左から株式会社NEXTAGE GROUP 広報課主任の鶴岡美保さん、同社営業支援本部BS事業部の丸本七海さん、メッドコミュニケーションズ株式会社 施工事業部副部長の鈴木大介さん

「喫煙者は採用しないし、出世もできない」 130人が禁煙に成功したリフォーム会社のブランディング戦略とは?

改正健康増進法の全面施行は目前

改正健康増進法と東京都の受動喫煙防止条例が2020年4月からそれぞれ全面施行になり、喫煙者の肩身は狭くなる一方だ。

施工の神様では以前、建設現場で働く方々に喫煙に関するアンケートを取った。すると、意外にも70%は非喫煙者という結果となった。しかし、この結果はアンケート回答者の半数以上が技術者(施工管理者)であったためだと推測され、個別質問の回答を見ると、技能者(職人、作業員等)では圧倒的に喫煙率が高いという意見もあった。

そんな喫煙者優位の業界において、建設職人を多く直雇用しリフォーム事業などを展開している株式会社NEXTAGE GROUPとグループ会社のMED Communications株式会社は、2年前に全社員の卒煙に成功。”喫煙者ゼロ”を企業ブランドにする取組みを展開している。

改正健康増進法の全面施行を控え、社員の禁煙対策に頭を悩ませる建設会社も多いはず。そこで、NEXTAGE GROUP 広報課主任の鶴岡美保さん、同社営業支援本部BS事業部の丸本七海さん、MED Communications 施工事業部副部長の鈴木大介さんに、全社的な禁煙化に成功した秘訣を聞いた。


リフォーム会社を次々とM&A

――御社の概要からお願いします。

鶴岡さん 私と丸本がNEXTAGE GROUPに所属し、住環境の整備、新築や環境に配慮したビジネスを展開するグループ会社の管理運営を担っています。

グルーブ会社は3社に分かれていて、太陽光、蓄電池を取り付ける工事やアフターメンテナンス工事などを行うMED Communications、環境改善につながる浄化槽の設置や生活に密着したエコリフォームを提案する株式会社トータルリフォームサービス、新築・リフォーム・不動産の3業種を融合するミスターデイク株式会社からなります。

その中で、MED Communicationsは設計・施工も自社で行う体制を整備しています。加えて、営業マン、コールセンターのスタッフ、アフターメンテナンスも自社の社員が行うので、ワンストップで対応できることが強みです。

――会社をM&Aした理由は?

丸本さん 1993年にMED Communicationsを立ち上げ、2012年に持ち株会社としてNEXTAGE GROUPを設立し、2016年にトータルリフォームサービス、2017年にミスターデイクをM&Aし、3社をグループ会社化しました。山梨県の甲府にある新築や栃木県小山市にある環境に配慮した浄化槽の事業を新たに取り入れることで、人財の交流など相乗効果を与えられると考えたからです。それが売り上げという形で結果にもつながっています。

今後も互いに相乗効果を与えられるような会社があれば積極的にM&Aを行っていきます。

2月22日に、株式会社NEXTAGE GROUP及びMED Communications株式会社は本社を品川に移転した

社員330人中130人が喫煙者で、社内は猛反対

――改正健康増進法の全面施行を前に、”喫煙者ゼロ”を目指した理由は?

鶴岡さん 以前から、当社に対して「タバコの臭いが気になった」というお客様の声が、ちょくちょく寄せられていたんです。そこで、お客様に喜んでもらえるサービスを提供するために、社長の佐々木が”喫煙者ゼロ”を目指すことを社内に発表したのが2015年11月のことです。

しかし、当時は社員330名中、130名が喫煙者で、幹部にも喫煙者が多かったので、「社長は何を言っているんだ」という声も上がりました。

――どうやって禁煙化を進めていった?

鶴岡さん 社内セミナーや面談を通して、一人ひとり卒煙(喫煙者から卒業)へと導いていきました。喫煙者ゼロに向けて、徹底的した姿勢を会社として貫くことが肝要ですから。

また、現在は喫煙者がゼロなので、制度上でのみ存在しているものにはなりますが、「卒煙手当」という福利厚生や、喫煙者はある一定の役職以上に就くことができない制度もあります。また、喫煙者の方であれば、そもそも採用もいたしません。

――社内の反応はどうでした?

鶴岡さん 取組みをはじめた当初は、喫煙者の社員から大反対を受けましたよ。それでも、卒煙は社員の健康増進はもちろん、お客様に喜んでもらえるサービスに繋がるんだということを、社員一人ひとりと向き合う形で根気よく伝え続けました。

まず、幹部が卒煙をはじめ、次に幹部の部署で働いている社員も卒煙し、取組みを始めて2年後の2017年12月に全社員が卒煙を無事達成できました。その後、2年以上経過した現在も、喫煙者ゼロを継続しています。

――建設業界は、タバコを吸われる方が多い印象です。

鈴木さん 私が所属している施工事業部も当時は喫煙者が多く、私自身も卒煙組で以前はタバコを吸っていました。実は、今でも吸いたい時があります(笑)。

禁煙キットを買ったりして一人でチャレンジしてみましたが、なかなか卒煙は難しかったのです。会社全体が禁煙モードになったことや、子どもが小学生に上がったころで妻の目も厳しくなっていたこともあって、何かに依存するわけでもなく、すんなりやめることができました。


喫煙者には二度と戻りたくない

――みなさんどういう気持ちを持つことで、卒煙できたのでしょう?

鶴岡さん 当時の喫煙者120名へアンケート調査を実施して、喫煙者に戻らなかった理由を調査してみると、「喫煙者には二度と戻りたくないという意地」や「家族と仲間に支えられたから」と回答する社員が全体の78%いました。

喫煙者もどこかのタイミングでの卒煙を模索していたようで、いいキッカケだったと回想する人もいます。

――鈴木さんは喫煙していた当時を振り返ってどうですか?

鈴木さん お客様のご意見を見せてもらったことがあるのですが、やはり迷惑だったのかなと思います。せめてクルマの中で吸おうと呼びかけてはいましたが、結局、タバコの煙が上にのぼってベランダに干している布団などに臭いがついてしまうようなこともありますから。

――喫煙者ゼロを達成した今、お客様の反応はいかがですか?

鶴岡さん お客様の反応はとてもいいですよ。提携先企業からも「素晴らしい取組みだ」という声もいただいています。

現在は、当社のパートナー企業へも卒煙の取組みを拡げていき、建設業界全体のイメージアップにつなげるための活動として、一層力を入れています。毎年2回行われる安全大会では、喫煙者ゼロの取組みに力を入れているパートナー企業を表彰するなどして、取組みへの理解を深める活動も行っています。

――若い人から見て、喫煙者ゼロの取り組みはどうですか?

丸本さん 入社が決まった後の説明会ではじめて知ったのですが、とても嬉しかったことを覚えています。私の周囲には喫煙者の方がいないこともあって、タバコの臭いには特に敏感になるので。たとえば、電車に乗っている時に喫煙者の方が近くにいれば、臭いですぐわかりますから。

タバコの臭いはあまり得意ではないので、非喫煙者からすれば嬉しい制度です。

――鶴岡さんは?

鶴岡さん ありがたいですね。私も非喫煙者ですが、前職の仕事でも喫煙ルームの近くでは臭いが漏れていることもあって。正直、「タバコくさいな」と思っていましたから。

自社職人を抱え、営業から設計、施工までワンストップ

――無事、全社員の禁煙に成功したわけですが、施工の強みは?

鈴木さん  現在、30人の自社職人が活躍しています。自社施工なので、営業が仕事を請け負ってきてから、スピード感をもって対応できます。これが、施工部隊を外注していると、外注先の空き状況を確認するなどの手間がかかり、結果的に施工全体が遅れます。その点、当社は職人を全員自社で抱えているため、ワンストップ体制が整っており、機動性が高いことが強みです。

また、職人仕事を下請けに出すと責任の所在が不明確になりがちですが、職人の直雇用によって、スピード感に加えて、お客様からの要望もダイレクトに受け止め、反映できるメリットもあります。

直雇用の職人が活躍

――各家庭で施工するため、タバコの臭い以外にもマナーや身だしなみも重要だと思いますが。

鈴木さん 当社は、”コテコテ”の職人ではなく、サラリーマンの色合いが強いので、お客様と身だしなみ等でトラブルになるようなことはありません。

自社施工なので職人とお客様の間に営業マンが入ることも多いですし、職人たちも見た目に気を遣ったり挨拶をきちんとすることを徹底しているので、仕事も円滑に進められます。

鶴岡さん 施工部隊の礼儀礼節はしっかりしているので、お客様からの印象は良好だと思います。

一般的に、職人の身だしなみは悪いというイメージもありますが、当社ではお客様の家に入る時には、靴下を履き替え、工事の際もお客様の家回りを掃除してから始めるなど、独自の教育をしてから現場に出すので、「細かい礼儀まで重んじて工事をしてくれるので安心できる」というお客様や提携先の企業様からの評価につながっていると思います。

礼儀礼節で客先から高い評価の施工部隊

――自社職人は、どのように育成していますか?

鈴木さん 最近は、職人志望でもおとなしい学生が多い印象です。そのため、当社では「俺の背中を見て学べ」という育成方針ではなく、手取り足取り、個々人のできる範囲から徐々に教えていきます。

職人の世界では「俺の背中を~」という育成方針もあると思いますが、私は新しく入社された人には、少しずつ仕事に慣れていって、覚えてほしいんです。

まずはやって見せて、次に実際にやらせてみて、仮に失敗してもリカバリーできる、というところまでを実地で教えています。その作業がある程度、満足にいけば、さらに難しい仕事を教えていきます。

また、エリアによって工事のやり方は異なるので、教育内容も変えています。雪が多い東北では施工環境もまったく違うので、エリア長がそのエリアにあった施工方法を指導しています。


定着率90%を確保するメンター制度

――一般的に、建設業界は離職率が高い傾向がありますが、御社の定着率は90%です。この秘訣は?

鶴岡さん 社員同士の関係が近いので、上司-部下の関係性でも部下が自分の思いを率直に伝えることができることは大きいですね。小さなことで思い悩んでしまう新人は多いので。

丸本さん 私は新卒1年目ですが、先輩社員とペア1対1で指導されるメンターがつきます。メールの打ち方、挨拶の仕方、立ち回り、社会人としての常識など丁寧に教えてくれます。

メンターというだけあって、仕事のことだけではなく、小さい相談ごとなど精神面でのフォローもしてくれます。上司には言えないこともメンターには言えるので。

鶴岡さん 私はメンターとして後輩社員の相談ごとを受ける立場ですが、人事異動で部署が離れてからも、後輩からいろいろな連絡が来ます。その子が悩んでいるようなら、私も電話で「どうしたの?」と聞くようにしています。離れてもいい関係が継続することが魅力的な制度です。

鈴木さん 施工部でも年齢が近い者同士、入社3年目の職人と新人がメンターとメンティのペアを組んでいます。

初めは、職人同士でメンター制度を導入して機能するのかと思ったのですが、想定以上にうまくいっています。私くらいの年の職人がメンターになると、若い職人は悩みを打ち明けづらいようです。若い職人は技術的なことについてどう聞いたらいいか分からないという悩みは多いようです。

私が新人の時は20年前なので、今と時代が全然違います。今のメンターたちは新人に対して、「自分が新人だった3年前は、こうやって仕事を回していたよ」と自分の実体験をもとにアドバイスしています。私もメンターに任せて、あえて口を出していません。

――このほど、第6回 ホワイト企業大賞 「推進賞」も受賞されましたが。

鶴岡さん 当社の企業理念は、「社員の幸せを通して、お客様に満足を提供し、社会に貢献する」ことです。一方、ホワイト企業大賞では、ホワイト企業を「社員の幸せと働きがい、社会への貢献を大切にしている企業」と定義づけていて、理念が近い。

推進賞を受賞し、ホワイト企業企画委員長と握手をかわす佐々木社長

当社では、これまで上下関係や社歴、部署の壁を越えてスキルアップできる研修制度や、女性の職場環境の改善など、社員が一丸となって意見を出し合い社風の形成を行ってきました。その結果、若手新入社員の定着率の高さにもつながっているのだと思います。

鈴木さん 今後は施工会社をグループの中で立ち上げ、職人が稼げる環境をつくっていきたいですね。職人の仕事は朝が早く、夜は遅いので、その頑張りをもっと職人に還元させ、職人らしく自分の腕一本で食べていくことを具現化したい、職人にふさわしい地位と賃金を確保していきたいですね。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
非喫煙者なのにタバコの臭いで銘柄を判別できるようになった20代女性現場監督の訴え
非喫煙者の女性社員に異動命令。古臭い建設会社は「喫煙者優位」
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
「建築が遅れると設備が泣く」の本当の意味とは?…空調設備施工管理はつらいよ
「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
モテる建設作業員はニオイが違う!いつも「女を意識する余裕」が大事
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
  • 施工の神様
  • インタビュー
  • 「喫煙者は採用しないし、出世もできない」 130人が禁煙に成功したリフォーム会社のブランディング戦略とは?
モバイルバージョンを終了