自分の気づきで動ける土木技術者こそ100点満点。中村建設(奈良県)の「変わりシロ」とは?

中村建設株式会社(奈良県)の中村光良社長にインタビュー

中村建設株式会社(本社・奈良県奈良市)の中村光良社長は、奈良県のインフラを支える本業のかたわら、「日本一の地域建設会社」を目指し、平成26年1月に「一般社団法人地域建設業新未来研究会(CCA)」を立ち上げました。

以来、全国各地の建設会社25社を会員に迎え、地域建設業が抱えるさまざまな問題の解決に向け、精力的に活動を展開しています。

中小企業が中心の地域建設業ですが、その中で「キラリ」と光る存在となるためには何が必要なのでしょうか?そして、そのために必要な土木技術者の資質とは何でしょうか?

地域建設業の現状、あるべき姿をめぐって、ホンネのところを語っていただきました。

中村社長が腰掛けているのは、新潟の建設会社からもらった記念品。玄関にあったので、思いつきで「じゃ社長、これに座ってください」とお願いすると、「ええですよ」の一言で、パチリ。なんとも気さくなお方でした。

建設業は構造改革の努力をしないで生き残ってきた業界

施工の神様(以下、施工):地域建設業の現状をどう見ていますか?
中村光良社長(以下、中村):結論から言うと、地域の建設業はもっと変わっていかなければいけないと思っています。高度経済成長以降、地域の建設業はグワッと伸びました。建設業だけではなく、すべての産業が大きくなった時代です。

その後、バブルが崩壊し、建設業以外の産業は衰退しましたが、建設業はバブル崩壊後もしばらく良い状態が続きました。中村建設はバブル崩壊後に最高売上げを出しました。地方で公共事業に依存しているうちのような建設会社は、他産業に比べ、バブル崩壊が5年ぐらい遅かったわけです。

建設業以外の産業が、バブル崩壊後の対策として何をしたかというと、組織の構造改革に乗り出し、規模の縮小やリストラ、組織の再編などを行いました。建設業も他産業に遅れて売上げがドーンと落ちていきましたが、バブル崩壊後、せいぜいリストラをやったぐらいで、組織全体の構造改革や社員の意識改革はできていません。建設業は、今まで構造改革の努力をしなくても生き残ってきた業界であり、そういう意味での苦労をしてこなかった珍しい業界です。

中村建設株式会社 中村光良代表取締役

地域の建設業は「町医者」、「お世話役」です。建物や道路をつくるだけでなく、頼まれれば草を刈ったり、地域のありとあらゆること、お困りごとを手助けするのが、地域の建設業の役割です。戦前からそういった役割を担ってきました。地域の建設会社の社長は、「経営者」と言うよりは「町の親方」であって、そういう建設業独特の体質が、構造改革を妨げた大きな理由だと思っています。

建設業は、他産業のように、何をしているのかわからない部署がポコポコできて、ブヨブヨした組織になっているということもありません。しかし、組織が何も変わっていないので、いざとなったときにどうしてよいかわからない状態にあります。しかし、その分、他の産業も経験したことのない未知の領域に入っていけるポテンシャルがある業界だとも思っています。

中村建設程度の規模の会社は、総務、経理、営業、技術といった最低限の部門しかありません。会社組織の脂肪分はないわけです。「変える」と言っても、営業部門をなくすわけにはいきませんが、「変わりシロ」というのは、社員個人の中に十分ある、というのが私の考えです。変化を起こすのは、会社ではなく、われわれ個人です。

図面にない「努力シロ」が技術者差別化の物差し

施工:土木技術者も変化すべきだと?
中村:技術者個人の資質は、所属する会社の規模によって特殊技術のノウハウで差が出ることはありますが、土木の基本的な技術の部分ではそれほど違いません。大手と中小とで違いがあるとすれば、個人の意識の差です。

例えば、図面が出てきた、特記仕様書がある、それをもとにモノをつくるという点では、たぶん、どの土木技術者でも、ほぼ同じような品質、工期で納めるので、そんなに差は出ません。差が出るのは、プラスアルファの部分、過程をどうやるかの部分です。これは図面に書かれていない技術者の「努力シロ」です。この道路は何のためにつくっているのか、役所のためではなく、住民のためだということを多少でも意識できれば、技術者の動きに必ず何らかの変化が生まれます。私は、その辺の動きを、同業他社の技術者と差別化する上での物差しにしています。

ただ、会社から「こうせえ」と指示されてやっている場合は、ただのやらされ仕事です。技術者は何もやっていないのと同じです。技術者自らの気づきの中でやるからこそ、意味があるのです。そういう気づきで動いている土木技術者は、それだけで100点満点の技術者です。

今の建設業界は、若者が減っている、職人も減っているなど、悲観論ばかりです。国土交通省では、これを何とかするために、ICTの導入や外国人労働者の就労などの施策を進めています。「週休2日制の導入」は「オイ、本気かよ」と思っていますが(笑)、多くの施策はやってムダになることはないと思います。

しかし、逆に決定打になる施策もないと思っています。建設業界が抱える問題を解決する決定打は、そもそも存在していないというのが、私の考えです。一つの大きな施策ではなく、本当に小さなことを含め、ありとあらゆることを少しずつ変えていく必要があるという考えです。そのためには、建設業に関わる人間全員が本気になって取り組む必要があります。「誰かがやってくれるやろ」とあぐらをかいている人間は「負け組」になります。


9割の建設業経営者は「人がけえへん」と文句を言っているだけ

施工:土木技術者の採用はどうなっていますか?
中村:採用には苦労しています。人が全然いません。私は「一般社団法人地域建設業新未来研究会(CCA)」という組織の代表をしており、全国の25社ほどの建設会社の経営者と意見交換していますが、人がいないのは、地域性で言えば、奈良県に限らず、全国どこでもそうです。どこも枯渇しています。

ただ、企業別では、話は違ってきます。集まっている建設会社には、人が集まっています。なぜ人が集まるのかと言うと、採用活動に社員の強い意識と資本とそのための工夫をしているからです。人に来てもらう努力をしているか、していないか、その違いがあります。多くの地域の建設会社は、その努力をしていないのに、「人がけえへん」「職人がけえへん」「これからどないしたらええねん」と文句を言っているだけなんです。

じゃあ、ブツブツ文句を言っていれば、国や県が土木技術者を手配してくれるのかと言うと、「そんなわけがないやろ、アホウ」ということになります。多くの建設会社が文句を国や県に言いに行きますが、筋が違う話です。社長が何の努力もせず、役所に責任転嫁しているだけです。あるいは、大手の建設会社がやってくれると思っている人もいます。そんな会社に人は集まりませんよねえ。地域建設業の9割の社長は、そんな国や自治体頼みの体質から抜け出すことができていなんです。

施工:しかし、それでも人の採用を続けてこれたわけですよね?
中村:昔は、人のつながりなどで、何とかなってきたんです。ところが、最近はそういうつながりで人を引っ張ることができなくなっています。インターネットなどで個人がカンタンに業界の情報をとれるようになっているのもあって、土木を勉強している学生であっても、建設以外の華やかな仕事に流れることは少なくありません。

学生の意識の変化もありますが、親などの影響もあります。中村建設で内定を出した学生の親から「ウチの子どもを建設会社で働かせるわけにはいきません」と電話がかかってきたことがあります。会社として情けない話です。

私は、悲観論ばかりの不毛な議論は終わりにして、行動することにしています。例えば、CCAで知り合った他県の建設会社で人集めに成功している会社があったら、マネさせてもらいます。それを繰り返していると、奈良県では他にやっているところがない異色の会社になっていきます。CCAでは経営者だけでなく、技術者も一緒に行ったりするので、他県の技術者同士の横のつながりも生まれます。

建設業界団体も今のままではダメ、若い世代が改革していくべき

施工:横のつながりという意味では、業界団体などがありますが。
中村:全国建設業協会など既存の団体も今のままではダメです。形骸化してあまり役に立っていません。バブル前にやっていたことを今もそのまま続けているからです。業界団体の中には、意識を変えて何かを作り出そうとしているところもあるので、すべてがダメというわけではありませんが、多くの団体は、真新しい活動をしていません。本来は、業界団体が時代の先端を走って、監督官庁や、地方の行政府と地域のためにタッグを組みながら、もっと根本を変えていく取り組みをすべきなんです。

私は、これまでそういうことを言い続けてきました。われわれの世代がトップに就いているところは少しずつ変わってきてはいます。私は今54歳ですが、私と同世代、若い世代の連中はこの後の危機感の中で行動を起こそうとしていますが、上の世代の古い意識はなかなか変わりません。「そこまでせんでええんちゃうの」という、アンパイを置きにいくような体質がまだまだ残っています。

各業界団体の現在のトップは、だいたい年齢的には私の一回り上です。私自身、建設業界を改革することを考えると年齢的にはピークが来ていると感じています。数年後、われわれの世代がトップを務めるようになって、その頃の40代 50代の経営者が、その時代に合った何か新しいことをやろうとしているときに、彼らに改革を任すことができるか、任せる人材を育てるのも、われわれの大きな課題であると感じています。

現場代理人と役所の現場担当者との飲み会の機会があったら…

施工:入札不調などの問題は、発注者と受注者の意思疎通ができていないのが原因では?
中村:発注者である役所との密な連携、調整がない限り、住民に対するまともなサービスの提供はできません。役所が企画し、建設会社がものを作るわけですから、ここの連携ができていなければ、本来ムリな話です。

ところが、実際の現場では、お互い相手がどんな人間か、どんな性格かも知らないで、一緒に仕事をしているわけです。普通のビジネスではあり得ませんよね。ともに仕事をするなら、酒を飲みながらじっくり話し合って、お互いの性格なども理解した上で、仕事に取り掛かるものでしょう?国交省のキャリアの人には、気さくに話し合える方もいます。発注者の現場担当の人ともそういう場が持てれば、「そんなに一気に仕事を出されても、ムリでっせ」などという話もできます。本当の無駄を省き効率的に住民サービスが提供できるはずです。

ところが、残念ながら、奈良県を含む多くの県、市町村のレベルでは、そのような話し合いはできていません。県や市町村の人は、話し合いの席についても、役所が怖がって、形だけみたいなところがあります。現実にはゼッタイない話ですが、現場代理人と役所の現場担当者との飲み会の機会があったら、どれだけスムーズに仕事が進むだろうと思います。公共工事がスムーズに進まない一番の要因は、現場の人間関係ですから。「そんなもん、一回酒を飲んだら、済む話や」と思っているんですけどね。

 


 

実際にお会いした中村光良社長は、非常にエネルギッシュな方でした。これまでインタビュー取材の中で、その人の持つ「雰囲気」に圧倒されることが時々ありましたが、中村社長もそのうちの一人に入ります。関西弁をカギカッコ「」で編集したのも、中村社長のナマの言葉を読者に感じてもらえたらという思いからです。

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