坂本 慧介さん 東京大学工学部都市工学科環境デザイン研究室助教

坂本 慧介さん 東京大学工学部都市工学科環境デザイン研究室助教

東大環境デザイン研究室・坂本助教が実践する「みどり」と「空き地」の可能性というアプローチ

人口減少や空き地問題が地方都市の課題として浮上する中、ランドスケープデザインはどのように地域の未来を切り開くのか。

鳥取県出身で、東京大学工学部都市工学科の環境デザイン研究室の坂本慧介さんに話を聞いた。地元の風景を愛し、みどりや空間を通じて持続可能なまちづくりを追求する坂本さんが、研究と実務の現場で見つめるビジョンとは?

鳥取の風景から始まった研究の第一歩

――坂本先生がランドスケープや都市計画に興味を持ったきっかけはなんですか?

坂本さん 私は鳥取県鳥取市で生まれ育ちました。かなり田舎でのんびりした環境だったんです。大学に入ってからも、地元の風景や課題が頭にあって。卒業設計では、鳥取の空き地や人口減少をテーマに選びました。東京に住んでると、東京のことは詳しい人がたくさんいるから、研究しても埋もれちゃう気がしたんです。それなら、自分がよく知ってる地方都市の課題を掘り下げたほうがおもしろいんじゃないかって。そこから、地方都市の人口減少や空き家、空き地の問題を研究するようになりました。今もそのテーマを軸に、博士課程からずっと続けています。

鳥取って、駅前の空き地が増えたり、住宅地なのに開発が止まったりするんですよ。そういう場所を見るたびに、「なんでこうなるんだろう?」「どうすれば活かせるんだろう?」って考えるのが楽しくて。それが研究の第一歩でした。

――どんな視点で研究を進めてきたのでしょうか?

坂本さん ランドスケープって、ちょっと不動産や経済に近い視点が入ってくるんです。私の研究室は都市工学がベースなので、都市公園や緑化みたいなテーマも扱いますけど、私は特に空き地や都市経済にも興味があります。たとえば、鳥取だと、空き地が生まれる背景には、土地の価格や固定資産税の仕組み、人の動きが絡んでるんです。

空き地って、ランドスケープの視点で見ると、ただの「空間」じゃなくて、経済や社会の動きを映してるんですよね。建設業界だと、空き地は「開発の余地」として見られがちですけど、私は「どんな物語があるんだろう?」って考えるのが好きなんです。

鳥取の空き地を歩くと、昔は商店だった場所や、家族が住んでた家がそのまま残ってることもあって。そういう場所が、なぜ空いたのか、どう使われなくなったのかを考えると、都市の歴史や人の暮らしが見えてくるんです。

動かせるみどりの革新 都心と地方をつなぐという提案

動かせる緑を設置した広場(坂本さん写真提供)

――「動かせるみどり」のプロジェクトについて教えてください。

坂本さん 今、民間企業さんと一緒に、動かせるプランターみたいなシステムを開発しています。スケールが大きくて、3~4メートルの木でも動かせるんです。ボックス型の装置に木を植えて、駐車場みたいななにもない場所にポンと置ける。2~3日のイベントでみどりを設置して、終わったら移動させることもできます。

普通、みどりを植えるとなると、排水や土のインフラを整えないといけないし、荷重もかかる。植えた瞬間、「ここで木を育て続けます」っていう決意表明になっちゃうんです(笑)。でも、このシステムなら一時的にみどりを置けて、空間を柔軟に変えられる。都心の土地が少ない場所でも、みどりを増やす提案として、行政や民間企業の方々と検討を進めています。

――建設業界にとって、このプロジェクトの価値はなんだと思いますか?

坂本さん 都心だと「みどりを増やせ」と言われても、土地がないし、インフラ整備も大変です。建設業界だと、ビルの屋上や再開発の仮設空間で、このシステムが活きると思うんです。例えば、ゼネコンさんが再開発の現場で「みどりを入れてほしい」と言われたとき、永久に植えるのは難しいけど、「じゃあ、期間限定で置いてみますか」って提案できる、そういうところに価値があると考えています。

地方都市でも、イベントやコミュニティスペースで使えば、人が集まるきっかけになるんです。鳥取みたいな場所で、空き地に一時的にみどりを置いて、子どもたちが遊べる場所をつくったり、マーケットを開いたり。そういう柔軟な使い方ができるのは、建設業界にとっても新しい選択肢になると思います。

国交省や自治体が緑化を推進するプロジェクトでも、インフラ整備のコストやメンテナンスの負担を考えると、動かせるみどりは現実的なソリューションになる。ゼネコンや建設コンサルの方には、「みどりってこんな風に使えるんだ」って知ってほしいですね。

空き地の物語を通して、地方都市の課題を読み解く

――鳥取や宇都宮の空き地について、どんな発見がありましたか?

坂本さん 鳥取のような小都市だと、駅前の空き地は開発の見込みが薄いまま放置されていることが多いんです。一方、宇都宮みたいな比較的規模の大きい都市では、駅近くの空き地は次の開発を待ってる場合が多い。同じ「空き地」でも、背景が全然違うんです。

鳥取の空き地は、固定資産税の仕組みも影響してるんですよ。家を建てたままにしておくと税金が安くなるから、上物を残して管理をアウトソーシングする人もいる。でも、駅から離れると土地が安くなりすぎて、税金のメリットすら感じない場所もあって。そういう場所は、集落のつながりや意識で「もう壊そう」って決断されることもあります。

宇都宮だと、駅前の空き地は「次は何になるんだろう?」って期待感があるんですけど、鳥取だと「このままかな」って諦めムードもある。それでも、空き地ってネガティブなだけじゃなくて、コミュニティの新たな使い方の可能性でもあるんです。

――空き地の研究で、建設業界に伝えたいことはありますか?

坂本さん 空き地って、都市計画や建設の現場で「問題」として扱われがちですけど、実はその都市の経済や人の動きを映す「鏡」なんです。ゼネコンや建設コンサルの方には、空き地をただ埋めるんじゃなくて、どんなストーリーがあるのかを見てほしい。

たとえば、鳥取の空き地を活かすなら、どんな建物やみどりが必要か、地元の人と話しながら考える。そういうプロセスが、持続可能なまちづくりにつながると思います。国交省や自治体の方にも、空き地のデータを集めるだけじゃなくて、背景にある人の意識や経済を読み解いてほしいですね。

建設業界だと、空き地を「開発の空白」と見る視点が強いと思うんですけど、ランドスケープの視点だと「可能性の空間」なんです。そこに小さな公園をつくったり、仮設のイベントスペースにしたり。ゼネコンさんが空き地を扱うとき、みどりや人のつながりを意識したら、もっとおもしろいプロジェクトが生まれると思います。

研究室の雰囲気とランドスケープ分野の魅力

――研究室の雰囲気について教えてください。

坂本さん 研究室は、都市工学の中でもみどりやランドスケープを扱うので、ちょっと独特な雰囲気があります。学生は都市公園や緑化を研究する人もいれば、私みたいに空き地や経済に寄る人もいて、幅広いんです。共通のキーワードは「空間」と「人」かな。

研究室には、先生の影響で「自分の言葉で話そう」っていう空気があります。私も学生に「教科書通りの答えじゃなくて、君がどう思うか教えて」って言うようにしてるんですけど、なかなか難しいみたいです(笑)。

――坂本さんが考える、ランドスケープの魅力はなんですか?

坂本さん ランドスケープは、空間と人間を広く捉えられるのが魅力です。社会学や経済学、地理学みたいな視点も取り込めるし、20代で方向性が定まってなくても「いろんな関心を持って良いよ」って許してくれる学問分野なんです。

私の中では、自然があって、その上で人間が暮らしてるっていう感覚が強い。都市工学だと、経済を生むために「なにを仕掛けるか」って発想になりがちですけど、ランドスケープは「すでにそこにあるものを使わせてもらう」って考え方ですね。それに気づける環境が、研究室にはあると思います。

たとえば、鳥取の空き地にみどりを置くとき、「ここになにを建てるか」じゃなくて、「ここでどんな暮らしが生まれるか」を考える。そういう視点が、ランドスケープの面白いところなんです。

――その思想を建設業界にどう活かせますか?

坂本さん 建設業界って、ビルやインフラをつくるのが中心ですけど、みどりや空間の価値を考える機会はまだ少ない気がします。でも、ゼネコンや建設コンサルが、公園や広場の設計で「自然と人間のつながり」を意識したら、もっと豊かな空間ができると思うんです。

国交省や自治体のプロジェクトでも、環境やみどりをただ「入れる」んじゃなくて、「どういう暮らしを支えるか」を考える。たとえば、地方都市の空き地に小さな緑地をつくるプロジェクトがあったら、ゼネコンさんが地元の人と一緒に「ここで子どもが遊べるようにしよう」って考える。そういうプロセスが、持続可能な都市をつくるカギになるんじゃないでしょうか。

建設業界には、技術力と実行力があるから、ランドスケープの思想を取り入れたら、すごい可能性が広がると思います。緑や空間を通じて、人が集まる場所をつくってほしいですね。

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研究の幅広さとジェネラリストの視点

――坂本さんの研究は多岐にわたっていますが、どんなテーマを扱ってきたんですか?

坂本さん 空き地や都市経済が私のコアですけど、研究室では、キャンプ場の研究とか、都市農業の6次産業化プロセスの研究とか、いろんなテーマを扱ってきました。ランドスケープって、建築や土木みたいに「これ!」って決まった枠がないから、ジェネラリスト的な視点が求められるんです。

たとえば、キャンプ場の研究では、空間の使い方や人の動きを分析しました。キャンプ場って、都市の公園とは全然違うけど、人が自然とどう関わるかを考える点では共通している。都市農業の6次産業化も、農地の保全や経営的な側面だけでなくて、豊かな都市空間やライフスタイルづくりにどう影響するかを考えるんです。

建設業界だと、ゼネコンや建設コンサルはいろんなプロジェクトに関わるから、こういう幅広い視点が役立つと思うんです。一つのテーマに絞るんじゃなくて、いろんな角度から空間を見てみる。そういう柔軟さが、ランドスケープの強みなんです。

――幅広い研究を続ける中で、大切にしていることはなんですか?

坂本さん いろんなテーマを扱う中で、「自分の言葉で考える」ことを大事にしてます。先生の影響もあるんですけど、教科書や誰かの意見をそのまま言うんじゃなくて、「自分はどう思うか」を突き詰めるんです。

研究って、正解がないから難しいんですけど、それがおもしろいところでもあって。建設業界の方にも、プロジェクトを進める中で「自分たちの現場でなにができるか」を考える時間を持ってほしいですね。ゼネコンや自治体の現場って、ルールや予算に縛られがちですけど、ちょっと立ち止まって「この空間でなにが生まれるか」を想像すると、新しいアイデアが出てくると思うんです。

未来の都市へ――坂本さんの挑戦

――今後、どんな研究やプロジェクトを進めたいですか?

坂本さん 動かせるみどりのプロジェクトはもっと広げたいですね。建設現場や再開発の仮設空間で、気軽にみどりを使えるようにしたい。地方都市の空き地を活かす研究も続けたいです。鳥取みたいな場所で、空き地に小さな公園やコミュニティスペースをつくれたら、地元の人が集まるきっかけになると思うんです。

研究室では学生を指導してるので、彼らが自分のテーマを見つける手助けもしたい。私のコアは空き地や都市経済ですけど、学生には自由に空間やみどりを考えてほしいですね。建設業界ともっとコラボできたら、たとえば、ゼネコンさんと一緒に空き地を使った実験的なプロジェクトをやってみたいです。

あと、個人的には、鳥取の空き地を歩きながら、地元の人と話す時間が好きなんです。そういう小さな対話から、新しいアイデアが生まれることが多い。建設業界の方にも、現場の声を聞いてほしいなって思います。

――建設業界の読者にメッセージをお願いします。

坂本さん 建設業界は、都市の未来をカタチづくる仕事です。ビルや道路だけじゃなくて、みどりや空間を通じて、人がどう暮らすかを考えるのも大事だと思うんです。地方都市の空き地も、都心の屋上も、全部「可能性の場」です。

ゼネコンや建設コンサル、国交省や自治体の方々と一緒に、みどりや空間を活かしたプロジェクトをやりたいですね。空き地にみどりを置いて、子どもが遊べる場所をつくったり、都心のビルに動かせるみどりを入れて、人がホッとできる空間をつくったり。一緒に人が集まる持続可能な都市をつくっていけたら嬉しいです。

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