多くの地場建設企業に人材確保への取り組みを促す(株)橋口組の髙山正輝取締役

20年間、新卒採用ゼロだった橋口組(熊本県)が学生に選ばれる企業に生まれ変われた理由

20年間、新卒採用ゼロだった橋口組

建設業を営む上で、永遠の課題となっている人材確保。毎年、手を替え品を替えた手法で人集めに東奔西走しているのが業界の現実だ。特に中小企業にとっては死活問題で、3Kイメージが付きまとう建設業は、他の産業と比較しても若者に敬遠され新規入職者が減少し、高齢化が進行している。人手不足によって倒産に至るケースも少なくない。

こうした中、地方にあって建設業の将来を危惧し人材確保に邁進しているのが、土木一式を主に営業し、熊本市南区に本社を置く(株)橋口組で取締役を務める髙山正輝だ。

髙山は、人材サービス業で働いたのち、昨年まで熊本県建設業協会の総務課長として、人材確保を担当する任を負っていた。その後協会を辞め、橋口組に入社。自身の経験を活かし、20年間新卒採用ゼロだった同社に今年度1人を受け入れ、来年度は4人の採用予定者を見込むなど、順調に成果を挙げている。

こうした自社のノウハウは本来隠したいものだが、髙山は「自社ばかりが頑張っても裾野は広がらない。地場の建設業全体で人材確保に取り組んでいかないと、この産業は衰退するばかり」と、橋口組での手法を会員企業に積極的に明かし、人材確保の取り組みを促している。

そこには、少しでも多くの建設企業が人材を集めることで業界を盛り上げようとする目論見がある。


8つの工業高校を年6回あいさつ回り

橋口組が人材確保のために取り組んでいるのは、▽HPの開設▽パンフレット制作・配布▽インターンシップ▽学校へのあいさつ回り▽企業説明会への出展▽SNSの活用―など、一般的なものがほとんど。もちろんハローワークやポリテクセンターなどの行政サービスも活用しているほか、保護者説明会や現場見学会などの建設業協会の活動にも積極的に参加している。

自社のホームページには採用特設サイトを開設している

この中で髙山が特に重視しているのが、学校へのあいさつ回りだ。髙山は、土木系のある熊本県内の工業高校8校を対象に、年度当初をはじめ年末年始、採用の前後など年6回のあいさつ回りを欠かさない。

なぜそこまであいさつ回りに拘るのか。髙山はそのわけをこう話す。

「対象となる土木系の高校生は県内で300人ほど。このうち毎年、県内の土木建設企業に採用されるのは約30人しかいません。あとは公務員や県外に流出するか、他産業に就いているのでしょう。それほどしか県内建設企業が認知されていない証です。

だからこそ、進路指導の先生、土木科担当の先生それぞれにあいさつし、名刺を渡します。なかには一日かけて名刺だけ置いていくこともありますが、そうしないと各学校に2,000社ほどの求人がある中、選考のテーブルにも上りません。こうした努力を惜しまないことが大切なんです」

新卒採用に成功しているのは30社に1社

現在、熊本県建設業協会には約700社が加盟しているが、髙山は自身の経験からほとんどの企業が人材確保対策に悩んでいるとみている。

「方向性が見いだせているのは3割ほどですか。このうち実際に採用出来ているのは20数社でしょう。実際問題、『どうしていいのかわからない』というのが実情なのかもしれません。

各高校を訪問すると、『このままだと人材流出が加速化する』など、先生の悩みの声を聞くことができます。だからこそ学校へのあいさつ回りを多くの企業で実践し、学校と接点を持ってほしいですね」

建設業魅力発見フェアでは自社への入職を訴える

ただ、闇雲に人材確保を推し進めることには警鐘を鳴らす。求める人材はどういう人なのか、経営計画に何人の新規採用を入れ込んでいるのかを明確化しないと企業自体が成り立たないとみるからだ。

「うちの会社で言えば、欲しい人材は”情熱”を持って”挑戦”し続ける人。技術の継承として10年、20年先を見据え、離職者のことも想定して、最低でも年間2人の採用を考えています。

これから、ますます公共工事の予算が厳しくなる中、受注計画をしっかり立てながら人材を確保していくことは経営戦略としても必要不可欠になります」と強調する。


若者が地元に帰ってこれる企業づくりを

来年度には4人の新卒者を受け入れることが決まり、「自分がコツコツとやってきたことは間違いなかった」と安堵する髙山だが、その一方で今も次々と若い技術者が県外へと流れていく現状に危機感を抱いている。

髙山は「(橋口組での手法を)多くの企業に取り入れてもらい、切磋琢磨してみんなで業界を盛り上げて行きたい」と思いを打ち明ける。

熊本県建設業協会では、職員だった以前と異なり、熊本支部の労務対策委員という立ち位置にいる。委員会では今後、力を入れる取り組みの一つとして学校や行政とのタイアップ案も構想している。その最大の目的は、人材の県外流出に歯止めをかけることだ。

「若者には県内に残って欲しいですが、県外に出ることが絶対に反対というわけでもありません。県外企業ではスケールの大きい工事を経験できて視野が広がるし、地方企業では学べないことがあります。ただ、人間関係に悩み、離職して他産業に転職しているケースがあるとも聞いています。そういう境遇の方を地元で再チャレンジできる環境を構築したい」と髙山は説明する。

「UIJターンなどで熊本の住みやすさをアピールし、経験を重ねた方を受け入れできる環境も構築しなければなりません。県が昨年より力を入れ始めていますが、業種別できめ細やかな支援が必要です。具体的なサポートについては業界の現状を伝えながら一緒になって考えたいと思っています。

そのためには企業努力が必要でしょう。橋口組でも、選んでもらえる企業になるために職場環境づくりの向上に力を入れています。結論を言うと、選んでもらえるよう、時代にあった企業として挑戦し続ける事が重要なんです」

地方の建設業者自らが努力を怠らず、人材確保でしのぎ合う。その姿に地域建設業の未来がある。

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建設業専門紙に32年間勤務し、現場第一主義で取材・編集に従事。時代にマッチした特集記事を通して、現場の声を読者に届けることを使命感とし、業界に課題を投げかけながら進むべき道筋を示す。建産プレスくまもとを主宰。情報発信により地方の建設業が果たすべき役割について考える場を提供する。
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