工程表は紙屑じゃない!本当の「職長会の役割」を熱弁させてくれ!

一次会社の職長が大手ゼネコンの新人監督を指導

都心に近い新興住宅地域のスーパーマーケット新築工事に現場移動が決まった。新興住宅地の一角に200メートル四方のマンション建設築予定地があり、スーパーマーケットに加え、中高層マンションと超高層マンションを建設する現場だ。

現場初日、私はいつものように現場に1時間ほど前に到着した。警備員さんにゲートを開けてもらい、現場の中に入る。現場の進捗状況を見たところ、杭工事と基礎工事を終えたばかりのようだ。朝礼前に現場を一回りし、その途中、捨てられている軍手を発見。気が付くと袋もゲットし、ゴミ拾いをしていた。

朝礼の時間がきて、新規入場者の受け入れ教育で、この現場を担当するN主任と初めて会う。N主任は今回初めて、このスーパーマーケットの新築工事を自分の現場として任されるみたいだ。部下として、2人の若手職員も付いている。

N主任の上司は、S工事長。S工事長はこれまでに幾度も世話になった、古くから付き合いのある面倒見の良い工事長だ。現場に着任して、しばらく経った頃、S工事長に呼ばれて事務所へ行くと、何やら頼みがあるという。「今回の現場を担当するのはN主任なので、全面的に協力をしてやってくれ。若手2人も厳しく指導してほしい。よろしく頼む」と。現場の安全や、組織(職長会)の運営など現場に必要なノウハウを彼らに教えてやってくれというのだ。

一次会社の職長の立場でしかない私に、若手の教育を頼むとは、私ならバリバリの企業戦士を育てられると期待を寄せてくれているみたいだ。私は、工事長の期待に応えるべく自身の肝を決めた。さあ、N主任を建設現場の中心者として立てる戦いのスタートだ!

できない理由ばかり訴える「茶髪の職長」

数日が過ぎて、打ち合わせの席上、N主任から週間工程が手渡された。内容的には、どの職の工程も厳しい内容だ。一通りの説明後、この工程についての質問になると、後ろの席にいた設備会社の職長で茶髪のKが口を開いた。

「主任、これじゃ工程が短すぎて間に合わすことができませんよ」

茶髪の職長Kは、日頃から打ち合わせの場で、ああじゃできない、こうじゃできないと、できない理由ばかりを訴える癖があった。おまけに打ち合わせ最中に、他の業種の若い職長とチャラチャラと無駄話をする。こうなってくると若い振りをしているのか、茶色に染めた彼の髪まで否定したくなってくる。

普段から、職長Kの言動をまずい傾向だと思い、何とかしなくてはと思っていた私は、この日の打ち合わせ終了後、休憩所に呼び出した。

「Kさん、打ち合わせの席で、できない理由を並べるのは、自分たちの作業条件を良くしようという観点から、立場上必要かもしれない。しかし、プロとしては多少の厳しい工程や悪条件の中でも、できる方法を模索し、こんな方法ではどうか、こうしてもらえれば私たちはここまで頑張れます、などと前向きの姿勢が大事だと思うんだよ。N主任はこの現場の中心者なんだから足を引っ張るのはやめて、みんなで協力をして現場を盛り上げていこうよ」

職長Kは、私の話を聞いておもむろに口を開き、「すいっ、すいませんでした!私が間違っていました。明日から気持ちを入れ替えて頑張ります」と謝った。彼は、私の思いを十分理解をしてくれたようだった。

この頃、現場の各職のスタッフも揃ってきて、私は職長会の会長の任を受けることになった。職長Kは会計になっていた。彼は組織の運営上、気の利いた采配ができるくらいに見違えるように成長していった。そして、周りから本当に信頼される人材へと飛躍し、その後の噂では結構な出世を果たしていると聞いている。

残業90時間超でも清掃活動を継続

職長会の会長たるもの、現場では自分と会う人ごとに声を掛け、なんでも気軽に話せるように、現場の組織を活性化させなくてはならない。職長にはもちろん、作業員の1人ひとりを大事にして、大変そうな人を見かけては声を掛ける。

そして、悩みや作業上の問題などを聞いてあげる。問題によっては元請けにも話を持っていき、その結果を報告してあげる。そんな活動がやがては、現場のストレスを解消し、風通しの良い職場となり実を結ぶのである。

現場は、日を追うごとに忙しくなっていく。先週の工程はかなり厳しい工程なのに、今週出てきた工程は、同じ物量の鉄骨の量を半分の期間で立てなければならない。本来であればありえない工程だが、N主任が出してきた以上、立場かプレッシャーか、いずれにしても、それなりの理由があるんだろうと感じた。

私は、この厳しい工程をクリアするために週に4日ほど現場の事務所に宿泊して、朝6時から早出、そして、夜10時まで残業し、N主任が出してきた、まさかの工程を現実化していった。この月の残業はすでに90時間を超えていた。しかし、建設現場では、いかに厳しい業務にあたっていようが、現場の環境改善や、供用部分の清掃活動は継続しなければならない。

朝礼は悪いところだけを指摘する場ではない

鉄骨の建て方が終了した頃、ALC(外壁材)の取り付け工事が始まった。大型トラックで搬入された大量のALCは、8~10人がかりで地上で加工し、外壁として建物に取り付ける。加工場所は見る見るうちに切断の時に出る白い粉で汚れていく。夕方、作業後の清掃はきちんと出来るのかどうか、私はその様子を観察していた。

作業終了後、職長が音頭を取り、全員での掃き掃除が始まった。ものの数分で加工場所はキレイになっていった。模範的で素晴らしい。現場の環境を守るには、こうした行為の持続が必要だ。いい流れの持続は、ほかの業者に良い刺激になるし、間髪いれずに誉めなければいけない。

翌朝、ラジオ体操の後、朝礼がいつものように流れていき、司会者が「最後に、皆さんのほうから何かありませんか?」と、決まり文句を言ったので、すかさず私は手をあげて壇上に登った。昨日のALC業者の清掃状況をみんなに話したかったのだ。

「おはようございます。私は昨日から始まったALC工事の作業の様子を見ていたのですが、作業終了時に全員で片付けと掃除をきちんとしていました。作業した跡がとてもキレイです。皆さんも彼らのように作業後の片付けと清掃をよろしくおねがいします。よろしいでしょうか?」

私の呼びかけに、全員が「はい」と元気よく返事をした。朝礼では、前日のパトロール結果とか、不安全な部分の指摘などで、うれしくなる話はなかなか聞けないのが当たり前になっている。人の悪いところを探すのは簡単だが、褒めるところを探すのは困難だ。

ALC業者の作業員に目をやると、みんな気分を良くして、生き生きとしている姿が私には分かった。良いことはみんなの前で発表し、伸ばしていく。これ以上に、みんなの力を発揮させる方法はないような気がする。この日以来、彼らは掃除と片付けを徹底するようになっていった。


ふてくされた態度を示す「鉄筋工の職長」

工期も半ばになった頃、3階の床コンクリートを明日に控え、打ち合わせの席で、問題が明らかになった。

「3階床の鉄筋のほうは大丈夫か?人間が足りてないんじゃないのか?」と言うN主任の言葉に、鉄筋工の職長が半分ふてくされた顔で「もともとこんな工程じゃ無理ですよ」と答えた。コンクリート打設の前日なのに、開き直った言い訳だ。彼の年齢は30歳前くらい。

彼は最初から冷めた人間だった。実は、現場がスタートして間もない頃、メインの躯体業者の職長が集められ顔合わせがあった。この席で、各々の自己紹介と抱負の発表が行われたのだが、私は「鳶工事を担当します。ここで会ったメンバーは、各会社から選ばれて派遣された職長だと思います。たまたま行き会っただけという訳ではないはずです。ここにいる私たちがけん引役になってこの現場を盛り上げていきましょう」と話した。

ほとんどのメンバーは賛同したのだが、その中で、この鉄筋工の職長だけは私の方を見て、何を偉そうに言ってるんだ、たまたまここで行き会っただけじゃねえか、という顔で私を見ていたヤツだった。厳しい工程を必要に応じて増員や残業などで何とか間に合わせてきた他職の職長たちの努力は、ここで寸断されようとしていた。

工程の大事さと、今まで努力してきた皆の気持ちを代弁したかのように、N主任は「今からほかの現場からでも職人を呼べないのか?」と鉄筋工の職長に問いかけた。しかし、彼の口からは「無理です」と、冷ややかで無気力な返答が返ってきた。

打ち合せの席には、マズい空気が流れた。ある職長は「俺らがここまで頑張ってきたのにふざけんな」と、言わんばかりの表情。打ち合せの司会をしていたN主任の顔色も良くない。しかし鉄筋工の職長はあくまでも自分の責任じゃない、俺は関係ないと言いたげな素振りだ。

職長会組織の役割とは何か?

人手が足りず、このまま床の鉄筋の工事が進まないと、明日のコンクリートが打てる状況にならない。

こんなピンチの時こそ、現場の中心者を立てることに徹しなければ!

私は手を挙げて「N主任、鉄筋屋さんが足りなければ、私ともう一人の若手が手伝います。鉄筋の結束は下手かもしれないけど、鉄筋の揚重やスラブ筋を運ぶことぐらいはできます」と発言した。次の瞬間、設備の職長、あの茶髪の職長Kが「あの……。うちも4~5人は、午後から出せます」と加勢してくれた。そして、彼を口火にうちも2人、俺も3人と、いつも口うるさい鍛冶工のオヤジまでもが、俺もやりますと、次々に手を挙げた。

普段からみんなに声を掛け、彼らの現場に対する何かしらのストレス解消のために気を使い、自ら行動して来た結果が、一人、また一人と良い方向へと変革させていった。結局、十数人の有志たちが午後から、にわか鉄筋工として手伝うことになった。この時のやり取りを見ていたN主任は、顔を赤らめて「この床のコンクリートの工程はキープランから見ても、とても重要なポイントなんです。大変に助かります!」と、眼にうっすらと光るものを浮かべていた。そして「よし、今から○○に電話をしてハッカーを20本取り寄せろ!お前らも午後からは鉄筋屋だ!」と、鉄筋工事を担当していた若手職員にもゲキが飛んだ。

この日の午後、3階のデッキ上は職員をはじめ、いろんな職種の職人で賑やかだった。そして、額に汗するそれぞれの笑顔はみんな輝いていた。困っている人や、仲間に対して自分が何かをしてあげられること以上の本当の幸せを感じることはない。この気持ちを参加してくれたみんなが実感できた。作業終了後、N主任はみんなに「ありがとう、おかげさまで明日、床のコンクリートが打設できます」とお礼を言ってまわっていた。

現場は生きている!

職長会に力があれば、現場トップの考えをベースに、最高の環境を作り上げることが可能だ。

余談だが、この現場では、職長同士でホットプレートを持ち寄り、低予算で焼き鳥パーティーを何度か開催した。鶏肉とネギは近くのスーパーで買い込み、会を重ねるたびに参加人数も増えて盛り上がっていった。忌憚のない意見はどんどん出てきたが、後ろ向きの話は皆無に等しく、新しく入ってくるメンバーもすぐに打ち解けあい、何でも話せる風通しのよい組織ができあがっていった。

そして、スーパーマーケットの建設工事は無災害で、めでたく竣工を迎えた。その後、同じ敷地内に計画されている中高層マンション、超高層マンションの建設工事が続いていくが、スタッフが入れ代わっていく中で、担当者、責任者のカラーが出てくる。トップの考え方が違うと、職長会組織に能力があっても、その力を生かすことができずに組織が崩壊をはじめていくこともある。現場組織も、職長会組織もトップの決意と指導力、そして信頼関係が大きな役割を果たすことに変わりはない。

現場は生きている、いや、生かさなければならない。

今の時代、たとえば躯体の最終形コンクリート打設に対しても、職員自体の危機感が薄れてきているような気がする。多少のトラブルや手配ミスなどで、どんどん工程がずれていく。1つの問題で半日、1日と平気で工程を書き換えるから、工程表自体が力を失い、ただの紙切れ、紙屑状態になって、最終的には大事にされなくなっている。これこそ、現場の負の連鎖ではないのか?

みんな、熱くなれ!コンクリートだって水とセメントの化学反応によって熱くなって、そして強度を増してゆくのだ!

まずは、明日の朝礼で褒めたい人材、宝の原石を、みんなで探そう。それが現場をポジティブに変え、信頼関係を築くことにつながると思う。

ピックアップコメント

これが物語だったとしても良いものです。逆に現場において協調性なく否定的な貴方はどれほど優秀なのですか?現場は生き物だし多種多様な人間がいる。このような職人を上手く使うのも大事なことなので、私は今日から褒めるところを探し発表する朝礼をしようと思いました。素晴らしい発想だとをもいます。

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鳶職です。職長経験多数。かつて建設現場の花形と言われた鳶に思いを馳せながら、激動の建設現場を渡り歩いています。
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