死ぬほど国から是正指導を受けた、超大規模土木工事の「建設工事計画書届」

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死ぬほど国から是正指導を受けた、超大規模土木工事の「建設工事計画書届」

建設工事計画届の提出で鬱状態

現場監督であればほとんどの方々が、工事着工前に「建設工事計画届」を労働基準監督署へ提出した経験をお持ちかと思います。

私もゼネコンに所属する身として、「労働安全衛生法第88条(計画の届出等)」に基づいた建設計画届を、何度も所轄の労働基準監督署に提出してきました。もはや建設工事計画届については慣れっこで、頭を悩ますことはありませんでした。

が、しかし、超大規模土木工事では勝手が違い、たいへん苦慮しました。各方面方への対応の経緯から、鬱状態になりました。


超大規模土木工事に該当したケーソン工事の建設工事計画届

それは、東九州自動車道の橋梁下部工事で、現場責任者を任された現場のこと。

私はケーソン工法を何度となく経験しており、この現場もニューマチック・ケーソン工事だったため、意気揚々と工事に取り組み始めたところでした。

ところが、この工事は、地表面より深さ33mまでの沈設工事で、ケーソン作業室への送気圧0.34Mpaと、「超大規模土木工事」に相当していました。

確認のため、慌てて本棚に備えてあった書籍『建設工事計画届必携』に眼を通すと、労働安全衛生法第88条の計画届は、次の3つのレベルに分かれるとのこと。

  • レベル1: 大型工事
    労働基準監督署への提出、着工14日前届出
  • レベル2: 大規模工事
    労働基準監督署への提出・審査、着工14日前届出
  • レベル3: 超大規模工事
    厚生労働大臣へ提出・審査(学識者の意見徴集)、着工30日前届出

そして、以下の6項目に該当すると、超大規模工事の土木工事となってしまい、建設工事計画届の提出先も労働基準監督署でなく、厚生労働省大臣宛に変わることを再確認しました。

いわゆる「大臣申請」です。

「大臣申請」に該当する工事は次の通り。

  1. 高さ300m以上の塔の建設工事
  2. 堤高150m以上のダムの建設工事
  3. 支間500m以上の橋梁の建設工事
  4. 長さ3000m以上のトンネルの建設工事
  5. 深さ50m以上の立坑の掘削工事
  6. 函内圧力0.3Mpa以上の圧気工事

・・・初めて担当する「超大規模土木工事」の現場監督の重責を感じ、対応手順が分からず、私は急に緊張していました。

あとで知ったことですが、ケーソン工事の見識者によると、ケーソン工事では函内圧が0.30Mpaが一つの境とされているそうです。

そのため、設計段階から0.30Mpa以内、沈設深さ30m以内とし、沈下抵抗力は躯体の大きさで調整するのが主流とのことでした。

圧気工事0.27MPaで作業する場合のタイムテーブル

ただ、地質状況や河川の阻害率を考慮すれば、そうもいかない現場状況もあるようです。

いずれにしろ、私が担当する工事は、『超大規模土木工事』という位置づけで、私は責任者として、現場担当者全員に「今回は簡単ではないヨ!」と鼓舞しました。


是正を繰り返した建設工事計画届

私はまず、厚生労働省(労働基準局安全衛生部安全課建設安全対策室)に問い合わせると、次のようなポイントを指示されました。

  • 協力業者の選定及び決定した上での計画
  • 現地照査の上、具体的な仮設計画の作成
  • ケーソン基礎施工まわりの土質の把握(硬度やガスの有無)

上記を踏まえて建設工事計画届を作成した後、「大臣申請」の経験のある施工業者と一緒に、はるばる九州から東京の厚生労働省まで出向きましたが、技術審査官からは再度、下記の修正・指示を受けました。

  • 高気圧の有識者から意見の徴集を!特に減圧症について!
  • 現場単独での対応をせず、会社全体としての対応姿勢を!

これを受け、私は某大学教授を訪問し、会社全体体制との専門委員会を開催。ケーソン経験者による社内組織を構築するため、東京本社を訪れました。

そうした対策を講じて、九州の現場に戻ってから約20日後、建設工事計画書と社内組織の構築が完了し、再び厚生労働省へ書類を持参しました。

しかし、技術審査官からは「工事関係者への人命に係ること」を重点とした、法ルール中心についての色々な質問が多く、それらを理解していたはずの現場責任者の私でしたが、終始しどろもどろでした。

結局、何度となく技術審査官や有識者のもとに出向く悪戦苦闘の日々で、私を中心とした現場だけの対応では無理と判断し、対応起点を東京本社に移し、知識のある先輩方の指示・対応を仰ぐことにしました。

先が見えず、私は鬱状態。是正、是正の連続で最終受理、計画届表紙に「日付入りゴム丸印」をもらうまでに約3ヶ月も経過しました。工事実働までがかなり長かったです。

無人機械化でのケーソン掘削・沈下

安全に関して知識があると思っていた私でしたが、この現場では、人命尊重のため、通常以上の安全管理の知識が必要であることを身にしみて感じました。

今後、土木技術が進歩するにつれ、超大規模土木工事の「建設工事計画届」が必要な現場が増えると思いますが、土木技術者には、法的知識も必須であり、決して「土木は馬鹿では務まらない」ことを改めて痛感した次第です。

ケーソン工事だけでなく、この種の工事を対応される方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。

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土木工学科で橋梁工学を専攻。23歳で大学卒業後、一部上場ゼネコンに入社し、主に高速・橋梁下部工を担当。その後、圧気ケーソン主流の施工部署にて作業所長を25年ほど経験し、管理部門で主にVELの指導役となる。定年退職後、圧気ケーソン工事の経験を生かし、技術支援役として活動中。
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