アスファルト合材屋の不正
「アスファルト合材屋」と聞いて企業名が思い浮かぶ一般人は、ほとんどいないだろう。世間一般で「アスファルト合材屋」が注目されることがあるとすれば、談合で検挙されたときくらいだ。
アスファルト合材とは、早い話が道路の元になる材料で、道路の表面が黒いのがアスファルト合材である。なぜ合材と呼ぶかというと、いろいろな砂や砕石とアスファルトを混ぜ合わせて作るからである。
しかし、この業界ほど不正が多いところはないのではないか。それぐらい不正が多い。
アスファルト合材屋の闇の一端を紹介する。
アスファルト合材屋の伝票やマニフェストの偽造
アスファルト合材屋の営業に配属されると、一番初めに任される仕事は、伝票やマニフェストの偽造である。
伝票とは、アスファルト合材を納品した時の納品書と同じ。マニフェストとは、廃材を捨てた際に車両1台につき、1枚廃材を適切に処理した証明として必要な書類である。
アスファルト合材屋の客先になる土木業者は、公共事業を主としている業者が多い。そして公共事業の場合、多くの書類の提出を求められるのだが、そのひとつに合材の伝票やマニフェストも含まれる。
役所が設計した際の合材の使用数量や廃材数量と、伝票やマニフェストを照らし合わせて間違いがないか、請負金額を満額支払っても問題ないのかを確認するために提出を義務付けているわけである。
大抵の場合、役所の設計は、役所でも施工業者ではなく、設計事務所が設計している。そのため、実際の現場と設計では大きな相違がある。その相違を埋めるために伝票やマニフェストの偽造が必要になるのである。
現場では設計よりも少なくなる場合が多い。そしてアスファルト合材屋の営業は、伝票やマニフェストの偽造を、客先への恩を売るためのツールとして利用している。だが、不正は不正。工場に戻れば工場長がおり、偽造をしていないか常に監視の目を光らせている。
そこで営業は一度帰るふりをして、夜中に工場に戻ってくるのである。工場長によっては不正を黙認するために知らないふりをして、早く帰ってくれる工場長もいるようだが、多くの工場長は自分の責任になるので、過去に自分が同じ立場で不正を行っていたとしても、部下にはさせないというある意味、身勝手な上司もいる。
不正で絆が深まる現場監督とアスファルト合材屋
ある時、仲良くしている工事業者の現場監督から暗い声で電話が来た。
ちなみにその業者は、100年近くの社歴のある地元では知らない人はいない業者。従業員も多く、その地域では大きな企業だ。
現場監督「大変申し訳ないのだが、マニフェストを偽造してくれ」
現在している水道工事の現場は、ほぼ終了していて、あとは現場の検査に備えて書類整備を残すのみ。
さすがにマニフェストの偽造は、私だって出来ることならしたくない。
自分「どうやっても偽造しないと無理なんですか?さすがに工場長にバレそうで、やばいんです」
そう伝えると近いうちに、会社に来てくれと呼び出された。私はその日のうちに問題を解決すべく、会社に向かった。
待っていたのは、現場監督ではなく工事部長。この辺の業者で知らない人はいないくらいの顔の利く工事部長である。
別室に通された。
工事部長「〇〇君、いつもうちの従業員と仲良くしてくれて、ありがとうね。今回、あいつからマニフェストの件聞いたよね?」
自分「はい…さすがに部長、工場長が最近うるさいんです。こちらの大変さも知っていただきたいです。」
工事部長「〇〇君、もちろん分かっているよ。でもね、マニフェストがないとうちは次の仕事が取れないんだ。マニフェストを作ってもらう(偽造)ことによって、次の仕事が取れれば、〇〇君を必ず使うから。」
自分「…わかりました。今回、工事部長にそこまで言われてはお断り出来ませんが、絶対に他言しないでください。」
工事部長「男同士の約束だ。もちろん、それは守るよ。」
もちろんのことながら、工事部長は次の仕事もくれたが、悲しいことに不正を行うことで絆が深まるという、なんとも悲しい状況がこの業界には存在しているのである。
――これがフィクションなのか、ノンフィクションなのかの判断は、読者諸賢の良心にお任せするとして、ただただ不正のない業界になっていただきたいと願うばかりである。
思い当たるフシがある方は、ぜひ不正をやめていただきたい。