「上から目線はダメ!」徹底的に嫌われた現場管理者Aの顛末

嫌われて機能しないMM21の現場管理者

平成28年度までの建設投資額が約2兆625億円とも言われる横浜のMM21エリア(みなとみらい21地区)。このMM21エリアは「ガラ」が多い地層なので、杭打ち現場ではオーガーが思うように入っていかず、かなり苦労しました。何度もオーガーをやり直すなどして工事は難航。それでも元請けからは工期順守を求められ、2次下請けの職工チームにも苦労をかけざるを得ないという、現場管理者としては何ともしんどい現場でした。

そして、このMM21エリアの某現場には、周囲から相当嫌われ、現場管理者として全く機能していない現場管理者がいました。この嫌われていた現場管理者の話を紹介するのは、施工管理技士の皆様には反面教師として、ぜひ心に刻んでいただきたいと思うからです。

建築土木の工事現場は、異なる価値観を持った人間の集まりで独特の雰囲気があるため、人間関係に苦慮している現場管理者の方も少なくないのではないでしょうか?

険悪な雰囲気の現場に、嫌われ者の現場管理者A

建築土木の工事現場で耳にタコができるほど聞かされるのが「ホウ・レン・ソウ」という標語。朝礼で毎回念仏のように唱え、何か問題が発生すると、上から「ホウ・レン・ソウ」が徹底されていないからだと叱られます。しかし、そもそも「ホウ・レン・ソウ」が機能するのは、コミュニケーションが成立している現場である、という大前提があります。形式的な報告や連絡はしたとしても、信頼していない相手に相談なんてしません。その結果、些細なことで行き違いが生じて作業に支障をきたすことがあります。

私が赴任したMM21エリアの現場も、当初はコミュニケーションが欠如し、全体的に険悪な空気が漂っていました。そして、この現場にいた1次下請けの現場管理者Aは、いつも元請けや上司の顔色を伺うばかりで、影では愚痴をこぼしているような男でした。そうした振る舞いの結果、現場管理者Aは杭打ちの施工チーム全員から馬鹿にされ、完全に孤立。指示を無視されることも、1~2回では済まなくなっていきました。

現場の安全管理と効率性を考慮して、資材の置き方から鉄板の位置や敷き方などは、マニュアルに細くルールが定められています。しかし、嫌われ者の現場管理者Aがマニュアル通りに指示したところで、下請けの施工チームは右から左へ聞き流す。似たような光景はどこの現場でも見かけると思いますが、特にこのMM21エリアの某現場ではそれが顕著でした。現場管理者Aの指示が正しいかどうかではなく、現場管理者Aが言うこと自体が気に入らならないのです。

工事終了後に元請けが主催した焼肉大会でも、嫌われ者の現場管理者Aは施工チームのメンバー全員から、一緒に酒を呑むことさえ拒否される始末。この期に及んで彼なりに施工チームとコミュニケーションを試みますが、「お前とは口を聞きたくないし、二度と一緒に仕事なんかしない」と一刀両断。

なぜ、そこまで露骨に施工チームが現場管理者Aを毛嫌いするのか。施工チームの一人に聞くと「現場管理者Aはいつも元請けや上司のご機嫌伺いばかりの無責任男。なおかつ一切自分たちを信用していないから」という答えが返ってきました。現場管理者Aは信頼関係の構築に失敗し、仕事にも大きな支障をきたしていたのです。


現場管理者の現場管理術「ほっこりコミュニケーション」

さて、この現場の施工チームは仕事の精度が高く、正直「任せっきり」でも問題ないレベルでした。しかし、腕のいい掘削機のオペレーターはプライドが高く、仲間と反りが合わないところもありました。施工チーム内での揉め事も何度かありました。このような施工チーム内で意見の対立が起きた時は、現場監督が調整すれば良いのですが、日頃から施工チームに馬鹿にされている現場管理者Aでは収拾がつきません。

そこで、管理の補佐的な立場にいた私が意見調整の役目を負わされていたわけです。とはいっても、私が特別なことをしていたわけではありません。直接作業に手出しすることはせず、なるべく側にいて作業状況を見ているだけ。時折、タイミングを見計らって声をかけるくらいです。指示ではなく、「作業手順を確認する」という感じで声がけをしていました。

休憩時間は、なるべく一緒に過ごすように心がけました。会話は世間話が主でしたが、仕事の話題になった時は、彼らの意見や要望、愚痴の聞き役に徹します。話に耳を傾けていると、ちょっとした瞬間に彼らの本音が垣間見えるのです。それぞれにプライドを持っている反面、強いコンプレックスもある。そのコンプレックスが、時として反抗心を生む要因になるのだと感じました。

立場や役職がどうであれ、信頼していない現場管理者の指示は空虚な響きしかなく、つい反抗したくなるのでしょう。こちらが無理に聞き出そうとしても、人は簡単に本音を語ろうとはしません。しかし同じ目線で交わす会話だと、本人が気づかないうちにポロリと本音が出たりするものです。そして、その人となりも見えてきます。

肩の力を抜いて取り留めのない会話をすることで、自然体のコミュニケーションがとれるようになってきます。そこで初めて、本来の「ホウ・レン・ソウ」が機能するわけです。それが私流の「ほっこりコミュニケーション」。休憩時間も現場管理者にとっては腕の見せどころです。


作業手順をめぐって施工チームがケンカ状態

ある時、杭打ちの作業手順をめぐって、施工チーム内でオペレーターと職工が大揉めしたことがありました。意見のぶつかり合いを超えて、もうケンカ状態。まず私は、双方の言い分をじっくり聞きました。その結果、オペレーターの意見に整合性があると判断し、その手順で作業をすることにしたのです。職工たちは不満気味でしたが、これはオペレーターの指示ではなく、現場管理者である私の指示だから従うように、あえて語気を強めました。

職工たちは現場管理者の指示なら仕方がないと言いながら、渋々従ってくれましたが、実は職工たちの根っこには、オペレーターから偉そうに指示されるのが嫌だという気分があったのです。大揉めの原因は、プライドのぶつかり合いということだったわけです。結果としてオペレーターが提案した作業手順が正解で、渋々だった職工たちも、その作業手順が適切だったことを潔く認めました。

もし私がオペレーターの案に従うようにと指示していたら、職工たちは納得しなかったでしょう。渋々でも彼らが納得したのは、現場管理者である私の指示だったからです。オペレーターの作業案に私自身が納得し、その整合性を私の口から説明したこと。そして、オペレーターの見識を評価し、職工たちの高い作業精度を信頼していると伝えたことがポイントだったのです。

現場管理者は上から目線じゃダメ

プライドが高い人間ほど、自分が評価され信頼されていることに喜びを感じるものです。でもそれは、その場だけ、口先だけではダメで、日々のコミュニケーションがあるからこそ伝わります。私は作業が終わった後でオペレーターに「さすがだね」と声をかけ、職工たちに「ありがとう、ご苦労様」と感謝を伝えました。

それからというもの、プライドの高いオペレーターも、まるで別人になった感じで、積極的に相談してくるようになり、素直に私の意見を聞き入れてくれるようになりました。チーム内でリーダー的な存在に成長し、仲間内で揉めることもなく、仕事の精度がより向上しました。

どういう言い方で何を伝えるか、それ次第で相手の受け取り方が変わってきます。 愚痴や言い訳は嫌われ、評価を落としますが、根拠を示した整合性のある言葉は、現場管理者としての信頼関係を構築するために欠かせません。たまには「ヨイショ」も必要ですが、基本は本音で語らないと工事現場での信頼は構築できません。

現場で上から目線で指示するだけでは本来の意図は伝わらず、品質の高い仕事は期待できない。仕事場のコミュニケーションの目的は、仲良しになることではありません。相手を知った上で配慮すると共に、自分の役割と意思を明確に伝えることです。現場で上から目線で指示するだけでも、任せきりでもダメ。慣れ合いで仲良しになるのではなく、必要な時には毅然とした態度で物を言う。

監視するのではなく、注意深く目を配り周囲の話に耳を傾ける。そんな、当たり前のことを人間臭く自然体ですることが、現場管理者にとっては大切なのではないでしょうか。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「男女で雑魚寝」する社員旅行は嫌だ! 24歳女性現場監督の告白
ビニルホース4本で現場コスト1297万円を削減する「柱筋セット術」とは?
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
「下ネタと安全帯が当然」の建設現場は嫌だ!24歳女性現場監督の告白
「建築が遅れると設備が泣く」の本当の意味とは?…空調設備施工管理はつらいよ
「建設業協会に頼らない」全国で唯一、公益社団法人となった高知県土木施工管理技士会の狙い
建築土木業界で現場監督、不動産業界で不動産管理や賃貸営業を経験。マネージメントが得意。
モバイルバージョンを終了