i-Constructionの本質は「カイゼン」にある
「改善」と「カイゼン」の違いがわかる方は、どのくらいいるだろうか?
私は2年ほど前から、土木技術者たちにこの問いを投げかけているが、正解できる者は1割もいない。
このカタカナの「カイゼン」が製造現場で定着したのは日本である。もしご存じない方がいたら、ぜひ調べてほしい。この奥の深い言葉を。
さて、今からちょうど2年前に、建設業界において、この「カイゼン」に本気で取り組もうとした人がいた。
下記の報告書を作成した面々である。
i-Construction ~建設現場の生産性革命~/国土交通省
この報告書を作成したのは、
- 小澤一雅 東京大学大学院工学系研究科教授
- 小宮山宏 (株) 三菱総合研究所理事長
- 建山和由 立命館大学理工学部教授
- 田中里沙 (株)宣伝会議取締役副社長兼編集室長
- 冨山和彦 (株)経営共創基盤代表取締役CEO
- 藤沢久美 シンクタンク・ソフィアバンク代表
である。
ご覧の通り、報告書の作成にあたって、建設業界の関係者は一人も参加していない。この報告書のとりまとめ責任者は、三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏であった。
多くの土木技術者は「建設業に関わっていない素人の報告書なんて…」と思ったであろう。そう、建設業界は長らくの間、業界関係者が中心となり、内輪で物事を決めてきた傾向がある。ある意味、井の中の蛙だった。
そんな我々に対して、上記の面々が今後の建設業をどのようにすべきか議論し、この報告書の中にカタカナの「カイゼン」という言葉が登場することになる。
ふつうの人であれば、さらっと読み飛ばしてしまうところであるが、実はこのカタカナの「カイゼン」が一気に建設業界の雰囲気と環境を変えることになるとは、ほんの一部の人にしかわからなかった。
そこで私はいつもこれを引き合いにだし、カタカナ「カイゼン」の意義を説いてきた。しかし、それをまともに受け止めている土木技術者は少ない。
「カイゼン」こそ、建設現場の生産性革命に必要な言葉である。この考え方を理解し、実践する会社もしくは土木技術者だけが、真の生産性革命を語る資格を持つのである。
20年前の情報化施工とi-Constructionの背景
「改善」と「カイゼン」の違いを理解することが、生産性革命の神髄を見極められる力につながる。
では、この本質に気付いた発注者である国土交通省の動きを見てみよう。
2016年には従来の行政の取組みとしては考えられないくらい、いち早く基準類を一気に整備し、生産性向上を推進するための課題であった「発注者の考え方」を根本から改革した。
2016年に一気に整備公開されたICT土工の基準類/国土交通省
とはいえ、すでに20年前から、情報化施工という言葉でICT施工は現場で導入されていた。ただし、ある一定規模の、それも特殊な環境の工事において、情報化施工を推進するという位置づけが強かった。
情報化施工は、コストもかかるし人手もかかる。導入コストをかけてでも、災害復旧などの緊急工事や大規模工事において導入するという感覚が強かった。
そうした背景には、国がICT施工を推進しているわけではないし、そもそも導入するための施工に関する基準類がきちんと整備されているわけではなく、また、そのような建設重機も潤沢に用意されているわけではなかったため、ICT施工を導入するためには、高いハードルがあったのである。
しかし、2016年から様相は一変した。今まで受注者が発注者にどう説明するか悩んでいた面倒なプロセスや基準類が整備され、実施するための土壌が出来上がってきた。もうICT施工を「できない」という理由はなくなったのである。
ICT土工の基準類を短期間で改訂、i-Constructionの本気度
インフラ工事を行う我々施工会社が、ある意味頼りにしている基準類や仕様が、情報化施工を前提に切り替わってきたという世の中の動きを敏感に察知した企業は多かった。
特に大手建設会社ではなく、中堅、中小の建設会社はここが潮目だと一気に動き始めた。安閑としていたのは逆に大手建設会社である。
これらの動きを機敏に察知し、本当に何が生産性向上に役立つのかを「自ら体験し」「自ら実感している」企業が昨年、第1回目のi-Construction大賞をとった企業といってもよい。
第1回 i-Construction大賞受賞者
i-Construction大賞 国土交通大臣賞
- 砂子組(北海道奈井江町)道央圏連絡道路千歳市泉郷改良工事
- カナツ技建工業(島根県松江市)多伎朝山道路小田地区改良第12工事
i-Construction大賞 優秀賞
- 小山建設(岩手県一関市)北上川上流曲田地区築堤盛土工事
- 金杉建設(埼玉県春日部市)平成27年荒川西区川越線下流下築堤工事
- 会津土建(福島県会津若松市)宮古弱小堤防対策工事
- 新井組(岐阜県高山市)平成27年中部縦貫丹生川西部地区道路建設工事
- 中林建設(大阪市浪速区)第二阪和国道大谷地区道路整備工事
- 五洋建設・井森工業(山口県柳井市)特定建設工事共同企業体 徳山下松港新南陽地区航路(マイナス12メートル)浚渫工事
- 福井組(徳島県鳴門市)平成27-28年川島漏水対策工事
- 若築建設・あおみ建設特定建設工事共同企業体 須崎港湾口地区防波堤築造工事
- 野添土木(鹿児島市) 長谷川4号床固工・右岸導流堤工事
- 丸政工務店(沖縄県金武町) 平成28年度恩納南BP1工区改良(その13)工事
ICT土工の基準類改定にみる国交省の本気度
しかし、2016年に公表された基準類は、ある意味粗削りでもあった。誰が見ても矛盾のある部分もかなりあったし、要求性能が過剰なものもあった。
例えば、以下の改訂内容を見てほしい。
ICT土工の基準類改訂について/国土交通省
2016年に発表された「UAVを用いた公共測量マニュアル(案) 空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領」は当初、UAVを活用した際の写真撮影のラップ率は90%で発表された。しかし、その1年後には80%に改訂されている。
これは、90%での実施では生産性が逆に低減することを、施工団体が大きく取り上げ、国土交通省と一緒になって、その検証を実際に示したためだった。国土交通省が1年という短期間で基準を変更した例である。
かつて国土交通省が自ら確定した基準を、1年という短期間で改訂した事例はなかった。こうした発注者の動きは、i-Constructionが単に掛け声だけでなく、発注者も真剣に生産性向上を目指すという力強い意思を示したものと思われる。
i-Constructionの本質と「カイゼン」
i-Constructionの本質は、単にICTを活用する工事やICTツールを使うことが目的ではない。ツールを「武器」として戦える環境を整えられた発注者・受注者の「考え方革命」、それがi-Constructionの本質である。
受注者と発注者の分けへだてなく、この考え方を短時間で実践し、成功体験として業務に落とし込み、自らの業務の「カイゼン」に取り組めた人、もしくは組織が今後この業界で生き残る人たちであろう。
こんな言葉がある。
「チャンスに出会わない人間は一人もいない。それをチャンスにできなかっただけである。」――かの有名な「鋼鉄王」と称されたアメリカの実業家である。
チャンスは全員に平等にある。そのチャンスをチャンスと思えない人には何を言っても、何を見せても反応しないのである。
「自らが変わらなければ変化は起きない」「何かを変えるためには努力を惜しまない」という「カイゼン」の気持ちを持つ人や組織だけが、変化できるのである。
i-Constructionの本質はここにある。
さて次回は、この本質を実プロジェクトでおこなった事例を紹介しよう。
他人事ではない、もうすでに「カイゼン」は、あなたのすぐ横で知らないうちに進んでいるのである。本質をしった人があっという間に!
確かに中小のくくりは資本金3億以下又は300人以下だけど、現実は9割以上の企業は3千万以下又は30人以下程度です。言いたいこと非常によくはわかるし、その通りのだと感じるところはありますが、筆者の言うように「カイゼン」というならば全体の5%程度の企業を中心に焦点をあてられても違和感があります。こういう点が実際の中小にまでICTが普及しない一因なのでは?