「二級建築士は結局、二流なんだよ!」北方謙三を愛読するパワハラ上司を攻略した、新入社員の女傑設計士

「二級建築士は結局、二流なんだよ!」北方謙三を愛読するパワハラ上司を攻略した、新入社員の女傑設計士

「二級建築士は結局、二流なんだよ!」北方謙三を愛読するパワハラ上司を攻略した、新入社員の女傑設計士

パワハラ上司の胸襟を開く新人のテクニック

偏見かもしれないが、建設現場で長年働いてきた男たちは、クセが強くてかなり扱いにくい。クセ者の集まる建設現場で大金を動かして生きていれば、それも仕方がないのかもしれない。しかし、建設現場の人間は扱いにくい反面、ひとたび打ち解ければ、良いお付き合いができる人も存在する。

今回は私が新人時代に経験した、超気難しい現場人との交流記をお伝えする。気難しい現場人の胸襟を開くための1つのテクニックとして参考して欲しい。

新入社員の挨拶を無視するパワハラ上司

工業高校卒業後、中小企業の建設会社に入社した私は、1ヶ月間の研修期間中に社内の全部署で仕事を体験することになった。超気難しい現場人Gさんとの出会いは、工事部での研修時だった。

公共工事の現場に現れた現場人Gさんは、当時40代後半の働きざかり。大きな現場をいくつも掛け持ち、「自信の塊」のような男だった。

私の他に男性2人が同期入社したが、私たち新人トリオがGさんに挨拶をしても完全無視。鋭い眼差しで2~3秒睨まれ、顔をプイッと背けてどこかへ行ってしまうGさんに、新人トリオは「なんだこのオッさんは、へんなの」と呆れ気味だった。しかし、これは恐怖の序章に過ぎなかった。


同期の男性社員はパワハラで退職

研修期間が終わり、私は設計部に配属され、同期の男性2人は工事部に配属された。本格的に仕事が始まると、すぐに私たち新人はGさんのクセの強さに悩まされることになった。

Gさんが仕切るグループの部下として配属された同期のひとりは、Gさんから無視されることを苦にして、ついに会社に来なくなってしまった。入社してすぐの貴重な人材であるため、上層部がGさんに詳細を確認することになったが、理由は簡単なことだった。

Gさんが頼んだ簡単な仕事をミスしたことがきっかけで、「謝り方が気に食わなかったから、オレが納得いくまで無視した」とのこと。結局、同期の男性はこのまま辞めてしまった。大切な同期を失うことになり、新社会人の私はGさんに恐怖心を抱くようになった。

パワハラ上司の「ミス」を指摘して返り討ちに!

公共工事を中心に行うGさんに対し、民間の仕事を中心に行うことになった私は、幸いGさんと仕事で絡むことがなかった。しかし、入社3年目にISOの勉強を兼ねた書類整理を任された際、Gさんに確認しなくてはならない事項が浮上した。Gさんの担当する現場の書類に不備があったのだ。

あのGさんに指摘しなくてはならない、という事態に冷や汗をかき、心臓が口から飛び出そうになりながら、現場に出かけているGさんにアポイントの電話をかけたのを今でも覚えている。

「お疲れ様です。」

G「はい、なに?」

「Gさんがまとめてくださった○○耐震改修工事のISO書類で、確認させていただきたいことがあるので、お帰りになったらお話させて頂けませんでしょうか・・・?」

G「は?あなたがISOまとめてんの?マジで終わってんな」(ガチャ!)

ひとまず心を落ち着けて、Gさんの帰社を待ちながら自分の仕事をこなしていると、かかとからドカドカと歩くクセの強い足音が聞こえてきた。電話をして30分ほどで、わざわざ帰ってきたようだ。

G「ねえ、あなたひとりでこれまとめてんの?」

「あ、はい、終わったらSさんにも見てもらうのですが」

G「はぁ~・・・」

「は、はい・・・」

G「本当わかってねーな、もういーよ。とりあえずあなたはソレもうやんないで。Sには俺から言っとくから」

「は、はい」

Gさんはそう言い残すと、ドカドカと私の作業部屋を後にして、Sさんの元へ向かった。別のブースでSさんに怒鳴り込む声が丸聞こえだったので要約すると、以下のことを言っていた。

  • 入社して3年くらいのわけわかんない女にISOなんかやらせてんじゃねえよ!
  • 俺がどれだけ苦労してISO取ったと思ってんだ(GさんはISOを取得する際に先頭に立ってあれこれまとめていたらしい。その苦労は並々ならぬものだったそうだ)
  • もうあのお姉ちゃんにはISO触らせんな。S、キサマがやれ!

と、いうことで早々に私はISO書類まとめ係を解雇になった。入社3年目といえども、それなりのプライドはあったので、丸聞こえの解雇宣言はとても悔しかった。そして、私はGさんのことが大嫌いになった。


二級建築士は結局、二流なんだよ!

高卒で入社し、実務経験年数をクリアした私は試験を受け、二級建築士の資格を取得した。半年以上勉強し、眠る時間を惜しんで製図の練習をして取得した資格なので、とても誇らしく感じていた。

建築士の資格取得者が増えると会社の評価も上がるので、社内でも褒め称えられ、素直に喜びを感じていた。

が、そこに水を注したのがGさんだった。Gさんは、わざわざ私のもとにやって来た。

G「みんな褒めてるけど、あなた建築士とったの?」

「はい!おかげさまです」

G「何級?」

「二級です」

G「な~んだ。知ってる?二級建築士は結局、二流なんだよ!二流建築士がそんなに嬉しいか。そんなんで喜んでんじゃねえよ」

そう言い捨ててGさんはまたドカドカと足音を立てながら去って行った。

「(クソひねくれオヤジいい、キイイイイイ!!)」

この一件で、私はGのことが更に嫌いになったと同時に、不思議とGに興味がわいてきた。なぜ、こんなにもGはひねくれているのか?と思うようになってきたのだ。

北方謙三の『三国志』を愛読するパワハラ上司

二級建築士の資格を取って、私も少し心に余裕ができたのか、私はGを避けることをやめて、Gに注目してみることにした。

Gが読書をしている姿を見かければ、恐る恐る何を読んでいるか聞いてみた。Gはうざがりながらも教えてくれたのだが、それは北方謙三の『三国志』だった。もう何回も読み返しているそうだ。

Gに仕事のミスを指摘される機会があると、私は直すべき部分を納得が行くまで追い回すようにしてGに確認した。なぜならGの指摘の仕方は「これ、ちげーよ。ふざけんじゃねー!」で、意味がわからないからだ。意味がわからなければ直せないので、執拗に確認するようにすると、うざがりながらも丁寧に教えてくれた。

怖がらずにとにかく聞いてみるようになったのと同時に、一緒に仕事をする機会が増えたこともあって、今までよりも怒られる機会も増えたが、Gさんの心の扉が徐々に開いて行くことを私は感じた。

私が退社する際には、「ほら見ろ、女はすぐ辞める」などと言いながらも、Gさんの知合いの建築家が所属する団体に私を紹介してくれた。「こういう団体に所属してれば、仕事も回ってくるし、食いっぱぐれないだろうからさ。建設業界で仕事を続けたいなら繋がりを大事にしなさいよ」などという言葉を聞いた時には、耳を疑ったが、とても有難かった。

私の自宅が竣工した際には、わざわざ写真家を連れて遊びに来て「撮影料はおごりな」と言って、嬉しそうに見物して帰っていった。別に、Gさんには育ててもらったわけでも特別お世話になったわけでもないが、気難しいGさんと仲良くなれたのは、私の設計士人生において特別な出来事だった。

のちに自己啓発本で知ったことだが、苦手な人と打ち解けたい場合は、その人が読んでいる本について聞くことがとても有効らしい。

建設業界の仕事では、人間関係を大切に日々を過ごさなけれないけない。私はGさんとの出会い以来、気難しい現場人に出会ったら、怖がらずに自分から歩み寄ること、うざがられてもめげないで普通の人よりも丁寧に関わることを心がけている。

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2級建築士(女性)。某建設会社の設計部で、主に戸建て住宅の新築やリフォームの設計・積算を担当。今は子育てに追われ、在宅勤務中。再び前線に復帰することを夢見ながら、建築業界に必死でしがみつく日々。
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