インボイスで一人親方の1割が廃業?上位企業との協議も未だ進展せず

インボイスで一人親方の1割が廃業?上位企業との協議も未だ進展せず

インボイスで一人親方の1割が廃業?上位企業との協議も未だ進展せず

全国建設労働組合総連合(全建総連)と(一財)建設経済研究所は、免税事業者の一人親方を対象に「第2回インボイス(適格請求書)アンケート」を実施した。

アンケート結果によると、一人親方は「あなたはインボイス制度の導入をきっかけとして、どのような対応を行うことが考えられますか」という問いに対して、「収入が減るなら事業をやめることを検討する」(6.3%)、「収入が減らなくても、手続きが面倒なら事業をやめることを検討する」(3.2%)と回答し、ほぼ1割が廃業を視野に検討していることが分かった。「まだわからない」(43.8%)との回答も半数近く占め、インボイス制度導入により、建設業界にも大きな波紋を及ぼすことが改めて浮き彫りとなった。

「廃業視野」が1割近くに上った衝撃の回答 / 全建総連

全建総連による第1回の調査についても、制度内容とともに詳細を報じたが、内容が詳しく周知されるとともに、廃業を検討する一人親方も増えている傾向は建設業界の人手不足を考えると由々しき事態といえる。

第1回の調査結果はこちら

「インボイス制度」で建設業界は大混乱? 猶予は”残り半年”、対応・協議は間に合うか?

 

インボイスの周知は一部進む

アンケートに回答した属性を見ると、「60代」(28.3%)、「50代」(27.3%)、「40代」(21.1%)、「70代以上」(15.7%)、「30代」(6.1%)、「20代」(1.6%)と、50代から70代以上では合計71.3%であり、若者といえる20代と30代はわずか7.7%だった。この年齢層を見ても一人親方の高齢化が進行していることがわかる。

また、回答者が取引のある上位企業は「町場、工務店などの現場」(62.9%)が最も多く、次いで「大手プレハブ、住宅会社などの現場」(15.9%)、「ゼネコンの野丁場などの現場」(13.1%)、「地元の住販・不動産会社など建売現場」(8.2%)と続いた。

回答者の多くが、町場や工務店の現場で働く一人親方 / 全建総連

「インボイス制度が2023年10月から導入されることを知っていますか」との問いには、「少しは知っている」(45.7%)と「大体は知っている」(38.8%)と合計すると84.5%となり、前回調査(2022年4月)と比較すると、8.8ポイント増えた。

前回調査より周知が進む一方、課題も生じる / 全建総連

また、「インボイス制度の導入以降、取引している上位企業が課税事業者(本則課税)である場合、”課税事業者となり、インボイスに対応した請求書を発行する”ことを求めてくる可能性があることを知っているか」という問いに対しては、「知っている」(33.7%)、「ある程度は知っている」(37.8%)で合計71.5%で、前回調査から11.9%ポイント増えており、インボイス制度の本格スタートまで1年を切っているが制度の周知は少しずつ向上した。


上位企業と一人親方の具体的な協議は進展せず

「本制度の導入に向け、あなたが取引している上位企業から、あなたが”課税事業者と免税事業者のどちらなのか”をアンケートや口頭などで聞かれたことがありますか」との問いは、「ある」(16.1%)、「ない」(83.9%)だった。また、「取引している上位企業から、制度導入後の取引について、紙や口頭などでどのように通知されているか」という問いに対しては、「特に何も言われていない」(80.1%)、「”課税事業者”になってほしい」(11.2%)、「消費者(施主など)との取引なので、関係ない」(5.3%)、「”課税事業者”にならないと、今後の取引をしない」(1.9%)だった。

前回調査も「特に何も言われていない」が78.3%と最も多く、上位企業からのアプローチが引き続き極端に少ない状況にある。しかし課税事業者への要請も5.8ポイント増えている。これは上位企業が課税売上高1000万円以下でインボイス(適格請求書)を発行できない一人親方などの免税事業者と取引きした場合、その分の仕入税額控除は適用できなくなることが少しずつ周知されているため、一人親方に対しても課税事業者への転換を求めているようだ。

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また、「課税事業者になってほしい」「課税事業者にならないと、今後の取引をしない」と回答した人に絞ったアンケートも実施している。「課税事業者になる前後で請負金額が同じであれば、その金額のうち消費税分は納税の対象となり、収入が減る可能性がある。課税事業者となった後の請負金額について、取引している上位企業から通知はあるか」という問いについては、「何も通知されていない」(68.2%)、「据置きと通知されている」(18.2%)、「新たに負担する消費税分の引上げを通知されている」(13.6%)となった。

インボイスに対応した請求書の発行を求められる可能性が高く、混乱も必至 / 全建総連

人材不足から雇用への流れも

従来であれば、課税売上高1000万円を超える事業者は課税事業者として消費税分を納税してきた一方、課税売上高1000万円以下の小規模事業者や個人事業主は免税事業者として、この消費税分の支払いは免除されてきた。上位企業からの要請により、インボイスを発行できる適格請求書発行事業者登録を行った課税事業者となると、消費税分の納税義務が生じるため、所得が減少する可能性がある。そのため、上位企業の対応が注目されているが、まだ具体的に踏み込んだ対応は少ない実態が続いている。

また、人材確保の観点から一人親方の雇用も一部検討している企業も見られた。「上位企業から、”本制度の導入に向け雇用したい”と持ちかけられたら、どのように対応するか」との問いに対しては、「一人親方を続ける」(44.9%)、次いで「まだわからない」(38.2%)、「収入が増えるのであれば、雇い入れてもらう」(7.3%)、「収入が変わらないのであれば、雇い入れてもらう」(5.3%)と続く。

「一人親方を続ける」との回答も多い反面、一部「雇い入れてもらう」との回答も / 全建総連

アンケート全般を見ていると、前回調査と比較して制度の周知は進んでいるが一方、制度導入を1年切った今でも上位企業と一人親方との具体的な対応や協議は進んでいない点については大きな課題だ。廃業を視野に入れる一人親方もすでに一定数おり、国は早急にインボイス制度における救済策を示す必要性があるだろう。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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