サステナビリティ情報開示の義務化がもたらす、建設業界の変化とは

藤森祥弘さんから連絡をいただいた。何年ぶりだろう。国土交通省で技術参事官をされていた当時は確か東日本大震災の少しあとだったような気がする。その後、国土交通大学校の副校長、JACICの審議役、先端建設技術センターで業務執行理事などを歴任されていた。

夏からグリーンアーム社のシニア・フェローに着任しているという。何か造園関係でエコな話が聞けるのだろうか?と思ったら、サステナブル関係だった。世界銀行へ出向されていた時期もあり、海外情勢や金融関係までとにかく情報量が多かったので、ひとまず「施工の神様」に関係ありそうなことに絞って、パパっとコンパクトに概略を教えてもらった。

温室効果ガス(GHG)排出量の開示で建設業界にも変化が

――情報量が多くてぼぅっとなっています。ひとまずは「施工の神様」に関係ありそうなことを、パパっとコンパクトに概略を教えて欲しいです。特に読者さんが気にしておいたほうがよさそうなトピックを中心にお願いします。

藤森さん 今お話ししたのは、もう一段階進んだサステナビリティ情報開示が義務付けられてから、建設業界はどんな変化がありそうか、先行している諸外国はどのように対応しているか、ということです。なんだか遠い話に聞こえるかもしれないですけれど、身近なところではBIMとか、あ、国際的にはCIMってなくてですね、すべてBIMがスタンダードで、構造形式・使用材料の選定とかにも関係してくるんですね。

――サステナビリティ情報開示って、上場企業が2023年3月期決算から有価証券報告書に開示欄を新設するよう義務付けられた、あれですか?「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4つのカテゴリーについて記載が求められるようになったって記憶していますが。もう一段階っていうと、そこから進展があるってことですね?

藤森さん そうですね。今お話ししていたのは「指標及び目標」の部分ですね。ここで温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標を記すのですけれど、その開示対象企業のすそ野の拡大と、積算する対象範囲の拡大で、建設業界にも変化があるということですね。

温室効果ガス排出量の削減はストップ温暖化達成に向けた世界的な取り組みの一つですね。それでこの開示を通して、企業活動の規模が大きい大企業に義務付けをする、そしてその義務付けの網が取引先の小規模企業も捕捉する、そうすると温室効果ガス排出量の大規模なところも小規模なところも一網打尽で、排出削減に向かって流れができるようになるのですね。

この網がスコープ3と言われるもので、温室効果ガス排出量は3つのカテゴリーに分かれるのです。(1)工場など自社拠点からの直接排出(スコープ1) (2)自社拠点でのエネルギー使用に伴う間接排出(スコープ2) (3)原材料の調達や製造、輸送などでの排出(スコープ3)となっており、自社だけでなく調達、輸送段階なども含めた排出量の開示を求めているのですね。

スコープ1・2・3の開示対象範囲(金融庁資料より)

温室効果ガス排出量の削減でいえば、今企業もカーボンニュートラルに取り組んでいますよね。カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出を抑えつつ、出てしまった分は吸収・除去して排出量実質ゼロを目指す取り組みですよね。企業活動で省エネや再エネ活用などで排出量の削減努力をしても削減しきれない部分を、カーボンクレジットを用いて相殺(オフセット)する手段も使われています。温室効果ガスを多く排出する産業においては、カーボンクレジットを購入することで排出量をオフセットできるメリットがあります。一方、カーボンクレジットを販売する側は、自らが創出したクレジットを販売することで脱炭素のための資金を調達できるメリットがありますね。

――ということは、大企業さんだけでなく、小規模の建設会社さんにもより一層の温室効果ガス排出量削減と、加えて排出量積算が必要になってくるって理解で良いですか?つまり、建設業界って元請けを通して下請けに仕事が流れる重層構造になっているので、元請けが開示対象の大企業であれば取引会社の下請けはスコープ3の範囲ですよね。なので、温室効果ガス排出量の積算は必要になって、加えてカーボンニュートラルを軸にしたオフセットとクレジットの絡みで言えば、取引会社の温室効果ガス排出量もより少ないほうが経費的に良いってことになりますよね?そうなると、構造物の構想段階から廃棄に至るライフサイクル全体において、温室効果ガス排出量の少ない構造設計とか施工方法とか選ぶようになっていくってことですか?発注者である役所はどういう位置付けなんでしょう?

藤森さん 順番にお話ししますね。今、金融庁で検討をしているところなのですが、温室効果ガス排出量の積算にスコープ3は入れる方向なのですけれども、入れる時期と、その積算の精度をどう担保するか、精度が低い場合の罰則などについて議論の最中ですね。

基準類の裏付けを見てみましょうか。そもそもこの温室効果ガス排出量の開示は2015年のG7エルマウ・サミットで合意した国際的な約束ですので、各国で取り組んでいます。2015年のG7エルマウ・サミットでは、各国はTCFD提言に基づいた温室効果ガス排出量の開示を企業に促すことで合意しましたが、これはあくまで各国の自主的な取り組みを促すものであり、強制力はありませんでした。

したがって、開示の開始時期は、各国や企業によって異なっています。日本は、先程お話がありましたように、2022年3月期から、プライム市場上場企業に対し、TCFD提言に基づいた開示が求められています。EUは、2024年から、一定規模以上の企業に対し、サステナビリティに関する情報開示を義務付ける「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」が施行しました。この指令では、TCFD提言に基づいた気候関連情報の開示が求められています。米国では、証券取引委員会(SEC)が、上場企業に対し、気候関連情報開示のルール案を公表した後、2024年3月6日に最終規則を採択しました。約7,800社の上場企業を対象に2025年会計年度から段階的に施行する予定です。このように早い国とか地域ではすでに規模の大きい企業などから運用を始めていまして、フランスとかEUですね、段階的に開示対象企業を拡大していくこととしています。

関係ありそうな項目をコンパクトにまとめますと、まず、国際会計基準審議会(IASB)が策定した国際財務報告基準(IFRS)に沿って、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が定めた気候変動関連情報開示基準S2というのがあるのです。この基準に、TCFD提言に基づいた温室効果ガス排出量の開示が統合されているのです。これを各国で自国の会計基準の中に位置付けて運用に落とし込むのですけれど、日本では日本サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が日本における開示基準の開発などを進めていて、2024年3月に素案を公表しているのですね。このSSBJは2022年7月に公益財団法人財務会計基準機構(FASF)の中に設置された組織です。

このサステナビリティ開示基準を適用する時期については、金融庁が金融審議会で議論しています。この審議会資料はどなたもウェブサイトで閲覧できます。見てみると、今年度末の2025年3月にはSSBJが日本におけるサステナビリティ情報開示基準を策定し、東証のプライム、スタンダード、グロース、非上場有報提出会社を対象に任意適用を開始したのち、プライムの総株式評価額が3兆円以上の企業は2027年度3月期から、1兆円以上は2028年3月期から、5,000億円以上は2029年3月期からと順次導入し、プライム全体までの拡大は2030年代からとしています。

導入スケジュール(金融庁資料より)

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建設業の発注者である役所や高速道路会社、銀行はどうなるのか

――そうなんですね。金融庁の審議会のホームページでは、スコープ3の温室効果ガス排出量の開示例として西松建設さんのサステナビリティ情報開示が例示されていますね。こういう取り組みが今後、一般的になっていくってことですね?取引先って観点からすると、元請けさんだけでなく、建設業の場合は発注者である役所さんや高速道路会社さんとか、銀行とかってどうなるんでしょうか?

藤森さん 大規模に開発する不動産会社とかは、資金調達の金融面からみると1番厳しいんじゃないかな。自社で工事とお金の工面をすべて内製はしませんでしょ。工事は外注で、元請け下請け、専門工事会社など多くの会社が関わらないと不動産物件ができませんしね。物件の開発のお金は銀行から借りますよね。不動産開発会社自身もおそらく開示が義務化される企業でしょうし、加えて融資をお願いする銀行も開示が義務化された企業でしょうから、開示基準をクリアしないとまずいですからね。

自社が開示対象企業でない中小企業が金融機関から融資を受けるケースは、融資とはつまり取引ですから、金融機関が開示対象企業だとすると、この中小企業との融資取引はスコープ3の範囲に含まれることになりますよね。

――発注者の役所さんとか、高速道路会社さんとかはどうなるんですか?事業規模が大きくてもプライムに上場していなければ開示義務はないってことになりますか?

藤森さん 高速道路会社も、当面は開示義務はありませんが、融資を受ける金融機関から融資対象事業のCO2排出量の実績を求められることになります。高速道路会社は、現在は非上場ですが、東京証券取引所に将来上場する場合にはSSBJの基準に基づいてサステナビリティ情報を開示しなければなりません。高速道路会社は、工事やサービスを委託する企業にCO2排出量実績の報告を求めなければならなくなります。

――多くの会社さんが温室効果ガス排出量を算定することになっていく感じですね。この温室効果ガス排出量の算定表とか算定ソフトみたいなものは整備されているんですか?図を見ると社員の通勤とか出張で出る温室効果ガス排出量なども含めるみたいですけれど、鉄道で何km移動すると、温室効果ガス排出量は何kgで計算する、みたいな。あと、図を見るとその申告量が正しいかどうか精査する機関もあるみたいですけれど、その辺はどうなっているんですか?

藤森さん まず海外の情勢からお話ししましょうか。海外は対応が速いです。日本はヨーロッパから2年遅れ、アメリカから1年遅れです。そもそもは2016年G7の財務大臣・中央銀行会議でやることが決まったのですね、今から8年前です。

海外開示で、ヨーロッパで仕事をしている会社は、例えば大手銀行とかと取引する会社が温室効果ガス排出量を算定できないっていう理由をリストにして公表しないといけないのです。例えば、○○建設会社はできませんっていうリストに入ると、その○○建設会社は仕事をヨーロッパでもらえなくなるのですよね。温室効果ガス排出量を算定できないのですから、そうなるのです。EUではスコープ3を開示基準に入れていますからね。

開示要件緩和期間を設けていますが、いずれにしてもスコープ3での開示を実施することで進めているのは、EUをはじめ、米国カリフォルニア州、シンガポール、カナダ、オーストラリア、ブラジルなどです。日本もそうですよね。

スコープ3の15のカテゴリー(金融庁資料より)

サプライチェーン排出量におけるスコープ1・2・3のイメージ(金融庁資料より)

CO2排出量算定の基準はISO14067(製品のカーボンフットプリント)で決まっています。このISO14067で算定することが2023年8月に制定されたJIS Q14061でJIS規格で定められています。これによって計算します。

ただ問題が残っていまして、例えばある会社でJISに従ってCO2換算で計算して、それを第三者検証を受けなさいってことにISO14063ではなっていますし、先ほど来の金融庁の開示基準でも第三者検証が求められているのですけれども、この第三者検証ができる会社が日本にはまだないのです。つまりISOをJIS化したとしても、第三者検証の要求事項もまだ訳しきれずに英語のままですし、検証ができる会社も外国ですから英語です。

カーボンフットプリントについては、経産省と環境省が2023年の5月に「カーボンフットプリント・ガイドライン(別冊)CFP実践ガイド」を公表していて、これがISO14067なのですが、ところがこれが、1番大事な計算するところが解り易く書かれていなくて、英語のISOの原文を見ないと計算できないのですね、今のところの現状では。

――ハードルがとても高く感じます。それで、BIM/CIMについてはどう関連してくるんでしょうか?

藤森さん フランスが先行しているのですが、BIMをツールとして、カーボンニュートラルを達成しながら持続可能なインフラと地域開発をしていこうとしているのですね。ISOに則ってです。

そもそもBIMは、土木と建築の区別のないかたちで、2010年にISO規格で定義が決まっていました。なのでCIMは国際的にはない訳なのです。国交省は、BIMの「属性データ」に関するIFC4.3がISO16739:2024としてISO規格化されたことから、にわかに属性データにIFC4.3を適用する方向で検討中です。IFC4.2までは建築分野が中心でしたが、IFC4.3では道路、橋梁、鉄道、ダム、測量、地質調査などのトンネル以外の土木分野がすべて対象となったのです。残念なことに、日本のベンダーの製品はIFC4.3に対応していません、現状では。そして、国交省はBIMに関する国際基準であるISO19650への対応については、2024年度改定では「今後の課題」としています。

このISO19650シリーズ(1~5)は「BIMを含めた、建築物及び土木構造物に関する情報の組成及び数値化―BIMを活用した情報マネジメント」です。ここでは、資産管理(アセットマネジメント)の観点から、発注者が実際に使用された一つ一つの材料を情報要求事項として受注者に提出を求めますので、この使用する部材をBIMモデルに入力するときにCO2排出量も入力するのですね。なので、設計から廃棄に至るまでのCO2の排出量を捕捉できるのです。

加えて、ISO22057:2022のデータシートを使用して、製品環境宣言(EPDs)のものを使用した場合と、一般的なものを使用した場合の、それぞれがBIMの入力仕様に環境換算できるので、BIMの中で建設オブジェクト(建築物及び土木構造物)のライフサイクル全体にわたる環境パフォーマンスの評価ができるわけですね。

藤森さん作成資料

環境経費が不当に膨らむんじゃないか、という懸念

――なるほど、環境活動と経済活動の相反を回避し、むしろシナジーを増大するような仕組みとなるよう全体の制度設計をデザインしているということですね。それも時間軸での変更や変化・進歩にも対応できるような持続可能なものとして。ちょっと気になるのが、この算定や第三者検証で、多くの労働力が消費され、生産性が低下するってことがないような、GXとDXを掛け合わせたような現代的な手法でやってるってことだと思うんですけれど、つまりAIとかを使って自動化するとか、そこでなんですが、この算定や第三者検証などに関して関銭ビジネスみたいな前時代的搾取の構図って温存されることってないですよね?算定ビジネスとか検証ビジネスとかが横行したり、目的会社に使用料とか手数料とか検証料とか必ず入金するような制度設計がビルトインされていたりってことはないですよね?あ、あくまで先行しているフランスの話として聞いています。

藤森さん なるほど、環境経費が不当に膨らむんじゃないか、という懸念をおっしゃっているわけですね。正直に言って、そうした懸念が現実のものになってきているのではないかと危惧しています。すでに、ISO規格に適合したBIMソフトウェアの認証がありますが、その延長線上でISO規格に適合したCO2排出量算定ソフトウェアの認証や製品環境宣言(EPDs)の作成サービスなどがEUや米国など登場してきています。額の多寡は気になりますが、ISO規格をJIS化したJIS規格で定められているので、JIS規格に準拠してCO2排出量算定を行う際には避けて通れない費用となるのではないでしょうか。別の見方をすれば、こうした新しいビジネスが形成されたと捉えるほうが良いのではないでしょうか。

――なるほど、循環型経済の進展に伴う新たなビジネス領域ってことですね。循環型社会に向けて、構想とか設計の部分とかでは、どんな潮流、というかどんなふうな着眼点や留意点が考えられるんでしょうか?

藤森さん 循環型社会に向けた動き自体が、これまでのパラダイムを打ち破る、土木建築分野でのニュー・フロンティアだと考えています。例えば、循環経済社会における橋梁形式を事例に考えてみましょうか。循環経済への移行が進む中で、橋梁の形式はある程度特定のものに収斂していく可能性は高いと考えられます。その主な理由としては、以下の点が挙げられます。

  • 資源の効率的利用:循環経済では、資源の再利用やリサイクルが重視されます。そのため、橋梁の設計においても、解体や改修の容易さ、部材の再利用可能性などが考慮されるようになり、特定の形式や工法が採用されやすくなるでしょう。
  • 長寿命化:循環経済では、製品の寿命を延ばすことが重要です。橋梁においても、耐久性が高く、メンテナンスが容易な形式が求められるようになり、特定の形式が主流となる可能性があります。
  • 環境負荷の低減:循環経済では、環境への負荷を最小限に抑えることが求められます。そのため、建設時や供用時のCO2排出量が少ないだけではなく、製造段階、維持管理や廃棄・リサイクル段階を通してCO2排出量が少ない材料やそれを使用する工法が採用されるようになり、特定の形式が選ばれやすくなるでしょう。

――具体的な材質を事例にしてみると、どうなりますか?

藤森さん 具体的には、現時点では、プレキャストコンクリート橋はリサイクルにおいて、コンクリート塊の再利用が限定的であるなど、課題が大きいのが現状です。一方で、グリーンスティールの普及は、鋼橋の資源循環における優位性をさらに高める可能性があります。

グリーンスティールは、従来の製鉄プロセスに比べてCO2排出量を大幅に削減できるため、環境負荷の低減に大きく貢献します。また、鋼材そのものがリサイクル性に優れている点も、鋼橋の強みです。鋼材は繰り返しリサイクルしても品質が劣化しにくく、新たな鋼材として生まれ変わることができます。これにより、資源の有効活用と廃棄物削減に貢献できます。

一方、プレキャストコンクリート橋のリサイクルにおける課題解決も進んでいます。例えば、コンクリート塊を細かく砕いて骨材として再利用する技術や、コンクリートからセメントを回収する技術などが開発されています。これらの技術がさらに発展し、実用化が進めば、プレキャストコンクリート橋の資源循環性が向上する可能性もあります。

総合的に考えると、グリーンスティールの普及は鋼橋の資源循環における優位性を高めるでしょう。しかし、プレキャストコンクリート橋のリサイクル技術の進展によっては、その立場が逆転する可能性も残されています。

――エコ=木、みたいなイメージもありますけれど、木はだめですか?

藤森さん もう一つの選択肢としての木橋も再利用やリサイクルにおいて課題を抱えています。木材は腐朽や劣化が生じやすく、再利用できる部分が限られる場合が多いです。また、木材をリサイクルする際には、接着剤や防腐剤などの処理がされている場合があり、リサイクルプロセスが複雑になることがあります。

一方で、鋼橋は鋼材のリサイクル性が高く、繰り返しリサイクルしても品質が劣化しにくいという点で、資源循環の観点から有利です。さらに、グリーンスティールの普及により、環境負荷の低減という面でも鋼橋の優位性は高まっています。したがって、資源循環の観点から考えると、現状では鋼橋が木橋よりも有利であると言えるでしょう。

ただし、木橋にも多くの利点があります。木材は再生可能な資源であり、適切に管理された森林から調達された木材を使用することで、持続可能な資源利用に貢献できます。また、木橋は温かみのある景観を創出し、地域社会に親しまれる存在となることもあります。さらに、木橋のリサイクル技術も進歩しています。例えば、CLT(直交集成板)などの新しい技術を用いることで、木橋の部材を再利用しやすくする取り組みが進んでいます。

なお、橋梁の選択は、資源循環性だけでなく、耐久性、耐震性、経済性、景観など、様々な要素を総合的に考慮して決定されるべきです。それぞれの橋梁形式が持つ特徴を理解し、架設場所の条件や社会のニーズに合わせて最適な橋梁を選択することが重要です。

床版の選定は、資源循環性だけでなく、耐久性や施工性など総合的な考慮が必要

――橋梁床版についてはどうですか?

藤森さん 橋の床版についても、資源循環の観点からは鋼床版が有利になってくる可能性が高いと考えられます。

鋼床版の優位性

  • 鋼材のリサイクル性:鋼床版は、鋼材を主材料としているため、リサイクル性に優れています。鋼材は繰り返しリサイクルしても品質が劣化しにくく、新たな鋼材として生まれ変わることができます。これにより、資源の有効活用と廃棄物削減に貢献できます。
  • グリーンスティールの普及:グリーンスティールの普及により、鋼床版の環境負荷はさらに低減されるでしょう。これにより、鋼床版は環境面でのメリットがさらに増し、循環経済への適合性も高まります。
  • 軽量化:鋼床版はコンクリート床版に比べて軽量であるため、橋梁全体の重量を軽減できます。これにより、下部構造の規模縮小や、輸送時のCO2排出量削減などが期待できます。

コンクリート床版の課題

  • リサイクルの難しさ:コンクリート床版は、コンクリート塊の再利用が限定的であるなど、リサイクルにおいて課題があります。コンクリート塊を細かく砕いて骨材として再利用する技術や、コンクリートからセメントを回収する技術なども開発されていますが、まだコストや品質面での課題が残っています。
  • 環境負荷:コンクリートの製造過程では大量のCO2が排出されます。また、コンクリート床版の補修や補強には、多くの資源とエネルギーを必要とします。

コンクリート床版のリサイクルにおいて、コンクリート殻や鉄筋の再利用は技術的な課題が多く、特に骨材としての再利用は限定的にならざるを得ません。循環経済社会の実現を目指す上で、この点は大きな課題となります。

一方、鋼床版は鋼材のリサイクル性が高く、繰り返しリサイクルしても品質が劣化しにくいという点で、資源循環の観点から非常に優れています。また、グリーンスティールの普及により、環境負荷の低減という面でも鋼床版の優位性は高まっています。

したがって、循環経済社会においては、床版は鋼床版が主流になる可能性が高いと考えられます。コンクリート床版のリサイクル技術が飛躍的に進歩しない限り、資源循環の観点からは鋼床版が最も合理的な選択肢となるでしょう。

ただし、コンクリート床版にも、耐火性や遮音性など、鋼床版にはない利点があります。また、地域によっては、コンクリート床版の施工技術や供給体制が充実しており、コスト面で有利な場合もあるでしょう。

したがって、床版の選定においては、資源循環性だけでなく、以下の点も総合的に考慮する必要があります。

  • 耐久性:橋梁の供用期間全体を通して、十分な耐久性を確保できるか。
  • 耐震性:地震などの災害に対して、十分な耐震性を確保できるか。
  • 経済性:建設コストや維持管理コストを考慮し、経済的に最適な選択か。
  • 施工性:施工技術や供給体制を考慮し、円滑に工事を進められるか。
  • 環境負荷:建設時や供用時の環境負荷を考慮し、環境に配慮した選択か。

総合的な評価に基づいて、それぞれの橋梁にとって最適な床版を選択することが重要です。

「ウチのあの商材、まず海外で売れるかも」

――ここまで読んでくださった読者さんの中には「そういうことなら、ウチのあの商材、ISOに則ってCO2換算できれば、EUとかで役立ててもらえるんじゃないか?温暖化から世界を救う企業活動ができるなんてステキだ!」と思ってる方もいらっしゃるのではないかと思うんですけれど、カーボンニュートラルに有利な材料で、日本国内ではまだ国内規格の整備が追いついていないがためにそんなに売れていないような材料が、EUなど情報開示が必要な市場で、ISOのCO2の算定を共通言語として、売り上げを伸ばせる可能性ってあるんでしょうか?

藤森さん 可能性は大いにあると思いますよ。施工の神様の読者さんに関係ありそうな分野で言いますと、内装パネルを事例にして、先ほど木=エコなイメージというお話がありましたので、材質を木材で検索してみましても、環境に配慮しつつ国内外から多数の高品質の天然木を仕入れ、常にお客様のニーズに応えられるよう努めておられるような会社さんなども見られます。こうした会社さんの内装パネルは、すぐに欧州で販売できるのではないかと思います。会社さんに欧州への事業展開の方針があればですが。

――そうなんですね。でしたら可能性がありそうな場合において、一般の例えば中小企業さんの規模で、しっかりISOのCO2計算を示して、環境経済で先行する市場に投入するには誰に相談すれば良いですか?気軽に相談できる専門家とか窓口とか会社とかありますか?

藤森さん 一例として、卓上コンロのガスボンベメーカーさんが、SOCOTECさんにお願いしています。前職の先端建設技術センター(ACTEC)からSOCOTECさんにヒヤリングに行ったのですが、フランスに本社を置くソコテックグループの日本法人なので、定型的な製品のCFPは算定できるのですが、オリジナルの製品ではPCR(算定の方法手順ルール)を設定することは日本法人ではやっていないようでした。その当時はですね。

いまのところ、なかなか気楽には相談できる窓口は日本にはありませんが、SOCOTECさんは実績を日本でも積みつつあると思います。

――そういえばグリーンアームさんの保有技術は、インドなどの海外において循環型社会とかカーボンニュートラルに役立てられていますよね。ふと考えると、グリーンアームさんって、経産省さんとか国交省さんとかを定年退官された方々が多くて、役所の窓口の延長的な雰囲気で、今日も分かりやすく説明してもらったんですが、御社でそういう相談サービスってないんでしょうか?読者さんも日ごろの仕事でお付き合いがある役所さんの出身ということだと、業界のことも分かってくれてる的な感覚で、相談のハードルがすごく下がると思いますけれど。

藤森さん どこまでできるか分かりませんが、グリーンアームとしても先端建設技術センターと連携してご相談に対応できる可能性はあるかと思います。そういうことであれば。

それと、今回は金融関係をトピックとしてお話ししましたけれども、国交省でもこのサステナビリティについては第6回分野横断的技術政策WGで取り上げているようで、ホームページで公開していますので、読者さんには気にしておいたほうがよさそうな情報の一つとしてご紹介します。

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