関東技術事務所の役割とTEC-FORCE
平成30年7月、西日本一帯に大災害をもたらした豪雨。この災害の復旧活動で活躍しているのは自衛隊だけではなく、国土交通省の関東技術事務所、そしてTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)隊員の存在も忘れてはならない。関東技術事務所には、災害対策や応急復旧用の機械と資材が用意されており、関東技術事務所の職員がTEC-FORCE隊員として中国地方整備局に派遣された。
関東技術事務所は通常、関東地方整備局における「社会資本の整備・維持管理技術の開発・普及促進」、「災害対策支援」「人材育成」を担っており、その一環として、千葉県松戸市の敷地内には「建設技術展示館」を常設している。最近では建設業の担い手確保や、生産性向上の技術展示に力を入れる。
関東技術事務所の役割とTEC-FORCE派遣について、関東技術事務所の鈴木勝事務所長(2018年7月当時)に話を聞いてきた。
国土交通省のTEC-FORCEが豪雨災害でも活躍
千葉県松戸市にある関東技術事務所・本館
――西日本豪雨でも関東技術事務所は活躍されていますが、関東技術事務所の役割について教えてください。
鈴木勝所長(以下、鈴木) 国土交通省の関東技術事務所には、地震や台風などの自然災害に備え、多くの災害対策用の機械や応急復旧用の資材が配備されています。関東技術事務所は、災害対策本部である関東地方整備局本局が被災した場合のバックアップ本部に位置付けられています。
また、首都直下地震などにおける他の地方整備局からの応援TEC-FORCEの受け入れ、派遣先の命令伝達、連絡調整を行うTEC-FORCE進出本部にも位置付けられています。災害発生時には、災害対策本部長の指令に基づく災害対策用機械の出動や、応急復旧用の資機材を搬送するために、災害対策活動に従事する職員や、協定会社の要員に対する訓練を平時から実施しています。
さらに、災害対策活動から得られた教訓を活かし、災害対策用機械の改善や新たな災害対策技術の調査も実施しています。
TEC-FORCE隊員
――関東技術事務所が被災地に派遣しているTEC-FORCEとは?
鈴木 TEC-FORCEは、地震・水害・土砂災害などの大規模な自然災害に備え、迅速に地方公共団体等への支援が行えるよう国土交通省に設置された組織です。被災状況の迅速な把握、被害の拡大の防止、被災地の早期復旧など、災害応急対策に関する技術的な支援を迅速に実施します。
平成30年7月豪雨でも、関東技術事務所は排水ポンプ車や照明車とともに、TEC-FORCE隊員第2班(取材時)を中国地方整備局管内に派遣しました。浸水地域の排水活動を行い、被災地域の支援活動を続けています。地震や豪雨に見舞われやすい日本国民の安全と安心を確保することがTEC-FORCEの役目です。
技術面でも、関東技術事務所では今、災害対策として無人化施工機械運用システムの開発を進めています。地震による道路閉塞、法面崩壊、火山噴火による火砕流、土石流などの災害現場において、無人化施工機械が作業現場へ確実かつ迅速に移動できるようにするための開発です。
――関東技術事務所と「関東維持管理技術センター」の関係は?
鈴木 2013年に国土交通省に「技術センター」が設置され、関東が構造物の維持管理、北陸が雪害、中部が地震・津波、九州が防災・火山を担当し、技術開発を統括することになっています。
関東維持管理技術センターのセンター長は、関東地方整備局企画部長が兼任し、関東技術事務所の所長である私が副センター長を兼務しています。
インフラ老朽化の維持管理に対応すべく、年に1回以上、センター会議を開催しています。
新技術の普及と関東技術事務所の建設技術展示館
――技術・人的面双方で、災害から国土を守る役割を果たしている関東技術事務所ですが、そもそもの設立趣旨は?
鈴木 戦後復興する際に、建設機械が民間に不足していました。そこで政府が建設機械を用意するために、関東技術事務所の前身である「機械整備事務所」を発足しました。当時遅れていた日本の建設工事での機械化施工の普及推進を担っていたわけです。
その後、日本の経済発展に伴い、建設業界の体制や国民ニーズの変化に応じて、国土交通省が管理する河川や道路などの事業の実施に必要な技術の改善や確保と地震や台風などの自然災害や水質事故への対応に取り組んでいます。戦後の「機械整備事務所」の役割や使命からの変更に伴い、昭和46年に「関東技術事務所」に改称したという経緯があります。
現在、53名の職員が従事し、松戸市の関東技術事務所とは別に、災害対策用の資材・機材の設置スペースとして、船橋防災センターも開設しています。
関東技術事務所の沿革
・昭和24年 8月 1日 建設省関東地方建設局 東京機械整備事務所設置(東京都墨田区吾嬬町)
・昭和39年 7月 1日 船橋工作事務所を統合して、工作課(船橋市)とし、東京機械事務所に名称変更
・昭和41年 4月 1日 関東地方建設局企画室材料試験係を統合し、東京材料試験出張所(品川区)を設置・東京技術事務所に名称変更
・昭和46年10月 1日 関東技術事務所に名称変更(東京材料試験出張所を含め千葉県松戸市初富飛地に移転)
・昭和47年 5月10日 東京材料試験出張所を廃止、材料試験課を設置
・昭和49年4月10日 水質試験課を設置
・昭和60年 4月 8日 庶務課を総務課に名称変更
・昭和61年 4月 7日 経理課を設置
・昭和62年 5月23日 技術情報課を設置
・平成 4年 4月13日 工作課(船橋)を防災技術課と改称
・平成 7年 3月31日 防災技術課(仮称・船橋防災センター)新庁舎完成
・平成 9年 3月18日 船橋防災センターを開所
・平成 8年 5月11日 工務課、材料試験課、水質試験課を廃止
・平成11年11月17日 (建設技術展示館開館)
・平成12年 1月29日 事務所所在地が松戸市の住所表示整備事業により、千葉県松戸市五香西6-12-1に住所表示変更
・平成13年 1月 6日 国土交通省関東地方整備局関東技術事務所に改組
・平成18年 4月 1日 調査試験課を廃止、品質調査課を設置
・平成20年 4月 1日 機械課、技術情報課を廃止、施工調査課を設置
——災害対策以外の関東技術事務所の役割は?
鈴木 関東技術事務所としては、民間企業に安全かつ低コストで、品質が高い新技術を次々と開発して欲しいという願いがあります。そのためにNETIS[ネティス](国土交通省の新技術情報提供システム)では、公共事業が抱える様々な課題を解決しうる民間企業の新技術を募集し、データベース化しています。建設技術のイノベーションを続けていくために、国直轄の公共工事で新技術を導入した企業には、総合評価で工事成績評点を加点するケースもあります。
また、関東地方整備局では、新技術の普及促進と建設事業の啓発を目的に、平成11年11月から「建設技術展示館」を開設しています。建設技術展示館は、技術者だけでなく、どなたにも「見る」「触れる」「体験して学べる」場として活用できるようになっています。
関東技術事務所は今年の夏に「夏休み親子防災教室2018」、「夏休み子供体験教室2018」を開催し、地元千葉県の親子さんを中心に双方合わせ約1,000人の来場を見込んでいます。ミニショベルの操作体験や、高所作業車の試乗、土木工事のロボット展など、出展者が手弁当で行います。千葉の地元のみなさんに、関東技術事務所の取り組みや建設技術の魅力を知ってもらうことも関東技術事務所の大事な活動です。
リニューアルオープンした建設技術展示館
建設技術展示館
――今年5月に建設技術展示館は、リニューアルオープンしましたが、その狙いは?
鈴木 従来は建設の新技術に関する展示でしたが、今回は建設業の「担い手確保」への取り組みに関する展示(19者)と、「生産性向上(i-Construction)」に視点を向けた展示(48者)に展示内容をリニューアルしました。建設業界の担い手不足は、労働人口の減少と高齢化、建設投資額の減少から危機的な状況です。それをサポートする効率的な施工方法として「生産性向上(i-Construction)」を推進しています。
企業だけでなく自治体、大学などの取り組みも展示していますが、ここ最近は、ICT施工の流れもあって、建設機械メーカー、コンピューター関連の会社も出展するようになりました。アピールしたいという気運が強まっているのでしょう。展示内容については、審査委員会を設置し、ジャッジしています。
展示一覧【生産性向上が実現可能となる、ICT施工技術と関連技術】
■ ICT施工システム
- 一般社団法人日本測量機器工業会 「i-Constructionの生産性向上のための技術」
- 株式会社安藤・間 「i-Constructionを支えるICT施工技術」
- 株式会社NIPPO 「N-Pnext」
- 前田道路株式会社 「かんたん情報化施工」
- 日本道路株式会社 「ICT技術を用いた生産性向上に関する技術」
- 西尾レントオール株式会社 「ICT施工機械及びその遠隔操作技術」
■ 測量技術
- 株式会社ジェノバ 「高密度ネットワーク型RTK-GNSS配信サービス」
- 株式会社トプコンソキアポジショニングジャパン 「3次元測量システム」
■ 設計システム
- 福井コンピュータ株式会社 「3次元点群処理ソフトTREND-POINT」「3D-CADシステムTREND-CORE」
■ 計測技術
- 東亜建設工業株式会社 「水中可視化システムBeluga-AR」「自律航行型測深システム 自動ベルーガ」
- ユナイト株式会社 「アスファルト舗装密度測定器 ペイプトラッカー」
- 株式会社マルイ 「キャスポル」
■ 施工機械
- 日立建機日本株式会社 「ソリューションリンケージ」
- 大成建設株式会社 「建設生産システムの省力化・効率化」
- 株式会社カナモト 「自動追尾型トータルステーションを利用した機械施工の効率化」
- 日本キャタピラー合同会社 「日本キャタピラーのアップグレードソリューション」
- ユナイト株式会社 「舗装工事におけるマシンコントロールシステム」
■ 管理システム
- 五洋建設株式会社/日精株式会社/ワム・システム・デザイン株式会社 「Color Gate System~動作管理システム~」
- 株式会社レント 「バッテリー再生技術を用いた保有蓄電池の運用期限管理」
- 株式会社アクティオ 「プレミアムモジュールファン 超高速凝集沈殿装置」
- 五洋建設株式会社/古野電気株式会社 「ETCによる車両事故防止&運行管理システム」
■ 施工技術
- マルチレベル工法・マルチ搬送(横引)工法研究会 「マルチレベル工法・マルチ搬送(横引)工法」
- オープンシールド協会 「オープンシールド工法」
- 株式会社ガイアート 「延長床板システムプレキャスト工法」
- ゴトウコンクリート株式会社 「都市型側溝 シェイプアップスリスト」
- パワーレンダー工法研究会 「パワーレンダー工法」
- 株式会社大阪防水建設社 「OB-SHARE」
- CDM研究会 「CDM工法におけるICT活用技術」
- ケミカルグラウト株式会社 「ICECRETE工法」
- 株式会社技研製作所 「PPTS自動運転」
- ライト工業株式会社 「3D-ViMaシステム」
■ 維持管理技術
- 東亜グラウト工業株式会社 「スマートボール工法」
- 前田工繊株式会社 「ICT技術と連携する補強土壁」
- 西日本高速道路エンジニアリング四国株式会社 「システム(赤外線トータルサポートシステム)」「 イーグル(道路性状測定車)」
- 大林道路株式会社 「RIM(マルチ測定車)」
- 一般社団法人IPH工法協会 「IPH工法(内圧充填接合補強)」
- ゴトウコンクリート株式会社 「ディンプル」
- W2R工法協会 「W2R工法」
■ 災害対応
- 建設無人化施工協会・建設無線協会 「無人化施工技術」
- 次世代無人化施工技術研究組合 「無人化施工に関する新技術の研究開発」
- 株式会社カナモト 「人型ロボットによる建設機械操縦効率化」
建設技術展示館 生産性向上に関する技術展示のコーナー
――ICT施工の普及活動は、展示以外でも取り組んでいますか?
鈴木 たとえば、ICT活用工事を行う測量者・施工管理者・現場代理人を対象に、「i-Construction実技講習会」を開催しています。7月19日には千葉県佐倉市の西尾レントオール東日本テクノヤードで実施しました。
西尾レントオールさんは建設技術展示館に出展している関係もあってご協力いただいております。大手ゼネコンよりも中小建設企業の参加が多く、ICT施工に対する関心が高まっていると実感しています。今後、埼玉県など他県でも開催する予定で、施工業者の皆さんが建設機械に触れられる機会を増やしていきたいと考えています。
――日本の先進的な建設技術には海外からの注目も集まっているそうですね。
鈴木 年に2〜3回ほど、海外技術者向けに、国土交通省や独立行政法人国際協力機構(JICA)が国際協力の促進の一面として、建設技術展示館を案内しています。
――担い手確保における関東技術事務所の役割は?
鈴木 関東技術事務所は、一般向けにも建設技術展示館を開放し、イベントを開催するなど、実際に手を動かす機会を増やすことで興味を持たせ、技術や知識の習得を得ていただけるように心掛けています。
もちろん、自治体や施工業者の方々にも、建設技術展示館を研修用に開放し、講習会を開催できるスペースも用意しています。自治体に限らず、団体での見学であれば希望により建設技術展示館の出展企業から直接、新技術についての説明を受けることも可能です。
その他にも、関東技術事務所の構内には、施工プロセスモデルやさまざまな施工を施した舗装など、実習機能もあります。今年度は、不具合堤防も構内に設置し、より実践的な研修を行えるようになっています。
――全国の建設技術者や現場監督にも、建設技術展示館に一度は来ていただきたいですね。
鈴木 建設技術展示館には情報化施工やICT施工に関わる情報や展示物が多いので、ぜひ監督さんには新技術を体験し、ご覧になっていただきたいと思います。それを現場で活用し、生産性向上にお役に立てていただければ、われわれ関東技術事務所としても嬉しいです。