2017年3月に完成した二軒屋橋P1下部工/江川組

【良質なコンクリート構造物を造る男たち4】 養生期間が短くても「コンクリート品質」にこだわる。鉄筋にタグ、バイブレーターにマーキング、エバープロテクト散布

江川組が取り組む、コンクリート構造物のQC活動

2016年に発生した熊本地震を契機に、熊本県で高品質なコンクリート構造物を造る動きが加速している。

2017年4月、熊本県・県南広域本部の山本茂雄氏は、QC(クオリティー・コントロール/品質改善)活動を合言葉に、「県南コンクリート構造物品質確保推進協議会」を立ち上げた。

このQC活動は、山口県がコンクリート構造物のひび割れ対策として始めた活動がモデルとなっている。

山口県が開発した「施工状況把握チェックシート」と東北地整が導入していた「表層目視評価法」を活用し、発注者と施工者及び生コン生産者の3者が協働で「施工計画(PLAN)→実施工(DO)→評価(CHECK)→改善(ACTION)」のPDCAサイクルに取り組むことで、高品質で耐久性のあるコンクリート構造物の構築を目指している。

土木工事などを手掛ける株式会社江川組(熊本県八代市)も、八代市千丁町を流れる大鞘川に架橋する二軒屋橋下部工のうちP1橋脚でQC活動に取り組んだ。

この現場で現場代理人として施工管理を務めたのは、技術管理課で主任を務める作本裕次郎だった。

(株)江川組・技術管理課の作本裕次郎主任

県南コンクリート構造物品質確保推進協議会が正式に発足したのは2017年4月。その1カ月前の2017年3月には、二軒屋橋下部工のP1橋台が完成している。その出来栄えは見事で、今やQC活動の施工モデルとなっている。

作本は「発注者のである熊本県南広域本部から、QC活動の取り組みを促されました。P1橋脚に着工する前に既にA1橋台の施工を終えており、その出来栄えが良かったのが要因かもしれません」と話す。

「ベテランで施工センスがある監理技術者がいたので、二人で試行錯誤しながら取り組みました。QC活動のモデル的な工事だったため、通常では写真には収めない施工状況を残しながらの作業だったのが大変でしたね。

それに、発注者から山口県方式のチェックリストを使った手法をレクチャーしていただいたのですが、構造物の施工では意識せずに日常的にやっていることをチェックするという作業に戸惑いました」と当時の苦労を振り返る。


良質なコンクリート構造物は”打設”と”養生”がポイント

作本は、良いコンクリート構造物を造るためのポイントに”打設”と”養生”を上げる。そして、この二つは常にセットとして位置付ける。

ただ、これまでの経験から技術者だけでは良いコンクリート構造物はできないことも自覚していた。

品質にこだわる作本は、現場に携わる作業員たちと一体となった取り組みこそが良いものを残すことができる本質だと考えている。

作本は、コンクリート打設時には鉄筋にタグをつけるなど作業員に一目でわかるように気を配った。

さらに、バイブレーターにもマーキングし、挿入深さを確認できるようにした。

鉄筋にタグをつけ、打ち上げ高さを確認

バイブレーターにもマーキング

さらに、寒い時期のコンクリート打設だったため、シート養生し、必要に応じて散水などで温度管理を行った。

毎日のミーティングで施工の基本を徹底する

散水養生し、温度管理を行った

作本は「こうした基本的なことを毎日のミーティングで徹底することが重要です。QC活動の中での確認項目は、ベテラン作業員なら当然わかっていることです。

しかし、ちょっとした勘違いやズレがあることも確かです。そのことを修正し、再確認することで現場全体の意識を高めていくことが重要です。われわれ技術者と作業員とがチームとして機能することが品質に直結するからです」と強調する。


エバープロテクト(珪酸塩系含浸コンクリート保護材)を導入

作本はこの現場で更なる高みを目指すため新技術を導入した。

橋脚のフーチング・柱部・梁部・アンカー箱抜き部の全表面に「エバープロテクト(珪酸塩系含浸コンクリート保護材)」を散布。コンクリートの長寿命化及び耐久性が向上する。

結果的に水密性が向上し、ひび割れのない出来栄えの良い、コンクリート構造物の施工につながった。

厳しい工期に迫られ、エバープロテクトを導入した

作本は「この現場では仮設の協議が長引いて中々着工できずに工期が厳しく、養生期間が短いという課題を抱えていました。共に施工に携わったベテランの監理技術者でさえ、初めて経験する工期の短さでした」と回想する。

その上、QC活動というプレッシャーがある中、上司の工事部長がエバープロテクトの散布を勧めてくれた。作本も「それでは是非」と導入を決めた。

ただ、コストはバカにならなかった。新技術のほか、温度管理に使用した機器はレンタルだったが、ケーブルは購入。24時間稼働のダクト送風用ジェットヒーターの燃料代も掛かった。

作本は「品質向上のためには”やりたいことをやらせてくれる”という社風に感謝しています。安全と品質管理は企業の生命線であることを教わった気がします」と振り返った。

(つづく)

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建設業専門紙に32年間勤務し、現場第一主義で取材・編集に従事。時代にマッチした特集記事を通して、現場の声を読者に届けることを使命感とし、業界に課題を投げかけながら進むべき道筋を示す。建産プレスくまもとを主宰。情報発信により地方の建設業が果たすべき役割について考える場を提供する。
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