建設経済研究所と経済調査会経済調査研究所はこのほど、「建設経済モデルによる建設投資の見通し」(2022年7月)を発表した。今回の発表で注視すべきは、名目値と2015年度を基準とした実質値に乖離があり、名目では建設投資が増加しているが、実質値では減少していることだ。
2022年度の建設投資は、全体を名目値で見ると62兆7600億円(前年度比3・1%増)で前年度を上回る。感染症対策と経済活動の両立により国内景気が回復基調にある中で、民間非住宅建設投資は回復の動きがみられるものの、資材価格高騰による建設コストの増加を受け、民間住宅需要の減少が見込まれる。昨今の物価上昇の影響を受け、名目値ベースでの建設投資全体は前年度を上回る水準になると予測するものの、実質値では52兆8824億円(同1.8%減)とみている。
名目値と実質値の違い
名目値とは、実際に市場で取り引きされている価格に基づいて推計された値。実質値とは、ある年(参照年)からの物価の上昇・下落分を取り除いた値。名目値では、インフレ・デフレによる物価変動の影響を受けるため、経済成長率を見るときは、これらの要因を取り除いた実質値で見ることが多い。※内閣府HP
投資金額は増えても実際の工事量は減少している?
うち政府建設投資は、23兆400億円(同1.5%増)で、2020年度第3次補正予算に係るものの一部が2022年度に出来高として実現すると想定したほか、2021年度補正予算の事業費が2020年度から微減したことを勘案するとともに、2022年度当初予算及び2022年度の地方単独事業費にでは前年並みと想定して推計した。しかし、こちらも実質値で見れば、19億6588億円(同2.4%減)となる。投資金額が増えても実際の工事量が減っている可能性もありそうだ。

建設経済モデルによる建設投資の見通し(2022年7月)より
住宅着工戸数は、85.9万戸(同0.8% 減)と推計。住宅需要が取り戻されつつあるものの、資材価格高騰の影響による建設コストの増加がマイナス要因となり、着工戸数の伸び悩みを想定し、前年度から微減と予測した。しかし、民間住宅投資額は、16兆4400億円(同2.2%増)とみており、建設コストの増加や貸家の着工戸数が回復傾向であることなどから、名目値の投資額の増加が想定される。
一方、民間非住宅建設投資は17兆900億円(同6.7%増)と推計。コロナ禍で需要が拡大した倉庫・物流施設だけでなく、景気回復による企業の設備投資意欲の回復などにより、工場においても堅調に推移するものと予測する。
また、事務所についても首都圏や各地方の都市部における再開発案件の着工や竣工が多数控えていることから、堅調に推移するとみている。一方で、ウクライナ情勢による原油高や、円安による輸入原材料の高騰を含めた建設資材価格の高騰といった懸念材料もあることから、動向を注視する必要がある。

着工戸数の動向 / 建設経済モデルによる建設投資の見通し(2022年7月)より
2023年度の建設投資は実質値でも微増
では、2023年度はどうか。建設投資全体としては民間非住宅建設投資が引き続き堅調に推移し、民間住宅投資も合わせて回復が見込まれることから、名目値ベースでは前年度と比べて微増し、64兆1800億円(同2.3%増)と予測。ただし実質値で見ると、54兆903億円(同2.3%増)となる。
うち政府建設投資は、名目値では22兆8200億円(同1.0%減)と予測。国の直轄・補助事業については、一般会計に係る公共事業関係費を前年度当初予算並みとして、また「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の事業規模が15兆円程度であることを踏まえ、それぞれ事業費を推計した。地方単独事業費は、前年度並みと想定して推計した。しかし、実質値ベースでは19兆7380億円(同0.4%増)の微増に落ち着く。
住宅着工戸数は、緩やかな持ち直しから、86.3万戸(同0.5%増)とみており、民間住宅投資は前年度と比べ、貸家や大都市圏における分譲マンションの着工戸数が回復すると見込まれることから、投資額も17兆700億円(同3.8%増)と予測した。また、民間非住宅建設投資は、引き続き堅調に回復し、前年度を上回る水準になると予測するが、国内外のサプライチェーンの混乱やウクライナ情勢など、世界的な経済・社会情勢を注視する必要があるものの、17兆9100億円(同4.8%増)と予測、設備投資の持ち直しの動きが加速するとみられることから、前年度を上回る水準になる。
各都市部の再開発にも期待
このうち事務所は、建設資材価格高騰の影響などの懸念材料はあるものの、首都圏や各地方の都市部を中心に大型再開発案件が控えていることから、当面は堅調に推移する。店舗は、個人消費の持ち直しの動きがみられ、さらに業績が好調な全国展開している小売業の投資などにより、安定して推移。工場は、国内外の景気回復を受けて、企業の設備投資意欲が回復傾向にあり、同じく堅調だ。
倉庫・流通施設は、コロナ禍において、物流企業以外にも製造業や小売業など、幅広い業種からの需要があり、マルチテナント型の物流施設への投資は続くと、それぞれ予想される。宿泊施設は、アフターコロナを見据えた訪日外国人増加などによるインバウンド需要を見込み、国内外のホテルブランドによる高級ホテルの建設計画などが控えており、当面は堅調に推移する。しかし一方、民間土木投資は土地造成・埋立工事などの下支えにより、おおむね堅調に推移こそしているが、発電用投資や鉄道工事の受注額に一服感がみられる。
今後期待される建築補修工事の動向はどうなる?
最後に、今後の成長が期待される建築補修投資はどうか。全体では7兆9000億円(同2.9%増)であり、うち政府建築補修投資は1兆5200億円(同2.0%増)、民間建築補修投資は6兆3800億円(同3.1%増)とみている。国土交通省の「建築物リフォーム・リニューアル調査」によると、政府建築補修については2021年度の政府建築物の改装・改修工事の受注高は前年度比6.4%減であったが、「建設工事施工統計調査」の維持・修繕工事の完成工事高は、中長期的に緩やかな増加傾向にあり、2022年度以降は増加傾向が回復するとみている。一方、民間建築補修については、2021年度の民間建築物の改装・改修工事の受注高は、前年度比12.4%増となり、コロナ禍で投資が慎重になっていた民間非住宅分野だけでなく、新しい生活様式に合わせた空間利用のニーズが引き続き高まると予想。住宅分野でも市場が回復していくものと考え、2022年度、2023年度ともに増加するものとみている。
ただし、あらゆる建材・資材の高騰が続けば名目上では、投資額が増加するものの、実質値で考えれば減少する傾向が今後とも考えられ、ゼネコン、ハウスメーカー、工務店などに大きな影響を与えそうだ。