路面電車「ひろでん」を守るエキスパート。広電建設「鉄道軌道事業」の活躍

路面電車の軌道工事と補修

広電建設株式会社(広島県広島市)は、電車とバス事業で広島の都市交通を支える 広島電鉄グループの1社として、各種土木・建築工事から注文住宅、不動産事業まで幅広く手掛ける総合建設会社だ。

1971年に創業。以来、今日まで公共事業をはじめ、ビル、医療施設、個人住宅などの様々な建設や不動産開発に取り組む一方、交通事業を看板に掲げる親会社の傘下ならではの特殊な分野でも技術を磨いてきた。この特殊な分野こそ、電車の鉄道と軌道に関する工事や補修を行う「鉄道軌道事業」である。

広電建設株式会社(広島県広島市)土木部の鉄道軌道事業

広島市の路面電車は、広島電鉄の前身である広島電気軌道株式会社が大正元年に軌道線を開業。2012年に100周年を迎え、市民からは「ひろでん」の愛称で親しまれる公共交通機関であり、近年はインバウンド需要が高まる国際平和都市ヒロシマの風景に欠かせない乗り物となっている。その安全を守り、利便性を向上させる工事やメンテナンスに日々奮闘する広電建設の活動について、執行役員土木担当の北川里志氏土木部長の田川英樹氏に話を聞いてみた。

広電建設執行役員土木担当の北川里志氏(右)と土木部長の田川英樹氏(左)


特殊な技術でレールを加工

——鉄道軌道事業を担う部署やメンバーについて教えてください。

北川 広電建設には「土木部」「建築部」「不動産住宅部」がありますが、鉄道軌道事業は土木部が担当しています。業務としては鉄道線や車道線(路面電車)に関連する線路や電停、駅などの工事やメンテナンスを全般的に行います。

田川 鉄道軌道工事が他の土木工事と大きく異なるところは、つながっているレールをミリ単位で「切る、曲げる、組む、つなぐ」という特殊な作業を最終電車の通過後、始発までの限られた時間でやりきることです。図面だけあれば誰でもできるという作業ではないので、メンバーはとにかく場数を踏んで技量を高めなければなりません

広島では軌道内にも立ち入りできる軌道と専用軌道の宮島線の鉄道が混在しています。工事を進める上で気を配る要素が多い環境の下、仕事を覚えて腕を磨くのは大変で、作業を1人でこなせるようになるには時間がかかりますね。

——主にどんな工事を行われていますか?

田川 電車の車輪と鉄同士で擦りあうレールは、ある一定の周期で交換しています。摩擦の少ない直線部分に比べて、横圧(おうあつ)のかかる曲線部分はよく摩耗するため、早めに交換しなければなりません。私たちが日頃、行っているのは主に既設レールの曲線部分の交換です。

電車が走っている間はまず作業できないので当然、夜間工事が多くなりますね。基本的には夜10時から朝6時まで道路使用許可を取って現場に規制をかけ、準備作業を行い、最終電車と始発の間の午前0時頃から5時くらいの間にレールを外して素早く交換する——という感じで行っています。

一方、電車が運行している昼間には線路周りの除草業務や、駅、電停施設の工事とメンテナンスなどの作業があります。電車運行中は、どんな作業も危険を伴うことから気が抜けません。メンバーには常に安全に対する注意を怠らないことを徹底させています。


朝までに作業を終える鉄道工事のストレスと重圧

——一般土木工事の現場とは、また違った苦労も多そうですね。

田川 いま振り返ってみると辛い思い出ばかりです(笑)。夜勤が続くと心身ともにしんどくて、たまりませんでした。例えば、レール交換やボルトをつなぐのは人力でやらねばならず、分岐部分などは継目(つぎめ)の箇所数がかなりありますが、その全てをボルトで締結し、すき間をミリ単位で調整するんです。しかも始発が走り出す朝までの限られた時間内で作業を終わらせなくてはいけません。

そのストレスや重圧は凄まじく、朝仕事を終えて帰宅しようとしても疲弊しすぎて家まで辿り着けず、そのまま駐車場の車の中で昼まで寝ていたこともあります。達成感を味わうよりも、むしろ疲労感の方が先に立っていました。私も当時は若かったからできたけれど、今の年齢で同じ仕事をこなすのはまず無理でしょうね。

始発時間までの限られた時間で作業を完了

北川 現場に出ていた頃は私も似たようなものです。ただ、「働き方改革」の機運が高まる最近では鉄道軌道の現場も昔に比べて、ずいぶん改善されてきたと思います。私や田川の時代は1人で何でもこなすのが当たり前でしたが、近年は作業を複数で分担して行うスタイルを採っています。例えば、これまで1人がこなしていた作業も2人で交代制にすることで各自の負担を軽減させてみたり…。

また、勤務体制についても土曜日に夜勤を行うと日曜日の昼に寝てしまい、休日がつぶれてしまうので原則として土曜の夜勤はなくすようにしました。従来の仕事のやり方や勤務体制のままでは、今の若い人は持たないですよ。


広電建設ベテラン2人の足跡

——ハードな現場で経験を積まれてきたベテランのお二人ですが、広電建設に入社された切っ掛けと今日までの道のりは?

田川英樹氏(広電建設土木部長)

田川 私は広島の建設業界にいれば、石を投げたら当たる(笑)広島工業大学土木学科からの新卒で入社30年目です。バブル期で新卒の売り手市場だった頃、就職活動を行いましたが、当時の土木部長が母の知人で会社訪問したところ、「就職先は他にもあるだろうが、ひとまずウチで1週間アルバイトしてみるか?」と誘われました。誘いに応じて働いてみると、その時の土木部は20代がほとんどを占める若い組織で、仕事自体はキツかったけれど、年齢が近い者同士のアットホームな雰囲気がすっかり気に入り、入社を即決しました。

入社後は、鉄道軌道工事を少しかじって官庁関係の公共工事に15年ほど従事したのち、40歳くらいから鉄道軌道を専門にやってきました。鉄道軌道部門は現場で経験を積んで技量を磨かなければ対応できない作業も多く、分岐器の組み立てなどは難度が高くて習得するのに個人差はありますが、最低5年以上かかるんですよ。現在は後に続く人材の育成に励んでいる最中です。

今の若い子は考え方も違うので、私たちの頃と同じようにはできませんが、甘やかすだけではなく、締めるところは締めて、それぞれが高いスキルを身に着けられるように指導しています。あと、会社が楽しいと思えるような雰囲気作りにも気を配っています。私が入社した頃のみんながいつも笑顔でいるような居心地の良い職場にするのが理想ですね。

北川里志氏(広電建設執行役員 土木担当)

北川 私も新卒入社で社歴は35年です。呉工業高等専門学校を卒業したのですが、就職難の頃で、公務員を志望する同級生が多い中、ちょうど広電建設の求人があったので「自分は公務員には向いていない!」と思い、ウチを選びました。以来、鉄道軌道を含めて土木畑を歩き、現在はこの部署全体の管理を担当しています。

若い頃から何でも自由にやらせてくれる社風だったので、仕事はしんどくても、それなりに楽しく過ごしてきたと思います。昔は職場のリクレーションや飲み会もよくありましたからね。時代の流れなのか?今の若い子たちは、そういった会社の行事を好まなくなっており、少し寂しい気がします。


若い人に伝えたい土木の魅力

——若い人の気質が変わってきた昨今、現場の「働き方改革」と合わせて仕事に魅力を感じさせることが重要になってきますね。

北川 建設会社はどこも同じ傾向があるみたいですが、ウチの場合も新卒者や若い人がよく辞めていきます。土木工学部などを出て、自分の希望で入社したはずなのに「思っていた仕事と違う…」といった理由で辞めてしまう人が少なくない。たしかに楽な職種ではありませんが、この仕事ならではの面白さや、やり甲斐も沢山あるので、それを糧にしてがんばって欲しいです。

田川 土木の仕事の一番の魅力はものづくりに携われることではないでしょうか。鉄道軌道にしても修理やメンテナンスばかりでは面白みに欠けますが、新規のルートやターミナルの新規工事などが入ると気分が高揚します。新しいことにチャレンジできる楽しさはもちろん、完成後には「これを自分たちが創ったんだ」という何にも代えがたい満足感が味わえますからね。

——今後、魅力あるものづくりの予定はありますか?

北川 大型プロジェクトとしては、「宮島口地区整備事業」や「駅前大橋線整備事業」が計画されていると聞いています。これらのプロジェクトは2020年の東京オリンピック後に本格的に動き始めるらしいのですが、我々としても大いにやり甲斐のある仕事になりそうです。

田川 人手不足が著しい業界にあって、ウチの会社もここ数年は新卒がなかなか入ってくれないことから求人は中途採用が主体になっています。まずは土木を専攻する学生さんや若い世代に鉄道軌道に限らず、広電建設土木部の仕事に興味を持っていただきたいですね。そのためにも間もなく着手する大型プロジェクトなど、様々な現場で私たちの技術力をアピールしていきます!

広電建設の会社概要

株式会社広電建設(本社:広島県広島市)は、昭和46年4月創業、資本金5000万円、従業員64人。広島電鉄グループの1社。土木、建築、不動産・住宅、鉄道軌道事業を手掛ける総合建設会社。

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経済情報誌の記者として20余年活動した後、不動産会社の宣伝企画室長などを経て独立。現在はライター業のほか、企業の広報宣伝・販促企画全般、企業紹介テレビ番組のリサーチ業務を手掛けている。広島市在住。
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