大東建託協力会の造作大工たちが技術を競い合う
大東建託の協力会社から構成する会員制組織、大東建託協力会は1月25日、第1回「全国 匠マイスター技能選手権」東京大会を幕張メッセ展示ホールで開催。20名の「匠マイスター」が、技術力を披露し、安全性や品質に加え、施工スピードなどを競い、上位5名が全国大会の出場権を手に入れた。
6月27日にはパシフィコ横浜で、4会場(仙台、神戸、福岡、東京)の地区予選を勝ち抜いた20名の中から造作大工NO.1 を決定する全国大会を開催する。構想3年をかけて職人の地位向上を目指す大東建託匠プロジェクトの意義に迫った。
10~20代の造作大工の数が半減
国土交通省発表の「2018年建設労働需給調査」によると、オリンピックの開催決定や消費税率改定に伴う個人住宅の駆け込み需要が発生した2013年をピークに建設需要の高まりが続いている。
しかし、建設業界の高齢化は一向に解決せず、特に若年層の木造住宅の下地から仕上げまでを担う大工職人である「造作大工」の減少は著しい。2018年度の大東建託現場における10~20代の造作大工の数は、2012年度比で約半数まで減少するなど深刻化している。
建設職人の地位、向上、処遇改善はまさに喫緊の課題で、待ったなしだ。そこで大東建託は2017年度から、「匠プロジェクト」を始動。建設職人のスキルの向上などを目指したプロジェクト第一弾として、優秀な建設職人を「匠マイスター」として認定している。
「匠マイスター」とは、大東建託協力会会員で、対象業種16種の中から、豊富な知識と経験を持つ作業員の模範となる認定された建設職人を指す。現在、約1,500人の建設職人が登録されている。主に安全、品質のけん引役、若手技能者の育成、技術の継承、生産性の向上を担うことが狙いだ。
そのため、技能選手権は、匠マイスターが技術を披露する絶好の場であるとともに、若手大工は貴重な技能を吸収できる貴重な機会でもある。
競技内容は1~2坪の天井・壁・床の大東建託施工基準に則った施工で、安全面や施工品質精度を100点満点の採点により評価した。司会者からルール説明、参加する匠マイスターの紹介やラジオ体操が終わった後、3時間にわたるしのぎを削る技能選手権がスタートした。
匠プロジェクトとマイスター創設の狙い
匠マイスターたちが技能を競っている間に、大東建託執行役員工事統括部長の泉和宏氏に話を聞いてみた。
泉和宏氏(大東建託執行役員 工事統括部長)
――匠プロジェクトの狙いは?
泉氏 3年前、「まずは現場の品質を高度化しよう」という思いから、匠プロジェクトが始まりました。第一段階として、建設職人の方ご自身で検査までできるようにと考えていたのですが、建設職人の中でも技能のバラツキがあり、検査や品質も高い優秀な建設職人をより拡大すれば、全体的な質も向上するのではと考え、匠マイスターを創設しました。
現在、1,500名が匠マイスターに登録していますが、次に倍、さらに倍々を目指し、6,000~8,000名に増やしていきたいと考えています。
――技能選手権に参加する資格は?
泉氏 造作大工であることや職長、高い技能を持ちほかの作業員の模範になっていること、大東建託の施工基準に基づき、施工検査を実施している点や施工効率の向上に向けた改善提案を大東建託に行っていることが資格要件です。
加えて、協力会には各支部があり、そこからの推薦もポイントです。支部の会長などとも協議をして決めていきます。
匠のワザを伝承する場になってほしい
――ドイツの職人の地位が高いのはマイスター制度が整備されていることが理由ですが、それに倣ったということですか? また、匠マイスターは賃金の向上の目安にはなりますか?
泉氏 ドイツのマイスター制度に倣った点はその通りです。
匠マイスターの評価については、現段階では名誉職にとどまっています。ですが、将来的には匠マイスター認定による賃金アップも視野に入れています。先ほど申し上げた通り、協力会として検査までしっかりできるのであれば、何らかのインセンティブを支払うことを検討しているところです。
――匠マイスター制度で技能の底上げは実現した?
泉氏 そうですね。皆さん意識して取り組んでいるため、自分も技能選手権に選抜されたいという声が各地で高くなっています。
――本日、選抜されている方は、企業に雇用されている方と一人親方のどちらが多い?
泉氏 雇用されている方です。具体的には、〇〇工務店の□□班のリーダーという立ち位置で参加されている方が多いです。
――今後、どういった方に参加してほしい?
泉氏 本日の選抜者は40代が多いですが、実際の現場では高齢化が進展しており、活躍している層は50~60代の大工が中心です。10~15年もすると、大工の平均年齢は70代近くになりますから、作業の安全性、効率性などの面で懸念も生じます。
匠マイスターが培った技能を伝承していくことが、今回の技能選手権の趣旨の一つでもあります。ワザを磨いた匠マイスターが、若い建設職人に伝えていかなければ、技能はどんどん衰退します。技能を間近で見てもらって、伝承されていくことが望ましいですね。若い職人も、羨望のまなざしで匠マイスターのワザを見ているのではないでしょうか。
そのため、20代から30代前半の方に建設業界に入職してもらい、参加してもらうことで、匠のワザが伝承できれば望ましいと考えています。
――競技を見ていると、皆さん手順が違いますね。断熱材をスタートから入れる場合もあれば、他の手順を先に行っている人もいます。
泉氏 それぞれ匠マイスターが培ってきた、あるいは先輩や親方から教えられてきた手順がありますが、一番効率の良い方法で行っています。どちらから始めるというルールはありませんので、やりやすいところから取り掛かる人が多いです。
それよりも断熱材は室内の暖まった空気やエアコンで冷やした空気を外に出さない、もしくは家の外の冷気や暖気を家の中に入れない役割がありますから、隙間がないように施工することが重要で、隙間があれば当然減点対象になります。
――安全面も大きな得点になっていますが。
泉氏 工事現場で最も多い事故は墜落・転落です。脚立の天板に乗っかると大変危険なのですので禁止しており、各現場にシールで告知しています。
――将来は、外国人労働者も匠マイスターになれる可能性があるのでしょうか?
泉氏 十分あると思っています。技能の伝承も一つの課題ですが、建設業の労働人口が減少していくことは目に見えてわかっています。そこで労働不足を補うために、現在でも外国人技能実習制度を導入していますが、5年経つと帰国します。
大東建託でも2020年4月から「特定技能の支援機関」への登録を検討しています。特定技能1号で永住権を獲得していただければ、将来的にも技術力が保たれ、匠マイスターになることもありえます。
加えて、当社が開発したビス留めロボット「D-AVIS(デービス)」のような機械化により、生産性を向上し、この両輪で深刻化している職人不足時代に対処したいと考えます。
今は外国人の技能実習生や特定技能については、各協力会の工務店が雇用していますが、将来、大東建託の関連会社、たとえば「大東工務店」を創設し、雇用することもまったくないわけではありません。
全国大会の出場者5人が決定
競技が終了した後、審査に入り、採点・集計を行い、次の5名が全国大会に選抜することを決定した。
全国出場者5名が決まる。左から、山本和弘さん、板橋孝さん、宮腰識史さん、小林元さん、田中大介さん
大会の競技について、大東建託取締役 建築事業統括本部 副本部長の中上文明氏が、「競技内容にほとんど差がなく、上位5位僅差がなく誰でもベストファイブに選ばれた内容です」と総括した。
大会終了後、全国大会への出場が決まった有限会社アイムの田中大介さんに話を聞いた。
――いつ頃から大工さんになろうと思いましたか?
田中さん 子どものころからものづくりが好きで、自然と目指していました。
――いつ頃、匠マイスターに登録された?
田中さん できたばかりの頃の2年前ですね。
――今回の大会で気を付けたことは?
田中さん 断熱材入れとボート貼りに配慮しました。
――6月の全国大会では。
田中さん 出場するからには全力でやってみたいですね。
最後に田中さんと大東建託協力会八王子工事支部のみなさんで記念撮影