セミナーで講師をつとめた三和建設の森本尚孝社長

セミナーで講師をつとめた三和建設の森本尚孝社長

「なんでもやります」は「なにもできない」だった。「選択と集中」で大手ゼネコンと互角に渡り合う、三和建設の逆転劇

三和建設株式会社(本社・大阪府大阪市淀川区、森本 尚孝代表取締役社長)は、事業における「選択と集中」を断行し、「食品工場」「特殊機能倉庫」「社員寮」という特定の分野に特化した事業ブランドを立ち上げて経営資源をこれらに集中投下し、顧客から“選ばれる存在”となることを目指してきた。

2025年12月に東京ビッグサイトで開催された「JAPAN BUILD TOKYO-建築・土木・不動産の先端技術展-」において、森本社長は「中小ゼネコンの選択と集中によるブランディング戦略」をテーマに登壇。過去最高益を更新し続ける同社の業績や、採用難の時代にあっても人材獲得に寄与する独自のブランディング戦略について講演を行った。

同社の経営理念は「つくるひとをつくる®」。これは、社員一人ひとりの成長と活躍こそが企業の礎であるとし、個の力を最大限に引き出す「ひと本位主義」を徹底して会社の仕組みに落とし込むものだ。本稿では、同セミナーの内容をもとに、森本社長が提唱する「中小ゼネコンが生き残るためのブランディング戦略」について詳報する

市場環境に左右されず、過去最高益を記録した経営基盤

セミナーのようす

講演の冒頭、森本社長は自身の経歴と会社の歩みを紹介した。1971年京都府生まれの森本氏は、1996年に大阪大学大学院工学研究科建築工学専攻を修了。大手ゼネコンを経て、2001年に三和建設へ入社し、2008年に同社社長に就任した。一級建築士や1級建築施工管理技士の資格を持つ技術者出身の経営者であり、早稲田大学環境総合研究センター招聘研究員や、「人を大切にする経営学会」理事など、社外活動にも精力的だ。

1947年(昭和22年)の創業以来、70年以上にわたり建設業を営む三和建設は、サントリー山崎蒸溜所をはじめとする大手企業や中堅・中小企業の食品工場、倉庫、社員寮、事務所などの建築事業を中心に実績を積み上げてきた。 その企業姿勢は外部からも高く評価されており、「働きがいのある会社ランキング」には7年連続でベストカンパニー入りを果たしているほか、第7回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞、2017年には関西経営品質賞ブロンズ賞を受賞している。

また、森本社長自身も『人に困らない経営~すごい中小建設会社の理念改革~』や『工場・倉庫建設は契約までが9割』などの書籍を執筆し、建設業界の経営の在り方と同時に、発注者が納得して建設会社を選ぶための考え方を発信している。

森本尚孝社長の著書

三和建設の業態はゼネコンであるが、その施工実績は多岐にわたる。食品工場、特殊な用途に特化した倉庫、社員寮、物流施設、商業施設、オフィスなど幅広いが、中でも象徴的なのが日本初のモルトウイスキー蒸溜所である「サントリー山崎蒸溜所」だ。ここでは世界的な評価を受ける「山崎」をはじめ、数々のジャパニーズウイスキーが製造されている。

現在80期目を迎える同社は、完工高約200億円、従業員数約200名規模を誇る。従業員の内訳は男性7割、女性3割。「事務職や設計職だけでなく、施工管理職などすべての部署で女性が活躍しているのが当社の特徴」(森本社長)と語る通り、ダイバーシティ経営も推進している。商圏は大阪本社・本店と東京本店を拠点に、関西・関東を拠点に全国展開している。

日本初のモルトウイスキー蒸溜所の「サントリー山崎蒸溜所」

森本社長は、ゼネコン業界の構造的な課題に着目した。「ゼネコンは規模の大小や商圏の違いこそあれ、ビジネスモデルそのものに大きな違いがない」という点だ。現在、日本の建設事業者はスーパーゼネコン5社、大手50社に加え、中小を含めると約2万社のゼネコンが存在し、専門工事業者まで含めると50万社にも及ぶといわれる。その中で三和建設は、地域に根差した「中小・中堅ゼネコン」に位置づけられる。

国内の建設投資額は、1992年度の84兆円をピークに減少傾向となり、2011年度には52兆円まで落ち込んだ。近年はインフレの傾向もあり工事金額は増加しているものの、安定した経営環境とは言い難い。そのような環境下において、三和建設は2025年9月期に売上高205億円(前年比156%増)、営業利益は前年比3.6倍と、いずれも過去最高を記録した。森本社長は「当社にも売上の波はあるが、日本全体の建設投資額の増減はあまり関係がない。重要なのは、顧客から選ばれることだ」と述べ、市場動向に左右されない顧客志向の重要性を指摘した。

2025年9月期は過去最高の実績を挙げた


「なんでもやります」は「なにもできない」と同じ

現在は好調を維持する三和建設だが、森本社長が入社した2001年当時は、国内景気の低迷に伴い資金繰りに窮していた。創業時からのあらゆる資産を売却し、まさに「なにもない会社」になったという。2008年の社長就任後も苦境は続いたが、会社を支えた有能な社員やパートナー会社とともに乗り越え、今日に至る。

昨今の建設業界ではDXやAI活用の推進が叫ばれているが、森本社長は「人の役割の重要性こそ再評価すべきだ」と未来を見据える。三和建設が第一に掲げるのは、人を軸にした永続的な繁栄だ。「我々は人によって選ばれ、人とともに成長していく会社」と強調し、2013年にはその想いを込めて「つくるひとをつくる®」という経営理念を制定した。建物づくりに関わるすべてが「人」によって生み出される以上、建物を建てること以上に「人」を育てることが三和建設の事業の本質であるとの決意表明だ。

こうした想いを明確にする経営手法を「理念経営」と呼ぶ。「つくるひとをつくる®」という理念を制定した理由は三つある。第一に、シンプルで覚えやすいこと。第二に、全社員が自分事として捉えられることだ。「人をつくることに関係のない部署はない。全員に当事者性が生まれる。第三に、時代を超えた普遍性があること。経営理念とは普遍的な価値を提供するもので、今後AIがどれだけ進化しても、人を育てる価値は永続的で通用し続ける」と、森本社長は理念に込めた普遍的なメッセージの重要性を語った。

続いて森本社長は、選ばれる会社であるための「集中戦略」の重要性を説いた。現在の三和建設は、BtoBビジネスを強化し、特定分野に強みを持つ設計施工で信頼を勝ち取り強固な基盤を形成しているが、かつては苦い失敗経験があったという。当時、取引先の金融機関などに「工事の予定がある企業を紹介してください」と営業をかけていた際、担当者から「三和建設さんの得意分野や特徴は何ですか?」と問われた。それに対し、当時の同社は「どんな建築工事でも分け隔てなくご紹介ください。なんでもやりますから」と答えていた。

しかし、この「なんでもやります」という回答こそが大きな間違いだった。「特徴がない会社だ、逆に言えば『なにもできない会社』だ」という印象を与えてしまっていたのだと、森本社長は当時を振り返り推察する。

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しぼれば広がる、独自ブランディングの展開

数多あるゼネコンの中で、三和建設が「かけがえのない存在」になるためには、従来の御用聞きのような営業スタイルを脱却する必要があった。紹介を依頼する相手の記憶に強く残るメッセージが必要だったのだ。経営学者ピーター・F・ドラッカーが生涯を通じて「何によって憶えられたいか」を問い続けたように、三和建設もまた、顧客の記憶に残るための施策を模索した。

そこで採用したのが、「しぼれば拡がる」という独自のブランディング戦略だった。専門性の高い分野に経営資源を集中させる決断をしたのだ。森本社長はわかりやすい例えを用いてこう説明する。「たとえば、深刻な花粉症に悩む患者がいるとして、駅前に『一般耳鼻科』と『花粉症専門クリニック』があれば、間違いなく後者を選ぶだろう」。

顧客は、自分専用のソリューションにこそ価値を感じる。これまで建設業界では入札による価格競争やダンピングが横行してきたが、それはゼネコン側が建物の価値を明確に示してこなかったことの裏返しでもあり、顧客に対する判断軸の「見える化」が不可欠だった

三和建設はこの考えに基づき、事業分野の絞り込みを断行。「食品工場」「特殊機能倉庫」「社員寮」の三分野に集中した。

まず展開したのが、食品工場建設に特化したブランド「FACTAS®(ファクタス)」だ。この名称には「工場(ファクトリー)に価値を足す(タス)」という意味が込められた造語である。単に建物を建設するだけでなく、顧客の食品事業そのものに付加価値をもたらすことを目指している。

銀座アスター食品 匠工房を完工。オーダーメイドの食品工場を設計するブランド「FACTAS®」を展開

次に、特殊な用途に特化した、オーダーメイドで最適な倉庫を提供するブランド「RiSOKO®(リソウコ)」を展開。危険物倉庫、冷蔵倉庫、自動倉庫など、高度な専門知識が求められる倉庫建設を得意とし、多様化する物流ニーズに応えている。

大手物流企業の山九北勢第3物流センターを完工。特殊機能倉庫に特化した倉庫建設ブランド「RiSOKO®」(リソウコ)も順調に推移

さらに、社員寮建設を通じて企業の人事課題解決を支援するブランド「HuePLUS(ヒュープラス)」も立ち上げた。「社員のエンゲージメントを高める」ことを目的に、企業が人を育成・成長させるための教育的要素を持った社員寮を提案しており、森本社長はこの分野の成長に自信をのぞかせる。「単なる事務所や一般的な建築では差別化が難しい。しかし、食品工場、特殊機能倉庫、そして人を育てる社員寮にリソースを集中投下することで、他社にはない強みを顧客に提供できている」(森本社長)。

強みは「探す」のではなく「自分で決める」ことから始まる

森本社長が強みに特化できた背景には、ある人物からの「強みとは決めるものである」という助言があった。三和建設の戦略は、この言葉を原点としている。森本社長は、面接に訪れる就活生と強みについて話す際、こうアドバイスするという。「強みは決めるところからスタートする。自分探しの旅はもうおしまいしよう。自分が何者であるかは、自分で決めよう」。企業も同様に、強みは探しても見つかるものではなく、決めた瞬間から積み上がっていくものだと断言する。

2011年に事業領域を絞り込み、「FACTAS®」を立ち上げてから今年で15年目を迎える。当時は珍しかった工場ブランドだが、専門性を高め、衛生管理や特殊設備への対応など、食品工場ならではの厳しい要求に柔軟に応える体制を構築した。「食品工場は国内に一定のマーケット規模がある。一時期、日本のものづくりは海外に流出したが、食品生産は国内に定着する傾向が強い。ただし、半導体や自動車工場とは異なり建設投資に安定性がある反面、高度なノウハウが求められるため参入障壁は高い。簡単な分野は模倣されるが、困難な分野ほど極める価値がある。もともと食品工場に強みがあったわけではなく、『食品工場を強みにする』と決めたときから、三和建設の今がある」(森本社長)。

このようにターゲットを絞り込んだブランディング戦略は、社員の意識にも変化をもたらした。「この分野であれば大手にも負けない」という誇りが生まれたのだ。超高層建築ではスーパーゼネコンに対抗できなくとも、食品工場や特殊機能倉庫という特化した土俵であれば互角以上の勝負ができる。この自信が社員エンゲージメントを向上させ、成長速度を加速させている。事業の絞り込みは、経営理念である「つくるひとをつくる®」と深く結びついているのだ。

今後も三和建設は、得意分野への「選択と集中」による専門性の深化と、若手とベテランの融合による多様性ある組織づくりを両輪として、持続的な成長を目指す。「つくるひとをつくる®」を理念に掲げたことで、社内のエンゲージメント調査でも好意的な反応が増え、離職率も低下した。約8割の社員が「働きがいのある会社」と実感するなど、人を大切にする理念は確実に浸透している。

「集中戦略」と「理念経営」の融合が導く、永続への道

講演の最後に森本社長は、企業のトップが「何を求めるか」を明確にする重要性を語り、セミナーを締めくくった。「少なくとも三和建設は人によって選ばれ、永続していく会社である。人が何によって選ぶか、そのためのツールとして『集中投下戦略』がある」

また、顧客や社会に「記憶される」要素として、人の成長は欠かせない。だからこそ経営理念で「ありたい姿」を明文化し、発信し続けている。 会社のすべての取組みを社員の意識と一致させる「理念経営」と、独自の「集中特化戦略」。この二つを融合させた三和建設の挑戦は、中小ゼネコンが次代を生き抜くための大きなヒントとなるだろう。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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