杭穴に落ちた施工管理技士の経験談
たまに施工管理技士の仲間内で「杭穴」に落ちた経験談を聞きますが、それは当人が無事だったからこそ笑い話にもなります。
もし命を落としていたら、話のオチも聞けません。
かくいう私も新入社員の頃、1度だけ杭穴に落ちたことがあります。しかも、一歩間違えば命を落としていたかもしれない杭穴に……。
杭穴で生き埋め寸前の施工管理技士
それは今から十数年前、ちょうど杭工事の真っ最中で、私は杭の施工写真を撮影するために、杭打ち機の方へ向かって歩いていました。もちろん、カラーコーンなどで区画が仕切ってあるような危険な場所は通っていません。
私はバックホーで綺麗に整地された、まっ平らな地面をまっすぐ杭打ち機に向かって歩いていました。そのとき突然、私の視界に「変化」が訪れました。杭穴に落ちたのです。
私の体はストンッと一気に下がって、腰が地面と同じくらいの高さで止まりました。きっと私が通る直前に、作業員さんが打設した杭穴を埋め戻して整地したのでしょう。一見すると全く気付かないような状態で、まるで「とんねるずのみなさんのおかげでした」の全落オープンの落とし穴にハマったようなものでした。
そこからが大変でした。体の半分が土に接しているため、土の摩擦抵抗が強く、腕で地面を踏ん張って自力で抜け出そうと試みても、微動だにしません。はじめは四苦八苦していたのですが、私自身ではどうすることもできず、次第に諦めの境地に入っていきました。
それから数十分後、ようやく異変に気が付いた作業員さんたちが、私の周りに集まってきてくれました。しかし、腕っ節の強い作業員さんが2人がかりで、私の体を引き上げようとしても、ビクともしませんでした。
杭穴から施工管理技士をクローラークレーンで引き抜く
「まじでヤバイ、脱出できないかも」そんな不安がこみ上げてきます。周りから見ると、私は上半身だけ地面からニョキッと生えている、まさに人柱状態。そして「このまま人柱として死ぬのか」と笑えてきた瞬間のことでした。目の前にあるモノが降りてきました。天から降りてきた1本の蜘蛛の糸のように……。
私を救ってくれた蜘蛛の糸は、クローラクレーン(クローラークレーン)のフックでした。既製杭の大規模現場だったため、クローラクレーンが常駐していたのです。
私は神にもすがる気持ちというのはこういう心地かと思いながら、クローラクレーンのフックにしっかりと捕まると、オペさんに「OK」とアイコンタクトを送りました。
すると、じわじわと体が浮き上がって行きます。私は杭穴からの脱出に成功しました。もう半分泣きそうでした。たまたま腰の位置で止まったから助かったものの、もしも体全体が埋まるような落ち方をしていたら、命の保証はなかったかもしれません。いま考えてもゾッとします。
建築施工管理技術検定試験では出題されない「教訓」
命拾いして安堵感に浸っていた私を待っていたのは、泥まみれの作業服との戦いでした。近くの水道で泥を一旦洗い流してから、着替えをしようと事務所に戻りましたが、私の異様な姿を先輩たちが怪訝な目つきで見てきます。
私は事実を隠し通すこともできず、先輩方に杭穴に落ちたことを素直に話しました。すると事務所内は、爆笑の渦に包まれました。そのとき、まだ若かった私は、どれほど赤面していたことでしょう。
ということで、もし杭穴に落ちた人がいて、人力で救えないときは、クローラクレーンを使いましょう。こんなことは、施工管理技士の資格試験では出題されませんので、いざというときのために覚えておいてください。というか落ちないようにしましょう。
くれぐれもご安全に!