サブコンはいかにしてデジタル化を進めるべきか
前回は、『ゼネコンの「デジタル化戦略」に関する提言』というタイトルで、ゼネコンがどのようにデジタル化を進めるべきかについて整理した。
そこで、今回はサブコンが取り組むべき施策の提言と題して、「『誰』が『何』を行うのか」問題に関して検討していきたい。
ここでの読者は当然サブコンを意識しているが、サブコンから見た発注者であるゼネコンやサブコンの下請け企業の方にも参照していただきたい。前者は前回の記事では紙面の都合上、言及することができなかった視点が含まれているからであり、後者については発注者としてのサブコンがどのようにデジタル化を進めるべきかを理解することは有意義だと考えるからである。
まず、ここでのサブコンの定義は元請けから工事を受注し、下請け企業を利用して施工業務を行う形態を有する企業のことを指すものとする。一般にサブコンは電気工事専門、空調衛星工事専門など専門分野が異なり、よって元請け企業は通常ひとつの工事を分割して複数のサブコンに発注することになる。
サブコンの最大の強みはその専門性にある。サブコンはゼネコンなどと同様、設計、施工を担うが特定分野の専門性にかけては元請けよりも上回る。また、このような背景から全国各地の専門施工会社(今回の分類では地場建設業者に分類される企業)とのネットワークも広く、大手企業ほど全国に企業間ネットワークを有する。
以上の前提条件を踏まえた上で、サブコンが取り組むべき施策として以下の2つをあげる。
- 指示・連絡体制のデジタル化
- 専門領域におけるデジタル化技術の採用
指示・連絡体制のデジタル化
サブコンは専門性を除くと、事業形態はゼネコンと類似しているためデジタル化施策においてはゼネコンへの提言と酷似する部分もある。
しかし、一方でサブコンはゼネコンから見ると下請け企業であるから、工事全体における生産プロセスに関する施策を取る必要がない。よって、サブコンが取り組むべき施策は自社と元請け、自社と下請け企業をいかに連携させて生産性を高めることができるかという課題に取り組むことになる。
ゼネコンが取り組むべき施策の提言でも追究した通り、元請けであるゼネコンは工事全般の生産プロセスの最適化を担うべきである。そのためにはゼネコンが構築したデジタルプラットフォームにサブコンを引き込み、ゼネコン、サブコン間での指示・連絡はプラットフォームの間で行われることが理想的だ。
デジタルガバナンスの締結
そこで大事になるのがデジタルガバナンスの締結である。
デジタルガバナンス(以下、単にガバナンスという)とは、デジタル技術を効率的に利用するためのルールのことだ。連絡にはどのような手段を利用するのか、書類はどこに保存すれば良いのか、どこまで情報を開示してもらえるのかといった基本的なことからルールを話し合い、ガバナンスを締結する。
これは機密情報の取り扱いや、情報漏洩防止などの観点からも必要である。ガバナンスの締結は自社と他社とで環境が大きく異なることから、一概に内容を列挙することはできない。そのため、初期段階からデジタル化ビジョンを明確にし、互いの状況を話し合いながら合意形成をしていく。
また、ガバナンス締結の上で考慮すべき点として、ソフトウェアの種類やライセンス費用の負担額などがある。特に、現在では建設業向けソフトウェア市場は発展の一途を辿っているので、片方がソフトウェアを持っていて、片方が持っていないなどということは今後頻繁に起こることが予想される。
このような場合、ソフトウェアの使用料、すなわちライセンス費用はどのように配分するのが適当なのかは、事前に協議しておきたいポイントである。ある日突然、多額のライセンス費用を元請けから請求されるといったことがないようにしておきたい。
コミュニケーションプラットフォームの構築
また、サブコンは下請け企業との連絡体制も強化しておかなければいけない。当然のことながら、下請け間との連絡もゼネコンのデジタルプラットフォーム上で行うことができれば理想的である。私の視座であれば当然そのことも留意してプラットフォームを構築するが、実際にどのようなものを利用するかは、サブコンは自分の意思で決定できないという弱点がある。
さらに、サブコンの下請け企業は施工業者である可能性が高い。すなわち屋外作業が多く、パソコンを利用する機会が少ない。恐らくiPadなど大きなデバイスを日常的に持ち歩くこともない(普及率の程はわからないが、配管工がiPadを持って現場で作業をする光景は想像し難い)。
もしゼネコンが構築したデジタルプラットフォームが施工業者にとって使い難いものであるなら、自分たちで構築しよう。ちなみにこの点もガバナンス締結時に確認しておきたい点でもある。
下請け企業と念密な連携を取るのであれば、どのような施策を取るべきであろうか。こういうことを考える場合、まず相手がどのような人物であるか(特定の個人のことではなく、全体としてどういうタイプなのか)を分析する。これをペルソナ分析と呼ぶ(ここでは既にある程度のペルソナ分析を終えている)。
つまり屋外作業が多く、パソコンやiPadなどは持っていない。恐らく、主な連絡手段は電話であろう。このような状況を把握した上で適切な施策を考えていく。
まず、図面はどのように見せたら良いのか。紙という手段が手っ取り早そうだが、作業員1人が現場を隅から隅まで見る必要があるだろうか。むしろ、現場の1箇所を様々な角度から見ることができる方がよっぽど効果的ではないだろうか。
それならばiPadのように大きな画面は必要ない。スマートフォンの画面でも十分対応できる。さらに片手で図面を確認できることは、作業員の安全にとってもいい。またスマートフォンであれば図面の枚数を気にする必要はない。
また、作業指示書などの書類は紙や紙のようなエクセルよりも、スマートフォンのスクロールのように縦長である方が便利だ。それならばいっそシステム化をしても良いかもしれない(ちなみにこのような発想は私でなくても考えつくので既にアプリケーションが市販されている)。
さらに、これまでの連絡手段が電話しかなかったことも考慮すべきだ。というのも、現場作業では細かなところが分からないといったことはしょっちゅうある。また、上述したような作業指示書などと違い、このような場合のコミュニケーションはカジュアルなものだ。
このような場合、電話やメールよりLINEのようなチャットと呼ばれるコミュニケーションツールの方が作業生産性を高めることが知られている。
チャットによるコミュニケーションのほうが作業生産性は向上する
だが、実際にLINEを仕事で使えば(実際に使っている人も中にはいると思うのだが)、これは大抵企業のITポリシーに即していない。なぜなら機密保全や監視統制が効かないからだ。LINEも当然それを知っていて企業向けのLINE WORKSというサービスを提供している。また同種のアプリケーションとしてFacebookはWorkplace、MicrosoftはMicrosoft Teamというサービスをそれぞれ提供している。
重要なことはこれらのサービスを導入することではなく、以下に下請けを引き込んで利用させるかということである。これは上述の元請けとのガバナンス締結と全く同じ構図である。つまり、サブコンは元請けのプラットフォームを最大限利用しながら、自社においても同様のサービスを構築する必要が出てくるわけである。
ただし本来ならばプラットフォームが二重、三重に存在することは良くない。現場に混乱が生じるからである。この問題に対処するため、次のテーマである専門領域におけるデジタル化技術の採用手法としてリーンスタートアップについて触れる。
これはデジタル化技術といった高度な技術の適用からチャットアプリの適用まで、様々なケースで応用が可能な手法だ。
専門領域におけるデジタル化技術の採用
i-Constrctionについて触れる上で、サブコンほど難易度が高い企業はないかもしれない。
これはi-Construction以外にも言えることだが、専門性が高くなればなるほど市場は小さくなる。例えば配管検査を行うドローンを専門に開発している企業はないし(もちろん、さまざまなロボットやドローンを開発している企業が配管検査用のドローンを開発していることはあるかもしれないが)、ケーブル導管のどれが所定の場所の配管なのかを特定するような機器もない。
ただし市場が小さいということは、一方で探しやすいというメリットもある。日本には421万社の企業が存在し、その99.7%が中小企業である。中小企業はニッチ市場に狙いを定め、製品開発を日々行なっていることを考えれば、専門性の高いサブコン向けのi-Construction市場に製品を投入してくる企業がいつ出てきてもおかしくない。
中小企業の問題点は製品を紹介する機会が少ないことにあるが、この点は国交省が行なっている企業マッチングイベントなどを活用することで解消できそうだ(私も何度か参加したことがあるが、水中3Dスキャナー付き探査ドローンがどのような分野でどのように役に立つのか見当も付かなかった。このような点は専門性の高いサブコンのエンジニアの方が良いアイデアが浮かびそうだ)。
さて、仮に専門性が高く、かつ有望そうな技術が発明されたとしよう。だが、需要が低い割に製品価格は高いとする(規模の経済が働かない場合は多くがこれに当てはまる)。この場合、ゼネコンと同じようにやはり現場単位で調達することは難しい。そこで全社的に購買することを検討するわけだが、ゼネコンと異なるのは専門性の高さだ。
製品が専門性の高い分野に向けたニッチな製品であればあるほど、汎用性が効かない。つまり全部の現場で利用するほどではないし、かといって全く使わないわけでもないといった製品だ。
このような製品は一見購入するに値しないように思えるが、運用の仕方によって自社にとって強力な強みとなるケースもある。そこで、ここでリーンスタートアップという手法を紹介したい。
シリコンバレーの「リーンスタートアップ」
リーンスタートアップとは、シリコンバレーで考案された起業手法だ。シリコンバレーといえば、最先端企業が軒並み誕生した地域として知られている。しかし、実際にはシリコンバレーで成功する確率は1,000社のうち3社程度である。
この低い成功率を改善するために考案されたのがリーンスタートアップという考え方だ。専門の本も多数売られているので、より深く知りたいという方はそちらを読まれると良い。
ここでは簡単にエッセンスだけを紹介する。リーンスタートアップ(以下、リーンと呼ぶ。ちなみにリーンは「無駄がない」という意味)の手法の最大の特徴は、「お金をかけずに、ひたすら改善を続ける」ということだ。特に、お金をかけないという考え方は、デジタル企業が多いシリコンバレーならではの考え方である。
リーンに行うためには、製品より先にサービスモデルを構築する。サービスモデルと言われるとわかりにくいと思うかもしれないが、顧客に対して何を提供するかを考えるということである。
サービスモデルが決定したら、そのサービスを実現するための製品を作ったり、買ったりする。ここから通常のリーン手法と異なるのだが、製品を購買する場合はなるべく安価に、あるいは無料で手に入れるのだ。
例えば、先程説明した、あまり使わないがあれば便利な専門機器をイメージしよう。この機器を購入するとなれば多額の投資が必要になる。普通、こういう場合に第一に考えるのはレンタルするということだろう。しかし、リーンな考え方をすれば、レンタルよりもまず無料で借りることができないかと考える。
そもそも専門性の高い、高度な機器という製品はそれ自体に改善の余地がある。製品を売るのであれば汎用性が高いほうが市場を拡大できるし、高度な専門性も改良すれば誰でも使えるものになるはずだ。それが実現できないのはメーカーにその手の智見が不足しているからである。
よって、まず考えるべきは、そのメーカーと提携することができないかということである。そして試用させてもらう代わりに、改善点やデータなどを提供する。メーカーはこれらの情報に基づき改良を重ね、同時に試用した側は製品を使ったサービスモデルの改善を行う。
大切なことは、これを一度ではなく何度も何度も繰り返すことである。しかもなるべく早く、利用、課題、改善を繰り返す。こうすることで両社とも新たな製品やサービスを作ることができ、成長することができる。
また、サブコンにとっても機材の管理が重要になるのだが、これはゼネコンのデジタル戦略に向けた提言でまとめているのでここでは割愛する。
最も大切なのは、発注者・下請けとの連携力
ゼネコンにとってもサブコンにとっても、大切なことはその前後にあるお客様と下請け企業との連携力である。これは製造業においても同じなのだが、製造業は工場という固定された空間、作業者への作業の割り当て、製造ラインが明確であるため、連携力を発揮しやすい。
その点、建設業は作業空間が限定されておらず、人も流動的で、製造ラインが確立されていない。だからこそ、生産性を上げるためには徹底的な作業者目線、お客様目線が求められるのである。
今回はサブコンへの提言としてお伝えしたが、上述したことはゼネコン、サブコン、地場建設会社のカテゴリに左右されない。ただ、お客様と下請けという立場の違いから施策が異なるだけである。