住友林業と熊谷組の提携 ハイブリッド建築とワンストップサービスの時代へ

住友林業株式会社 新事業戦略開発室長 永江剛史さん

住友林業と熊谷組の提携、ハイブリッド建築とワンストップサービスの時代へ

住友林業と熊谷組が業務資本提携した理由

昨年11月9日、ハウスメーカー大手の住友林業と、準大手ゼネコンの熊谷組が業務提携・資本提携することを発表した。同月にはパナソニックが松村組を買収すると発表するなど、建設業界は今、デベロッパー、ゼネコン、ハウスメーカーの垣根を越えたボーダレス化の時代を迎えている。

なぜ住友林業は、パートナーとして熊谷組を選択したのだろうか?住友林業の新事業戦略開発室長・永江剛史さんにその狙いを聞いてきた。

「ハイブリッド建築」、「木への回帰」そして「ワンストップサービス」という3つのキーワードが、提携の背景にはあるようだ。


住友林業と熊谷組の技術融合で、建築のハイブリッド化が進む

――住友林業が熊谷組と業務提携・資本提携したキッカケは?

住友林業 住友林業も熊谷組も茨城県つくば市に研究所を持っています。そこで、可能な範囲で、お互いに見学しましょうという、現場レベルでの交流がありました。その後、両社のトップ同士が会う機会があり、そこから次第に業務提携・資本提携の話が具体化していったという経緯があります。住友林業から熊谷組に20%資本出資し、持ち分法適用会社まで踏み込んだのは、住友林業がいかに熊谷組との提携を重視しているか、という我々の決意表明でもあります。

――ゼネコンの中でも、熊谷組をパートナーに選んだ理由は?

住友林業 熊谷組は土木・建築双方に非常にバランスの取れた、オールランドプレイヤーのゼネコンだと思います。マンションもふくめ多様な建築の実績が豊富な点や、様々な工法に対応力がある点、土木技術が突出して強い点などが、今回の業務提携・資本提携の理由として挙げられます。

――具体的には?

住友林業 今、建築分野では、木や緑の価値を評価する案件が増えてきているように感じます。RC造や鉄骨造などに木造を組み合わせた建築のハイブリッド化等は今後、ますます拡大していくマーケットだと予想されるため、熊谷組のコンクリートや鉄骨の施工技術と、住友林業の木造住宅の技術が融合することで、新たなステージに進むことが実現できると判断しました。

また、都市再開発の物件でも、木や緑を多彩にデザインすれば、都市および物件全体の価値が上がっていくという認識が、デベロッパーやオーナーを中心に高まっているように思います。2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が制定されて以降、公共建築にも木を積極的に使おうという考えが浸透しつつあり、住友林業にも前々から「なるべく建物に木を使いたい」「街区には緑が必要だ」といった相談が多く寄せられていました。しかし、住友林業だけではビジネス化することが困難なプロジェクトもあり、そうした大きなプロジェクトについても熊谷組と協業することで、土木・建築での提案の幅を拡げ、より深く踏み込んでいけると確信しています。

東京都国分寺市 7階建て耐火木質ビル(写真提供:住友林業)

――建築のハイブリッド化とは?

住友林業 住友林業は木造のハウスメーカーとして知られていますが、コンビニ、カフェ、学校、ヘルスケア施設など非住宅建築部門にも力を入れています。しかし、より大空間での建築になると、木造だけでは建築基準法上の制約もあり、さまざまな工法と組み合わせたハイブリッド化も有効な解決策になります。住友林業の研究所では、木材の耐火・防火性向上技術や、接合技術など実用的な技術開発を進めていますが、同じ建物の中でRC造と木造を使い分けたり、内装だけを木にしたり、木のぬくもりを大空間建築でどのように実現するのかという課題について、今後は熊谷組とも連携することで、より先進的な提案が可能になると期待しています。

住友林業には、木材の使い方や単価の妥当性、安定的な調達などの知見があるので、熊谷組にとっても、木材を使うという難易度の高い建築案件をより積極的に受注できるケースも増えてくると思います。

新規マーケットを創出する、住友林業と熊谷組の業務提携

――他にも熊谷組とのシナジー効果で期待している点は?

住友林業 一例として、これまで住友林業は、施工におけるVE(Value Engineering)等に課題がありました。中大規模の建築案件に関して、技術共有・VEをはじめ、ゼネコンとハウスメーカーでの施工プロセスや管理手法の相違点の見える化など、熊谷組の土木・建築施工管理技士の方々から助言をいただきながら、技術ノウハウの向上・蓄積および収益面での適正化を推し進めて行きたいと考えます。

——住友林業と熊谷組の技術者同士が意見交換していく?

住友林業 すでに両社の担当者が集まってディスカッションする委員会が立ち上がっており、テーマごとに分科会を設置しました。分科会では住友林業と熊谷組の具体的な計画について話し合うので、施工管理技士や建築士など実務者レベルでのディスカッションも当然行われます。

まず3月までに論点を整理し、短期・中期・長期にわたって何を実施するか決めていきます。そして、実務責任者同士で主体的にディスカッションを行い、その内容を経営層に報告するという枠組みです。逆に熊谷組からの提案にも、住友林業としてしっかり協業できる体制をいち早く構築していきたいです。住友林業と熊谷組の提携が成功するか否かは、この分科会に掛かっていると言っても過言ではありません。両社とも一部上場企業で世帯が大きいので、なあなあな(or曖昧な)話し合いで終わらないよう、継続的なコミュニケーションの仕組みを構築したいと考えています。

——分科会では具体的にどんな話を?

住友林業 分科会の最大の狙いは、新規マーケットの創出にあります。例えば、住友林業の技術者だけでは提案が難しいような大規模な再開発物件での木の利活用について、熊谷組の技術者と一緒に、JVか共同提案かまだわかりませんが、新たな提案方法を考えていきたい。また、住友林業は住宅メーカーであるとともに、木材や建材の商社部門が約4,000億円規模の商圏を保有しているので、これを拡大すべくゼネコンや地域建設企業が、より木材や建材を使用・購買しやすい具体的な仕組みも考えていきたい。営業についても、ゼネコンはBtoBもしくは自治体向けのBtoGが特に強く、独自の営業網を保有しているので、全国の各支店での連携についても話し合う予定です。

――緑化や土木の分野は?

住友林業 住友林業には「住友林業緑化株式会社」という関連会社があり、都市やオフィスビルの緑化についても相当に実績を重ねてきています。熊谷組が持っている都市・インフラ開発・整備に関わる土木技術等との親和性は非常に高いと期待しています。都市開発と緑化は、矛盾対立するものではなく、切っても切れない関係になってきており、住友林業としては、デベロッパーとゼネコンの接着剤として、街区全体の価値を緑化によって高めていきたい。そこで、熊谷組の子会社である道路土木会社の「株式会社ガイアート」や、住友林業緑化にも分科会に入ってもらい、環境緑化分野の協業について検討する予定です。もちろん、環境緑化以外では、森林保全等の分野も、個別の分科会を設置し連携協議を進めていく予定です。

――住友林業と熊谷組のグループ会社も、分科会に参加すると?

住友林業 はい、緑化だけでなく、リノベーションの領域でも、熊谷組のグループ会社「ケーアンドイー株式会社」と、住友林業のグループ会社「住友林業ホームテック株式会社」が分科会に入り、ストック時代における住宅・非住宅分野双方のリノベーションのあり方の議論を深めていきます。住友林業ホームテックは、古民家リノベーションではかなりのシェアを保有しているので、今後盛んになるであろう民泊事業なども検討テーマに挙がる可能性もあろうかと思います。

三井住友海上駿河台ビル(写真提供:住友林業)


再生エネルギー事業、高齢者介護施設建設

——将来的にどのような新規マーケットを開拓したい?

住友林業 住友林業では、次世代エネルギー事業として、林地未利用材や解体廃材などを燃やしてエネルギーつくるバイオマス発電所を北海道・紋別市や神奈川県・川崎市などで稼働しており、今後、そのノウハウも生かしていきたいと考えています。例えば、再生可能エネルギー発電所の建設から管理までを一括して取り組めるプロジェクトなどは、条件さえ整えば、熊谷組との連携も視野に置きたい。今後は、建設事業だけでなく、業容を拡大していかなくては生き残れません。

紋別バイオマス発電所(写真提供:住友林業)

川崎バイオマス発電所(写真提供:住友林業)

——その他にも業容拡大は?

住友林業 住友林業は高齢者介護施設を14カ所で運営するほか、介護部門を強化するために、神戸製鋼の連結子会社である神鋼ケアライフを昨年4月に買収しました。神鋼ケアライフは、介護付有料老人ホーム事業を展開しており、質の高い高齢者介護施設として、全国的にも認知されています。

高齢者施設やリハビリ病院などの建築では、住空間に近い環境にするため、木を活用したいという需要が拡大しています。すでに住友林業でも福岡県の大型老人ホームや、大阪府のリハビリ病院などの建築は手がけていますが、今後の更なるニーズの高まりにしっかりと対応できるようにしていきます。

なお、日本でのヘルスケア分野のノウハウの蓄積に基づき、海外での展開も視野にいれていきたいと考えます。この分野でも、熊谷組とも協業テーマを見つけて行きたい。

ワンストップサービスの提供を目指す、ハウスメーカーとゼネコンの業務提携

――海外進出でも熊谷組との協業メリットがありそうですね?

住友林業 熊谷組は台湾で長きにわたって活躍していて、超高層タワー「台北101」など、企業ブランドも強いので、台湾での協業は進めていくことになります。ヘルスケア部門でも、熊谷組や台湾の財閥などと連携することで、建設から運営までをワンストップで提供したいと思います。

――海外での住友林業のハウスメーカーとしての立場は?

住友林業 東アジアや東南アジア、特にタイ、インドネシアで住宅開発を強化していますが、これまでの海外における住宅開発では、現地の建設会社に委託するケースが多く、ハウスメーカーと言うよりは、不動産開発会社のポジションとしての役割が濃厚でした。しかし、今後は熊谷組とタッグを組むことで、開発・建設・管理のサービスを一気通貫に提供できる強みが海外事業でも発揮されると期待しています。熊谷組の海外部門も重点強化領域と聞いておりますので、海外の開発情報の共有化を進め、一緒に開発を進める物件も出てくると思います。

――ハウスメーカーとゼネコンの資本提携や業務提携は今後も増えるでしょうか?

住友林業 デベロッパー、ゼネコン、ハウスメーカーの垣根が取り払われ、ボーダレス化の時代を迎えると思います。単体企業では難しい複合的なノウハウをワンストップで提案できるよう、技術や機能の共有化がますます重要になり、業務提携だけでなく、M&Aやベンチャーとの連携など、企業間の協業スタイルも多様化するでしょう。ワンストップサービスを提供していくことで、顧客の満足度を高め、そのようなノウハウを集約できる企業群に、顧客が集まっていく時代を迎えていくのではないでしょうか。

――企業提携で技術者も成長する?

住友林業 人材交流が深まっていく中で、住友林業の建築士や施工管理技士にとって、熊谷組の技術者からの助言は非常に貴重ですし、熊谷組の施工管理技士の方々も、木の理解を深めることでスキルの幅が広がっていくと期待しています。今回の業務・資本提携を通じ、住友林業と熊谷組、双方の技術レベルの向上を実現させていければ嬉しいです。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「コマツ vs キャタピラー」 あなたはどっち派?
パナソニックが「松村組」を買収した狙いとは? 「施工管理技士」に他業種も注目
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
「アホな発注者」から学んだ、仕事を依頼するときの注意点
「キティちゃん」がゼネコンのために一肌脱いだ!熊谷組とサンリオがコラボした謎
「元請会社も仕事師も大赤字!」現場管理がズサンな監督者の末路
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
モバイルバージョンを終了