違反性の高い建築でも再生可能
――再生建築研究所と提携した理由は。
小池 リノベーションは建物の機能を回復しますが、再生建築研究所が実施している「再生建築」の視点はより問題の根本にある耐震化や構造から切り込み、古い建物に新しい価値を創造しています。東急はこの再生建築の視点に共感し、両社でいくつか物件で協業していることもあり、提携しました。
小松原 両社で、「再生建築」を文化にしたいという思いが一致したと言えますね。また、これまで依頼が来れば手掛けることが多かったのですが、もう少し積極的なアプローチをすべきという思いもあります。
――再生建築研究所の強みである「再生建築」とは何でしょう?
小池 「再生建築」は、意匠を掛け合わせた耐震補強や既存物件の持つ本質的な課題を読み解き、一般的な改修や新築でも実現できないような新しい空間を生みだすことで不動産価値を向上するものです。また、活用が不可能と思われがちな違反性の高い建築についても、適法化したうえで再生することが可能なので、建築物に新しい価値を生み出すことができます。
中でも、既存躯体を利用する手法になっているので、新築工事と比較して解体工事や新規の躯体工事を行う必要がなく、コストが大幅に抑えられ工期も短縮されます。さらに、設備・内外装を新築同等に更新でき、建物に居ながらの施工で再生することも可能です。

旧耐震の倉庫・事務所ビルの耐震補強を見直し、渋谷随一のインキュベーションオフィスに
小松原 1981年6月から施行された新耐震基準が導入されたからといって、その前に建築された旧耐震基準物件も違法ではありませんが、沿線には旧耐震基準物件が多くあると想定されます。また、一般的なリノベーションなどの改修は、耐震補強や内装改修など、経年劣化に対しての機能回復や安全性確保のための応急処置的な意味合いが強い。ですが、根本的な解決に至っていないことや、それでは対応できない建物もあり、深刻に悩まれているオーナーも多いため、「再生建築」の取り組みを推進しています。
また、建築の使用も10年という短いスパンではなく、新築と同じような長さである何十年と活かして利用できるようにしていきたいという思いもあります。
――具体的に、どのような事例がありますか?
小池 東京都渋谷区神南の「カンパリビル」(神南1丁目ビル)は、元は閉鎖的な飲食店の建物でした。事務所ビルにコンバージョンするにあたり、水平連続窓を設け、建物の外壁を壊して、意匠上も壊したことが分かるようにしているので特徴的な建物に変わりました。また、デザインだけではなく、採光面積の向上に加え、建物自体軽くなっているので、耐震化にも寄与しています。

収益性と安全性を両立させた耐震化した東京都渋谷区神南の「カンパリビル」(神南1丁目ビル)
小松原 「再生建築」は意匠も施工も非常に専門性の高い分野です。そこで再生建築研究所の技術やノウハウと当社の推進力が連携して進めていったほうが、「再生建築」がより普及すると実感しております。
再生建築研究所が障壁となる法的要件や具体的な保存方法などの課題を解消しながら設計を行うことから、施工会社には特殊な技術は必要なく、施工を進められるのも大きなポイントです。
違法建築を適正化し、歴史を残す取り組みも
――違反物件の適正化には、どのように取り組んでいきますか?
小池 今まで取り組んできた範囲では、「ミナガワビレッジ」という検査済証を取得できなかった違法物件があります。ケースとしては違反増築を繰り返した物件ですが、それを減築工事により再生し、60年ぶりに検査済証を取得、適正化しました。

「再生建築」後の「ミナガワビレッジ」
物件オーナーも新築ですと費用も当初から分かるため、工事を決断しやすいですが、「再生建築」による違反物件の適法化については調査だけで時間と費用が掛かりますから、ハードルが上がります。
そのため、同業他社からは新築提案が多かったそうですが、東急は既存建物を継承することの大切さを訴え、「再生建築」を提起したところ、オーナーも物件の歴史に思い入れもあったこともあり、本提案に賛同していただきました。歴史的建築物を残すことでのバリューもあるということが分かりました。
さらに有名な実例としては、九段下に残る歴史ある建造物「旧山口萬吉邸」を、歴史的価値と重厚で繊細な佇まいを損なうことなく、設備面にリノベーションが施され、会員制オフィス「九段 kudan house」として再生しました。
これまで新築がメインだった提案に、「再生建築」という新たな手法を取り入れることによって選択肢が増えているんです。

九段下に残る歴史ある建造物「旧山口萬吉邸」を会員制オフィス「九段 kudan house」として再生
――年間の目標数値などはありますでしょうか。
小松原 この2~3年は足元をみながら、年間2~3件から始めていきたいですね。その後、実績を積んで沿線に広げます。
そして、「再生建築」を文化に昇華し、沿線でサステナブルなまちづくりを目指していきます。「再生建築」があったからこそ、特色のある沿線になったと言われるようにしたいんです。
まずは、悩まれているオーナーに「再生建築」を知っていただき、相談件数を増やしていきたいと思います。
――行政との連携も増えてくるのでしょうか。
小松原 出てくると思います。先ほど申し上げた通り、空き家問題ではすでに連携しておりますし、プラスアルファとして「再生建築」に行政がご興味を抱いていただければ、是非ともに連携していきたいと考えています。
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そんな余計な事する暇があったら、まともに施工管理できる技術者育てるのが先では?
相鉄線の杭基礎問題なんとかしろよ。