住友林業と熊谷組の技術融合で、建築のハイブリッド化が進む
――住友林業が熊谷組と業務提携・資本提携したキッカケは?
住友林業 住友林業も熊谷組も茨城県つくば市に研究所を持っています。そこで、可能な範囲で、お互いに見学しましょうという、現場レベルでの交流がありました。その後、両社のトップ同士が会う機会があり、そこから次第に業務提携・資本提携の話が具体化していったという経緯があります。住友林業から熊谷組に20%資本出資し、持ち分法適用会社まで踏み込んだのは、住友林業がいかに熊谷組との提携を重視しているか、という我々の決意表明でもあります。
――ゼネコンの中でも、熊谷組をパートナーに選んだ理由は?
住友林業 熊谷組は土木・建築双方に非常にバランスの取れた、オールランドプレイヤーのゼネコンだと思います。マンションもふくめ多様な建築の実績が豊富な点や、様々な工法に対応力がある点、土木技術が突出して強い点などが、今回の業務提携・資本提携の理由として挙げられます。
――具体的には?
住友林業 今、建築分野では、木や緑の価値を評価する案件が増えてきているように感じます。RC造や鉄骨造などに木造を組み合わせた建築のハイブリッド化等は今後、ますます拡大していくマーケットだと予想されるため、熊谷組のコンクリートや鉄骨の施工技術と、住友林業の木造住宅の技術が融合することで、新たなステージに進むことが実現できると判断しました。
また、都市再開発の物件でも、木や緑を多彩にデザインすれば、都市および物件全体の価値が上がっていくという認識が、デベロッパーやオーナーを中心に高まっているように思います。2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が制定されて以降、公共建築にも木を積極的に使おうという考えが浸透しつつあり、住友林業にも前々から「なるべく建物に木を使いたい」「街区には緑が必要だ」といった相談が多く寄せられていました。しかし、住友林業だけではビジネス化することが困難なプロジェクトもあり、そうした大きなプロジェクトについても熊谷組と協業することで、土木・建築での提案の幅を拡げ、より深く踏み込んでいけると確信しています。
――建築のハイブリッド化とは?
住友林業 住友林業は木造のハウスメーカーとして知られていますが、コンビニ、カフェ、学校、ヘルスケア施設など非住宅建築部門にも力を入れています。しかし、より大空間での建築になると、木造だけでは建築基準法上の制約もあり、さまざまな工法と組み合わせたハイブリッド化も有効な解決策になります。住友林業の研究所では、木材の耐火・防火性向上技術や、接合技術など実用的な技術開発を進めていますが、同じ建物の中でRC造と木造を使い分けたり、内装だけを木にしたり、木のぬくもりを大空間建築でどのように実現するのかという課題について、今後は熊谷組とも連携することで、より先進的な提案が可能になると期待しています。
住友林業には、木材の使い方や単価の妥当性、安定的な調達などの知見があるので、熊谷組にとっても、木材を使うという難易度の高い建築案件をより積極的に受注できるケースも増えてくると思います。
新規マーケットを創出する、住友林業と熊谷組の業務提携
――他にも熊谷組とのシナジー効果で期待している点は?
住友林業 一例として、これまで住友林業は、施工におけるVE(Value Engineering)等に課題がありました。中大規模の建築案件に関して、技術共有・VEをはじめ、ゼネコンとハウスメーカーでの施工プロセスや管理手法の相違点の見える化など、熊谷組の土木・建築施工管理技士の方々から助言をいただきながら、技術ノウハウの向上・蓄積および収益面での適正化を推し進めて行きたいと考えます。
——住友林業と熊谷組の技術者同士が意見交換していく?
住友林業 すでに両社の担当者が集まってディスカッションする委員会が立ち上がっており、テーマごとに分科会を設置しました。分科会では住友林業と熊谷組の具体的な計画について話し合うので、施工管理技士や建築士など実務者レベルでのディスカッションも当然行われます。
まず3月までに論点を整理し、短期・中期・長期にわたって何を実施するか決めていきます。そして、実務責任者同士で主体的にディスカッションを行い、その内容を経営層に報告するという枠組みです。逆に熊谷組からの提案にも、住友林業としてしっかり協業できる体制をいち早く構築していきたいです。住友林業と熊谷組の提携が成功するか否かは、この分科会に掛かっていると言っても過言ではありません。両社とも一部上場企業で世帯が大きいので、なあなあな(or曖昧な)話し合いで終わらないよう、継続的なコミュニケーションの仕組みを構築したいと考えています。
——分科会では具体的にどんな話を?
住友林業 分科会の最大の狙いは、新規マーケットの創出にあります。例えば、住友林業の技術者だけでは提案が難しいような大規模な再開発物件での木の利活用について、熊谷組の技術者と一緒に、JVか共同提案かまだわかりませんが、新たな提案方法を考えていきたい。また、住友林業は住宅メーカーであるとともに、木材や建材の商社部門が約4,000億円規模の商圏を保有しているので、これを拡大すべくゼネコンや地域建設企業が、より木材や建材を使用・購買しやすい具体的な仕組みも考えていきたい。営業についても、ゼネコンはBtoBもしくは自治体向けのBtoGが特に強く、独自の営業網を保有しているので、全国の各支店での連携についても話し合う予定です。
――緑化や土木の分野は?
住友林業 住友林業には「住友林業緑化株式会社」という関連会社があり、都市やオフィスビルの緑化についても相当に実績を重ねてきています。熊谷組が持っている都市・インフラ開発・整備に関わる土木技術等との親和性は非常に高いと期待しています。都市開発と緑化は、矛盾対立するものではなく、切っても切れない関係になってきており、住友林業としては、デベロッパーとゼネコンの接着剤として、街区全体の価値を緑化によって高めていきたい。そこで、熊谷組の子会社である道路土木会社の「株式会社ガイアート」や、住友林業緑化にも分科会に入ってもらい、環境緑化分野の協業について検討する予定です。もちろん、環境緑化以外では、森林保全等の分野も、個別の分科会を設置し連携協議を進めていく予定です。
――住友林業と熊谷組のグループ会社も、分科会に参加すると?
住友林業 はい、緑化だけでなく、リノベーションの領域でも、熊谷組のグループ会社「ケーアンドイー株式会社」と、住友林業のグループ会社「住友林業ホームテック株式会社」が分科会に入り、ストック時代における住宅・非住宅分野双方のリノベーションのあり方の議論を深めていきます。住友林業ホームテックは、古民家リノベーションではかなりのシェアを保有しているので、今後盛んになるであろう民泊事業なども検討テーマに挙がる可能性もあろうかと思います。