カレーも生コンも材料で性質が変わる
「カレーを作ったら水っぽくなってしまった」という経験はないだろうか。
「水っぽいカレー」になってしまう原因としてよく挙げられるのが、材料となる野菜の水分量が想定以上に多かったというもの。旬の野菜の栄養価は、そうでない時期に比べ2~4倍もの開きがあり、水分量もそれに準じて大小する。
今回取り上げるのは「フレッシュコンクリート(生コン)」。この分野こそ、今まで学んできた材料の基礎知識が、存分に活かされる項目だ。
生コンが有すべき”4つの性能”
「フレッシュコンクリート」。直訳すれば「生コン」。
「生コン」を知らない人がこの記事を読んでいるとは思えないので、詳しい説明は割愛する。
もし、「生コンを見たことがない」という人がいたらぜひ、検索して調べてみてほしい。そこには様々な「フレッシュコンクリート(生コン)」の姿が映し出されることだろう。
ここでフレッシュコンクリート(生コン)の定義を、コンクリート工学会資料から引用する。
「練り混ぜ直後から、型枠内に打ち込まれて、凝結・硬化に至るまでの状態にあるコンクリートを、フレッシュコンクリート(fresh concrete)という」(『コンクリート技術の要点』より)
もっと簡単にいうと、「水が加えられてから、固まるまでの間のコンクリート」と捉えてもらっても構わない。
同書ではさらに、4つの「フレッシュコンクリート(生コン)が有すべき性能」を示している。
- 運搬、打込み、締固めおよび表面仕上げの各作業が容易に行えること
- 施工中に材料分離等の不均質がないもの
- 作業終了まで所定の作業性を持ち、その後は適切に凝結・硬化すること
- 所定の温度および単位容積質量を有する
これらの性質を評価するために、次の5つの専門用語が用いられている。それぞれが微妙に異なる特性を評価しているので、混同しないよう注意してほしい。
用語 | 性質 |
ワーカビリティ | 作業性(ワーク) |
コンシステンシー | 変形や流動に対する抵抗性 |
ポンパビリティ | 圧送性(ポンプ圧送) |
フィニッシャビリティ | 仕上げ性(フィニッシュ) |
プラスティシティ | プラスチックかどうか |
ワーカビリティの評価項目
「ワーカビリティ」とは、「ワーク:work」「ワーカブル:workable」からなる語、つまり作業性のことを指す。
この作業性の良し悪しを細分化したものが、「コンシステンシー」「ポンパビリティ」「フィニッシャビリティ」だ。
「コンシステンシー:変形や流動に対する抵抗性」
現場などで行われている「スランプ試験」で測っているもの。それが主に「コンシステンシー」で評価される項目だ。
スランプ試験では、スランプコーンを引き上げた際、その試料の「変形」「流動」などを見て、そのフレッシュコンクリート(生コン)の性質を評価している。
また、フレッシュコンクリート(生コン)の性状・固さによって、コンシステンシーの評価手法が以下のように若干異なってくる。
- スランプ試験(スランプ 5cm~18cm)
- スランプフロー試験(高流動コンクリート)
- 振動台式コンシステンシー試験(ゼロスランプなどの固練り)
これらの試験で評価されたコンシステンシーに影響を及ぼしている要因については、以下のような項目が挙げられる。
- 水量
- 空気量
- 水セメント比
- 骨材
- 混和材料
- 温度 etc.
これらの細部にこそ、これまで材料の講義で学んだ知識が活かされてくる。
「ポンパビリティ:圧送性」
現在のコンクリートはポンプで圧送されることが多い。大量打設の際には今や欠かせない手法であり、ポンプ圧送前提で配合を作ることも珍しくない。
ポンプ圧送で求められる項目が「ポンパビリティ(圧送性)」として評価される。ここでは「流動性」「変形性」「材料分離抵抗性」の3要素が注目される。
「フィニッシャビリティ:仕上性」
大抵のコンクリートは打設の最期にコテ仕上げを施される。仕上げに求められる品質も、状況により大きく異なる。ザラザラな仕上がり、ピカピカな仕上がり、打ち継ぎ用の凹凸仕上げなど、その要求はいつも異なる。
仕上げるためにはある程度のブリーディング(浮き水)が必要となる。ブリーディングが多いか少ないか、早いか遅いか、あるかないか、その程度の知識さえあれば十分だ。
この仕上げのしやすさを「フィニッシャビリティ(仕上性)」と呼んで評価する。
ワーカビリティの良いコンクリートは現場によって変わる
ワーカビリティについて解説したが、現場によって求められるコンクリートの品質は異なる。例えば、土木現場の斜面への打設と高強度で過密配筋な建築現場では、使用されるコンクリートの性状は全く異なる。
つまり、ワーカビリティの良し悪しも現場ごとに変わるのだ。
それどころか、コンクリートを扱う業者、さらにはその職人の手腕によってさえ、ワーカビリティは異なってくる。ポンプ圧送業者にとっては流動性の高いものが扱いやすいが、左官業者にとっては仕上げがしにくい。その逆もまた然りだ。
どの業者にとっても扱いの良いコンクリートこそ、「ワーカブルなコンクリート」と呼べるだろう。
しかし、「ワーカブルなコンクリート」を目指すには、製造・施工などの総合的な知識と理解が必須の条件となる。以下に、概念図を示す。
「ワーカビリティ」の概念図
この重なる円の中心部分に位置するコンクリート。これこそが各業者にとっての「ワーカビリティの良いコンクリート」と評価されるものだ。
“プラスチック”なコンクリートとは?
最後に「プラスティシティ:plasticity」について説明する。プラスティシティの語源は「プラスチック:plastic」からきている。さて、「プラスチック」という言葉を聞いて、どういうものを想像するだろうか。
もちろん「石油から生まれた合成樹脂のこと」ではない。一般的なイメージに反して、今回取り上げる「プラスチック」は”状態”のことを表している。
「plastic」は、「可塑性(塑性体)」や「成形力のある」などと訳される。これではまだイメージが湧かないだろうか。では、その反義語「エラスチック:elastic」も見てみよう。
「elastic」は、「弾性(弾性体)」「弾力のある」などと訳される。つまり、弾性体(ゴムなど)の反対の性質のことを「プラスチックな状態」という。
まだまだイメージが湧かないかもしれない。要するに、塑性体とは押したら押しただけ変形し、その形を保つ性質のこと、弾性体とは押しても戻ってくる性状のことだ。
ヨーグルトをスプーンで盛り付けて、形がくずれないのが塑性体。スプーンでプリンを押したとき、プルンとするのが弾性体だ。
まとめると、「プラスチックなコンクリート」とは、成形可能なコンクリートのことを指す。つまり「プラスティシティ」とは、その性能の良し悪しの評価、と捉えることができる。
「お気に入りの生コン」は人それぞれ
人それぞれに、お気に入りのカレーは異なる。味・香り・色の違い程度でとどまることはなく、とろみ・温度・リメイクのしやすさにまで及ぶ。
「生コン」も同様、ポンプ屋、左官屋、設計・監督など、現場で関わるそれぞれにとっての最適な状態は微妙に異なる。
お互いの要求を譲歩しあいながら、その現場での最適解を得ることこそが、「生コンに求められること」なのだ。
その要求事項を知る第一歩として、今回の「フレッシュコンクリート(生コン)」の知識を活かしてほしい。