大東建託の安全管理部門
建設業界の最優先事項は「安全」である。
しかし、建設業界の労働災害は、全業種のなかで最も多く、若者が建設業への就職を避ける要因にもなっている。建設労働災害の中でも、とりわけ多いのは、高所からの「墜落・転落」。毎年、建設労働災害のおよそ4割を占める。
しかし建設会社側も無策なわけではない。とりわけ大東建託は、安全管理に積極的だ。VRの活用など、次々と新たな墜落防止に取り組んでいる。
今回、大東建託で安全管理を全社的に統括している安全管理部安全管理課の大河原宗宏さん、海田佳吾さん、吉本仁志さん、平田純一さん、冨松弘誠さんの5名に、建築現場での最新の安全対策について聞いてきた。
現場社員のアイディアも安全管理に取り込む大東建託
——大東建託の建築は、木造中心かと思いますが、どんな安全対策を?
大東建託 大東建託の現場は「2×4工法」による住宅建設が8割を占めています。残りの2割がS造、RC造です。木造建築での墜落・転落防止では、労働安全衛生規則を守って、足場に「手すり」「中さん」「幅木」を設置するのはもちろん、大東建託の独自の仕様として、建築物件の軒先、ケラバ部分にも、手すりを設けています。
——大東建託ならではの取り組みは?
大東建託 住宅の建築では開口部が広く、そこからの墜落・転落の危険性が高いため、大東建託では「安全君」というオリジナルの金物を開発しています。「安全君」は階段開口部に仮床を設置する際に使用する仮設専用の金物(開口養生仮設根太受け金物)です。2009年度に社内のTQC活動から誕生しました。2×4物件で階段開口部を養生して、作業床として使用する場合は、必ず「安全君」を使用するように、2010年10月から義務づけています。
仮床を設置し、住宅建築での事故防止
——大東建託でTQC活動?
大東建託 大東建託では「お客様の声を実現するための、現場目線での改善をしよう!」を合い言葉に、TQC活動を実施しています。TQCとは、Total Quality Controlの略で、総合的な品質管理を目的に、現場の問題発見から業務改善を図る活動です。社員のアイディアを集めた社内コンクールも開催し、各現場での改善事例を全社的な業務改善につなげています。
マネキン人形を墜落させる恐怖
――ところで、安全管理部は、主に何をする部門ですか?
大東建託 安全に関する法律や規則について、社内や協力会社に周知して、具体的な安全対策を各支店に提案する部門です。法改正の動向にも注視しています。当然、目的は「事故ゼロ」。そのために、VR技術の開発や体験型研修などを全国の現場で実施しています。
——体験型研修とは?
大東建託 2012年から現場体験型研修を実施しています。約6mの足場上からマネキンを墜落させる実験や、胴ベルト型安全帯とハーネス型安全帯で、マネキンの墜落時の体勢を比較する実験など、目の前で落下の衝撃を体験してもらっています。実際にマネキンが落ちるのを見ると、恐怖を感じて、安全意識が高まる効果があるので、社員だけでなく、協力会社にも参加を要請しています。
マネキン人形を墜落させ、墜落のリアルと恐怖も周知
VRで墜落転落を疑似体験
大東建託 3月19日には、協力業者5社の15名、大東建託の工事担当者5名が参加し、埼玉県さいたま市の現場で、VRを利用した現場体験型研修を初めて実施しました。
埼玉県で実施した現場体験型研修でVRによる墜落転落を疑似体験
——VRはどんな映像ですか?
大東建託 VRの映像は、鉄筋コンクリート造の建築現場の上層部(高さ60m相当)から、資材の「受け渡しミス」をきっかけに墜落するという設定です。VRのゴーグルとヘッドホン着用で、風の音や街の喧騒もリアルに再現しているため、参加者の中には怖すぎて震えてしまったり、途中でギブアップしてしまったり、リアルな墜落体験をできたという声が多かったです。
ヘッドホンとゴーグルによる没入感だけでなく、実際の足場を地面に置いて、その上でVR体験をしてもらうため、足元がしなって、本当に工事現場の高所に立っている気持ちになります。「立っているだけでひざがガクガクしてしまった」という参加者の声もありました。
VRコンテンツ「建設現場における仮設足場からの墜落」。VRで墜落・転落を疑似体験する。
——墜落後は?
大東建託 墜落を経験した後は、安全帯の着用を促す音声が流れ、なぜ墜落したのか第三者視点での解説が始まります。そもそも高所からの転落事故の原因は、その多くが安全意識の欠如です。1度事故を起こすと、2度と経験したくないと考えます。VRを通じてリアルに恐怖を感じることで、高所から墜ちない対策が必要だと、 安全意識の向上につながると確信しています。
——VRで墜落・転落以外の体験はできますか?
大東建託 釘打ち機から跳ね返った釘の恐怖体験もできます。
――それは恐怖ですね。
VRは建築現場の安全教育で不可欠に?
——VRは自社開発ですか?
大東建託 VRコンテンツを制作している積木製作さんです。積木製作さんは次々とVRコンテンツを開発していますが、大東建託としても実際の現場を利用して、よりリアルなVRを共同開発し、現場体験型研修を進化していきたいと考えています。今年はこれから全国40カ所で、高所作業が多い作業員約2,000人を中心に、VR体験を含めた現場体験型の研修を開催します。 安全教育に終わりはありません。
——VRは安全教育で不可欠になる?
大東建託 はい、VRは没入感があるので、実体験しているような感覚になります。安全教育にとっては、気の緩みが大敵なので、VRの効果には期待しています。足場や現場の危険予知の教育にも役立つでしょう。
――今後の安全管理部の目標は?
大東建託 何と言っても、建設労働災害事故ゼロです。墜落・転落を防止すれば、かなり事故は減りますので、多くの方々にこのVRコンテンツ「建設現場における仮設足場からの墜落」を体験してもらいたいと考えています。