全域「重要里地里山」に選定された町の建設業
鳥取県西伯郡南部町。山陰を代表する商都、米子市のすぐ南に広がるこの町は豊かな自然に恵まれている。
山あいに流れる金田川沿いには、たくさんのホタルが生息し、季節になると町内外の人々を魅了する。まさに“ホタルの里”と呼ぶにふさわしい南部町は、全域が生物多様性を保全する上で重要な環境省選定の「里地里山(重要里地里山)」だ。
株式会社ティー・エム・エスがそんな環境豊かな南部町で建設業を始めて30年。この間、土木、建築、リース業、保険代理業など幅広く手掛けながら、環境に配慮した活動も多数実施してきた。
ティー・エム・エスを率いる別所一生社長は、鳥取県南部町の建設業協会の会長に加え、鳥取県建設業協会の副会長も務めている。別所社長に環境への意識や、これまでとこれから、そして経営の価値観などを聞いた。
建設一筋の男が環境を意識
別所社長は高校卒業後、京阪神の会社に勤め、昭和46年に米子の建設会社に入社した。以後、トンネルや下水道、港湾など各種工事に携わり、昭和60年からは生コン会社の工場長として4年間、経営を学ぶ機会に恵まれた。そして昭和63年5月、親会社から分社する形で南部町に株式会社ティー・エム・エスを立ち上げた。
株式会社ティー・エム・エス 別所一生代表取締役
「米子から少し離れたこちらにやって来たのは、町の誘致があったからというのもありましたが、親会社に頼るのではなく自助努力をしなければならないと思ったからです。実際、設立後は親会社の下請けもしませんでした。親会社がやっていないことをやろうという思いも強かったですね」。
時折しもバブルの頃。ゴルフ場や造成地、高速道路など当時は多くの仕事があった。やがて平成不況が襲い、建設業の企業数は「20年で半減しました」と別所社長は話す。
環境への思いが強くなったのもバブル後のことだ。「内燃機関を使う仕事をずっとしていましたからね。排ガスを出して地球を汚す一方ではなく、少しでも環境負荷を減らさなければと思うようになりました」。
建設工事で大量発生する木質廃材をどうする?
別所社長は建設工事や家屋解体で発生する木質廃材に着目するようになる。
「例えば、林道工事などを手掛けると、もう大量の木材が出るわけです。かつては燃やすこともありましたが、ほったらかしということもありました。この木材を何とかしてリサイクルできないかと考えました。あまりにももったいないと」。
その頃、米子の王子製紙が新しい炉を作るという知らせが。その熱源にRPFを使用すると高温になり過ぎてしまう。そこで緩衝材として木材に注目が集まった。「スギやヒノキ、マツなど売れるものは売り、雑木や根っこなど売れないものは破砕して、堆肥や燃料に変えるようにしました」。
2000年代初頭の頃は移動式で始めたこのリサイクル事業、2011年からは本社から車で20分ほどの場所に専用の中間処理施設を設置。木質廃材の受け入れや処理を本格的に行うようになった。
「今では南部町、近隣の米子市、伯耆町の一般ごみも受け入れています。堆肥に使えない解体廃材と自然物を分けてチップ化し、商品化することで再利用しています」。
木材の破砕には、移動式木質系1次破砕機FURUKAWAパワーチッパーFPC1600型を使用。
チップ化された木質廃材。こちらは解体廃材をチップにしたもので堆肥としては使用しない。
電力会社を設立し、その利益で町のインフラ改善
さらに別所社長は2年前、新電力会社の「南部だんだんエナジー」という会社の立ち上げに尽力する。筆頭株主は南部町。再生可能エネルギーの太陽光発電や水力発電で生まれた電力を購入し、公共施設や民間企業に電力を販売する会社だ。
「元々、南部町はメガソーラーを運営していました。これをもっと有効利用したいという思いと、里山の間伐材による木質バイオマス発電の振興を目的にスタートしました。契約者数も増えてきて、最近ようやく黒字になりました。今では町のほとんどの施設に供給しているのではないでしょうか。年間400~500万円程度の節減につながっています」。
環境に配慮しながら、町の出費の抑制も実現しているのだ。この利益は「町のインフラに還元したい」と別所社長は語る。「南部町は上水道が少し弱いところがあります。水道設備も古いですしね。使い方は自由だと思いますが、私個人としては町のインフラを良くするために利益を町民の皆様に還元したいという思いがあります」。
株式会社ティー・エム・エス本社。社有車に電気自動車も取り入れている。
地域社会に恩返しする建設会社
これらの活動のほか、社有車を電気自動車に切り替えたり、アイドリングストップの意識を社員に徹底させたり、ティー・エム・エスは地道な活動も続けている。
「電気自動車はまだ一台だけですが、出始めの頃から導入しています。建築機械もハイブリッド仕様に順次切り替えていく方針です。夏場は熱中症の心配もあるので難しいところはありますが、アイドリングストップについては日頃からやかましく社員に伝えています」。
環境事業に積極的に取り組む理由について聞くと、別所社長は地元南部町への感謝を口にする。「誘致だったこともあって設立当初の3年間、税金を優遇していただいた感謝の気持ちがあります。それと南部町の方は思いやりがあって穏やかな人が多いし、子ども歌舞伎や青年団といった伝統文化もしっかり息づいているんです。そんな大切な地元の地域に微力ながら貢献したいという気持ちは強いですね」。
最後に夢を聞いてみると、別所社長はこう語ってくれた。「いつの日か木材を燃料以外の何かに使えるようにしてみたいですね」。ティー・エム・エスと別所社長の挑戦にこれからも注目だ。