今回の現場ではスパンを大きく飛ばしたため、精度も含め施工上での苦労はあったという。「大空間は、住宅ではあまり採り入れられないため、飲食店の1階なども想定してROBRAが開発された経緯がある」(鈴木部長)

ちなみに、FMT構法を活用すれば、シミュレーション上では5階建てまで建築可能で、今後のさらなる展開が期待される。

「足立区江北木密移転先プロジェクト新築工事」施設概要

  • 事業者:公益財団法人東京都都市づくり公社
  • 設計者:スタジオ・クラハ・ヤギ
  • 施工者:三菱地所ホーム
  • 場所:東京都足立区江北4丁目18番
  • 敷地面積:775.75m2
  • 建築面積:449.31m2
  • 延床面積:1,142.54m2
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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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