物流施設を無足場で施工
大和ハウス工業(株)と(株)フジタは、日鉄住金鋼板(株)と共同で、新型の金属サンドイッチ外壁パネルを開発し、外部無足場工法「ノスキャップ工法」 の実用化に成功した。大規模な施工現場での省力化を図るため、2013年から開発に着手。無足場工法の実用化によって外壁施工に必要な作業員数を最大3割削減することが可能になった。
少子高齢化を迎えている中で、鳶職人は40歳が限界と言われ、年を取ると手元作業が増える。鳶職人の仕事は現場では花形ではあるものの、高齢では難しいのが現実だ。また、高所からの墜落・転落災害事故も多く、鳶職人への志望者は年々減少しているとも言われている。そうした背景の中、大和ハウス工業とフジタは、無足場工法を開発。将来的に多くの現場で無足場化できる技術を創出したいと考えており、無足場工法はさらに進化していくはずだ。
外部無足場工法の開発担当者である大久保雅司氏(大和ハウス工業技術本部総合技術研究所建築系技術研究室建築構法グループ研究員)と、添田智美氏(フジタ技術センター建築第一研究部主任研究員)に話を聞いた。
外部無足場工法「ノスキャップ工法」の開発背景
――外部無足場工法「ノスキャップ工法」の開発の経緯は?
大久保 大和ハウスグループは、技術者不足対策と建設現場の労働環境改善のため、現場の省力化や短工期化など生産性向上を図る新技術の開発に努めています。
その一環として外部無足場工法「ノスキャップ工法」の開発に着手しましたが、ちょうどこの時期に、フジタが大和ハウスグループに入ったことから、両社で開発を進めることになりました。
――「ノスキャップ」の意味は?
添田 「ノスキャップ工法」の名称は、ユニットパネルを用いた無足場工法の英訳Non-Scaffold Unit Panel(ノンスキャッフォールドユニットパネル)を略したものです。
――無足場工法を初めて実用化したのは、どんな現場でしたか?
添田 物流施設です。物流施設や工場などの外壁を施工するには、外部足場を組み、下地材にパネルを1枚ずつ取り付けなければなりません。その際、外部足場の設置・撤去作業には多くの作業人員や作業日数を必要とします。
「ノスキャップ工法」で施工した物流施設
また、場内でのパネル搬送も、手間がかかります。そこで、「カーテンウォール」の要領で外壁を取り付けられないか、しかも、それをユニット化できないかと検討し、外部無足場工法「ノスキャップ工法」の実用化にいたりました。
――「ノスキャップ工法」ではどうやって外壁を取り付けるのでしょう?
添田 複数枚の外壁パネルを接合したユニットパネルを組み立て、クレーンで吊り上げて、建物の躯体に取り付けます。初めて実用化したこの物流施設では、2017年秋頃から外壁工事に入り、2018年2月に竣工しました。
――ユニットパネルは工場で組み立てるのでしょうか?工場でのユニット化は大和ハウス工業が得意とするところですが。
大久保 いいえ、現場で組み立てます。外壁パネルは、ロックウールを拘束材(鋼板)でサンドイッチ状に挟み込んだ建材です。重量約20㎏/㎡、働き幅600~1000mm、厚さ50mmで、長さは最大10mまで製作でき、これを組み立てたユニットパネルは幅6m程度、高さ7m程度になります。
大和ハウス工業の一般的な住宅の外壁パネルは幅2m、高さ3m程度なのでトラック運搬が可能ですが、これだけ大きなパネルを、ユニット化した状態で運搬することはできません。そこで現場に搬入してから地上で組み立てる「サイトPCa」の考えを導入しました。
外壁施工に必要な作業員数を3割削減
――開発で工夫した点は?
添田 現場の組み立てでも工場と同等の品質を確保するため、随所に工夫を施しています。特に配慮したのは、ユニットパネルを簡単にスピーディーに精度良く組み立てられる仕組みを、組み立て用架台に施した点です。
ユニットパネルを現場で製作する
――実用化する際、社内でどんな意見がありましたか?
添田 現場・設計・営業・積算・調達・技術など、関係者で協力し合おうという声が多かったです。スムーズに実用化させ、竣工後は次に活かそうという声がありました。私は開発側として現場を見ましたが、外部足場の組みばらしがほとんどないので、躯体工事に専念できたという印象を受けました。これにより、鳶職人の人件費削減のメリットが生まれました。
――鳶職人は実際に不要だったのでしょうか?
添田 手摺やネットなどの安全対策やユニットパネルを組み立てる架台の設置をする鳶職人もいるので、外壁パネル工事にかかわる鳶職人が完全に不要になったわけではないですが、結果的に外壁施工に関わる作業員を3割削減できました。
大久保 足場が不要になるメリットは多いです。足場の組みばらしや、足場の位置、足場の棚板を移し替える盛替えにも、それなりの手間がかかります。足場を使っていろいろな職種工事担当者が工事をしていると、工具や材料を外壁仕上げにぶつかるリスクもあります。工具等の落下による事故の危険性もあります。
そのため、今後も「ノスキャップ工法」に限らず、無足場工法の開発に力を入れたいです。ただ、標準化の視点では、まだ完成度を高める必要があります。工期短縮などのメリットも含め、もっと改良していくつもりです。
――この無足場工法は、物流倉庫以外でも適用可能なのでしょうか?
添田 たとえば、研究施設や工場などが考えられます。
大久保 住宅に関しては、使っている建材がサイディングなので、まったく違う外壁材です。よって本工法をそのまま導入することは難しいです。敷地条件によっては、採用が困難な場合もあります。たとえば、あまりにも狭い敷地条件であれば、クレーンで吊れないことに加え、架台も設置ができないなど難しい点が多いです。
また、外壁面積が小さければ、この無足場工法を採用する効果も薄くなりますので、スケールメリットのある敷地や建物サイズでの採用が前提になります。物流倉庫では「ノスキャップ工法」を標準化工法として採用されるようにしたいと考えています。工場や事務所などは意匠的に合うと思います。
外部無足場工法「ノスキャップ工法」の提案方法
――施主はゼネコンに設計・施工で委託するケースもありますが、「ノスキャップ工法」採用では上流からの提案が必要では?
添田 確かにこの無足場工法は、施工段階からの提案では採用が難しいと感じています。やはり、上流の設計段階から提案することが必要です。そのため、設計・施工委託のほうが採用しやすいです。社内では設計・施工の採用物件を探索中です。
「ノスキャップ工法」は、人手不足の状態であっても工事が進めやすいというメリットがあるので、人手不足解消、生産性向上に着目すれば、今後も本工法の採用に積極的になると思います。技術の改良を重ね、無足場工法で施工する物流施設を増やしていきたいと考えています。
大久保 大和ハウスには標準化を推進する社風がありますから、どういう工程を組めばメリットが活かせるかを考えていくことが重要です。今後、お客様への提案として工法採用を含めたトータルプランニングを訴えていきたいです。
いわゆるマルチテナント型物流倉庫の提案については、標準的な工法とすることは可能だと思います。お客様から「なにかいいアイデアはないですか」と言われた際、「ノスキャップ工法」の採用により工期が短縮できるなど、お客様の立場に立った提案を技術開発の側面からサポートしていきたいです。
――超高層では無足場工法が一般的ですが、さらなる標準化の推進により、足場が不要になる日が到来するのでしょうか?
大久保 将来的に足場をなくすことは技術的な目標にしています。「ノスキャップ工法」はその足掛かりです。今後、他の用途や小さな規模の建物でも無足場工法の開発に取り組んでいきたいです。
しかし、現状では足場があることで安定した品質と安全な作業環境が担保される面もあり、これをトレードオフすることはできません。安全確保の仕組みを考案しつつ、足場を減らしていく技術を考案していきます。
技術開発が先導する「建設現場の働き方改革」
――標準化が進展すると、現場の働き方改革にもなりますか?
大久保 この4月から現場を「4週5休」で作業することにしております。来年、再来年と1日ずつ休日を増やして、2021年4月には4週8休(完全週休2日制)にすることを目指しています。「ノスキャップ工法」の開発段階でも、最初はコストダウンを重視していましたが、人手不足という時代の流れの中で、省人化・省力化を図ることにも重きを置くことにしました。
耐火被覆吹付ロボット
最近では他にも、鉄骨の柱や梁をロックウール・モルタルで耐火被覆吹付するロボットを開発しました。通常、鉄骨の柱や梁をロックウール・モルタルで耐火被覆吹付するには3人の職方が必要ですが、ロボットを使用することで職方を2人に減らすことができ、耐火被覆工事の工期も約20%削減できました。
添田 フジタの現場も、現段階では「4週5休」に取り組んでいます。一般社団法人日本建設業連合会が「週休2日実現行動計画」を策定し、2021年度までに週休2日を定着させる目標を打ち出しています。
――研究開発が「働き方改革」に貢献する役割は大きいですね。
添田 多くのゼネコンが現場の作業性改善や労務負荷を低減するために研究開発を進めています。われわれも職人だけではなく、施工管理者の業務も、AIやIT技術などを駆使して、サポートしていくことが求められています。その点、大和ハウスグループとなり大和小田急建設と合併したことにより、大きなシナジー効果を発揮してきています。
大和ハウス工業とフジタの技術面でのシナジー効果
■これまでの大和ハウス工業とフジタの共同(シナジー)開発
- 【第1弾】 中低層建物向け耐震部材「鋼製座屈拘束ブレース」(2014年2月)
- 【第2弾】 「大型施設用床振動解析システム」(2014年7月)
- 【第3弾】 物流拠点到達エリアシミュレーションソフト「DFⅡ‐glas(ディーエフツー・グラス)」(2014年9月)
- 【第4弾 】基礎梁貫通孔補強「スターズ基礎梁工法」(2015年2月)
- 【第5弾】 耐震・制振部材「DUAL CORE BRACE(デュアルコアブレース)」(2015年3月)
――大和ハウス工業とフジタの共同開発は、「ノスキャップ工法」が6件目です。担当者レベルの感覚として、シナジー効果は感じていますか?
添田 大和ハウス工業とフジタが持っているバックグラウンドはそれぞれ異なるので、開発者としては新たな知見を得られて視野が広がっています。大和ハウス工業は、標準化や工業化に対する意識が高いと感じています。フジタはゼネコン特有の一品生産がメインです。両者がお互いに意見を出すことで、いいアイデアが生まれています。
大久保 大和ハウス工業は技術の標準化により社内に水平展開することが得意ですが、マニュアル類の整備やその技術のメリットを明確にしないと現場に浸透していきません。その点でフジタは実行力とチャレンジ精神にあふれているので、実物件での実施にスピード感を持って取り組んでいます。フジタの現場力と大和ハウス工業の標準化力がうまく合致してきたと感じています。
今後も大和ハウス工業とフジタがシナジー効果を発揮して、多くの現場で新開発の技術を適用したいと考えています。