KDDIスマートドローン株式会社(代表取締役社長:博野雅文)は、自動充電ポート付きドローン(ドローンポート)を活用した遠隔運航サービスの提供を開始し、機材の手配・設置・メンテナンスから飛行申請、日々の運航までを実施する。サービス導入により、顧客の現場に設置したドローンをKDDIスマートドローンが遠隔で飛行させるため、現地への人員配置の必要がなくなり、人件費などの運用コストを削減することができる。
サービスの特徴は、ドローンポートの運用に必要な作業はすべてKDDIスマートドローンが担当する点で、機体購入などの初期投資や導入作業は不要になる。週に1回、1日1回、1時間に1回など、希望する頻度での飛行・データの取得も可能だ。クラウド上に保存された撮影データは、パソコンのウェブブラウザ上でいつでも閲覧でき、希望に応じて3Dデータなどへの加工や解析のサービスも提供する。
建設現場での測量・監理業務や、工場や発電所などの巡回業務は、ドローン活用により、業務の効率化や高度化につながることから、今後とも活用拡大が期待されている。現在は、操縦者がドローンを目視し、画像撮影が一般的であるため、操縦者の現場配置が必要になる。KDDIスマートドローンは、この課題解決を目的に、建設現場での測量・監理業務や、太陽光発電施設の監視業務を、ドローンポートを活用した定期的な遠隔運航による実証を行ってきた。本格的にドローンポートの運用を開始した2023年7月から現在に至るまで、日本全国で1,600回以上の飛行実績を持つ。
これまでのドローンポートの運用を通じて、業務の効率化や高度化が確認できたため、ドローンポートを活用した遠隔運航サービスの提供をスタートすることになった。今回、新たなサービスに着手した同社のプラットフォーム事業部プラットフォームシステム開発リーダーの山澤開氏、ソリューションビジネス推進1部グループリーダーの貴島康二氏に話を聞いた。
ドローンを遠隔で飛ばし、データ撮影や解析に役立てる
KDDIスマートドローン プラットフォーム事業部 プラットフォームシステム開発リーダー 山澤開氏
――現在、KDDIスマートドローンでは、どのような局面でドローンを活用されていますか?
山澤開氏(以下、山澤氏) 主に点検と監視領域です。最近では、遠隔運航サービス開始したことで、土木と建築への活用にも注力しています。中長期的な取組みでは、物流部門への活用も目指しています。
まず点検領域では、橋梁や送電網のほか、KDDIグループで保有している通信鉄塔といった領域に対して、AIモデルを活用しながら点検を実施しています。監視領域では、純粋な見回り巡回に加えて、KDDIグループが保有している太陽光発電施設などでも展開中です。近年、銅価格の高騰に伴い、太陽光発電施設の地中に埋まっているケーブルを掘り出す窃盗犯の存在は、KDDIグループでも課題になっています。そこで夜間警備のためにドローンを活用して窃盗を防ぐ取組みを行っています。
土木・測量では、現地に人を派遣し、ドローンを活用し、データを取得し測量に役立てるほか、遠隔運航サービスの部分で荷役や充電などの作業を自動化し、ドローンや外部システムと連携して運用を管理するドローンポートを設置し、ドローンを遠隔で飛ばして、データ撮影・解析をすることで、進捗管理などに活用しています。今、建設領域での導入は本格的に注力しているところです。
――ドローンポートを活用した遠隔運航サービスのターゲットは?
山澤氏 土木・建築部門のゼネコン、広い現場を保有するプラント企業、電力会社での巡回業務をターゲットとしています。ドローンは、操縦者を現地に派遣する必要がなく、遠隔で操縦して飛ばせることにメリットがあります。ドローンの目視外飛行には、航空法により飛行できる領域が限定されており、基本的には立入管理措置といって第三者が絶対に入らないという空間を作り出すことが前提になります。ですので、建設系・プラント系・電力系の企業が中心になります。
また、もし遠隔運航を自社で実施するとドローンポートの購入・設置やメンテナンス、操縦者の訓練、航空法の関連で登録などさまざまな作業が必要となりますが、当社ではこれらの一連の作業を代行しています。これにより顧客は本業の業務に集中できるメリットがあります。
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大林組の能登半島地震の啓開工事でノウハウを蓄積
――ドローンポートを活用した遠隔運航の導入事例を教えてください。
貴島康二氏(以下、貴島氏) 2022年11月に大林組とドローンやAI、IoTなどを活用し、建設現場における生産性向上を実現するための技術開発に共同で取り組むことをリリースしました。初弾は、三重県伊賀市で建設中の川上ダム本体建設工事(三重県伊賀市)で 、Starlink(スターリンク)を活用してドローンの遠隔運航管理を行い、無人監視・測量の実証を実施しました。
当時はまだドローンポートの機能は追いついていませんでしたが、のちに実働に耐えられるドローンポートが開発され、遠隔運航のノウハウが確立したため、前述の経緯もあり、大林組からご紹介いただき、能登半島地震の影響で通行止めとなっている石川県輪島市の国道249号啓開工事に2024年9月11日からドローンポート付きドローンを常設し、現場状況を日々デジタルツイン化する取組みを開始しました。
KDDIスマートドローン ソリューションビジネス推進1部 貴島康二氏
――この工事の特徴を教えてください。
貴島氏 国道249号は石川県七尾市から輪島市を経由して、能登半島を一周して金沢市に至る一般国道ですが、2024年1月の能登半島地震による地割れや崩落の影響で、輪島市沿岸部の通行止め区間を、大林組が啓開工事を行っています。
同工事は全長約3kmに渡り、切土・盛土から舗装までを行う工事となり、広範囲の土量計算や工事出来高管理などの計測作業を実施します。同規模の計測作業を従来の現場作業員のみで行うことはほぼ不可能ですが、広範囲の自動計測ができるドローンポート付ドローンの遠隔運航により、迅速に現場状況を把握。関係者へ情報共有することで、現場作業の効率化に大きく寄与しました。
ワンストップサービスを展開するKDDIスマートドローン
――導入の効果について
貴島氏 これまでできなかったことを実現できた点にあります。今回の啓開工事は3kmにわたり幅広く、これだけ広いと作業員が現地に入って測量を実施するのは現実的ではありません。一般のドローン専門会社では名古屋や東京から行けば、時間も交通費もかかり、広範囲な写真測量も難しい。そこで当社のドローンポートを活用した遠隔運航システムにより、大林組としては本業に集中できた効果がありました。
ドローンのフライトは20分で済み、翌日には土量の確認が出来ました。大林組からは、「ラフな計算ではこれで十分」とのお声をいただきましたが、課題としては出来形の精度について向上する必要がありました。
この工事は切土や盛土工事を広範囲に実施する必要があります。今回のドローンポートによる遠隔運航の価値は、3kmにわたる土量計算を実施すれば、時間がかかりますが、ドローン活用により写真データをクラウドにあげて遠隔ですべて対応できる点にあります。遠隔運航サービスにより、1日の作業の進捗、設計図面が実際の現場が合致しているかなどの判定も可能になりました。
――今後の活用方法については?
山澤氏 ドローンのニーズが顕在化している土木分野での導入がメインになります。一方、最近では屋内でも飛ばせるドローンが発売されているので、建築分野やプラント内での活用としても展開できるようになると考えています。プラント領域では、計器などのメーター点検にドローンを活用する取り組みも一部取り組んでいます
――これから取り組まれていく中での課題は。
貴島氏 データの自動化、解析にあります。土量計算を行なえればゼネコンとしては外注する費用を削減可能になります。当社の立ち位置としても、ドローンの映像を提供するだけではなく、AIを活用しながら数値化を実現していくつもりです。
――ゼネコンからのニーズ感はどこにありますか。
山澤氏 ドローン採用のメリットの検討から入りますが、現場の施工管理者の業務がどう効率化されるかが分からないと考える方もいます。大手ゼネコンではDXの推進部隊を保有しているため、そこをキックにデジタルツインを活用する動きもあり、しだいにドローン採用にも前向きになっているゼネコンも増えているところで、アプローチをかけています。ドローン採用により、従来の測量機器での作業よりも楽になるとの提案をしています。
能登半島現場でのドローンポートを活用した運航システム
――ちなみに、ドローンの操縦はどなたが担当しているんでしょうか?
山澤氏 現場での運用ノウハウを詰め込んだ実践的なカリキュラムで、現場のプロフェッショナルを育成するKDDIスマートドローンアカデミーで学び、一等無人航空機操縦士、二等無人航空機操縦士の資格取得者が担当しています。
ちなみに、当社社員は資格を取得したり一定の訓練を経てドローンを飛ばしているため、安全安心を高めることも価値の一つです。飛ばしていく中で飛行やオペレーションの改善も進んでいます。また、毎回必ずしも同一の操縦者が飛行させるわけではないので、飛行における留意事項や飛行記録の方法、情報共有の仕方などを仕組み化することで、全社的に高いレベルでのオペレーションを展開中です。
貴島氏 ゼネコン、電力会社、ガス会社などさまざまな顧客によって、守ってほしい安全のレベル感などは異なります。顧客が多いからこそ、より多くの価値が提供できています。
――それにしても、事業のスタートからわずか2年間で、本当にすばやく体制を整備されました。
山澤氏 先ほどもお話しましたが、最初は2022年11月に大林組とドローンやAI、IoTなどを活用し、建設現場における生産性向上を実現するための技術開発に共同で取組むことをリリースしました。初弾は、三重県伊賀市で建設中の川上ダム本体建設工事でドローンを活用した監視や測量を実証しました。国土交通省が募集した官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)の採択を受けて実施することができたことは大きな転換期でしたね。
自動充電ポート付きドローン「G6.0 & NEST」を川上ダム本体工事で採用
さらに貴島が現場経験のある大林組のDX部隊の方と共同で実証しながらニーズや要望を丁寧にまとめつつ、当社の社員も施工管理者や測量士のキャリアを持つ人材も採用しながら一連のナレッジを融合した結果、建設分野での領域にスムーズに進出できた点が大きいです。
データ解析の機能を付加することで高い価値を提示
――今回の取材のメインであるドローンポートを活用した、遠隔運航サービスですが、リリース後、現在に至るまで反響はいかがですか。
山澤氏 スーパーゼネコン各社からお問い合わせも多く、手ごたえを感じているところです。ドローンポートを活用し、遠隔運航を一気通貫で実施している企業は今のところ当社のみです。今後については、建設領域での導入が進むことが想定されていますので土工現場のほか、電力会社などインフラ関係の顧客からもお声がけをいただいており、次はこの領域に進みます。また、自動連携システムにも取組んでおり、アプリケーションとしてデータ解析を開発中のため、これに遠隔運航サービスを付加することでより高い価値を提供してまいります。
関連サイト
https://kddi.smartdrone.co.jp/solution/monitor/