国土交通省が「i-Construction 2.0」という新たな政策(あるいは概念)を打ち出して、9ヶ月ほどが経過した。
i-Construction 2.0では、「施工のオートメーション化」、「データ連携のオートメーション化」、「施工管理のオートメーション化」という3つのオートメーション化(自動化)を進めることで、2040年度までに建設現場における省人化(少なくとも3割)を目指す、としている。
i-Construction 2.0は、従来のi-Construction(1.0)のバージョンアップ版という位置づけだが、1.0が、ICT施工の活用により、建設現場の生産性の向上を目指すのに対し、2.0は、自動施工(遠隔施工)などにより、主に建設現場の省人化を目指す(生産性も1.5倍の向上を目指しているが)というフォーカスの違いがある。
i-Construction 2.0による建設現場の省人化は実現するのか。その実現にはどのような課題があるのか。実現によって、建設業界はどう変わるのか。
国土交通省大臣官房参事官(イノベーション担当)として、i-Construction 2.0を主導する森下博之さんにお話を聞いてきた。
i-Construction 2.0は、インフラの作り方の変革プログラム
――国土交通省では2024年4月、「i-Construction 2.0」なる政策(概念)を提唱されましたが、今更ではありますが、どういった概念なのか、インフラDXにおける位置づけなども含め、教えて下さい。
森下さん 国土交通省は、2016年にi-Constructionをスタートさせて以降、2022年3月にインフラDXのアクションプランを策定し、翌年8月にDXの取り組みをさらに加速させるため、その改定版となる第2版を策定しました。
この中で、「インフラの作り方の変革」、「インフラの使い方の変革」、「データの活かし方の変革」の3つをインフラ分野におけるDXの柱として整理し、それぞれ取り組みを進めているところです。
i-Construction 2.0は、インフラDXアクションプランの第2版を踏まえ、従来のi-Construction、言ってみれば、i-Construction 1.0をバージョンアップしたものです。「インフラの作り方の変革」という柱をより強力に具現化するためのプログラムと位置づけています。どうやってインフラの作り方を変革していくのか、その方向性を示したものです。
国土交通省 報道発表資料:「i-Construction 2.0」を策定しました
オートメーション化によって建設現場を「省人化」する
――オートメーション化(自動化)によって変革していく、ということですね。
森下さん そうです。これまで取り組んできたICT施工は、生産性の向上に寄与しています。われわれが把握しているところでは、ICT建機を使うことで、作業スピードが2~3割ほどアップしています。ただ、建機毎にオペレーターさんが乗車しているという点では、従来施工から変わっていません。
われわれがi-Construction 2.0で一番打ち出したいことは、「省人化」です。将来の生産年齢人口の減少を見据えて、建設現場の人数を少なくする、ということです。人を減らしつつも、生産能力はこれまでと同等、あるいはそれ以上を確保することを目指しています。
これを実現するには、1人が1台の建機を動かすのではなく、1人で複数台の建機を動かすとか、自動で建機を動かすとか、なんらかのオートメーション化が必要になります。
自動施工は工種を問わないが、ダムと土工がトップランナー
――オートメーション化のターゲットにしている工種や作業内容などはあるのですか?
森下さん 今のところ汎用重機をオートメーション化するのが最も効果的であると考えています。汎用重機とは、バックホウ、ブルドーザー、ローラーといった建設機械や運搬用のダンプトラックを指します。これらの重機を組み合わせることで、さまざまな工種で施工のオートメーション化が実現できると考えています。
たとえば、ダム工事でコンクリートを敷き均して締め固めるのも、土工で土を敷き均して締め固めるのも、重機作業としての基本的な動きは同じなので、自動化についても同じように考えられると思います。あるいは、掘削した土や砕石などをダンプに積み込むといった繰り返し作業も自動化しやすい作業だと思います。
土木工事には、工種にかかわらず、重機を使った定型的な作業というものがあります。重機の自動化、オートメーション化の技術は、いろいろな工種で活用できると考えています。汎用重機を活用した自動施工は、すでにダム、砂防、トンネルといった現場で実際に活用され始めています。工種的には異なっていても、汎用重機をうまく組み合わせて活用するという見方をすれば、自動施工が可能となる工種はもっと広がるでしょう。
以上のようなことから、自動施工は基本的には工種を問いませんが、i-Construction 2.0のプログラムでは、まずはダムと大規模土工をトップランナーとして位置づけています。
――省人化以外にも効果を期待していることはあるのですか?
森下さん i-Construction 2.0は省人化にフォーカスしていると言いましたが、他にもさまざまな効果を期待しています。省人化によって、たとえば、現場作業の安全性の向上、快適性の向上が期待できます。そうなれば、働き方の変化や担い手不足の解消につながり、ひいては、建設現場のイメージ改善につながることを期待しています。
成瀬ダムの自動施工が大きなエポックになった

2023年8月、成瀬ダムにおける自動施工の様子。自動重ダンプによるCSG(現地発生材とセメント、水を混合してつくる材料)の運搬、自動ブルドーザによる巻き出し・敷均し、自動振動ブルドーザによる締固めが行われている。なお、一部重機は有人。(鹿島建設写真提供)
――i-Construction 2.0はいつごろから構想していたのですか?
森下さん i-Construction 1.0が立ち上がった2016年当時も、自動施工のポテンシャルはある程度認識していたと思いますが、技術的にはっきりとした見通しはまだ立っていなかったと思います。
i-Construction 2.0をスタートさせた契機の一つとしては、やはり成瀬ダムで自動施工が実施されたことが大きなエポックになっています。成瀬ダムの自動施工は、施工者さんが自らシステムを開発し、取り組まれたオリジナルな事例です。
屋外で行う建設現場で重機作業を自動化する技術は、フィールドロボティクスという分野の一つとも言えます。屋内で使用される産業ロボットとは異なり、屋外で使用されるロボット技術のことを指します。
われわれとしては、i-Construction(1.0)がスタートする前から、このフィールドロボット技術に着目し、建設現場に取り入れていこうということで、大学の先生方や建設会社さん、メーカーさんと意見交換を重ねていました。成瀬ダムの自動施工は、そういった取り組みがついに社会実装されたという思いがあります。
すべての建機メーカーで自動制御信号を共通化
――自動施工を進めていく上で、たとえば、主に地方の中小の建設会社から「コストがかかる」とか「人材がいない」といった声が上がることが予想されるわけですが、今後の課題についてどう整理していますか?
森下さん われわれにはすでにICT施工を進めてきた経験があるので、これから自動施工を普及させていく上での課題についても一定の整理はできていると自負しているところです(笑)。
その課題の一つは、自動施工に必要な製品をメーカーなどから建設会社さんが容易に調達できるようにする必要があることです。ICT施工についても、情報化施工と呼んでいたはじめのころは、建設会社が建設機械を改造して現場で使っていた時期がありました。ツールを供給する側の問題です。
この問題を解消するために、異なるメーカーの機械を自動制御する際の制御信号を共通化するという取り組みを進めています。昔、建機の操作レバーなどの操作形式を共通化したことがありましたが、これの自動化システム版のような取り組みですね。自動化システムをメーカー毎に開発するようでは、開発がなかなか進みません。
これは、土木研究所が中心となって進めている「OPERA(オペラ)」という取り組みです。建機メーカーさんのご協力を得ながらの取り組みです。そして、将来的には、自動施工機械を建機メーカーさんから購入したり、レンタル会社さんから調達したりできるようになればと思っています。ICT建機はすでに建機メーカーさんのカタログでもラインナップされていますし、レンタルでも調達できるようになっています。購入にあたっては補助金が出るものもあります。一昔前からみると、調達環境はものすごく進んでいると思います。
ICT建機購入で最大2分の1の補助金が出る
森下さん ちょっと話が逸れますが、ICT建機のマシンガイダンス、マシンコントロールのバックホウが、経済産業省の中小企業省力化投資補助金、いわゆるカタログ補助金ですが、このカテゴリーに追加されました。2024年の暮れに決まったもので、今後、建機メーカーさんがカテゴリーに製品を登録すれば、中小企業さんが購入するときに、最大2分の1の補助金が出ます。
――2分の1は大きいですね。
森下さん そうですね。製品を購入する会社の規模によって補助率が異なるようですが、「ICT建機は高くて買えない」と考えていた建設会社さんにとっては、朗報だと思います。この補助金は、あくまでICT建機の話ですが、自動施工機械の普及を進める上で、参考になる話だと思っています。