塗膜厚自動検査ロボット

塗膜厚自動検査ロボット

現場から工場へ広がるロボット技術。川田工業が挑む、塗膜厚検査から帳票作成までの「完全自動化」

赤いトラス橋として大阪のランドマークにもなっている阪神高速道路の「港大橋」。その鋼床版大規模修繕工事の現場で、建設現場の景色を変える小さなロボット「EGmobile」が導入されたことを前回お伝えした。川田工業株式会社は、この要素技術を基に開発した別のロボットで、今度はその舞台を「工場」へと広げ、新たな進化を遂げようとしている。

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資材搬送は人力からロボットへ。港大橋・揖斐長良大橋で実証された、川田工業の現場特化型AGVの実力

川田グループの基幹事業会社である川田工業株式会社は、鋼構造製品の塗装品質向上と検査工程の自動化を目的に「塗膜厚自動検査ロボット」を開発した。同ロボットは2025年9月より富山工場で試験運転を開始しており、2026年春からの本格稼働を目指している。

同ロボットを構成する「移動体」(足回り)には、港大橋や揖斐長良大橋で実績を上げた「EGmobile(仮称・商標登録申請中)」の技術が活用されている。SLAM技術を用い工場内の環境をマッピングし、自己位置をリアルタイムで推定。自律走行により、所定の測定ポイントに正確に到達し、塗膜厚の自動検査を実現する。

本機の特長は、ガイドレスで走行し、人や障害物を自動的に回避しながら移動できる点にある。測定ポイントに対する位置決め精度は±10mm以内と高く、塗り重ね時の計測精度も確保している。また、測定経路と測定開始時間を事前に設定しておくことで予約測定にも対応する。さらに、測定ポイントが斜めの場合でも、距離センサーと力センサーを組み合わせることで正確に測定が可能となっている。

塗膜厚検査の自動化により、塗膜厚の分布や塗りムラの傾向を精緻にデータ化でき、塗装品質の向上や塗装工の技能向上に加え、自動塗装ロボットとの連携や塗装ロスの削減も期待できる。また、検査データは川田工業の塗膜厚管理システム「ぬり助」と連動しており、取得した測定データはクラウドに保存され、自動的に帳票を作成する仕組みとなっている。

今回も引き続き、塗膜厚自動検査ロボットの開発の責任者である川田工業橋梁事業部開発部知能機械チーム担当部長 池田俊雄氏、同チームのクリシュナムラ・スバークリシュ氏、三毛タッカー・ローリー氏に話を聞いた。


アナログに頼る塗装作業と塗膜厚検査の限界

右から、塗膜厚自動検査ロボットの開発の責任者である川田工業 橋梁事業部 開発部知能機械チーム担当部長 池田俊雄氏、同チームのクリシュナムラ・スバークリシュ氏、三毛タッカー・ローリー氏

塗膜厚自動検査ロボットの詳細に入る前に、まずはその対象となる製品について概説しておきたい。川田工業が富山工場で製造している鋼・コンクリート合成床版「SCデッキ」は、鋼板や形鋼とコンクリートが一体となって荷重に抵抗する構造の床版だ。1983年に開発され、現在に至るまで170万m2以上の実績を誇る。

近年では、合成床版の疲労耐久性や現場での施工効率を一層向上させる観点から、従来のSCデッキをリニューアルし、安全性・施工性・疲労耐久性をさらに高めた「SCデッキ・スタッドレス」も開発した。デッキの補強横リブとして、高炉材よりCO2排出量が少ない電炉材の形鋼を用いることで、SDGsの達成にも大きく貢献している。ちなみにSCデッキ・スタッドレスは、2021年の初採用以降、すでに30万m2を超える採用実績を重ね、最近は橋梁以外にもシールドトンネルの中床版にも採用されている。

SCデッキ・スタッドレスの構造

従来はイニシャルコストに優れたRC床版の採用が一般的であったが、最近ではライフサイクルコストの観点から、より耐荷力に富み耐久性に優れた床版が求められるようになり、SCデッキの採用が増加している。

川田工業は、SCデッキの継続的な需要の高まりに対し、今後も高品質な製品を安定供給する体制を整備するため、生産工程のDXを加速させている。しかし現実には、SCデッキの製作工程には依然として人手による作業が多く残っている。とくに製品品質を大きく左右する塗装作業は、これまで全て人の技能に依存しており作業負担が大きい。たとえば、塗装工程では、作業者は夏場でもフルフェイスのマスク・防護服・手袋を着用し、厳しい環境下で広大なデッキの塗装を行っている。

「塗装作業者は、年々担い手の確保が困難になっており、高齢化により引退される方も増え、熟練工から若手への技能伝承も難しくなっている」と、池田氏は開発の背景を語る。

そこで川田工業は2024年、富山工場において熟練工が持つ塗装技術を継承し、塗装品質をさらに高めることを目的に、「ロボット自動塗装ライン」とその実験棟を構築した。富山工場では、熟練工と同等の塗装品質を得るための各種テストを実施している。同ロボットによりSCデッキを最大12枚並べ、国内最大級となる約300m2の施工面積を2時間足らずで塗装可能の予定としている。

自走式「自動塗装ロボット」

また、最大4枚のSCデッキ(質量10t)を、0.75kWの低出力誘導モータで搬送可能な自動搬送装置も開発した。従来はラフタークレーンで1枚ずつ架台上に並べていた作業の大幅な省力化・省人化を実現し、安全性も向上させている。さらに将来的にはAIを使った塗装条件の最適化や、遠隔地からの進捗管理による省人化を目指している。

今後の見通しについては「人と同等の塗装品質を確保するため、春・夏・秋・冬とさまざまな条件下で試験を行っている。2026年春をめどに本格運用に入る予定だ」(池田氏)という。

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塗装と検査作業、富山工場で一気に自動化へ

自動塗装ラインの構築により塗装工程の省人化が進む一方で、塗膜厚検査の自動化についても同時に開発が進められていた。塗装品質の保証をするうえで、塗膜厚検査の自動化についても同時に開発が進められていた。通常、塗膜厚検査は製品の大きさや形状、塗装仕様に応じた抜取検査で行うことが一般的だが、従来の手法では計測者と記録者の2名が必要で、かつ紙で記録したものを表計算ソフトに入力していた。しかし、ロボットを活用してSCデッキのような広い塗装面を自動で検査を実施できれば、人手をかけずに膨大なデータを取得可能となる。

従来、塗装作業や塗膜厚検査は人力に依存してきた

そこで開発されたのが、今回の「塗膜厚自動検査ロボット」である。システムの基本的な構成に目を向けると、2020年に開発したアバターロボットと同じデジタル式膜厚計を用いて検査を行うロボットと、EGmobileと組み合わせたものだ。塗膜厚自動検査ロボットは、検査開始からポイントへの移動、塗膜厚測定までをすべて自動で実施する。

塗膜厚自動検査ロボットの構成

具体的なスペックについては、EGmobileの外寸が、W600 × D700 ×H400mm、積載質量100kg。塗膜厚自動検査ロボットが通過するSCデッキ下面の空間高さは約1.4mしかなく、さらに下方向から膜厚計のプローブを押し当てて計測するため、低背型のロボットが求められた。このため、アバターロボットで使用した双腕のヒト型ロボットに替えて単腕のアーム型ロボットを採用した。また、塗装環境に対応するためにアーム型ロボットとエンドエフェクタには防塵カバーを施している。

ロボットのエンドエフェクタには、膜厚計のプローブと6軸力センサー、距離センサー、温湿度センサーが取り付けられている。自律走行によって測定ポイントに移動した後、距離センサーを用いて塗装面の近くまでプローブを近付け、そのまま塗装面が傷付かないよう6軸力センサーの値をフィードバックしながら押し当て、塗膜厚の計測を行う。その際、塗膜厚に加えて測定ポイント周辺の温湿度計測も同時に行う仕様となっている。

ロボットのエンドエフェクタには膜厚計のブロープと6 軸力センサー、距離センサー、温湿度センサーが取り付けられている。

「初期検討段階で、富山工場でアバターロボットを使った実現性の確認を行い、その結果を踏まえて作業環境に適したプロトタイプ機を開発した。これが2号機である。さらに2号機を基に改良を重ねて開発したのが3号機で、現在試験的に使用している」と、池田氏は開発の経緯を振り返る。

さらに強力な武器となるのが、同機と連携するシステム「ぬり助」だ。ぬり助は、スマートフォンに接続したデジタル膜厚計を用いて、塗膜厚や温湿度データといった測定値を直接クラウドに転送し、帳票化までを自動で完了させることで記録者が不要となるシステムである。生産性の向上が期待でき、転記ミスを防止する効果もある。2024年12月には国土交通省のNETISに登録された。国土交通省やNEXCOの帳票形式にも対応し、即座に現場で活用できる点が評価されている。川田工業では、受注した橋梁の施工現場で使用するほか、今後サブスクリプションサービスとして社外への提供に向けた準備も進めている。

膜厚管理システム「ぬり助」と従来の膜厚管理との違い

「事前に検査場所全体をスキャンして地図を作成し、ルート設定後にボタンを押すと、ロボットがその設定をもとに自動で動き検査する仕組みだ。実際に塗膜厚を測定すると、『ぬり助』を通じてクラウドに検査データがアップロードされ、帳票が出力される。検査時間の予約も可能なため、始業前にロボットによる検査を開始し、始業時間には検査を終えている、といった運用も可能だ。時間短縮に効果が高く、従来は検査員と記録員が2人そろってチェックしていた工程において、無人で塗膜厚データの自動収集が行える環境を構築した」と、池田氏は胸を張る。

具体的な運用としては、富山工場では、夜間や早朝の人が休んでいる時間を使って人の作業を止めることなく検査を検討している。また、その収集したデータをAIで評価するシステムの検討を進めている。データ評価により塗装工の技量や塗る際のクセなどを把握し、塗装工や塗装ロボットへのフィードバックを行うことで品質の改善、塗装ロスの削減を目指す。塗膜厚自動検査ロボットは、2025年中は試験導入として、有効性が確認できれば2026年度から運用を本格的にスタート。人が行う作業は「最初の事前準備とロボットに対する検査指示だけになる」(池田氏)という。


「省人化」から「協働」へ。ロボットが切り拓く新たな職域

池田氏は、川田グループにおける技術開発が加速している要因について、グループ内シナジーの大きさを強調する。

「カワダロボティクスや川田テクノシステムなど、ロボットやIT展開をしている企業がグループ内に存在していることが大きい。その技術と、実際の現場で施工を行う川田工業とが連携することで、シナジー効果を発揮しながら開発を進められる点が強みだ。各事業会社の知見を掛け合わせ、さらに良いものへと高めていくことが、他社との差別化につながる」

実際の開発体制も、この言葉を裏付けている。プロジェクトの全体企画・マネジメントは池田氏が担い、制御ソフトウェアを中心にシステム全体をクリシュナムラ氏が主導。ハードウェアの研究分野については川田テクノロジーズと共同開発を行うなど、グループの総力を結集した。さらに、港大橋での「EGmobile」開発で実績を残した三毛タッカー氏も、プロジェクト完了に伴い本チームへ合流しており、開発体制はより盤石なものとなっている。

なお、一連の成果は、2025年10月に沖縄県・石垣市で開催された第23回建設ロボットシンポジウム(主催:建設ロボット研究連絡協議会)において、「大型鋼構造製品向けのロボット自動塗装ラインの開発」として発表され、業界内でも高い関心を集めた。

川田工業は、今後もロボット自動塗装ラインを継続的にアップデートし、将来的にクラウドとの連携や生産工程の管理能力付与、SCデッキ以外の製品への活用も図っていく予定だ。

「塗膜厚自動検査ロボットと『ぬり助』の活用により、すべてのパネルの品質を確認できるため、全数にわたり品質を保証できる点は大きな付加価値といえる。さらに塗装工や自動塗装ロボットへのフィードバックをすることで、塗装品質の向上にもつながる。現在は『ぬり助』との連携に留まるが、AIを活用して集まったデータを分析し塗装品質を改善するほか、塗料の廃棄ロスの削減や有機溶剤使用量の最小化を図るなど、SDGsに寄与する取組みを進める予定です」と、池田氏は期待を寄せる。

SCデッキでの塗装の効率化を図り、働き方改革の一角を担う

そして、これらの取組みを通じて、川田工業は国が推進する「働き方改革」の一角を担うため、人とロボットの共存・協働による生産性向上と雇用創出の両立を目指している。今後は技能者だけでなく、自動化システムを改善する技術者や保守担当者、事務所に在席しながら遠隔でシステム操作や工程管理をする技術者など、新たな職域の誕生を期待している。

「熟練技能者の仕事を奪うのではなく、単調な塗装作業はロボットに任せる一方で、技能者には自身の技量やスキルアップを実感できるような作業対象で力を発揮してもらう。また、ロボットやAIを使う新しい分析業務や、分析結果をフィードバックして品質や工程を改善していく業務は新たな職域となり、ロボット等を活用しながら人がより付加価値の高い業務へとシフトしていくことを目指している」(池田氏)

港大橋のなかで、そして富山工場のラインで。川田工業のロボットたちは、人と共に働く新しい未来の景色を、着実に描き始めている。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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