『”地域インフラ”サポートプラン関東』とは何か?
国土交通省関東地方整備局は2017年10月、『”地域インフラ”サポートプラン関東2017』を公表した。
『”地域インフラ”サポートプラン関東2017』とは、建設現場における「担い手確保・育成」「生産性向上」「建設現場の魅力発信」の3つに重点を置いた16の取り組みだ。
関東地方整備局の独自の取り組みで、他の地方整備局からも注目を浴びており、管轄内の建設業協会や施工業者からも好評を博している。
インフラ整備の課題については、ようやく一般メディアも報じるようになってきたが、『”地域インフラ”サポートプラン関東』の果たす役割とは何なのか?
『”地域インフラ”サポートプラン関東2017』の中心メンバーである、吉見精太郎氏(関東地方整備局 企画部技術開発調整官)、井口和夫氏(同 技術調査課建設専門官)、永瀬薫氏(同 技術管理課基準第一係長)に、サポートプランの内容と、その意義について聞いてきた。
地域建設業そのものもインフラ
――そもそも、関東地方整備局が独自に取り組みを始めた理由は?
関東地整 昨今、国内の災害は激甚化しています。社会インフラの老朽化も著しく、戦略的な21世紀型のインフラ整備が求められています。しかし、その一方で建設現場で働いている技能労働者340万人のうち約110万人が高齢化で離職すると推測され、追い討ちをかけるように建設業の生産性が成り立たなくなる恐れがでてきてます。
また、建設業は「きつい」「汚い」「危険」という3Kのイメージがあるので、受注者・発注者ともに、新たな入職者の確保・育成が難しく、地域建設業とインフラの存続に危機感がありました。
そこで関東地方整備局として、地域のインフラの安全とそれを下支えする建設業を支援する目的で、2016年から『”地域インフラ”サポートプラン』を展開することにしました。
『”地域インフラ”サポートプラン関東』の方向性は、「建設業は地域のインフラそのもの」という考え方のもと、関東の1都8県の建設業協会の要望を反映した形で、サポートプランが策定されました。
当時の太田昭宏国土交通相が「給料が良く」「休暇が取れる」「希望が持てる」という「新3K」を提唱したこともサポートプラン策定を後押ししました。
工事関係書類を必要最小限に『工事関係書類スリム化ガイド』
――サポートプランは16の取り組みを実施していますが、そのうち主な取り組みポイントとして、以下の8点を挙げています。
- 『工事関係書類スリム化ガイド』の発行
- 技術者の誇りを示す銘板設置拡充
- 『発注者ナビ』の配信
- 『発注者見通し』統合を1都8県で展開
- UAV(ドローン)研修の拡充・支援
- 『セーフティサポートニュース』の配信
- 『週休2日チャレンジサイト』
- 未来の建設業を支える入札・契約方式の実施
1点ずつお伺いしていきたいのですが、まず『工事関係書類スリム化ガイド』とは何でしょうか?
関東地整 『工事関係書類スリム化ガイド』は、その名の通り、工事関係書類を必要最小限にスリム化するために、削減可能な工事書類と紙と電子による工事書類の二重納品防止の徹底について分かりやすくまとめたものです。
現場監督の方々から「書類の簡素化」を要望する声をよくいただきますが、実は本来必要のない書類も作成・提出してしまっている場合も多いのです。
そこで関東地方整備局では、2008年度に「土木工事書類作成マニュアル」を策定し、工事書類の簡素化を目指してきました。このマニュアルでは、契約図書上必要のない書類は作成しないことや、発注者・受注者のどちらが作成すべき書類かを明記するなど、工事現場の技術者や監督職員等が使いやすいよう、工事の着工から完成までの一連の流れで必要な書類等の作成についてまとめています。
しかし、この「土木工事書類作成マニュアル」の活用が徹底されていないことから、2016年度に、1都2県の建設業協会と共同で工事書類の点検を実施し、削減項目を抽出しました。その結果を踏まえて、2017年度に『工事関係書類スリム化ガイド』を作成しました。このスリム化ガイドを受注者に配布し、工事書類の簡素化を進めています。
――『工事関係書類スリム化ガイド』の効果は?
関東地整 技術者の方からは、不要な書類作成がカットされ、負担軽減に繋がっている等の意見をいただいています。また、これまでは現場ごとで書類作成の統一感がなかった場合もありましたが、必要な書類の中身を明示することで、受注者・発注者ともに情報を共有することに成功しました。
少しずつかもしれませんが、書類の標準化、統一化を目指しています。可能な範囲で国と自治体も同じ様式書類になれば、さらに簡易化できます。今、国と各都県の様式書類の突き合わせ作業をして、同じような書類であれば統一するよう、呼びかけているところです。
関東地方整備局の『技術者顕彰銘板試行基準』
――技術者の名前を載せる「銘板設置拡充」はどんな意図でしょうか?
関東地整 新たな担い手確保・育成につなげていくことが目的です。完成した土木構造物に、その工事に関わった技術者の氏名を銘板に載せて設置することで、技術者の誇りをカタチとして残します。
銘板を設置した「平成28年上湯原地区外流路工工事」
関東地方整備局が『技術者顕彰銘板試行基準』を策定し、2017年度には3工事で銘板の試行設置を実施しています。
国交省も官庁営繕工事では銘板の設置を始めていますが、地方整備局単位での取り組みは全国で初めてとなります。試行設置の3工事に携わった技術者の方々から好評だったため、取り組みの拡大を決めました。
従来の対象工事は、橋梁上部工・下部工、トンネル、堰、水門、樋門(樋管)、砂防堰堤、シェッドでしたが、大規模法面、(揚)排水機場も加えました。対象技術者についても、設計では会社名、設計責任者氏名、施工は、会社名と監理(主任)技術者氏名に留まっていましたが、新たに現場代理人の氏名、担当技術者の氏名、専任の主任技術者の氏名、その会社名も追加しました。
2018年6月1日以降に入札公告を行なう工事から本格運用を開始しています。今年度末までに56件(うち10件は設置済み)を設置できればと考えています。
銘板を設置した「平成29年西川貯砂ダム新設工事」
実際に銘板に名前を残した技術者の方からは、「銘板に自分の名前が刻まれることは現場技術者として名誉なことで、モチベーションの向上につながる」、「構造物に初めて名前を残すことができ、今までに無い達成感を感じた」、「建設業のイメージが、“やりがいのある仕事”だと認知してもらえることが出来ると思う」などのコメントをいただいています。
技術者からすれば、名前が残ることで大きな責任も伴います。しかし、技術者が誇りを持てるととともに、その技術に光を当てて、担い手の確保につなげていければと思っています。設置された銘板を見た若い技術者や学生が、自分の名前を銘板に挙げようと意気に感じてもらいたいですね。
銘板を設置した「平成29年八王子南バイパス館高架橋下部(その4)工事」
改正品確法の徹底へ、420の市区長村に情報発信
――改正品確法が施行されてから2年が経過しましたが、周知は進んでいるのでしょうか?
関東地整 改正品確法は、公共工事の品質確保と、担い手の中長期的な育成・確保のため、発注者責務の拡大や多様な入札契約制度の導入・活用などを規定しています。各発注者は国の策定した改正品確法の運用指針に則って、発注関係事務を行うことが求められています。
ただ、市区町村レベルまで理解が進んでいないのが現状です。そこで、改正品確法の理解を深めてもらうため、発注者協議会での情報提供や出前講座、管内の市区町村に直接訪問する要請活動を推進しています。
都県建設業協会と連携して市区町村に対する「発注者ナビ」の配信も開始しました。「発注者ナビ」は現在、9都県5政令市415市区町村に電子メールで最新施策などを配信しています。
発注情報がひと目でわかる「発注見通し統合」
――「発注見通し統合」にはどのような狙いがありますか。
関東地整 これまで発注見通しの公表は、発注機関によってバラバラで、建設企業は資機材や建設職人を確保するための計画策定に頭を悩ませていました。
そこで、関東地方整備局が音頭を取り、都県の地区単位で「発注見通し」を統合し、公表しています。参画機関は、国の13機関を含む384機関。地区ごとの発注予定が明確に分かるので、資機材や技術者の配置予定が組みやすくなり、計画的な受注ができるようになったとの声があります。
「発注見通し統合」は関東地方整備局だけではなく、各地方整備局も同様の取り組みを行なっています。まだ全市町村が参画しているわけではありませんので、すべての発注者に参画していただければと思います。
3次元測量・出来形管理のドローン研修
――UAV(ドローン)研修の拡充・支援については?ドローン技術のニーズも高まりを見せています。
関東地整 関東地方整備局では、3次元測量・出来形管理で使用するUAV(ドローン)技術を習得できる、ドローン研修の拡充・支援も実施しています。
ドローンは、飛ばせばすぐ測量が出来るといった簡単な機械ではありませんし、測量はドローンなどで完全自動化できると思われがちですが、人的要素が不可欠です。
そこで、ドローンや建機のメーカーさんを講師に招き、各都県の建設業協会と共同で講習会を開催しています。座学でドローンに関する基礎知識や計測手順について学んでいただき、実際の機器やソフトを使用してフライトプランを作成し、デモ飛行による計測を行います。
講習会への参加者に行ったアンケート結果では、ICTを実施したいと答えたかたが77%でした。今後、国土交通省全般の工事でICT工事が増加していく中で明るい結果と言えます。
今後とも、市町村の工事を受注している建設企業にはICT工事に関心を持っていただきたいと思います。
『セーフティサポートニュース』で事故情報を共有
――建設業の事故がなかなか減りません。
関東地整 各工事現場の安全対策を支援するため、工事事故事例の情報、安全対策に関する工夫や好事例をはじめ、盗難等に関する様々な情報を掲載する『セーフティサポートニュース』を発行し、受注者や都県の建設業協会などへ定期的に配信を行なっています。
元々、事故事例は関東地方整備局のホームページにも掲載していましたが、サポートプラン2016の時期から各建設業協会の各会員にも配信していただいています。
昨年度は1回、今年度は3回、毎月事故事例を送るようにしています。夏場になると熱中症対策の取り組みも紹介しています。最近ですと、架空線の損傷事故の事例が多いため、特集を組みました。
工事事故発生状況 10月事故発生件数(速報値)/国交省関東地方整備局
週休2日の確保へ、各地で事例続々
――現場での週休2日は進んでいるのでしょうか?
関東地整 関東地方整備局では、ホームページ内に『週休2日チャレンジサイト』(http://www.ktr.mlit.go.jp/gijyutu/index00000021.html)を開設し、週休2日の確保に取り組んでいる企業を紹介しています。
これも、銘板の設置と同じく技術者に光を当てるものです。各現場の技術者にとって、国の公式サイトに自分たちの取り組みが掲載されるということは喜ばしいという声も多く、各社とも積極的に掲載してほしいとの声があります。
各社とも様々な工夫で週休2日を確保しています。一般的に週休2日を取りにくいとされるトンネル工事でも現場における施工の工夫により取得できたケースもあります。
当サイトでは実例だけでなく、週休2日取得に必要な費用の計算仕様なども掲載しています。
――週休2日制モデル工事の感触は?
関東地整 関東地方整備局が発注した週休2日制モデル工事では、2017年度は受注者が工事着手前に、発注者に対して週休2日に取組む旨を協議したうえで取り組む「受注者希望型方式」で発注を行っていました。
2018年度からは、これに発注者が週休2日に取り組むことを指定する「発注者指定方式」による発注を一部の工事で実施しています。
4週6休以上達成すると取組証を発行し、取組証を得たところ企業に対しては、その後の総合評価において加点されるよう、評価項目の設定を行っています。
週休2日制を達成した工事については何らかのインセンティブが必要なので、補正経費を見ることと、取組証の発行のほか工事成績評定の加点することで次の工事の受注につなげることが大事だと思っています。
関東地方整備局の多様な入札方式の狙い
――関東地方整備局では、さまざまな入札方式を採用していますね。
関東地整 地域の建設企業が元気になるよう、地元企業の受注機会を増やし発展するような入札・契約方式を採用しています。
2013年度から地域精通度や地域貢献度を重視して評価する「地域密着工事型」や、企業での防災に係る取組体制や活動実績等を評価する「地域防災担い手確保型」、地方整備局発注工事の実績が無い、もしくは少ない企業でも、自治体(都県政令市)の工事成績等により評価する「自治体実績評価型」など、地域の状況に応じた多様な入札契約方式を採用しています。
また、将来的に主任(監理)技術者となる若手技術者の育成を目的に、35歳以下の若手技術者を現場代理人、または担当技術者として配置する「若手技術者活用評価型」や、40歳以下の技術者が、工事に従事していない技術者から実務指導を受けて技術力の向上につなげてもらう「技術者育成型」、入札参加要件に主任(監理)技術者、現場代理人、担当技術者のいずれかに女性技術者の配置を求める「女性技術者の登用を促すモデル工事」といった、若手技術者が競争参加しやすくなる入札・契約方式も実施しています。
こうした入札方式は、ネーミングこそ地方整備局ごとに異なりますが、全国的に行われています。
地域の建設業をもっと元気に!
――最後にサポートプラン全体について総括してください。
関東地整 さまざまな取り組みを実施していますが、すべては地域の建設業を元気づけたいという思いから始まったものです。
2016年から開始して3年目。まず5年は取り組みを継続していきたいです。今年の意見交換会で現場からいただいた意見も踏まえながら、今後もしっかり進めていきたいと思います。