トンネル技術者たちの仕事に対する思い
近畿地方整備局福井河川国道事務所が整備を進めている大野油坂道路。この一区間である大谷トンネルの工事現場を取材する機会を得た。
施工者は前田建設工業株式会社。陸の孤島のような山奥にある現場だが、トンネル技術者たちはどのような思いで日々仕事に励んでいるのか。率直なところを聞いてきた。
松澤 郷至さん 前田建設工業株式会社関西支店 大谷トンネル作業所 現場代理人(所長)
小山 塁さん 前田建設工業株式会社関西支店 大谷トンネル作業所 監理技術者
田中 ひかるさん 前田建設工業株式会社関西支店 大谷トンネル作業所 工事課長
「楽しい」と思ったことはないが、「やってて良かった」とは思った
――松澤さんはトンネルは長いのですか。
松澤さん トータルで15年ぐらいです。入社25年目ですので、結果的に長くなってしまいました。
――トンネル工事は楽しいですか。
松澤さん 正直に言って、トンネル工事を「楽しい」と思ったことはありません(笑)。ただ、貫通したときに「やってて良かった」と思ったことはあります。
――こちらの作業所の社員数は?
松澤さん 10人です。私と小山を除けば、トンネル工事を担当する社員は、田中を長にして3人配置しています。今の業務量を踏まえた上でのトンネル工事としてはちょっと少ないかもしれません。
監理技術者に入社9年目社員、工事長は女性社員
――小山さん、トンネル工事の経験は?
小山さん 私は入社9年目になります。トンネル工事は今回で3回目です。監理技術者を任されたのはこの現場が初めてです。
――小山さんを監理技術者に抜擢したココロは?
松澤さん 入札時に監理技術者として配置を予定する職員を提出する際に、その監理技術者の選定にあたり一定の要件が必要となるのですが、要件を満たす社員として小山のもつ工事経歴が当てはまったからです。
――田中さん、トンネル工事の経験は?
田中さん 私は入社して11年目で、トンネル工事に携わるのは、この現場が2つ目になります。
――松澤さん、田中さんを長にすえたココロはなんだったのですか。
松澤さん 年齢構成的にも、人柄や工事経験的にもちょうど良い人材であったからです。非常に大規模なトンネル工事の経験もありましたし、田中の部下2人はトンネル工事の経験がありません。それを踏まえて、所内の社員を見渡したときに、長は「田中しかいないな」と即座に思いました。これまでのところ、大きな手戻りもないですし、よくやってくれていると思っています。
ダンプ運転手とも積極的にコミュニケーション
全自動コンピュータジャンボ
――こちらの現場で工夫していることはありますか。
松澤さん ICTツールの活用やDXにつながる取り組みという意味では、コンピュータ制御された全自動コンピュータジャンボや同様のロックボルト打設機をはじめとする各種機械を導入することで、機械化・自動化・省人化の実現を図っています。
ただし、当社の中でも良く言われていることなのですが、DXの実現みたいな話でいうと、機械を導入して使用するだけではなく、そこから得られるデータを基に施工の改善などにいかに活用していくかが大事なので、そこを意識しながらいろいろと取り組んでいるところです。
環境面では、どこの現場でもやっていると思いますが、坑内のすべての箇所においてWi-Fi通信を可能として、24時間の各種環境測定を実施しています。工事排水についても、常時水量や放流水質などのデータを取りながら適切な処理などを行なっているところです。ちなみに、今まで話していたこと(各種機械の導入や環境測定)を可能とするために、このあたりは携帯も通じない山奥なので作業所まで17kmほど光ファイバーを引いて、通信環境を確保しています。
――ダンプの運行に気を使っているそうですが。
松澤さん ダンプの運行に関しては、GPSなどのツールを使って監視する方法がありますが、通信が不通なこの現場に関してはそういう方法をとれないので、人手によってコントロールする方法をとっています。たとえば、ダンプ運転手のひとりひとりと積極的にコミュニケーションをとるようにしています。例えば、一方的な言葉だけでの指示では、理解もしてもらえず、ルールを守ってももらえないと思うので、しっかり人間関係をつくった上で、意味や目的、当現場の求める姿を意識してもらったうえで、事故の防止に努めてもらうようにしています。
――濁水対策はどうですか。
松澤さん 現場下流には、九頭竜湖があるので、濁水対策にもかなり気を使っています。
小山さん 濁水プラントにおける日々の水質チェックに加え、発注者立会による水質検査を毎週1回実施し、濁度やpH値をキビしく管理しています。
上下関係ではなく、チーム一丸で取り組む職場を
――職場づくりで気をつけていることはありますか。
松澤さん これと言うものはありませんが、上下関係ということではなく、チームとして一丸となって取り組めるようにしたいとは思っています。
と言うのも、この現場は若い社員が多いんです。40才台は私だけで、あとは30才台、20才台ばかりです。この若い社員たちをいかに早く引き上げていくかは、私に課せられた責任だと思っています。工期内に無事故かつ高品質の構造物を作って工事を終わらせるのは当たり前のことなので。若い社員を引き上げるのが私の使命ということで、けっこう注力しています。
とにかく「やるしかない」
――小山さん、監理技術者としての仕事には慣れましたか。
小山さん まだまだ未熟な部分があるので、毎日四苦八苦しながらやらせてもらっているところです(笑)。
――プレッシャーは感じていますか。
小山さん それが良いのか悪いのかわかりませんが、正直プレッシャーはあまり感じていません(笑)。とにかく「やるしかない」という気持ちでやっています。
――休みの日はどうしていますか。
小山さん 嫁さんの実家が近いので、そこで過ごしたりしています。
神様とケンカすることはなかった(笑)
――女性がトンネル現場に入るのはかなり珍しいと思いますが。
田中さん そうですね。最初の現場は新名神のトンネル現場でしたが、当時は作業員さんなどから珍しがられました(笑)。
――「山神様が〜」みたいなことを言われたとか。
田中さん はい、「神様とケンカする」と言う人もいました。幸い、とくに神様とケンカすることもなく、仕事ができています(笑)。
――10年前と今では作業環境は大きく違っていたでしょうね。
田中さん 昔は現場に女性トイレがないのが当たり前でした。私を含め女性社員が現場に入り出して、少しずつ変わってきた感じです。今となっては「トイレの話はもういいかな」という感じです。女性トイレはあって当たり前なので。
――宿舎も変わりましたか。
田中さん 当時は、男性と同じ宿舎に入るということがルール的にできなかったので、私はクルマで現場まで通勤していました。ただ、夜間にトラブルがあったりすると、現場に駆けつけるのはけっこうシンドかったです。今は、男性と同じく宿舎で寝泊まりできるようになっているので、その点はラクになっています。
マネジメントの仕事は大変だけど、責任を持ってやり遂げる
――そもそもの話ですが、「トンネルをやりたい」ということで入社したのですか。
田中さん いえ、とりあえず建設会社に入りたいということで入社しました。トンネルに興味を持ったのは入社してからのことです。
――トンネルに興味を持ったきっかけはあったのですか。
田中さん 最初に入った現場がトンネルの明かりの現場だったのですが、「明かり工事とトンネル本体工事とは全然違うよ」という話を聞いて、興味を持ちました。
――入社当時、技術系の女性社員は何人いたのですか。
田中さん 全部で17名ほどでした。現場に出ている社員はもっと少なかったと思います。今は100名弱ほどに増えています。
――トンネル工事の長ということですが、マネジメントの仕事には慣れましたか。
田中さん 部下がつくのは初めてのことなので、「自分って未熟だな」と日々感じながら、毎日必死でやっています(笑)。自分が担当する仕事だけではなく、部下のことや発注者さんのことも考える必要があるマネジメントの仕事は、やはり大変です。ただ、任された以上は責任を持ってやり遂げていきます。
――休みの日はどうしていますか。
田中さん 実家が隣の県なので、実家に帰っています。近くの現場に後輩の女子社員がいるので、女子会をやったり、一緒に遊びに行ったりもします。
――前田建設工業は働きやすいですか。
田中さん 働きやすいと思っています。周りの社員はフレンドリーな方々ばかりで、親身になってくれます。良い会社だと思います。
選ばれたことが間違いでないことを証明してほしい
――松澤さん、お二人への期待などをお願いします。
松澤さん どの業種でも同じだと思うのですが、私達が同年代だったころと比べて、人(担い手)は少ない一方で、求められることは非常に多くなってきていると思います。そのため、この現場での小山のように若い年齢において、監理技術者名などの作業所内での要職につくことも珍しくなくなってきています。
ただ、二人とも職員不足の中での消去法で今の立場に選ばれたのではなく、【その立場を全うできること】、【全うできるように成長できること】を信用されて選ばれていることは認識してほしい、選ばれたことが間違いでないことを証明してほしいと思っています。
職位が上がるにつれて、業務の目的や意味、その基となる法令や基準を強く意識して取り組まなくてはならない場面も増えてくるので、常にその部分に対する知識の拡充は行ってほしく思います。
同様に、いままでは、社内のいつも一緒にいる人間とのやり取りであったため、説明・言葉不足であってもある程度その真意を汲み取って、補足・手助けをしてもらう立場でしたが、今後においては、そうではない社外の人と話す機会が増えると思うので、その辺のスキルをさらに引き上げていってもらいたいと思っています。