北海道地震で傾いた家を直すための参考意見

写真は「佐藤英道 日々奔走!」(https://blog.goo.ne.jp/satohidemichi)より

北海道地震で傾いた家を直すための参考意見

東日本大震災の反省から、北海道地震の液状化を考える

北海道地震で被災に逢われた皆様と救助活動されている方にお見舞い申し上げます。自分は自分なりに出来ることをと考えて、取り急ぎ書いています。

7年半前の3月29日に浦安市災害対策本部にご招聘いただいた自分は、当時の浦安市の松崎秀樹市長にこう言われました。

「岡本さん。浦安のライフラインは4月15日には全て仮復旧します。そうすると次は市民から“傾いた家をどうすれば直せますか?”と質問が来ます。その時に、判らないですとは言えません。そのため家の傾きを直す専門業者に連絡をとってます。」

今振り返ると、自分はその時に充分な役割りを果たせませんでした。もちろん多くの専門家も同様だったと思います。

その経験をもとに東日本大震災の時の反省や、にわか業者による施工の酷さによる2次被害を見てきた者として、今年4月に「曳家が語る 家の傾きを直す 沈下修正 ホントの話」(主婦と生活社)という本を出版させていただきました。

今のところ、液状化で傾いた家を修復するための唯一のハウツー本です。建築士さんの購入が多かったです。

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では、今回の北海道地震での液状化による家の傾きについて、私の意見を書いてみます。


北海道地震の液状化とアンダーピニング工法

北海道の拡い範囲は「ピート層」と呼ばれる含水率の高い土質になります。すると、高額ではあるものの、もっとも修復後の安定性が高いと言われている「アンダーピニング工法」を選択する場合があると考えられます。その際の注意点を書きます。

ピート層内の鋼管は腐食しやすい傾向が考えられるので、「防錆処理」や「腐食しろ」分を考慮した肉厚にするなどの対策をしなくてはなりません。しかし、底板下での圧入作業をする側としては、抵抗を少なくして、なるだけ薄いものを入れたいと考えるので、耐久性に問題が生じる場合があります。また、ピート層は圧縮性が高く、杭頭付近の腐食が生じやすいので、特に十分な対策を講ずる必要性があります。

こうした腐食の問題を解決するために鋼管杭ではなく、コンクリート杭を使用する場合もあります。ただし、これは駐車場に置いてある輪止めのようなコンクリートを「積み重ねてゆく」工法ですので「挫屈」(折れ曲がる)の可能性が高いという難点があります。コンクリート杭によるアンダーピニングの場合は、挫屈しないようにサイコロ状のコンクリートの真ん中に穴を開けてそこに鉄筋を通す工法もあるようです。

アンダーピニング工法は沈下修正工事の中で唯一、岩盤層もしくは中間支持層と呼ばれるN値(地盤の固さを示す数字)が充分だと考えられる位置から「反力」を採ることで家を持ち揚げます。手間もかかりますので、浦安市で行われていた工事でも1200万円前後の工事費が多かったです。

耐圧板工法と土台揚げ工法

耐圧板工法は一般の方からすると「基礎ごと」持ち揚げるわけですから、外から見た目には、ほとんどアンダーピニング工法と同じように見えます。

しかし、この工法は、深く杭を打つことを諦めて、底板から1m程度の深さのところに厚さ16mm 60cm×60cm程度の鉄板を敷いて、地盤との設置面を増やして反力を獲って、その上にジャッキを掛けて持ち揚げるものです。

耐圧板工法

ほとんどの木造2階建ての重量であれば、地表から2m以内で反力は獲れますので、木造住宅で「耐圧板工法」を選択することはありだと思います。

しかし、上記2つの工法(アンダーピニング工法と耐圧板工法)に関しては、北海道の事情に照らして、もう一つ懸念されることがあります。

それは「地下水位が高い」ことです。地下水位が高いとトンネルを掘る作業する際に、排水工事費用が大きくなります。茨城県神栖地区では、排水手間だけで150万円ほどかかっていたお家も見ました。また排水は地下水位を下げてしまいますので、近隣の住宅に影響を及ぼすリスクもあります。

その点、「土台揚げ工法」であれば、地下水位の問題もありません。浦安市入船地区では「布基礎」のお家が多かったことと、この水位の問題から「土台揚げ」工法が多く選ばれました。

土台揚げ

しかし、土台揚げは地盤改良を伴う工事ではありませんので、地盤が安定していること、再沈下が起こる可能性があることを認識しておいていただなくてはなりません。それでも1棟あたり300万円前後で沈下修正工事が出来ることから選ばれていました。


再沈下の起きない沈下修正工法?

はっきり言って、再沈下の起きない沈下修正工法なんてものは存在しません。再沈下の起きる可能性を減らす工法はあると考えてください。

「土台揚げ工法」は、将来、再沈下が起きた時に「もう1度」依頼できる金額であるところが魅力だと思います。

土台揚げなら上部構造の損傷を直せる

また上の写真は熊本地震のときの画像ですが、曳家による土台揚げであれば、上部構造の損傷を直すことも出来ます。画像のようにホゾが抜けた柱や土台を引き締めることも出来ますし。家起こし(軸組補正工事)も可能です。液状化以外の被災住宅では有効だと言えます。

土台揚げであれば上部構造の変形も直せる

薬液注入工法と発泡ウレタン工法の沈下修正

「薬液注入工法」は、地盤改良と同時に沈下修正を行える優れた工法です。

薬液注入工法

ただし、薬液が地中で近隣のお家に流れてしまって関係ないお家を傾かせてしまう。裏のお家の井戸水が枯れてしまったなどの事故もありますので、近接した住宅が無いことを前提に考える必要があります。

また北海道の場合、厳冬期はコンクリートや硬化剤が固化できないでしょうから、工事は暖かな時期のみとなると思います。

「発泡ウレタン工法」の場合は、あまり土質等に関係ありませんので、工場やホームセンターなどの、沈下修正工事には適していると思います。

・・・最後に当り前ですが、どの工法もきちんと技術力のある職人が誠実に施工しなくては良い工事になりません。浦安の工事の時は工法名と金額だけで選択されていたように感じます。

この原稿が少しだけでも誰かの役に立ちますことを願います。

※この記事は曳家岡本ブログを一部編集したものです。

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曳家岡本の二代目。日本屈指の曳家職人。テレビ出演は「真相報道バンキシャ」「心ゆさぶれ先輩rock you」「ウェークアップぷらす」など多数。漫画化もされており、雑誌「週刊漫画Times」で連載中の「解体屋ゲン」にもセミレギュラーで実名登場。
自分では「日本一小心者な曳家」だと思っているが、ある建築家からは「蚤の心臓」と呼ばれている。しかし、自分が凄いのではなく、かつて昭和南海大地震や伊勢湾台風から復興するための技術として栄えた高知県(土佐派の曳家)の技術が自分の身体に残っているだけである。
東日本大震災の直後に千葉県浦安市対策本部の招聘されて上京。近年は全国の社寺・古民家修復を中心に手掛けている。
曳家岡本HP ⇒ http://hikiyaokamoto.com
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