空調業界は転職してきた新人に厳しい
空調業界に関わらず、建築業界は新人には厳しい環境が多いです。特に他業種から転職して、中途入社した新人には厳しい。
私は新卒で空調業界に就職したため、中途採用ではないですが、外注で親会社の事務所に入ることや、部署間の移動など、部署をまたいだ仕事が多く、そこで出会う中途採用で入社した方々は、えげつない空調業界の荒波に翻弄され、やがて去っていくことが少なくありませんでした。
今回は、私が見てきた空調業界に中途入社した新人たちの苦労話を紹介します。
「見て覚えろ」先輩社員が仕事を教えてくれない古風な空調業界
私自身も、入社1年目から、親会社や他部署の事務所で、現場ごとのルールや人間関係に散々悩まされてきました。入社1年目から各部署をたらい回しにされ、ついた先輩は3年間で5人。そのうちの2人の先輩は、自分の仕事が一杯一杯で全く業務に関することを教えてくれず、残りの2人は仕事を教えてくれるが、自分が教えてもらった経験がなく、教え方が分かっていない人でした。
もう1人の先輩が一番ひどい性格で、全く教える気もなく、仕事もせずに定時で帰る人でした。「ここが分からないから教えて欲しい」と聞いても、「自分で考えてから聞いてこい」というだけ。それで私が間違った見解の書類を提出すると、ひたすら2〜3時間も説教されました。
この先輩は「自分は2年目から一人で仕事をやっていた」と豪語していました。しかし、建築業は昔より書類の量や報告書の精度、予算管理の量が多くなっており、そうした事務仕事を覚えるだけで精一杯。私は事務仕事も教えてもらえず、過去の資料や誰かが提出した資料を確認しながら書類作成することを余儀なくされました。当然、会社で寝泊まりすることもありました。
建築業界の一部である空調業界にも、「見て覚えろ」「自分で調べろ」という、古くさい非効率的な考えの方が非常に多いのです。ただ、そういう先輩ほど、プライベートで飲みに行くと人情深かったりするのも事実です。
親会社の中途採用者を「外注社員」が指導
入社3年目に差し掛かり、私は親会社の事務所の仕事を担当するようになりました。
その親会社の事務所には、外注先や人とうまく喋れない、ねちっこい所長がいて、とてつもなく暗い雰囲気の事務所でした。そこへ40代のA氏が中途採用で転職してきました。私たち協力会社の中では「やっとまともな人間が入ってきた!」と話題に。しかし、それは大きな間違いでした。
その中途入社のA氏と一緒に工事を行うようになってから、色々な相談を受けたのですが、そもそもA氏は建築資材の商社出身で、現場希望ではなく内職(本社)希望だったとのこと。入社1週間で、書類の作成方法も仕事の進め方も教えてもらっていないのに、この現場の配属となり、すでに転職したことを後悔していました。さらに事務所の雰囲気もすごく嫌いだと嘆いていました。
事務所の空気感は、所長の雰囲気で決まることが多いですが、たしかに、この事務所は、私が経験したゼネコンやサブコンの事務所の中でも、ワースト3に入る雰囲気の悪さでした。そして、所長から仕事を教えてもらえない中途採用者A氏は、外注社員に教えてもらいながら仕事をやっていましたが、そのことが気にくわない所長は、外注社員を叱咤するという有様です。
その後、中途入社のA氏は、部長に相談し約1ヶ月で、他の現場事務所に移動していきました。
協力会社の新入社員は「3日間徹夜」
次の事例は、協力会社に中途入社したB氏。
私の会社はまだ残業代が支払われる会社でしたが、年棒制で残業代が払われない会社もあります。そんな協力会社に中途入社したB氏は、過酷な労働環境で馬車馬の如く働いていました。
私も書類作成に追われて、会社のフロアマットで寝ることは幾度もありましたが、B氏はそれどころではありません。「2日に1日しか帰れない」「3日間徹夜」とか、「ろくに仕事を教えてくれない」とか、一緒に仕事をした際、しきりに会社の愚痴を言っていました。
その後、2〜3週間、その協力会社との仕事がなくなり、久しぶりに一緒に仕事をしたら、B氏がいません。聞くところによれば、B氏は倒れて、そのまま退職したとのことでした。
職人・客・会社から怒られる空調業界の新人
「人が足りない」という声が現場から聞こえてきてから、やっと私の所属会社でも中途採用を開始しましたが、急いで中途採用者を集めても、多くの方が辞めていっているのが現実です。
大手ゼネコンでも多くの新入社員が辞めていくと聞きますが、私の会社の場合、退職者が多い最大の理由は「仕事内容がわからないうちに現場に放り込まれ、客からも協力会社からも会社からも文句を言われるから」です。それでも、大抵の中途社員は、一人で現場に行かされてしまい、辞めていきます。
建築業の仕事は意外に覚えることが多く、その勉強をする暇もなく、現場で働いています。だから仕事内容は、実際の現場で職人に聞くしかないのですが、職人がみんな知識があるわけもなく、嘘や適当なことを言われ、それを信じた中途採用者は先輩に怒られ、かといってその先輩も何も教えてくれないという地獄です。それに拍車をかけるかのように、建設業界は深夜、土日でも、仕事や書類が終わらずに家に帰れないこともあります。
他業種から中途採用で建築業界に入ったら、本当に大変だと思います。特に空調業界やサブコンは、職人から怒られ、客から怒られ、会社から怒られます。勉強すべき内容も多いですが、そんな時間や休日は滅多に取れず、休日も客や会社の先輩から連絡がきます。そして、体育会系で上下関係が厳しいことも、中途採用で入社した方々を悩ませる一つの原因だと思います。
このままでは、どうにかしないといけません。働き方改革の風が空調業界にも吹くことを期待しています。