大東建託株式会社は、このほどオンラインで「ESG説明会2023」を開催した。竹内啓代表取締役 社長執行役員、舘正文取締役 上席執行役員 設計統括部長、田中良昌取締役 上席執行役員 業務本部長、塩見洋志 経営企画部長が登壇し、グループパーパスとサステナビリィを軸とした経営やESGの取組みを紹介した。
同社は2023年6月に創業50年目を迎え、企業価値向上の実現のため、「託すをつなぎ、未来をひらく。」と明記した大東建託グループパーパスを策定している。同説明会では、サステナビリティ経営の全体像と、環境・社会・ガバナンスの各分野の取り組みを説明した。
2030年のありたい姿を樹木で表現
冒頭、竹内社長が登壇し、サステナビリティ経営の全体像を語った。今回、創業50年目を機に、企業の存在意義を意味するパーパス(Purpose)を策定。グループのパーパスは、「託すをつなぎ、未来をひらく。」とした。
このパーパス策定の背景には創業時から三方良しとする考え方が社内に存在した点が大きい。次の時代の変化に柔軟に対応し、事業活動を通じた社会貢献を行う企業を目指していく上で、パーパスに基づき2030年にありたい姿を樹木で表現した。
根は「パーパスに基づく考動・サステナビリティに基づく考動」を起こし、幹はコアの事業である「建設・不動産領域」の拡大、枝はコアから発生する周辺事業の「生活インフラ・くらしサービス」の拡充、葉は「まちの活性化・地方創生」事業を通じて社会に生まれる価値を表した。2030年のありたい姿の実現のため、様々な社会課題を自分事として捉え、さらにその先の2050年に向けて変革と挑戦を重ねる姿勢を示した。
グループを取り巻く環境では、少子高齢化、気候危機、オーナーの資産継承、入居者のライフスタイルや消費者意識の変化、取引先労働力不足など課題は山積みだが、これらの課題解決に挑戦し、実践することが地域社会への貢献を促すことに加え、賃貸住宅を軸としたビジネスモデルとした。
具体的には、環境配慮型住宅として、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス/エネルギー収支をゼロ以下にする)賃貸住宅の契約戸数は、累計で6万3,545戸(2023年10月末時点)に至った。また、全国約9万人のオーナーの土地・資産の承継や価値向上に貢献するほか、安心・安全な住環境を提供。さらに9,000社を超える協力会社と共存共栄のパートナーシップを築く。
このような取組みにより成長し、さらに持続的な価値を提供することで、成長に向けた価値の獲得を実現してきた。このサイクルを持続して循環させ、企業として成長を続け事業の拡大を進めるとともに2030年に向けた、大東建託グループのありたい姿、まちつくり、人とひと、人とまち、人と地域をつなぐことを実現していく方針だ。
その上で、竹内社長は7つのマテリアリティ(重要課題)を示した。
7つのマテリアリティの進捗状況を把握するため、KPIや2030年までの中期目標を設定した。竹内社長はサステナビリティ推進体制を見直し、KPI責任者(執行役員)をメンバーに追加し、業務の執行や施策の検討・決定などのスピード感をさらに加速することに期待。「サステナビリティ経営実現に向けて7つのマテリアリティの解決を通して、社会課題解決と企業価値向上の両立を目指していく」と語った。
環境や賃貸住宅では2030年までに具体的な目標を提示
次に、建築技術の責任者であり、環境推進を担当する舘正文取締役 上席執行役員 設計統括部長が「環境」と「賃貸住宅」の取組みについて解説した。
「環境」のKPIは、①温室効果ガス排出量の削減率(中長期目標:温室効果ガス排出量を2030年までに55%削減)、②再生可能エネルギーの利用率(同:再エネ導入率を2040年までに100%)、③エネルギー効率(同:エネルギー効率を2030年までに2倍)とした。
「賃貸住宅」では、KPIを社会課題対応型賃貸住宅供給率(同:ZEH供給割合2030年までに100%)とした。この社会課題対応型住宅は注力している環境配慮型住宅で推進し、ツーバイフォー工法の木造商品の供給を継続してZEH化を進めるとともに、鉄骨造、鉄筋コンクリート造のZEH化を順次行う。
さらに、環境と賃貸住宅のマテリアリティ解決に向けた具体的な取組みとして、「賃貸住宅における『ZEH』標準化」「LCCM賃貸住宅の開発」「CLT工法による賃貸住宅の開発」「ZEH賃貸住宅から『再エネクレジット」『省エネクレジット』を発行」「FIT終了後の再生可能エネルギーとしての活用方法を構築」「太陽光発電設備の設置」「バイオマス発電事業への参入」の7つを紹介した。
このうち、「賃貸住宅における『ZEH』標準化」では、2023年10月末の全完成戸数の2万285戸のうち1万2,197戸がZEH賃貸住宅で、全体の約60%に到達している。「新規契約戸数では伸びているため、今後に順次完成していくことでZEH賃貸住宅の割合はさらに増加するものと予測する」(舘取締役)
グループ全体で建築する賃貸住宅がZEHに切り替わっていくことで温室効果ガス排出量のスコープ3の削減に貢献する。しかし、2030年までに55%削減、2050年までのネットゼロという中長期目標ではZEH賃貸住宅のみでは難しいと試算しており、あわせてLCCM賃貸住宅の推進が必要としている。
「LCCM賃貸住宅の開発」ではこれまで、2021年6月に日本初のLCCM賃貸住宅を完成、2022年10月にLCCM賃貸住宅商品の販売を開始している。これは国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業」に採択されたことで販売の促進に繋がった。2023年にはCLT賃貸住宅がLCCM認定を取得。ちなみにLCCM賃貸住宅はZEH賃貸住宅よりも省エネ性能では上位に位置し、このZEHとLCCM賃貸住宅の両輪で中長期目標を達成していく。
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ZEHとLCCM賃貸住宅の両輪で目標達成
「CLT工法による賃貸住宅の開発」では、2022年8月にはCLT工法による4階建て賃貸住宅、2023年1月にはLCCM認定を取得したCLT工法による戸建賃貸住宅、2023年10月末時点では5棟のCLT住宅が完成している。
CLT工法の特徴は、鉄筋コンクリート造と比較して建設時の環境負荷が少なく、木材による温室効果ガスの固定効果も期待ができ、将来の建て替え時に解体でも再利用に効果があり、循環性が優れライフサイクル全体での環境負荷削減効率が高い商品だ。CO2削減効果では4階建て・12世帯のマンションで比較すると、CLTはRC造より約150t-CO2のCO2削減効果があると試算し、今後もZEH賃貸住宅、LCCM賃貸住宅と合わせて、CLT工法による賃貸住宅も推進していくことで、様々な形の環境配慮型住宅の供給を目指す。
このほかサプライチェーンサステナビリティの強化に向けた取り組みなどを説明した後、事業活動を通じた環境への対応をさらに加速させ、持続可能な社会への貢献と、企業価値向上へつなげる決意を示した。
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大東建託グループの「人的資本経営」
続いて、田中良昌取締役 上席執行役員 業務本部長が「社会」への取組みについて説明した。
大東建託の創業者は、「人はキャピタルである」との理念を掲げたが、これは人を企業の資本と捉え、価値を最大限に引き出し、企業価値向上へと繋げていく経営である。これからの「人的資本経営」は、これまで以上に”ヒトづくり”にこだわっていくとし、人の確保では採用に始まり、定着や育成、評価や報酬という施策の展開を通じて社員の成長を支援する。
その上で、施策が有効に機能するための成長エンジンと期待しているのが「ダイバーシティ」、「エンゲージメント」「ウェルビーイング」などソフト面の充実だとしつつ、特にダイバーシティ宣言を掲げ、個を尊重し、認め合い、多様性が強みとなる組織づくりを目指していく。
計画的な育成で女性管理職比率向上を目指す
女性活躍推進では、2021年から「女性育成プログラム」を導入。育成する上司に対してダイバーシティ推進に関する教育を行い、評価にも盛り込む。同プログラムの一つである「クオータ制」は3年後の上級管理職を含めた女性管理職数を設定し、計画的に育成していく制度で、2024年4月1日に第1期が終了する予定となっている。
同プログラムを導入して2年ほど経過したが、単に管理職比率を向上するだけではなく、定着策の検討などを現場目線で実施して積極的に女性活躍を推進している。2024年4月時点では、第1期では目標の女性管理職率を6%と設定していたが6.7%まで伸びると期待している。来期から第2期に移行し、2027年での中期的な目標は8.5%の設定を検討しており、今以上の施策を展開する。
また、女性活躍を推進する上で欠かせないのが男性の育児参加だが、大東建託では男性育休100%宣言プロジェクトに参画し、社内情報共有サイトで育休体験談の社内共有も積極的に実施することで、取得しやすい体制を整備した。その結果、育児休業取得率は119.1%(2022年度)との結果に至り、男性も育児参加が当たり前となる環境づくりに取り組んでいる。
女性施工管理職の定着を強化するためサポート策を展開
人材確保が難しい技術職の採用と定着については、新卒採用では土木・建築学生や学生がエントリーする企業数の減少に伴い、大東建託グループへの選考参加数も減少しているため、市場変化に合った採用手法の導入を目指しており、工事管理職による大学訪問、学生向け現場見学会や高校生採用を本格化した。また、採用のミスマッチを防ぐため、多様なインターンシップや家族向けの会社説明会など市場変化に伴う採用手法を導入した。
一方、まだ女性の少ない技術職には、入社後の不安を取り除くサポート体制が必須になる。そこで女性育成プログラムのうちの一つである「女性活躍推進委員会」でもサポートの内容について議論を展開中だ。現在、施工管理職の女性割合は1.7%に留まっているが、2028年度までに5%へ引き上げることを目標とし、交流会やキャリア形成を実施する。サポート体制としては、「業界横断プロジェクト『じゅうたく小町』への参画」「定期交流会・定期研修」「職種転換制度(※)の導入」などの施策により、ワークライフバランスの不安軽減、育児と仕事の両立をサポートする。
※職種転換制度…出産や育児などのライフイベントに直面した場合に、工事職(事務職)、設計・積算職といった希望職種へ一定期間職種転換が可能とする制度。
評価・報酬制度を強化し、新卒初任給の引き上げ+インフレ手当(特別一時金)支給
労働条件も目に見えるかたちで改善していく。採用競争力や人材定着力を高める適正な報酬水準の実現と従業員の目標達成意欲につながる評価制度の運用強化を実施するため、新卒初任給の引き上げ、インフレ手当(特別一時金)を支給した。今後の主な検討事項として、ベースアップや職務の内容や役割を考慮した採用市場における個人のスキル・経験などの市場価値を反映した評価をするなど、報酬体系も見直していく予定だ。
「人的資本経営はすぐに結果はでない。人への投資は従業員の成長が促進され、仕事の生産性やサービス向上につながり、ステークホルダーの満足度も高まる。そこで人的資本経営について速度を上げて推進する」(田中取締役)
大東建託グループは、ステークホルダーの多様なニーズに応えるため、サステナビリティを経営の主軸とし、事業活動を展開するなど大きな変革に踏み出した。特に重点的に取り組むべき課題を「7つのマテリアリティ」とし、事業活動を通して、この重要課題を解決することで、地域社会を支える企業を目指す。企業の責任として今だけを考えるのではなく持続可能な企業とはどうあるべきかを再考する時が来たといえるのではないだろうか。