「サプライチェーンのリスク管理」が建設会社の存続にかかわる時代。”建材調達先のサステナビリティ”を評価する意味とは?

将来、サプライチェーンのCSRが公共工事の入札条件に?

サプライチェーンのリスク管理ができない建設会社は今後、存続が難しくなる時代になるかもしれない。

世界はいま、エネルギー消費や温室効果ガスなどの「環境」、従業員の安全衛生などの「労働と人権」、腐敗行為などの「倫理」などについて厳しい目が注がれている。こうした課題や問題について真正面から取り組まなければならない。

実際、サプライチェーンのCSR(企業の社会的責任)評価は、海外ではすでに公共工事の入札条件になっているケースもあり、今後日本でも法制化される予定だ。そこでゼネコンだけではなく、建材メーカーなどの各社も企業存立のために社会的責任を透明化することが必須となっていく。

こうした社会背景のもと、大東建託株式会社はEcoVadis社(エコバディス社・本社フランス)の提供するサステナビリティ評価システムを導入・活用した「サプライチェーンサステナビリティ強化施策」を開始した。同施策は、サプライチェーンの持続可能な調達網の構築と、それによる建設業界全体のサステナビリティ対応強化への貢献を目的に実施するもので、建設業界では同評価システムを活用したサプライチェーンマネジメントは、国内で初事例となる。

大東建託では、3年間を試験運用期間とし、まず1年で調達先169社のうち約30~50社で適用。3年後に調達先の約70%での登録を進める。まずは建材関連メーカーが主な対象だが今後、施工を担当する協力会社にも適用を検討している。

今や、世界的にも企業のESG(環境・社会・企業統治)への強化が求められ、CO2排出や産業廃棄物などへの環境対策に加え、強制労働などでの人権対応に関しても厳しいまなざしが向けられている時代であり、建設業としてもこの動向を無視できなくなったといえる。大東建託では、取引関係にあるサプライヤー側のサステナビリティ対応強化を支援するため、CO2排出量集計方法の無料セミナーや評価システム導入費用の補助なども実施している。

大東建託はなぜ、いち早く、同施策を展開することになったのか。9月2日には、オンライン記者会見が開催され、サステナビリティ経営やサプライチェーンの現状について、大東建託株式会社技術開発部部長の加藤富美夫氏が、サプライチェーンの具体的施策について、技術開発部環境企画課課長の大久保 孝洋氏がそれぞれ解説した。

「エコ・ファースト認定企業」として、サプライチェーンの透明化を約束

サステナビリティ経営、サプライチェーンの現状については技術開発部部長の加藤富美夫氏が解説

会見では、冒頭、大東建託のサステナビリティ経営などについて加藤部長が解説した。サステナビリティ基本方針は、豊かな暮らしを支える企業として、社会の変化を成長の機会と捉え、ステークホルダーとともに、事業活動の発展と持続可能な社会の実現を目指すことにある。そこで主に、「環境」「社会」「人材組織」「企業統治」「土地資産」「賃貸住宅」や「くらし生活」の七つの重要課題を設定しているが、今回の施策は、持続可能な木材調達と活用の「環境」、地元企業の雇用創出と活性化の「社会」、ステークホルダーエンゲージメントの強化の「企業統治」の貢献につながる。

大東建託では、2019年の菅義偉首相(当時)の”脱炭素宣言”に先駆け、環境トップランナーとして、事業活動を通して持続可能な社会の実現に貢献する「大東環境ビジョン2050」を策定。2020年に「エコ・ファースト企業認定」を取得している。

エコ・ファースト企業認定の際、小泉進次郎環境大臣(当時)に対して、「建築」「暮らし」「ごみ」「企業」や「ひと」の6つの重要分野と施策を示し、約束をしたという。この「自然」の中で、サプライチェーンの透明化をうたい、この約束が今回の施策につながったとのことだ。

大東建託では「エコ・ファースト認定企業」として6つの重要分野と施策をあげた

次に、国内外のサプライチェーンを取巻く現状についても説明。調達リスク管理要請の高まりを受けて先進各国での法規制が強まっている。たとえば、EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)が施行されることは注目に値する。具体的には、規制基準に適合するグリーンビジネスの情報開示(KPI(重要業績評価指標)、売上高、設備投資、営業費用の比率)など、国連・OECDの人権・労働基準を満たさないとグリーンとは認められない)が、2024年会計年度より大企業は報告義務化(社員250名以上などが対象)されることがうたわれた。

調達リスクについて各国では続々と法規制の動きが

日本政府は今夏にも「人権デュー・ディリジェンス」の指針を策定

こうした世界の動きの中で、日本でも管理要請の動きが高まりつつある。アメリカの商務省は2021年に中国・新疆ウイグル自治区にある太陽光パネル関係企業など5社を強制労働に関与した制裁として輸出禁止措置の対象に指定したことは記憶に新しいが、日本においても経済産業省が人権侵害リスクを調べて予防する「人権デュー・ディリジェンス(人権DD)」の指針となる「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」を公表。企業に実施を義務付ける法制化も視野に入れている。

つまり、日本を含め世界各国では、SDGs(持続可能な開発目標)/ESGの社会浸透に伴い、企業のサステナブル調達への社会的な要請が高まり、サプライチェーン全体でリスク管理に取り組む必要性が極めて重要な施策として浮上しているのが実情であるといえる。

関連記事:VRで死を体験。大東建託が恐怖で安全意識を向上させる新技術

サプライチェーンのリスク管理ができなければ存続できない

建設業界におけるサプライチェーンの現状はどうだろうか。2018年には、日本の建築メーカーが違法木材の輸入に間接的に関与し、その違法木材の一部が東京オリンピック・パラリンピックの施設に使用されているとして批判を受けた。その一方、ある大手ハウスメーカーは2030年までに国内取引先200社に対し”森林破壊ゼロ”の方針策定を求め、調達先の人権・環境まで注視した方針を策定するなど先手を打った企業もある。このほか国別でも、違法木材調達のリスク地図のデータも示されているなど、建築業界においても木材をはじめとした調達リスク管理が重要視されている。

サプライチェーンには3つのリスクが潜み、管理できなければ存続ができないと指摘した

「大東建託が賃貸住宅を建築する構成としては、現在約200の建材を使用しています。建材の中には多元調達をしており、一つの建材に複数のメーカーから購入しています。そこでメーカーとのやり取りにより、建材に対するサプライチェーンを管理しています」(加藤富美夫部長)

そこで、サプライチェーンでは3つのリスクがあり、自然災害やウッドショックなどによる「操業遅延・停止リスク」、メディア報道などによる「企業価値毀損リスク」や各国の規制法令の成立・強化による「規制リスク」にしっかりと対応することが重要であり、サプライチェーンのリスク管理ができていない企業は”今後、存続できない”と断言した。

次に、サプライチェーンの具体施策について、技術開発部環境企画課課長の大久保 孝洋氏が解説した。

サプライチェーンと具体的施策について、技術開発部環境企画課課長の大久保 孝洋氏が解説した

大久保氏は、現在のサステナビリティ調達について、大東建託のサプライヤーが回答したアンケートの結果を公表した。対象サプライヤーは192社のうち回答企業数は143社(回答率74%)であり、実施期間は2022年1月20日から 2月4日であった。

「サステナビリティに関するアンケートを、他社からすでに受けていますか?」という問いには「ある」が47%、「ない」が53%であり、「ある場合、年間何社くらいに回答していますか?」で最も多かった回答は、2社以上5社未満が47%で、「ある場合、どのような調査方法ですか?」という問いには「取引先の独自調査票」が70%で圧倒的に多かった。傾向としては、約50%は既にサステナビリティ調達に関する質問を同業他社より受けているが、個別対応が多く、サプライヤーの回答・対応負担は大きいと考えられる。

サプライヤー企業の現状と課題についてアンケートを実施した

2030年頃には施工店もCSR評価の対象へ

一方、大東建託のサプライチェーンの現状では、「サステナビリティ視点での管理・評価軸がない」「同社独自でサステナビリティ対応を進めるだけではサプライヤー企業の負担が増える」や「169社あるサプライヤーの規模や状況もさまざま」であることから、現状の調査方法、評価方法では、属人的であり、正確な評価、リスクの発見が後手となる可能性があるため、大東建託とサプライヤー企業の双方にメリットのある対応策が必要であると判断した。このような背景もあり、2022年8月からエコバディス社のサプライチェーンのCSR評価システムを導入することになった。

「対象となるサプライヤー企業は、当社が資材を調達するメーカー側169社に呼びかけています。現場工務店や外壁工事業者などの施工店は、協力会という組織を結成していますが、現状こちらは対象になりません。ただし2030年頃の中長期スパンでは取り組んでいこうと考えています」(大久保孝洋課長)

エコバディス社は、バイヤーが約760社、サプライヤー約9万社(日本約3,500社)での評価実績を持つフランス企業。こうした評価システムは、海外では、公共工事の入札条件になっている場合も多く、今後日本でも法制化される予定だ。エコバディス社の評価システム導入のメリットは、一度回答するとその結果を複数バイヤーに共有でき、サプライヤー側企業の負担を軽減できる点にある。

エコバディス社のサステナビリティ評価の特徴は、「環境」「労働と人権」の2点が質問の多いボリュームゾーンであり、ほか「倫理」や「持続可能な調達」の2点。サプライヤー側がこの内容の質問書を回答すると、専門家による分析が行われ、評価結果のスコアカードについては、大東建託など複数のバイヤー企業が共有できることになる。

エコバディス社の概要について(2022年9月記者発表時点)

将来的には”上位ランク”と優先的に契約することも検討

「評価については、A・B・Cといった段階評価ではなく、各企業をそれぞれ100点満点で評価しています。中でも、ある一定以上の点数を獲得した上位企業に対してはプラチナ、金、銀、銅のメダルが付与されます。現段階ではメダルに固執するわけではありませんが、定量的な評価が可能になります。将来的には、メダルが上位なところを優先的に契約していくことはありえます。ただし評価が低い企業をバッサリと切り捨てるのではなく、メダルのランクの低い企業を高いメダルに向上させていくため、是正について双方で協議していきたい。そこでサプライヤー側に是正の意思があるのかないのか、その是正期間がどのくらいなのかを協議しながらの運用になるでしょう」(大久保課長)

エコバディス社の評価の特徴は、「回答に対してのエビデンスを求める」と「専門のCSR有識者が公平に評価を実施する」の2点あり、結果、同業他社と比較して優位性が高いと評価して採用を決定した。さらに、「評価基準(ESG+調達の4軸)であること」「グローバルスタンダードな基準であること」「サステナビリティリスクを見える化(定量スコア化)できること」や「サプライヤー負担を軽減できること」もあわせて採用のポイントになった。

とくに大東建託をはじめとするバイヤーとサプライヤー側の間にエコバディス社が入ることにより、サプライヤーの回答は1回で済むことになり、負担軽減の効果は期待できる。これまでは各バイヤーからの質問書に個別にサプライヤー側が対応し、負担も多かった。そこでエコバディス社に集約することでサプライヤー側の回答負担が減少するという効果が生まれるわけだ。

エコバディス社の評価は、「環境」と「労働と人権」が主軸

エコバディス社は日本の建設業界についてどう見ているのか。今回、エコバディス・ジャパン株式会社の代表取締役である若月上氏が記者会見にあわせてコメントを寄せている。

「周知のとおり、建設業界は世界的により持続可能なビジネスモードへの移行という課題に直面していますが、大東建託が業界において日本国内初の持続可能な調達管理体制強化に本格的に取り組むことは、業界のみならず日本企業としてバリューチェーンにおけるサステナビリティの改善と向上に貢献するものと確信しています」(若月上氏)

今後の施策については、「まずは3年間のトライアル期間として実施」「3年間は評価結果により発注量などの取引きを左右しない」や「サプライヤー企業への導入支援などを行い、定着させることを優先する」の3方針を定めた。ロードマップとしては1年目が”周知する年”、2年目が”増加する年”、3年目が”総括する年”と定めた。

6月23日には、「大東建託からサプライヤーへの説明会・協力依頼」を、7月12日にはエコバディス社から直接の説明を受ける場として、「エコバディス導入支援説明会」を、その後サプライヤー側からCO2削減といっても何から着手すればよいかわからないなどのさまざまな質問もあったことから、8月23日には「大東建託CO2集計業務サポートセミナー」をそれぞれ開催している。同セミナーでは、103名が参加、「資料と動画を社内で共有する」や「コンサルを依頼したい」とサプライヤー側から前向きな意見も寄せられたことから、今後も定期的なサポートセミナー実施を開催する。

【施工管理技士の面接対策】聞かれることが多い質問5選

3年後は、登録しなければ一定の判断も

「この3年間に関しては登録・評価を受けないからといって、契約において罰則や制限をかけることはいたしません。半強制的な取組みではなく、まずはお声がけさせていただき、当社のサプライチェーン全体で透明性を増していく呼びかけに対して、同調してくださいという姿勢で進んでおります。ただし、3年もたちますと日本を含めた世界的な法改正が進展していきますので、その段階で判断は入ると思います」(大久保課長)

ちなみに、従業員100人未満のサプライヤー企業の費用は大東建託が負担する。このほか、「やったことはないけど良い機会だから勉強して取り組みたい」や「親会社が回答しているが、業種の範囲が広いので、建材のみの子会社でも参画する」との意識の高い意見もあったが、「ISO14001やISO9001の認証を取得しているので辞退する」と辞退を表明するサプライヤー企業もあった。

「現在、ISOを理由で辞退されている企業は2社あり、いったんお受けしています。ただ2年目に向けて今後、半年くらいかけてお話をするつもりでいます。エコバディス社の評価システムとISOとの違いについて、説明して登録に取組んでいきたい」(大久保課長)

なお8月1日から、「取組み開始、各サプライヤーによる登録作業」をスタートしており、サプライヤー側の質問書の発信も実施中だ。今期でいったんは回答の受付を締切り、2月に集計を完了する形で動いている。

大手ハウスメーカーの正社員求人が増加中[PR]

3年間で全体の70%の登録目指す

「まずは30~50社が登録し、これから本格的に登録を呼び掛けていきます。3年後には169社のうち約70%の登録を目指していきたい」(大久保課長)

2年目からは、協力の呼びかけ、取組み継続(回答サプライヤー拡大)をスタートするが、実は大東建託にはサプライヤー側からは、「今期から取組むのは正直難しい。今年には体制を整えるので、来年からの参加とさせていただきたい」と前向きな回答もあり、参加するサプライヤー側を着実に増やす方針だ。一方、バイヤー側である建設業界、とりわけハウスメーカーなどにも参加を呼び掛けていく考えも明かした。あわせて、是正プランの実行やESG 評価機関へ報告も行う。3年目からは、国際情勢を鑑み、取組みの総括を行い、今後どのような方針で進むかについて検討する。

そして、大東建託が最終的に目指すゴールとはどのようなものか。サプライヤー側は自社の取引きの透明性を示すことができ、大東建託などのバイヤー側は、安心してサプライヤーから調達ができる関係性を構築することにより、ステークホルダー、この場合はアパートなどのオーナー、入居者あるいは株主にあたるが、安心して託すことができる。そこで建設業全体のサプライチェーン上のリスクがなくなり、持続可能な安心・安全なサービス・商品提供を行う世界が実現する。さらに業界で一体となって取組むことでサプライヤー・バイヤー側ともにメリットがあるため、建設業界で連携して一本化を目指す方針を示した。

来年度から同業他社にも参加呼びかけへ

「1年まずわれわれが体験してみて、いいところや悪いところを実感したうえで、来年度以降にバイヤー側であり、パイプのあるハウスメーカーなどと接点を持ちながら、一緒にやっていきましょうとの呼びかけをしていきます。それ以外としては、当社が加盟している一般社団法人日本ツーバイフォー建築協会などの住宅関連団体で、当社の取組みとして紹介していくとともに、サステナビリティを判断していただけるような方が集まる会合でPRすることで、当社の取組みに共感していただけるようお声がけをしていきたい」(大久保課長)

社内体制では、技術開発部が窓口として主管するが、この理由は環境分野や調達分野を担当しているため。一方、「労働と人権」は人事部・総務部・安全品質管理部が、「倫理」については経営企画室が対策を講じるほか、法務部・リスク管理部・コンプライアンス推進室などとも連携する一方、本社内に「サステナビリティ執行企画会議」という組織体を設けており、対応責任部門を協議するという体制により、全社横断的に取組む方針だ。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
VRで死を体験。大東建託が恐怖で安全意識を向上させる新技術
「中途半端はあかん!」 奥村組が語る”攻めの広報”の極意
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
大東建託が建築現場にAEDを設置する危機的理由
建設業界は”外”からどう見えているのか? 好転のカギは、ICT化と非科学的コミュニケーションのワンツー
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
  • 施工の神様
  • インタビュー
  • 「サプライチェーンのリスク管理」が建設会社の存続にかかわる時代。”建材調達先のサステナビリティ”を評価する意味とは?
モバイルバージョンを終了