建設コンサルタントに勤務する、二宮知子さん

アニメと災害の影響で建設コンサルに入った女性技術者が語る「土木設計のやりがい」とは?

建設コンサルの女性技術者が語る土木設計

工業高校や高専、大学の先生などに話を聞くと、「土木を学ぶ学生はここ数年、施工管理よりも建設コンサルタント志向が目立つ」と言う。「現場に出るより、楽そう」というイメージがあるらしい。

一方、コンサルに入社したものの、発注者の下請けのような仕事を大量に押し付けられ、幻滅して公務員などに転職する人間もいると言う。コンサル業務の実態はどうなっているのか?

宮崎県内のとある建設コンサルタント会社に勤務する二宮知子さんに、日々の仕事ぶりなどについて話を聞いた。

建設コンサルタントで道路設計、都市計画をかじっている

大石(施工の神様 ライター)

ずばり建設コンサルの仕事は楽しいですか?

二宮知子さん

はい、楽しいです(笑)。

大石(施工の神様 ライター)

何をやっているんですか?

二宮知子さん

今は道路・橋梁がメインの部署にいて、主に道路設計と都市計画をちょっとかじっているくらいです。

大石(施工の神様 ライター)

橋はやらないんですか?

二宮知子さん

橋の点検には行きますね。橋の補修設計はしますが、新設時の設計はしたことがありません。

大石(施工の神様 ライター)

今の建設コンサルに入社して何年ですか?

二宮知子さん

8年目ですね。

もう仕事には慣れましたが、主体的に仕事に取り組む中で、自分だけでは考えても決断できないこと、悩むこともありますから、先輩方にいろいろ教えて頂いています。

大石(施工の神様 ライター)

これまでに手がけた仕事は?

二宮知子さん

道路、公園、砂防とかですね。

「紅の豚」フィオちゃんに憧れて、土木設計の世界へ

大石(施工の神様 ライター)

大学では土木を勉強していたんですか?

二宮知子さん

はい。環境と土木に興味があったので、そういう学科のある大学を選びました。土質系ですが、地下水の研究室でした。

大石(施工の神様 ライター)

なぜ土木の勉強を?

二宮知子さん

小さい頃からジブリアニメの「紅の豚」が好きでした。映画の中に、フィオちゃんという飛行艇の設計者が出てくるんですが、彼女に憧れました。

ドラフターで図面書くのがスゴくかっこよくて、漠然と設計者になりたかったのが、そもそものきっかけです。

大石(施工の神様 ライター)

ダイレクトに飛行艇の設計者は目指さなかったのですか?

二宮知子さん

それはそうなんですけど(笑)、あるとき、飛行艇の設計は難しいと気づいたんです。空を飛ぶし、水に着水しますし…。

それで、もっと身近なものが良いなと思い、その後は建築系か土木系か迷って、土木の設計の方が地図に残ってスケールが大きいし、不特定多数の人の役に立てるので良いなと考えるようになりました。

大石(施工の神様 ライター)

何かきっかけがあったわけですね。

二宮知子さん

ええ。高校生になって、宮崎で水害を経験しました。実家の目の前に防波堤があるのですが、対岸が破堤しました。

台風が去った後、堤を上ると、まちだった場所が一面浸水し、海のようになっているのを目の当たりにしたんです。そのとき「ある日突然、日常が壊れることがあるんだ」と痛感しました。当時、土木って政治的なこともあって、イメージが良くなかったんですが、日常生活を支える土木の仕事って良いな、と思いました。


都会勤務を希望するも、面接で「どうせ宮崎帰るんでしょ?」

大石(施工の神様 ライター)

就活は建設コンサルタントが中心?

二宮知子さん

大学生の時は、違う業種も魅力的に感じて、土木以外の業種の会社も受けてみました。

でも、「なんか違うな」という感じがしました。就活を通じて、大学で学んだことを活かせる仕事が良いと考えるようになりました。

大石(施工の神様 ライター)

宮崎に戻りたくて、地元のコンサルに就職したのですか?

二宮知子さん

最初は、宮崎で就職するつもりは全然ありませんでした。むしろ、都会暮らしがしたくて、都会にある小さな会社で働きたいと考えていました。いくつか受けたのですが、宮崎出身の女の子となると、「どうせ結婚したら、宮崎帰るんでしょ?」と言われたこともありました。

当時は土木の仕事が落ち込んでいる時でしたし、人を雇うのに慎重だったのだと思います。ただ、やはり建設コンサルタントの仕事がしたいと思い、宮崎で就職しました。結果的には、地元で就職して良かったと思っています。

大石(施工の神様 ライター)

就職では、女性であることがネックになった?

二宮知子さん

今になってみれば、その会社の気持ちも分かります。会社を潰すわけにはいかないので、社員の採用に慎重になるのは理解できます。地場の会社であれば、なおさらですから…。

建設コンサルで、カタチを決める過程を見たい

大石(施工の神様 ライター)

最終的にコンサル一本に絞ったわけですね?

二宮知子さん

そうです。当時は県庁とか公務員がすごく人気あったのですが、地元調整とか事務処理的な仕事がメインで、図面を描くイメージがありませんでした。

コンサルは、図面を作成にあたって、カタチになるまでの選択が見えるのが良いな、と考えました。

大石(施工の神様 ライター)

「カタチになるまでの選択が見える」とは?

二宮知子さん

例えば、橋を作る場合、数ある選択肢・パターンの中から、なぜこのカタチの橋にしたのかという流れが見えるということですね。カタチを決める過程を見たい、考えたいということです。

大石(施工の神様 ライター)

入社後は、OJTで仕事を覚える感じでしたか?

二宮知子さん

基本的に、業務ごとにチームを組みます。主担当と副担当などがいて、最初はその補助につく感じでしたね。

2年目から主担当をさせてもらえるようになって、設計図をはじめ、打ち合わせ資料なども全部自分で作るようになりました。自分でやるようになって、ドンドン仕事を覚えていった印象がありますね。


自分で設計した現場を見て「まぶしい」「すげー」

大石(施工の神様 ライター)

仕事で泣いちゃったことはありますか?

二宮知子さん

それはあります(笑)。

例えば、発注者にうまく説明できなかったりとか、仕事を任せてもらえなかったりしたことがあって、後々悔しくなってポロリみたいな(笑)。

大石(施工の神様 ライター)

「でかした、自分」みたいな思い出は?

二宮知子さん

自分が設計した現場施工が終わったのを見ると、嬉しいです。

無事故施工であれば特に。自分で設計したモノですが、「まぶしい」「すげー」みたいな感じで(笑)。

例を挙げるなら、砂防堰堤の補修設計ですかね。コンクリートを追加して補強する仕事で、モノが大きかったので、印象に残っています。昔の砂防は、今の基準と全然違うカタチなので、齟齬があるんです。補強するより、新設したほうが安い場合もあります。

あとは、老朽化したJR駅前広場の設計です。皆に安全に快適に使って頂くにはどうしたら良いか、街のシンボルリックな駅にするにはどのような景観が良いか、何気なく使っている駅ですが、配慮することがたくさんあります。人によって、良いと感じるものも違いますから、議論して、皆の様々な意見を集約して、一つの形にする難しさややりがいがありました。

「日常生活を支える」建設コンサルタントのやりがい

大石(施工の神様 ライター)

今後どういう仕事したいですか?

二宮知子さん

今のところは、道路と都市計画を極めたいというところです。

実際のところ、自分に与えられた仕事を一生懸命やるしかないと思っています。どの仕事もやりがいがあって楽しくなると思っているので、特に分野を限る必要はないのかなという気がしています。もちろん、ある程度の専門性は必要なので、技術士の資格は取りたいですね。

大石(施工の神様 ライター)

ドカーンと大きな構造物を作りたいとかは?

二宮知子さん

そういうのも良いんですけど、狭い道を広くしたり、住民に密着しニーズに応えるような仕事の方に面白さを感じます。

日常生活を支えている実感があるところに、建設コンサルの仕事の醍醐味があると考えています。生活道路は当たり前にあるもので、通れなくなって初めてありがたみが分かるところがあります。「当たり前のものを、当たり前に利用できるようにする仕事」にずっと関わっていきたいですね。

「女性だから、男性だから」がなくなるのが一番良い

大石(施工の神様 ライター)

土木施工管理技士の資格もお持ちなんですね。

二宮知子さん

昨年取りました。設計ばかりして、施工の事がわからないのもどうかと思って、勉強したんです。コンクリートの材料のこととか、あまり詳しくないのもありました。

大石(施工の神様 ライター)

建設コンサルの仕事は「長時間労働で悲惨だ」という話も聞きますが?

二宮知子さん

私はそうは思わないです。

土木の仕事は、生活に密着したものなので、消えてなくなることはないと考えています。自分に技術力さえあれば、日本のどこでも、世界のどこでも建設コンサルの仕事はできると思っています。

大石(施工の神様 ライター)

仕事の上で、女性であることを意識することはありますか?

二宮知子さん

「女性だから、男性だから」というのがなくなるのが、一番良いと思いますね。「女性が、女性が」と言うから、逆に変になっていると感じています。

私自身、一技術者として扱ってもらえた時が嬉しいです。技術者を比べるなら、女性というくくりではなく、同じ年齢やキャリアで比べるのが、フェアだと思っています。まあ、ある程度は仕方がないとは思うんですけど…。

大石(施工の神様 ライター)

貴重なご提言、ありがとうございます…。
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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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