インフラメンテナンス時代の救世主になるか「moogle evo」
橋梁やトンネルなどのインフラ点検をサポートする狭小空間ロボット「moogle evo(モーグル エヴォ)」を大和ハウス工業が開発・販売した。
「ハウスメーカーがインフラ点検に進出?」と不思議に思う方も多いかもしれないが、「moogle evo(モーグル エヴォ)」は今後、インフラメンテナンス時代の救世主になるかもしれない。
国土交通省の資料によると、橋長2m以上の橋約70万のうち30万橋が建設年度不明橋梁。建設年度が判明している40万橋に限って言えば、2023年3月に約43%、2033年3月に約67%が建設後50年を経過する。
トンネル約1万本に関しても、建設後50年を経過するトンネルは2023年3月には約34%、2033年3月には約50%になる。
こうした背景から、社会インフラの維持管理・更新費の将来推計は2033年度に、約4.6~5.5兆円の市場規模となる。その入り口である点検業務の重要性は増すばかりだ。
橋梁やトンネルなどのインフラ点検をサポートするロボット「モーグル エヴォ」の開発の経緯について、大和ハウス工業営業本部ヒューマン・ケア事業推進部ロボット事業推進室の大塚弘子さんに聞いた。
大和ハウス工業 ロボット事業推進室の大塚弘子さん
狭小空間点検ロボット「mooogle evo」の開発背景
——住宅メーカーとして有名な大和ハウス工業が、橋梁やトンネルも点検できるようなロボットの販売を開始したのは「意外」という声が多いのでは?
大塚 実はこの「moogle evo(モーグル エヴォ)」というのは、最初は住宅の床下を専門として点検するロボットとして誕生した「mooogle(モーグル)」を改良したロボットです。
——「mooogle(モーグル)」とは?
大塚 「moogle(モーグル) 」が誕生したきっかけは、大和ハウス工業の総合技術研究所が、2006年に「平成18年度サービスロボット市場創出支援事業(経済産業省)」の補助金で、研究開発を進めたのがはじまりです。
その後、大学やロボットメーカーと共同で試行錯誤を繰り返し、量産機をつくることを意識しました。2011年に住宅床下点検ロボット「moogle(モーグル)」 が誕生し、まずは自社で導入、運用を開始しました。自社の現場運用のノウハウを蓄積した後、2012年10月から、狭小空間点検ロボット「moogle(モーグル)」 として、外部向けに販売を開始しました。
そして今回、さらにロボット技術の革新を進めて、従来の狭小空間点検ロボット「moogle(モーグル)」の機能に、インフラ点検に有効な新機能を搭載した狭小空間点検ロボット「moogle evo(モーグル エヴォ)」を発売しました。
「moogle evo(モーグル エヴォ)」の各部とサイズ
——「moogle evo(モーグル エヴォ)」の前進である「moogle(モーグル)」の外販実績は?
大塚 戸建住宅の床下空間を点検することを主な目的とし、住宅メーカー、工務店、リフォーム会社、シロアリ業者、不動産業者などに向けて、約300台を供給してきました。
自社の運用事例としては、大和ハウスリフォームが住宅の定期点検および診断に使用しています。また、他の導入企業の活用事例としては、竣工検査やアフター対応、耐震診断、住まいのイベントやセミナーなどがあります。
今後は、モーグルのスペック向上によって、インフラ業界なども含め、幅広く活用の場を増やしていきたいと考えています。
「moogle evo (モーグル エヴォ)」を操作するロボット事業推進室の大塚さん
——「moogle(モーグル)」の導入効果は?
大塚 モーグルを導入した点検員のアンケートによると、点検時間が減ったと感じる方が多く、その理由としては、「作業効率が良くなった」「点検精度が上がった」などのご意見をいただいています。また、使い始めてからの良い変化として、負担を軽減できたと感じている方は多いです。
以前からモーグル開発の目的として、「点検員の負担軽減」「お客様(家のオーナー)の安心感を得るツール」「導入会社への訴求ツール(他社との差別化)」などが、背景にあります。
狭小空間を点検するモーグルは、コントローラーでモーグル本体を遠隔操作し、15㎝の段差を乗越えられるロボットです。また、モーグルのカメラ機能によって、状況をパソコンでリアルタイムに確認することができるため、点検員とお客様とのコミュニケーションが向上したという声も多いです。
クラック幅0.1㎜まで確認 狭小空間点検ロボット
——そして、床下点検ロボットがインフラ点検用のロボット「moogle evo(モーグル エヴォ)」に進化したわけですが、その経緯は?
大塚 モーグルを活用されているお客様から、社会インフラやまちづくりの点検に応用できないかというお声をいただきました。そこで、お客様の要望を取り入れつつ、改良したのが「moogle evo(モーグル エヴォ)」です。 箱桁橋梁やトンネル、共同溝、用水路などでの効率的なインフラ点検をサポートします。
国土交通省道路局の橋梁点検要領では、供用開始後2年以内に初回の定期点検を行い、以降5年に1回の頻度で点検するとしています。その点検は近接目視で行うことになっていますが、点検する技術者も人手不足ですので「moogle evo(モーグル エヴォ)」の出番も出てくるのではと考えています。
——「moogle evo(モーグル エヴォ)」開発で力を入れた点は?
大塚 今回の改良点の中では、特にクラックスケールの機能向上を意識しました。従来のクラックスケールを0.3㎜から0.1㎜を可能としました。また、クラック自動判定機能に関しても、検証を繰り返して実現しました。クラック幅の自動判定機能では、クラック幅に応じて自動で青、黄、赤に色分け表示を可能にしています。
また、バッテリー稼動時間を約2倍に改良し、コントローラーの無線化や、温湿度センサ内蔵、本体LANポート(有線可能)内蔵まで、スペックを向上させました。
——細かいクラックも認識できる?
大塚 従来は0.3mmクラックまで確認できたのに対し、解像度を4倍に向上させ、国土交通省「橋梁定期点検要領」を満たす、0.1mmクラックまで調査できるようにしています。
ロボット事業推進室の役割
——インフラメンテナンス時代が到来し、点検者が人手不足な状況を打開できそうでしょうか?
大塚 「moogle evo(モーグル エヴォ)」を現場で活用いただくことで、負担軽減や点検精度の向上をはかり、より長く技術者が現場で活躍されることを期待しています。また、男女関わらず様々な年代の方にロボットを活用いただき、活躍の場の幅を広げていきたいと考えています。
——今後、「moogle evo(モーグル エヴォ)」の機能も進化していく?
大塚 導入現場の幅をひろげ、現場のノウハウをさらに蓄積していきたいと考えています。進化するためには、お客様の声や現場のノウハウが大切です。そういったノウハウを開発にフィードバックし、役に立てる機能やロボットを検討していきたいと考えています。
——ますます実用的な技術開発が進むと期待しています。ところで大塚さんが所属する「ロボット事業推進室」の役割は何ですか?
大塚 ロボット事業推進室は、ロボットの活用を通じて、少子高齢化に伴う問題解決や女性の社会進出を促す目的で創設されました。
現在は、主に「働き方改革」を背景とした現場支援をテーマに、現場の課題解決をするための技術開発を含めた提案力を強化しています。