評価軸は「創造性」「一体性」「時間への敬意」
(公財)土木学会(上田多門会長)は「土木学会デザイン賞2022」の最優秀賞3作品、優秀賞7作品、奨励賞7作品、計17作品の授賞を発表した。
11月29日には記者会見を開催。景観・デザイン委員会・デザイン賞選考小委員会の柴田久委員長(福岡大学工学部社会デザイン工学科教授)は、「今年は防災に資する対策・整備のみならず、これまでになかった新たなアクティビティや暮らしなどの付加価値をつくるようなデザインや提案があった。土木デザインの「創造性」「一体性」、積み重ねられた「時間への敬意」という評価軸をもとに、最優秀賞、優秀賞、奨励賞の各作品は卓越した作品として高く評価され、最大限の敬意と祝意を送りたい。いずれも今後の土木デザインの発展に寄与するものといえる」と総論を述べた。2023年1月21日には、授賞式と授賞者プレゼンテーションを土木学会講堂で開く予定だ。
土木学会デザイン賞は、公募対象を公共的な空間や構造物に広く求めるとともに、新たに創出された空間・構造物はもとより、計画・制度の活用や組織の活動などに創意工夫がなされたことで景観の創造や保全が実現した作品に付与される。
今回、記者会見ではプレスの質疑に応えるかたちで、近年の土木デザインを解説した。
丁寧な設計や議論によって生み出された土木デザインが評価
各最優秀賞における評価ついて、柴田委員長は次のように解説した。
岩手県陸前高田市の「川原川・川原川公園」は、震災復興に伴う造成の盛土によってつくられ、もともとは高低差がなかった。それをシームレスに整備し、大小さまざまな広場を配置するなど、丁寧な地形の造成を行い、市民が利用する身近な生活空間を創出した。
熊本県・熊本市の「白川河川激甚災害対策特別緊急事業(龍神橋~小磧橋区間)」は、災害復旧工事であり予算的・時間的な制約があったが、迅速かつ丁寧な議論が行われ、遊歩道・特殊堤防などを工夫した。従来は川に背を向けていたが、施工後は住宅地と川との距離感が縮まって、治水効果は無論のこと、市民が日常的に利用される空間の一体化が実現した。
「兵庫県・姫路市のアクリエひめじ及びキャスティ21公園」は、姫路駅の再開発と一体的に整備された公園で、従来は2つの高架橋に挟まれており、閉塞感もあった。そこで道路の一体横断を含む丘のある公園を形成し、居心地の高いランドスケープデザインとしたという。
この後、質疑応答に入った。
公共空間のデザインでは官民が互いに尊重を
――土木デザインと官民連携のありようについて、どう考えているか。
柴田久氏(以下、柴田委員長) 官民連携は重要なファクターであると考えます。公共の空間をデザインしていく中で、官と民間がそれぞれの役割を認識し、お互いが尊重しながら、事業を進めていく方法は今後とも行われていくでしょう。
これは私見ですが、官民がお互いの役割を完全に任せる連携ではない方策が、より良い土木のデザインにつながっていくと思います。
防災は「創造的復興」で前向きな整備に期待
――今年も引き続き防災にフォーカスした作品が多かった。
柴田委員長 今年は例年と比較して卓越した作品が多かった。これだけ頻発化・激甚化する自然災害が発生する時代が到来しておりますので、さらに防災に関連した作品が増えてくる可能性があります。今後は土木学会デザイン賞を授賞した作品で達成された成果を参考にしていただきたい。具体的には、自然災害を防ぐだけではなく、たとえば熊本県は「創造的復興」と言っておりますが、より前向きな整備につながっていくことが期待されます。
――デザイン賞のPR活動については
柴田委員長 SNSの発信は今後ともしっかりとやっていくことと、私見ですが若い世代とより上の世代が使用しているSNS媒体がそれぞれありますが、その媒体ごとに流していく情報は戦略的に行っていきたい。単に応募作品を増やしていくだけでなく、土木学会にはデザイン賞という賞があることについて若い方や市民の方により積極的にPRしていきたい。
――「白川河川激甚災害対策特別緊急事業」では、具体的にどのような工夫がなされたか。
柴田委員長 国土交通省や大学の学識経験者などの専門家が設計の段階で丁寧に検討した結果を盛り込んだことが大きなポイントです。時間的な制約があるため、すぐに設計を終わらせたい雰囲気があったものの、もう少し「こういう風にしたらより良い設計ができるのではないか」「周辺の住民たちがこんなことができるのではないか」と一つひとつ細かく議論した結果が最終的な設計に反映され、整備に至り、実現しました。
市民に対し、デザインの工夫をより丁寧に説明を
――市民の生活空間を豊かにしていくためには、地元に対してはどのような姿勢が求められるか。
柴田委員長 安全性を高めることは言うまでもなく、被災する前よりも生活がより快適になるようなビジョンを示しつつ、デザインの工夫点を説明することが大切なポイントです。毎朝散歩をしていると、気持ちいい場所になるという日々の暮らしの中でもメリットが生み出される点を地元にわかりやすく伝えながら、話し合う姿勢が肝要です。
――災害復旧工事でのデザインについては。
柴田委員長 九州については景観デザインの専門家が多く、九州地方整備局の中に景観委員会が設置され行政の中で景観をしっかりと検討する仕組みがあり、他地区よりも先進的な取組みをしている印象があります。
九州以外のところでは、今回の作品の中では「川原川・川原川公園」や宮城県・気仙沼市の「気仙沼内湾ウォーターフロント」(優秀賞)、岩手県・大槌町の「吉里吉里地区復興まちづくり」(優秀賞)については、東北の復興事業の中に専門家が入り丁寧に議論し、デザインに導いた好例だと思います。
――橋梁での授賞作品が富山県・南砺市の「利賀大橋」と熊本市の熊本城特別見学通路と少ない印象があります。そして「利賀大橋」への評価については。
柴田委員長 まず、そもそも今年は橋梁の応募作品が少なかったです。その関係で授賞作品が少なかったかと思います。
「利賀大橋」は、三角形のパイプトラス構造で、赤橋です。渓谷の緑と赤のコントラストが美しく、細やかにデザインされています。既存橋も実は近くに存在しこちらも赤橋です。下はダムの湖面なのですが、船が通っており、その船からアーチ橋の構造を楽しむことができます。
また、この船から利賀大橋と既存橋が重なって見えるスポットがあり、橋梁単体ではなく、橋梁群として、今回の評価につながりました。
塚田幸広専務 デザイン賞授賞作品の種別と件数をみると、橋梁が多いものの、最初の4年間に6割近くが授賞しており、2005年の横浜市都市デザイン以降、まちづくりの授賞件数が増えており、近年は河川・ダムや広場・公園が増加している傾向にあります。傾向としては構造物からランドスケープ全体を評価する方向へ転換しているのかもしれません。
確かに橋梁の大きなプロジェクトが減少傾向にありますが、あるいはデザインをしっかりと考えた橋梁も減少している点も大きな反省点だと思います。
ヨーロッパの橋梁はデザイン性に優れている反面、日本はどうかと関係者で議論した際、機能性は優れているものの、デザインも含めた別の観点についてはもう少し深く考えていくべきという議論がありました。
現在、メンテナンスも含めて基礎自治体と土木学会は連携を深めています。首長からも「選奨土木遺産」について街の観光の目玉にしたいとの声があります。そして私からの委員会に対する要望ですが、この「デザイン賞」についても首長に対して直接メッセージを伝えてほしいと思います。
受賞作品一覧
最優秀賞
- 川原川・川原川公園(岩手県陸前高田市)
- 白川河川激甚災害対策特別緊急事業(龍神橋~小磧橋区間・熊本市)
- アクリエひめじ及びキャスティ21公園(兵庫県姫路市)
優秀賞
- 熊本城特別見学通路(熊本市)
- 利賀大橋(富山県南砺市)
- 星野川災害復旧助成事業宮ケ原工区(福岡県八女市)
- 宇治川塔の島地区石積護岸と周辺施設群(京都府宇治市)
- 気仙沼内湾ウォーターフロント(宮城県気仙沼市)
- 吉里吉里地区復興まちづくり(岩手県上閉伊郡大槌町)
- 崎津・今富の文化的景観整備(長崎県天草市)
【奨励賞】
- 遠賀川多自然魚道公園(福岡県芦屋町)
- 横瀬川ダム(高知県宿毛市)
- 敦賀駅交流施設「オルパーク」/駅前広場(福井県敦賀市)
- やまだばし思い出テラス(鹿児島県姶良市)
- 中瀬草原キャンプ場(長崎県平戸市)
- 福岡市立平尾霊園合葬式墓所山の合葬式墓所/山の広場(福岡市)
- 柳川市民文化会館周辺の掘割景観デザイン(福岡県柳川市)
※選考過程・授賞対象作品・授賞式の詳細については「土木学会デザイン賞 ウェブサイト」に明記している。
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