「国土交通大臣賞」をはじめ数多くの賞に輝いた現場代理人
東京から約3時間30分。山形新幹線の終着駅、山形県新庄市。ここに建設業界の数々の表彰を受けてきた現場代理人・柿崎赳さん(31歳)がいると聞いて訪ねました。柿崎赳さんは、株式会社新庄砕石工業所の取締役管理部長。どうすれば柿崎さんのように表彰を獲ることができるのでしょうか?
柿崎赳さんの主な表彰歴は、『私たちの主張〜未来を創造する建設業〜』国土交通大臣賞、東北地方工事安全施工推進大会 優秀現場代理人表彰、新庄河川事務所長表彰、福島河川国道事務所長表彰など。最近は3現場連続で表彰を受けています。
中央大学・法学部出身。文系でも建設業界で認められたい
「福島河川国道事務所長表彰」を受けた阿武隈川上流本宮地区築堤他工事
――柿崎さんは建設業界で数多くの表彰を受けていますが、これらは狙って獲ったのか?それとも偶然、獲れたのですか?
柿崎赳さん(以下、柿崎) すべての表彰を初めから狙っていました。優秀な人なら「後から結果がついてきた」ということもあるかもしれませんが、私のような凡人にそれはムリです。現場立ち上げの時から、「絶対に表彰を獲るんだ」という強い気持ちで挑みました。計画→実行→評価→改善を繰り返す「PDCAサイクル」を気が遠くなるほど繰り返し、ようやく獲ることができました。
――表彰にこだわる理由は何でしょうか?
柿崎 私は大学で文系だったんですね(中央大学・法学部出身)。理系ではない私でも努力すれば建設業界で認めてもらえる、それを証明したいという気持ちがありましたね。
――すでにたくさんの表彰を受けていますが、今後はさらに回数を重ねていくイメージですか?
柿崎 いえ、私自身が表彰をいただくのは、もういいかなと思っています。これから先は新庄砕石工業所の他のメンバーに表彰を受けてほしい。そのために、今年の春からは専任の現場を持たず、複数の現場のフォロー役に徹しています。
――具体的にはどんなことをされているのですか?
柿崎 弊社(新庄砕石工業所)の主な現場を私が巡回しながら、機械や作業員の配置などをかなり細かくチェックして、不備があれば徹底指導しています。
――実績のあるコーチが付いているのは心強いですね。表彰は新庄砕石工業所にとっても相当メリットがありますか?
柿崎 会社にも個人にもメリットがあります。会社のメリットとしては、表彰をいただくことで入札時に加点になり、次の仕事を受注しやすくなります。個人のメリットは、能力や努力を大勢の方々に認めてもらえるということです。特に東北地方整備局レベルの表彰式ともなると盛大ですし、そのような場で表彰されるということは大変な栄誉です。何とかベテランにも若手社員にもこの賞を獲らせたいと考えています。弊社では表彰=社長賞で金一封も出ますし。
――ただ今の若い世代は、人よりも評価されることに消極的ではないですか?
柿崎 そんなことありませんよ。私より下のアンダー30の世代でも、きっかけさえあれば表彰に貪欲になります。若い世代の特徴は、自分自身の存在を認めて欲しいという想いが強いんですね。表彰というのはその承認欲求を満たす役目も果たします。
実際に、事務所長表彰を受けた弊社の若手は、それで満足することなく、皆の前で「もっと表彰を獲りたい」と言います。若手が意欲的になることはベテランへの刺激にもなり、組織全体の活性化につながるという利点もあります。
現場代理人が表彰の可能性を高めるための3ステップとは?
――どのようなステップを踏めば、表彰が獲りやすくなりますか?「獲りたいけれど、なかなかとれない」と足踏みしている会社や現場代理人も多いと思います。
柿崎 表彰を受けるには、たくさんの項目から構成されるプロセスチェックリストで高い評価を受けなくてはなりません。理屈でいうと、このリストに適合する現場環境をつくっていけば表彰を受けられる可能性が高まります。これは口で言うのは簡単、実行するのは大変です。
――問題はそのような現場環境をどうつくるかですね。
柿崎 アプローチ自体はシンプルです。まず、自分の現場で劣っている部分、優れている部分を客観的に仕分けすることが重要です。その上で、劣っている部分を徹底的に直していけば評価が高まります。
――劣っている部分を具体的にどう改善していけば良いですか?
柿崎 思い込み、独りよがりで改善しても効果は上がりません。情報収集が鍵を握ります。情報収集といっても、現場管理の教科書があるわけではないですね。とにかく信頼できる人や経験値のある人に聞くことです。
建設業は「経験産業」です。素直に物を聞ける代理人は優秀な証拠です。社内外の優秀な現場代理人、職人さん・・・私の場合は発注先のお役所の担当者にも積極的に意見を聞きに行きます。
とにかく皆さんに「教えてください」「意見をお願いします」と頭を下げて教えていただくことです。もちろん当たり前の勉強をした上で。そんなことも自分で考えられないのかと思われたら、質問は逆効果です。
さらに、最近ではFacebookやTwitterなどのSNSも発達していますよね。そこで出会った建設業界の方に教えを請うのも一案です。本当に良い時代というか、面識のない方でも教えを請えばたいてい面倒を見てくれるものです。
新庄河川事務所の護岸工工事での地域の子どもたちとの1コマ
――皆さんから集めた意見はどのように活用していくのが理想ですか?
柿崎 話だけ聞いて、「はぁ、なるほど」で終わったら意味がありません。いただいた意見を実際に試してみることです。今までの自分の考え方だと納得できないという内容でもまずは試してみる。その上で、成果が出たやり方は吸収する、逆に成果が出ないものは排除するという取捨選択をしていけば、現場の質、管理の質を上げていけます。実際に私自身、この取捨選択を繰り返すことで表彰を獲ることができました。
現場の質を高めるための流れとしては、「劣っている部分を洗い出す」→「その部分についての意見を広く集める」→「納得できなくても素直に試してみる」という流れですね。
目指しているのは「建設業」ではなく「建設サービス業」
新庄砕石工業所はYouTube動画を配信するなど、積極的な情報発信を行う
――表彰以前の部分で、現場の質を高めるために柿崎さんは、どんなスタンスで仕事をしていますか?
柿崎 謙遜ではなくて、私は完璧にはほど遠い人間です。例えば、表彰を受けた現場でも簡単な測量ミスから高さを誤り、施工をやり直したこともあります。
公共工事は膨大な工程から成り立ちます。ミスやトラブルが起きないのが理想ですが、それはなかなか難しい。現場でも問題が起きる。会議でも問題が起きる。書類を作成すると不備がある。ドラマ『踊る大捜査線』の織田裕二、2人前くらい大変です(笑)。それが施工の現実なのです。
だからこそ、ミスを隠さない、ミスを人のせいにしない、頭を下げて改善するといったことを自分自身に課していました。ミスがあった場合は必ずやり直す。会社に大きな迷惑をかけることもありますが、失敗から学んで私自身が大きく成長すれば、会社に貢献できます。
この失敗を認める、失敗から学ぶ、という能力は、他の人よりもあるかもしれません。
――いつも仕事で意識していることは何でしょう?
柿崎 「建設業はサービス業である」ということをいつも意識しています。例えば、外部の方が視察に来た時、すべての作業員が明るく元気に挨拶をしてくれる現場がどれほどあるでしょう? 日本中、ほとんどの現場が暗い雰囲気ですよね。
「建設業はサービス業である」ということを全作業員が共有できれば、自然に現場の安全管理面が高まります。地域住民の方から常に見られている意識も高まりますし、発注先の担当者が現場を訪ねた時の挨拶や態度も変わります。
弊社でもこの部分はまだまだです。技術屋には浸透してきましたが、直営の作業員の方や下請けの方々も含めるとまだまだです。この部分を改善していくことで微力ながら、建設業界のイメージ改善に貢献できればと思います。
――新庄砕石工業所は、ICTにも果敢にチャレンジされていますね。今度はそちらのテーマで取材させてください!
新庄砕石工業所ホームページ http://shinjo-saiseki.com/
新庄砕石工業所のYouTube動画
https://www.youtube.com/watch?v=BLWiv7bUnOg