女性が「地域建設業」を救う!?女性中心に活動する「なでしこBC連携」とは?

女性が「地域建設業」を救う!?女性中心に活動する「なでしこBC連携」とは?

女性が「地域建設業」を救う!?女性中心に活動する「なでしこBC連携」とは?

地域建設業を救う女性中心の「なでしこBC連携」とは?

徳島県の地域建設業が中心となって発足した、「なでしこBC連携」というネットワークがあるのをご存知でしょうか?

建設業界では、自然災害や事故に備えるため、多くの会社がBCP(事業継続計画)を策定していますが、ある地域の建設会社がどれほど災害対応力を向上させたとしても、一企業単独ですべての不測事態に対応することは、まずできません。発災時に事業継続能力を確保するためには、同業他社と連携し、相互支援するネットワークを構築する必要があります。そんな考えから、「なでしこBC連携」は生まれました。

最初は、徳島県の株式会社井上組と株式会社福井組の2社でスタートした「なでしこBC連携」ですが、現在は、岡山県、和歌山県の企業を加えた10社が参加しています。「なでしこ」という名の通り、メンバーは各企業の女性社員が中心で、技術者だけでなく、事務職の方々も参加しています。

今回、そんな「なでしこBC連携」のメンバーが『施工の神様』の取材のために集結。徳島大学や四国地方整備局の方々にも加わってもらい、「なでしこBC連携」の意義、今後の展開などについて話し合っていただきました。

地域建設業の役割について、深く考えさせられる内容となっています。


「地域建設業ネットワーク」で工事評定点数の高い企業が交流

湯浅恭史 徳島大学環境防災センター助教(進行役)

※進行役は、徳島大学環境防災センターの湯浅恭史助教にお願いしました。

湯浅 徳島県は、南海トラフ巨大地震の被害想定が出ていて、もともとBCPが盛んな地域でした。内閣府が2005年に事業継続ガイドラインを策定したときに、「徳島県でも取り組みが必要だ」ということで、翌年には、県内企業に対してBCPを策定するよう周知されるようになりました。建設業も、早いうちからBCPに取り組んできました。ただ、真剣にBCPに取り組もうとすると、一つの会社だけでは限界があります。

そんなところから、このなでしこBC連携の取り組みが始まりました。企業単独では限界がある部分をお互い助け合いましょう、という目的がありました。「もしものとき」だけ助け合うのではもったいないので、ふだんから連携して、顔が見える関係をつくりましょう、みんなで一緒にパトロールをしましょうということになり、継続的に活動が続けられてきました。

国土交通省では建設業での女性の活躍を進めていますが、なでしこBC連携は、その動きとちょうどマッチしていたこともあり、広がりを見せています。最初は、株式会社井上組さんと株式会社福井組さんの2社で始まりましたが、今では、岡山県、和歌山県からのメンバーも加わり、10社が参加するネットワークに成長しています。

なでしこBC連携は、井上組さんが大雪で大変な思いをしていたときに、福井組さんから「連絡してもらえたら、応援に行けたのに」というやりとりが発端でした。では、建設会社同士の応援態勢をつくるにはどうすれば良いかということになって、それがいまのネットワークに発展したわけです。

私としては、このまま進んでいって欲しいと思います。各社の人材育成や品質向上、業務の効率化などにもつなげていき、参加各社がそれぞれの地域で長く愛される建設業になってもらいたいと期待しています。

ということで、なでしこBC連携に参加して、各会社でどういう変化があったのかなどについて、お話いただきたいと思います。

笠岡義明 株式会社福井組常務取締役

笠岡 私たち福井組では、湯浅先生のお話にあったように、井上組さんが困っているというお話を聞いて、何かお手伝いできることはないかとお声を掛けたことをきっかけに、井上組さんと連携しようということになりました。

最初は、お互いを知ろうということで、合同で女性社員によるパトロールを実施しました。パトロールを通じて、お互いの良いところ、悪いところなどを見つけ、相互理解を深めていきました。

なでしこBC連携の活動を通じて、社員の仕事に対する意識、防災に対する意識に変化が生まれています。

喜井義典 株式会社大竹組専務取締役

喜井 井上組さんは、県西部の大雪に見舞われる地域にあり、福井組さんは県東部の吉野川の近くで洪水などの危険性がある地域にあります。当社(大竹組)は、県南部の海沿いにあり、津波被害などのリスクがあります。それぞれ異なる地域特性にある会社同士なので、お互い補い合えるところは大きいだろうと考え、なでしこBC連携に3番目に参加させていただきました。

なでしこBC連携は、その活動内容をTVや新聞なメディアがよく取り上げてくれます。地元の人から「大竹組はがんばっているんだなあ」と言ってもらえますし、国土交通省や徳島県にも知ってもらえます。周りから注目されることは、社員のモチベーション向上につながっています。

従来のパトロールは、県南部だけでしたが、井上組さんの県西部、福井組さんの県東部にも行くようになり、県内全域をパトロールするようになり、社員の視野が広がりました。当社にとっては、これは大きな変化です。

なでしこBC連携に参加している会社は、工事評定点数の高い会社ばかりなので、そういう会社の取り組みを知ることは、当社にとって良い刺激になっている、ということも、活動を通じた良い変化だと考えています。

根来慎太郎 株式会社亀井組企画室係長BCP・ISO担当 災害・危機管理対応マネージャー

根来 当社(亀井組)は4番目に、なでしこBC連携に参加しました。亀井組でも従前からBCPに取り組んでいたわけですが、やはり1社だけでは先々難しいだろうということで、なでしこBC連携に参加しました。

1社でBCPをつくっていくと、どうしても担当者レベルのもので終わってしまいます。なでしこBC連携を通じて、他社の取り組みを自社にフィードバックできるようになったのは、大きな変化でした。BCPは担当者だけがやるのではなく、全社的に取り組まなければならないという意識に変わりつつあります。各社それぞれ課題を抱えていると思いますが、1社単独ではわからないことや、知らないことをお互いで考える場があることは、非常にありがたいことだと感じています。

活動に参加して思ったことは、皆さんが「自社だけではなく、他社のためにやるんだ」という思いを持って真剣に取り組んでいることがヒシヒシと伝わってきました。そういった方々との交流は刺激的なものでした。


岡山県、和歌山県から「なでしこBC連携」に参加する狙い

奥野一三 株式会社奥野組代表取締役

湯浅 奥野組さんは、岡山県で建設業の連携に取り組んでおり、徳島県での連携と併せ、それぞれの取り組みに関わっています。岡山と徳島の取り組みの違いは?

奥野 岡山では、県振興財団の方で平成24年からBCPの勉強会を開いてきました。この勉強会の中で、業種関係なく、ネットワークをつくろうということになって、岡山の会社だけでなく、仙台や島根などの会社にも参加してもらい、全国に広げていくことになっています。

当社がなでしこBC連携に参加したきっかけは、平成27年10月に井上組さんが駄菓子を販売しているのを知って、井上組さんを訪問したのがきっかけです。同じ月には、すでになでしこBC連携に参加していました。「顔の見える会社間の連携」は良いと考えたからです。昨年夏には、行政を巻き込んだ演習を実施されましたが、非常に画期的で、価値のある活動だと感じました。実際の演習を見学しましたが、驚きました。

ただ、岡山県の建設業については、連携がうまくできておらず、連携チームは立ち上がっていません。岡山県でもなでしこBC連携のような取り組みを導入したいと、あこがれのような、うらやましいという気持ちを持っています。

佐野絢子 有限会社NAO企画3D事業部主任

湯浅 NAO企画は最近、新たに参加されました。

佐野 当社(NAO企画)が初めてなでしこBC連携に参加したのは、丸山組さんの現場でパトロールを実施したときでした。丸山組さんから「良かったら、参加しない?」と声をかけられての参加でした。当社には、女性は私だけしかいないので、仕事の悩みなどを相談する相手がいませんでした。なでしこBC連携に参加してから、女性同士で集まれる場ができたことによって、仕事をするのが心地良くなった実感があります。

なでしこBC連携に参加する前は、当社では、BCPに関する取り組みは遅れていました。なにか問題が起こっても、だれがどこにいるかもわからず、連絡すらとれないような状態でした。なでしこBC連携の活動を通じて、少しずつ会社が変わってきたと感じています。

木村充宏 株式会社エス・ビー・シー代表取締役

湯浅 エスビーシーさんも最近参加されましたね。

木村 徳島県は、災害による被害の形態が地域によって異なります。いろいろな場所に立地する企業が協力態勢をとるなでしこBC連携の取り組みは、非常に有意義だと考え、参加しました。

徳島県はBCPに積極的に取り組んでいる自治体であり、建設業でも早い段階でBCPをつくっています。当社でもBCPをつくって、毎年見直しをかけていたのですが、やはり1社だけでやっていると、見直しのときに想定されるものが限られてきます。アイデアが湧いてこないんですね。なでしこBC連携を通じて、いろいろな会社と情報共有していくと、より柔軟性の高いBCPにできるのではないか、ということを期待しています。

国土交通省も期待する「なでしこBC連携」の防災力強化

青木朋也 国土交通省四国地方整備局 徳島河川国道事務所吉野川上板出張所長

湯浅 新しい仲間が加わることで、より多様性を持った活動ができるようになると思います。行政、発注者の方では、なでしこBC連携をどう見ていますか?

青木 私がなでしこBC連携に関わったのは、平成26年度末に福井組の現場で実施されたパトロールで、当時の女性職員がパトロールに参加しました。

行政、発注者という立場から言えば、災害が発生したときには、地元の建設会社の協力は不可欠です。建設会社の方々が連携し、防災力を高めるなでしこBC連携のような取り組みは、非常に助かる、ありがたいことだと考えています。それぞれの地域の建設会社が個々の弱点を認識してもらって、日々の訓練などを通して、弱点を克服する活動に対しては、今後も継続していくことを期待しています。

湯浅 個々の会社の弱いところを連携してカバーしようというのが、まさに、なでしこBC連携のねらいですね。

板倉舞 国土交通省四国地方整備局 徳島河川国道事務所工務第一課

板倉 私は平成29年4月に徳島に着任したばかりです。なでしこBC連携には、道路啓開に参加したのが最初で、なでしこパトロールにも参加しました。

建設業界は男性の職場なので、その中で働く女性の尽きない悩みはいっぱいあると思います。そういった悩みを共有し、解決していくほか、ゼネコンの方々やコンサルの方々がどういうふうな取り組みをすれば、災害などに安全、迅速に対応できるのかということを話し合えるということは、画期的なことだと思います。新人である自分自身の勉強にもなるので、ありがたいことだと感じています。


「家庭・企業・地域の防災」という視点で、BCPに厚みを

湯浅 今後のなでしこBC連携の展開について、期待することなどをお話いただけますか?

根来 なでしこBC連携のBCは、事業継続ですが、われわれ建設業に要求されていることは、災害時の対応と早期の復旧がメインになってくると思います。防災という視点から、建設業にないが求められるのかということなどについて、勉強会を開いて、情報を共有し、理解を深めていければと思っています。

例えば、家庭の防災、企業の防災、地域の防災という視点を入れて、自社にフィードバックするということができれば、厚みのあるBCPになると思っています。なでしこBC連携の中から、防災の専門家が出てくることを期待しています。

湯浅 女性目線に立った防災の専門家の誕生は、私も期待するところです。

笠岡 私は「働き方改革」や「ICT」についても情報交換し、お互い切磋琢磨していけたらと思っています。

湯浅 労働環境を整えていかないと、会社としても長く続いていきません。建設業界は人手不足なので、非常に大きな課題だと思いますが、この課題も1社だけでなく、連携して解決策を見出していく試みは必要だと思います。

木村 「働き方改革」はこれから大きな課題になってくると思います。働く人がいてこその会社であり、地域であり、防災なので、特に女性が安心して働ける環境づくりは、考えていく必要があると思います。建設業には、どうしても男性目線で会社を運営している会社が多いわけですが、こういった場で議論しながら、女性が活躍できる環境づくりを進めていければと思っています。

なでしこBC連携を「地域建設業界の活性化」にもつなげていく

湯浅 大竹組さんは、いかがですか?

喜井 なでしこBC連携をずっと続けていくことが大事だと思っています。女性目線のパトロールを実施してきていますが、パトロールの結果、どう改善されたかなどの結果がはっきり見えません。パトロールのやり方を変えるとか、事故を少なくするためにパトロールするという意識付け、テコ入れをする必要があると感じています。

建設業で働きたい、という人自体が少ないという現状があります。大竹組では、小学生に対して「建設業とはなにか」について教えたり、現場見学会を開いています。なでしこBC連携のメンバーの女性の方が小学校に行って、特に女の子に建設業を宣伝してもらえると、今までにはないアピールになるのではと思っています。

湯浅 なでしこBC連携の活動を続けていくためには、きっちり成果を出す必要があるというのは、おっしゃる通りだと思います。小学生にアピールする取り組みについては、地元に根づいた企業となるためにも、素晴らしい取り組みだと思います。他社でも実践してもらいたいと思います。

板倉 建設業での人材確保という意味では、これから進路を決めようとしている高校生や大学生へのアピールが非常に重要だと思います。女性が働きやすい業界になるということは、男性にとっても働きやすい業界になることです。なでしこBC連携には、引き続き、女性目線に立って様々な活動を行い、建設業界を活性化につなげていくことを期待しています。私も、そのために努力していきたいと思っています。

湯浅 職場環境の改善には、女性だけでなく、男性の力も必要です。その辺の話も今後共有していければと思います。

なでしこパトロールは、従来のパトロールと違う

湯浅 四国地整さんはいかがでしょうか?

青木 現場で一番気にしなければならないのは、安全です。安全対策として、一般的な取り組みはパトロールですが、どうしてもマンネリ化、定例化してしまうところがあります。流れ作業で、機械的にチェックシートをはじくだけとか、そういう傾向になりがちです。その点、なでしこパトロールは、従来のパトロールにはない視点で点検できるので、スゴイと思いました。

安全パトロールは、経験のあるベテランが行うからよく見えるということはありますが、いろいろな視点で見るということも大事だと思います。女性の視点で点検するという、なでしこBC連携のパトロールには期待しています。

男性が当たり前だと思っている現場環境が女性にはマッチしないのは、ある意味当然です。それが改善されない以上、現場に女性が増えることはありえません。なでしこBC連携には、女性にマッチした現場環境づくりのためにはどうすれば良いのかについて、パトロールなどを通じて、いろいろと意見をいただければと思っています。

湯浅 パトロールのレベルを上げることによって、現場の品質が上がったり、業務が効率化されたりということはあると思います。メンバーの方々には、パトロールの方法などについて、今後もいろいろと議論していただきたいと思います。

発注者には聞けない情報も、メンバー同士でアドバイス

佐野 当社(NAO企画)は測量会社ですが、なでしこBC連携では、測量会社だからこそできることを考えていきたいと思っています。今後、その辺のところについて、いろいろとアドバイスいただければと思っています。

湯浅 災害時になにをすれば良いかについては、発注者に聞くのが一番早いのですが、実際はハードルが高くて、なかなか聞けないということがあると思います。その点、なでしこBC連携のメンバーであれば、聞きやすいと思うので、この場を積極的に活用してもらえればと思います。

奥野 当社(奥野組)は少人数で、少数精鋭と言えば聞こえば良いのですが、なんでも一人でできるスーパーマンを育てようという目標を立てて、やってきた会社でした。スーパーマン達も年を取って、能力が落ちてきています。家庭の問題で会社を休みたいと思っても、一人で仕事を抱えているので、休めないということも起こっています。そんな会社に、若い人が来るはずもありません。来たとしても、スーパーマンとして育てようとするので、おそらく音を上げてしまうでしょう。

奥野組では今、仕事の細分化に取り組んでおり、分けた仕事をやってくれる人を探しているところです。メンバーの方々には、その辺の取り組みについて、いろいろとアドバイスいただければと思っています。

湯浅 人材育成は、奥野組に限らず、どの会社にとっても課題だと思うので、分科会なりで話し合う機会を持っていただきたいと思います。岡山県の方でも連携ネットワークができれば、地域間で解決できる課題もあると思うので、その点、私の方からも奥野組に期待しています。

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