阿蘇カルデラに姿を現しつつある、北側復旧ルート
先日、機会を得て熊本県阿蘇市を訪ねた。いまだ復興の道半ばという雰囲気で、温泉地も心なしか静かな雰囲気だった。
そんな中、阿蘇市の観光復活・活性化につながりそうな事業が進行中である。「国道57号北側復旧ルート」事業だ。
国道57号北側復旧ルートは、阿蘇市赤水を起点として大津町引水までの延長約13kmの自動車専用道路。国土交通省九州地方整備局 熊本河川国道事務所が事業主体となって進めている。
熊本地震で大きな被害を受けた国道57号の復旧、そして災害に強い幹線道路確保と阿蘇市の観光復活・活性化を目的として建設中である。「熊本地震復興のシンボル」と位置付けられ、国土交通省がかなり力を入れて事業を進めており、地元の期待がとても高いとのこと。
阿蘇市赤水の起点付近から、終点方向を望む。
大津町引水の終点付近から、起点方向を望む。
大きな山場であった二重峠トンネルは今年の2月に貫通を迎え、トンネル内は舗装や設備などの工事が進められている。明かり部では土工事や9つの橋梁工事が進行中で、橋梁下部工はほぼ完了、現在は上部工事が進められている段階である。
これらの工事の前段階として地盤改良工事や圧密促進の工事が行われており、これらはすでに完了している。ちなみに、北側復旧ルート事業における工事の大部分は地元の建設会社によって進められているとのこと。
阿蘇市に訪問するのであれば大観峰はもちろんだが、土木技術者として北側復旧ルートも見てみたい! ということで、阿蘇市側工区を見てきた。工事途中の状況を直に見れるのは、そう何度もあるわけではないからだ。
道路は阿蘇カルデラに姿を現しつつあり、もうじき完成しそうな状況なのでは? とすら思えた。
トンネルは貫通済み。盛土工事や橋梁工事が最盛期!
阿蘇市側では盛土工事や橋梁工事が最盛期を迎えている。橋梁の中でもっとも長い橋梁(仮称として黒川橋と言われているようである)では、手延機がセットされ、対岸に向かって伸びている途中と思しき姿が見れた。
赤水の起点に向かって伸びる手延機。黒川をまたぐ橋を送り出し架設にて建設予定。
余談だが、阿蘇市を流れる黒川は、普段は穏やかに流れているが、時折氾濫することがある河川である。過去に豪雨によって黒川が氾濫し、付近の内牧温泉が浸かった、ということもあったようである。
送り出し架設には写真のような手延機が使われるが、その土台としてベントが組まれる。かなりの重量となるため、基礎となる地盤は改良することがある。この付近は道路を盛土しており、そのままだと地盤が沈下する恐れがあったため、盛土をする前に地盤改良を行い、盛土にも改良が施されていると思われる。
盛土工事も進行中であり、一部では盛土や路床の構築がすでに終了していそうな感じがした。施工手順の都合でまったくの未構築箇所があるが、ほんのわずかな区間であり構築完了は時間の問題である。構造物付近には補強土壁と思しき箇所もあった。
補強土壁。盛土は路床まで構築済みのようである。
この奥に進んでいくと、二重峠トンネルの阿蘇側坑口となる。すでに坑門工が完了している姿が見えた。
二重峠トンネル阿蘇側坑口。右に見えるのは避難坑。
二重峠トンネルは延長約3.7km。延長が長いため阿蘇側坑口と大津側坑口の両方から掘削を行ったとのこと。途中、避難坑から本坑に向かって作業坑を設け、作業坑からもう一つ切羽を設けて掘削を行っている。
1つの工区につき同時に複数の切羽を進めていくという、全国的にも珍しい掘削方法をとったとのことである。
二重峠トンネル大津側坑口付近。ここの下に坑口がある。
今年に2月に貫通式を迎え、本坑は覆工も完了。地下排水や舗装、設備など内部の工事が進行中である。
トンネルの前方にはすで1橋完成しており、明かり部の土工事完了を待つばかりとなっている。
開通目標は2020年度! 阿蘇復活なるか?
北側復旧ルートは2020年度の開通を目指している。災害にも強い幹線道路の構築が目的の一つであり、同時に阿蘇地域の観光促進にもつながるように計画されている。
阿蘇地域は熊本地震の影響により、観光客が激減。現在は少し戻ってきているようだが、いまだ交通が不便である。鉄道ではJR豊肥本線も復旧しておらず、こちらも災害復旧工事の真っただ中。行きたくてもなかなか行けなくなっているのだ。
今回は阿蘇市内の温泉に宿泊したのだが、心なしか静かな感じがした。ただ、あか牛などの名物は健在でとても美味しく、大観峰はたくさんの人で賑わっていた。あとはインフラが整備し直されれば、また観光客は戻ってくるだろう。
北側復旧ルートが完成すれば、熊本地域との交流がさらに強くなるといわれている。同時に災害時には緊急道路としても活用できる。日常でも重要な物流ルート・観光ルートとなる。
このルート完成を機として阿蘇地域の復活がなるのかどうか、今後も目が離せない。
※一部、国土交通省熊本河川国道事務所のホームページに掲載されている内容を参考にした。