建築施工管理技士が「施工図チェック」で失敗・クレーム・裁判沙汰を避けるための自己スキル診断 (中級編)

「施工図チェック」を上達させる方法

施工図チェックという仕事は慣れてくると、寸法や符号をチェックするだけでは、つまらないものです。今回の中級編では、一歩進んで「施工しやすい施工図」について考えましょう。

まだ建築施工管理技士としての経験が浅い技術者だと、「施工しやすさを施工図でどう表現するの?」と疑問に思うかもしれません。しかし、施工図のチェック方法ひとつで、施工性は大きく変わります。

施工しやすい「施工図」とは?

たとえば、躯体に金属の部材を取り付ける溶接作業ひとつにしても、平らな床に座って下向きの溶接を行う「納まり」の場合と、覗き込んでも溶接箇所が見えるか見えないかという手探り状態で溶接を行う「納まり」の場合とでは、どちらが施工しやすいでしょうか?

答えは聞くまでもなく、前者ですよね。しかし、ここで本当に大切なことは、作業員さんがやりやすい納まりにすることが大切だ、ということではありません。施工しやすい納まりの施工図を検討して、作業員さんが作業姿勢の良い状態で作業を行うことは、すなわち「良い品質」の建物をお客さんに提供できるということです。

施工しやすい施工図は最終的に、お客さんに「良い品質」の建物を提供することになる。そういう点で、施工しやすい施工図は、非常に大切であると意識すべきです。私たち施工者はお客さんのお金で施工管理という仕事をさせてもらっています。

「施工図チェック」は、出来上がりをイメージしよう!

平面詳細図などの施工図をチェックする上で大切なのは、出来上がりの形をイメージしながら施工図をチェックするということです。具体的には、たとえば「小壁」の取り扱い方などによく現れてきます。

設計図通りの寸法だと建具の周囲に、小さな面積の壁(幅20mmとか)が出来ることがあります。設計図にどこまでも忠実にチェックするだけなら、そのままでも正解ですが、幅が20mmの部分に石膏ボードを貼る必要がありますし、その上にクロスを貼る必要もあるはずです。このような幅の狭い所の施工は非常に困難ですし、品質的にもあまり良くはありません。

小壁が出来る場合は、壁や建具を若干調整することにより、壁を枠に差し込むように納めてしまえば、小壁が発生せずに施工性が劇的に向上し、なおかつキレイです。このような提案は基本的に施工者側が行なうべきです。何の提案も行わずに「設計図通りだから」とそのまま施工する建築施工管理技士よりも、「このようにすると納まりが良いですよ」と提案する建築施工管理技士のほうが、設計事務所側からも信頼されやすいでしょう。

しかし、建物の出来上がりをイメージして「事前に提案できる」レベルになるには、ある程度の施工上の「失敗」と「経験」が不可欠です。私も建築現場で作業員さんから「おい、こんな所にどうやってボード貼るの?」と言われて、「う~ん、確かに」と現場で立ちすくんだ経験が何度となくあります。作業員さんに注意されるのが嫌で納まりを提案するという側面があるのも本音です。

作業員をイメージできる「施工図」

施工しやすい施工図を作成するために、もうひとつ大切なことがあります。特に、サッシ図や金物の図面などの専門業者が作成してきた製作図をチェックする場合に気を付けるポイントです。

それは、「下地の状態を考える」ということです。どのような下地にどのように取付けて、その施工性は良いのか?という感じで、図面の中に「作業員さん」を登場させるのです。

図面上で、作業員さんが実際に作業をしている所をイメージできれば、 「この金物のビス止めの向きは横からの方が施工しやすいし品質的にも良いな」などのイメージが出来てきます。このように施工の順を追って施工図が見えてくると、施工図チェックのレベルが劇的に上がり、何よりも施工図のチェックが「面白く」なっていきます。

施工の流れを意識した「施工図チェック」

しかし、現実は「このクリアランスでアルミサッシは何とか溶接できるけど、アルミの額縁はどうやって溶接固定するの?」というような納まりで施工図を完成させる人が後を絶ちません。では、どのような取り組み方を行えば良いかと言うと、やっぱり図面の中で施工をイメージすることが大切なのですが、「流れを逆に考える」というやり方も効果的であると感じます。

たとえば、直交する壁の近くで、軽量鉄骨の下地の一般壁に鋼製建具を取り付ける場合を考えてみましょう。まず鋼製建具を取り付けるためには、「溶接しろ」が必要です。溶接しろは大抵20~25mm程度確保します。そして、ひとつ前の工程に戻ると、鋼製建具を溶接するための軽量鉄骨にはライトゲージが設置されていないといけません。さらに、ライトゲージは、スタッドと抱き合わせて使用するため、壁の厚さにもよりますが、75mm程度以上の「壁」が必要です。

仮に、鋼製建具の周辺の直交する壁が、コンクリートの壁であれば、そこに溶接すれば良いので問題ありません。しかし、耐火遮音壁のように一般壁より先行して仕上がる溶接出来ない壁の場合には、先程の20+75mm程度の「小壁」を造るのが正解です。

「あれっ、さっきは小壁がないほうがキレイって言ってたのに」と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、この内容をお伝えするために、あえて言葉足らずにしました。正確には「理由のない小壁は必要ない」です。何事にも必要な場合と、不必要な場合があるのです。

施工上の納まりとして絶対に必要な寸法

今回私が一番お伝えしたかったのは、「納まりに込める想い」です。ただ単に、設計図通りの寸法だからというのではなく、「この寸法は○○という施工上の納まりとして絶対に必要な寸法なのです」と胸を張って設計事務所に提案することが、より良い建物を造っていくためには必要不可欠であるということ。これを私は数々の失敗から学んできました。皆さんの参考になれば非常に嬉しいです。

↓初級編・上級編はこちら!

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大学工学部を卒業後、大手ゼネコンに入社。駅前再開発工事や大型商業施設、教育施設、マンションなどの現場監督を担当している30代の1級建築施工管理技士。新人時代の失敗で数千万円の損失を出した経験から、日々の激務に追われながらも、新人教育に熱意を燃やしている。現場でのケンカの回数は30回ほど。
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