研修の現場となった上初野川に建設中の砂防堰堤

【良質なコンクリート構造物を造る男たち6】 「100点満点のコンクリート構造物」を目指す熊本県の技術者たち。徹底したコールドジョイント・レイタンス対策

QC活動でコンクリート構造物の品質を改善する

熊本地震を機に、2017年に熊本県で立ち上がった「県南コンクリート構造物品質確保推進協議会」。

彼らは、高品質なコンクリート構造物の築造することを目的に、発注者・工事施工者・生コン生産者の3者が連携した「QC(クオリティー・コントロール/品質改善)活動」を推進している。

QC活動の構成

QC活動を展開していくためには、ただシステムを構築するだけではなく、その取り組みに携わる人材の心構えが不可欠となる。

そのため「県南コンクリート構造物品質確保推進協議会」では都度、研修会を開催。「どのようにしてコンクリート構造物の品質改善を図るのか」を日々模索している。

その解を求め、特に積極的なQC活動を展開しているのが、熊本県建設業協会の芦北支部(佐藤一夫支部長、会員40社)だ。芦北支部は水俣市にある砂防ダム建設現場で、生コンクリートの打設工程の研修会を開いた。

発注者・施工者・生コン生産者で現場見学会を開催

研修会に参加したのは、芦北支部協会員をはじめ発注者の熊本県、生コン生産者の水俣地区生コンクリート協同組合の技術者ら約30人。現場は水俣市初野地内で、株式会社松下組(熊本県葦北郡芦北町)が施工を担当している。

砂防ダムは、堤高11m、堤長68.5mの規模。床掘2,810m3で、生コン2,382m3を打設する計画だ。この工事の現場代理人を務める岡本潤が参加者たちを案内した。

岡本は、入社20年目の中堅技術者。建設機械を用いた工事の施工管理や工程管理・建設機械オペレーターの監督などを行う1級建設機械施工技士の資格を持つ。

現場代理人の岡本潤氏。現場での取り組みを披露

これまで様々な現場で監理技術者として従事。現場に出入りする専門業者や行政との打ち合わせにも丁寧に対応できる頼もしい人材だ。

この日も約30人の参加者らを前に、現場での取り組みを詳細に披露した。


1層37.5cmの打設でコールドジョイント対策

岡本の説明によると、コンクリートの打設人員は7人。35tクレーンによるホッパー打設で、バイブレーターの使用は2台、予備として1台を準備した。高さ150cmに対して、1層あたり37.5cmの4層で打設を行っている。

ここで気になったのが「1層あたり37.5cm」。なぜなら、QC活動の根幹をなす、施工の重要事項を整理した『施工状況把握チェックシート』では、「1層当たりの高さが40~50cmとなるよう打ち込んであるか」との指示があるからだ。

施工状況把握チェックシートでは、1層の高さを40~50cmに指示している

これについて岡本は「下層のコンクリートが固まる前に打ち込まないといけないという制約の中で、これまでの経験からこの現場では1時間30分以内に次の層を打設することを決めました。

1層50cmにすると約1時間30分と目標値にはなります。ただ、生コン車のタイミングが悪かったり、打設作業に時間がかかったりなどのロスを考え、約1時間で打設を終えるために1層37.5cmとしています」と説明。

さらに「層厚については、打設するBL毎に幅・延長が異なり、クレーンの位置によっても打設時間が変わるので、これまでのデータをもとにその都度、決めている」と、コールドジョイント対策に万全を期しているという。

2日間にわたるレイタンス処理で品質確保

この現場では、現場に携わる全員が一体となってコンクリートの打設に取り組んでいる。

岡本は「言われたからやるのではなく、作業従事者が自主的に話し合いながら良い品質のコンクリートを打てるように努めています。打設しながら方法を確認したり、『施工状況把握チェックシート』の内容を説明しながら、気を付ける点を話し合っています」と語る。

コンクリート打設前には、施工方法を確認する

使用器具についても、使用方法や注意点を必ず確認。例えば、気泡抜き器具のピカコンは、型枠に沿うように動かすのが重要なポイント。コンクリートに傷が入り、汚くならないよう、使用方法の記載どおりに使用することを徹底している。

バイブレーターの挿入高はその都度マーキング。レイタンス処理に至っては、打設当日に行い、取り残し防止のために再度、翌日にも高圧洗浄機で行うという念の入れようだ。


QC活動を担うのは、技術者たちのたゆまぬ努力

QC活動を担うのは、現場を指揮する技術者たちのたゆまぬ努力によるものが大きい。

研修会を通して感じたことは、「高品質なコンクリート構造物を造る」という目的を、現場にいるすべての人が共有することが、良い結果を生むということだ。

ただ、100点満点のコンクリート構造物を目指すことも重要ではあるが、それに拘り過ぎて現場がうまく回らなくなることだけは避けなければならない。

そんな現実と対峙しながらも、QC活動が現場に携わる人々の想いを実現する手立てとなることを願っている。

※過去の連載回はこちら。

【良質なコンクリート構造物を造る男たち1】 山口県から始まった「良質なコンクリート構造物」ムーブメント

【良質なコンクリート構造物を造る男たち2】 熊本地震で危機感はピークに。熊本県が高品質コンクリート構造物を造る理由

【良質なコンクリート構造物を造る男たち3】 コンクリート構造物の品質と施工コストのジレンマ

【良質なコンクリート構造物を造る男たち4】 養生期間が短くても「コンクリート品質」にこだわる。鉄筋にタグ、バイブレーターにマーキング、エバープロテクト散布

【良質なコンクリート構造物を造る男たち5】 「コンクリート構造物は子や孫も使う」インフラ整備の質を高める発注者、工事施工者、生コン生産者の3者融合

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建設業専門紙に32年間勤務し、現場第一主義で取材・編集に従事。時代にマッチした特集記事を通して、現場の声を読者に届けることを使命感とし、業界に課題を投げかけながら進むべき道筋を示す。建産プレスくまもとを主宰。情報発信により地方の建設業が果たすべき役割について考える場を提供する。
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