トータルステーションを前にする中本璃音さん。将来は土木技術職を目指している

女子高生の「土木ポエム」が金賞!「今日も明日も測量します」「気泡は言うことを聞きません」

サイエンスコンクール金賞は”ドボジョの卵”

「昨日も今日も測量します 明日も明後日も測量します」

こう詠うのは、熊本県立天草工業高校で土木を学ぶ2年生の中本璃音さん。2018年、旺文社が開催した「第62回全国学芸サイエンスコンクール」の詩部門・高校生の部で見事「金賞」を受賞した。

測量大会に向けた実習に一生懸命取り組む様子をにこやかに表現しつつも、土木測量の難しさがちりばめられた作品だ。

璃音さんはポエムだけでなく、「日本列島リニア計画」をテーマとした2018年の「日本大学全国高等学校土木設計競技」でも入賞を果たしている。

可愛らしい”ドボジョの卵”の活動と、彼女が紡ぐユニークな詩を紹介したい。


トータルステーションって難しい。でも「測量頑張ります」

璃音さんが通う天草工業高校は、熊本県の中心部から西へ車で約2時間進んだ、絶景の海と自然に包まれた天草市にある。

隣接するループ式の天草瀬戸大橋を渡っていくと、まるで海中に浮かぶ大型客船のように校舎がそびえ立つ。

大型客船を思わせる熊本県立天草工業高校。右端に見えるのが天草瀬戸大橋

1963年(昭和38年)4月に開校し、現在、約600人の生徒たちが土木科をはじめ機械科、電気科、情報技術科の各コースで、社会に貢献できる技術者を目指し専門教科を学んでいる。

土木科では、道路やトンネル、橋など、社会資本の整備に必要な測量・基礎力学・施工やパソコンの操作などを学習する。

トータルステーションのポエム「気泡は言うことを聞きません」

璃音さんは、県内の工業高校10校が集う「ものづくりコンテスト」に出場するため、授業と並行して土木測量の練習に励んでいた。

コンクールで金賞を受賞した作品は、その一コマを詠んだものだ。

先生からトータルステーションの操作の指導を受ける璃音さん。水平器を調整しようとすると、「気泡は言うことを聞きません」「気泡の行き先が分かりません」「求心がズレています」と、思い通りにならない悲しい気持ちをあらわにする。

しかし、「昨日も今日も測量します。明日も明後日も測量します」と前を向く。

やっと据え付けが終わり、トータルステーションを覗くと、今度は「ミラーが見つかりません」「米粒より小さいミラーが見つかるわけがありません」と嘆く。

友達が無線でダメ出しし、あたふたする様子を先生が笑っている。それでも「今日も測量頑張ります」と結ぶ。

測量の難しさに苦悩しつつも、ひたむきに頑張る姿が目に浮かぶ。土木に携わる者にとって、何とも頼もしく、心に響く詩だ。

高2で2級土木施工管理技士と測量士補に合格

璃音さんは、2017年もコンクールに応募したそうで、「選ばれてびっくり」と喜ぶ。将来は土木の技術職を目指しており、朝の課外を頑張っている。

ものづくりに興味を抱いたのは、中学生のとき。自宅を新築することになり、職人や技術者の働く姿を見て「面白そうだな」と思ったという。

熊本県立天草工業高校 土木科の実習棟。モダンな建物でくまもとアートポリス参加作品

土木科に入学してからは、専門教科の難しさに負けそうになりながらも、「きっと将来に生かせる」と自分を奮い立たせてきた。

その結果、2018年5月には測量士補を取得。2019年1月には2級土木施工管理技士の学科試験にも合格した。


「日本列島リニア計画」でも受賞

璃音さんの受賞歴は詩だけではない。2018年9月には「日本大学全国高等学校土木設計競技」でも入賞した。競技テーマは「日本列島リニア計画」。設定は、品川・名古屋間でリニアモーターカーが開通した2030年。2060年までに日本列島をどのようにリニアで結ぶのか、全国の高校・高専生がアイデアを競った。

日本大学全国高等学校土木設計競技で入賞したリニアモーターカーのルート

璃音さんは、土木科2年の女の子3人でチームを組んで参加。南海トラフ地震による津波被害に対応するため、太平洋側の「愛知―三重-和歌山-徳島-高知-大分-宮崎」の約690km区間に海上メガフロートを浮かべてリニアを走らせる、壮大なグランドデザインを描いた。

東京で行われたプレゼンでは「被害額を考えると十分な建設費」と説明し、実現性のあるプロジェクトの効果を訴え、高評価を得た。

将来は「瀬戸大橋みたいな構造物を造ってみたい」

璃音さんを指導する岡田健二先生は「彼女を一言で表現すると、先頭に立って模範を示す”率先垂範”の人。ひたむきで行動的な性格です。決して強制しているわけではないのですが、難しい資格にも挑戦しています。今は、建設業界も女性が十分やっていける職場になっていますので、色んなことにチャレンジしてもらいたい」と期待する。

璃音さんを指導する岡田先生。「色んなことにチャレンジしてほしい」と期待する

璃音さんの土木を志す者としての夢は「瀬戸大橋みたいな大きな構造物を造ってみたい」。一方で、現在は食物クラブにも所属しており、週1回、料理作りに励んでいる。

将来、バリバリの土木技術者として活躍するかたわら、料理の美味しい素敵なお嫁さんになっている姿が目に浮かんできた。

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建設業専門紙に32年間勤務し、現場第一主義で取材・編集に従事。時代にマッチした特集記事を通して、現場の声を読者に届けることを使命感とし、業界に課題を投げかけながら進むべき道筋を示す。建産プレスくまもとを主宰。情報発信により地方の建設業が果たすべき役割について考える場を提供する。
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